日本鳥学会誌
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渡り性オオジュリンと非渡り性ホオジロにおけるフン中アンドロジェン含有量への光周性の影響
中村 司伊藤 正則山口 誠之窪川 かおる石居 進
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1996 年 45 巻 3 号 p. 159-165,196

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抄録

光周期を10時間照明期,14時間暗期(LD10:14)からLD15:9まで,徐々に変化させた条件下で渡り鳥であるオオジュリン Emberiza schoeniclus を飼育したとき,LD13:11からLD14:10のときに渡りの衝動(nocturnal migratory restlesness,Zugunruhe)が活発に起きることがわかっている(NAKAMURA and ITO 1982,NAKAMURA and KITAHARA,1983).一方,アンドロジェン(雄性ホルモン)は春の渡りの調節因子である可能性が示唆されている(RANKIN 1991).さらにふん中のアンドロジェンを測定することによって血液中のアンドロジェンレベルを推定することが可能になってきている(BISHOP and HALL 1991,YAMAGCCHI and ISHII 1991).そこで上記のように光周期を変化させてオオジュリンを飼育した場合,ふん中のアンドロジェンレベルが「どのような変化」をするのかを調べた.この時対照として留鳥であるホオジロ Emberiza cioides を用いた.
オオジュリンとホオジロの雄を山梨県甲府市郊外で捕獲した後,各々を一羽づつかごに入れ,実験室で飼育した.飼育条件は温度22°C,湿度50%でほぼ一定にして,光周期のみをLD10:14からLD15:9まで,一週間に30分づつ明期を長く,闇期を短く変化させた.そして飼育期間中に両種とも3~6個体のふんを定期的に採取し,一定量を蒸留水でホモジェナイズし,このホモジェネートを遠心した後,上澄みをジエチルエーテルで抽出し,この抽出物中のアンドロジェンをラジオイムノアッセイにより定量した.
その結果,オオジュリンにおけるふん中のアンドロジェン含量はLD10:14とLD11:13では低いレベルであったが,LD12:12で急激に増加した.その後,やや減少したがLD14:10までは比較的高いレベルを維持した.一方,ホオジロでは光周期の変化に対してふん中のアンドロジェン含量は有意な変化を示さなかった.オオジュリンで観察されたように,LD12:12からLD14:10までの高いアンドロジェンレベルを示す光周期は,渡りの衝動がおきる直前から衝動が活発になる時期と一致した.さらに,ふん中のアンドロジェン含量と血液中のアンドロジェン濃度が増加すると考えられる.
ミヤマシトド Zonotrichia leucophrys gambelii を用いた一連の実験から,アンドロジェンは春の渡りの調節因子の一つであることが示唆されている(RANKIN,1991).したがって,本研究の結果からオオジュリンでも春の渡りにおいてはアンドロジェンは重要な役割を果たしているものと推察される.今後,実際にアンドロジェンが春の渡りの調節因子であるのかどうか,さらに検討する必要がある.

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