日本鳥学会誌
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伊豆沼北東部水田地域における渡去期のマガン Anser albifrons の生態-マガンの朝夕の移動と日中の活動状況
嶋田 哲郎
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1997 年 46 巻 1 号 p. 7-22

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抄録

1996年2月に,宮城県によって計画されている県北高速幹線道路の建設予定地である伊豆沼北東部の水田地域において,マガンの水田利用状況の実態を明らかにするたあの調査を行い,マガンの朝夕,の移動と日中の活動について調べた.
1.調査期間中,朝ねぐらから飛び立ったマガンはすべて調査地域上空を通過し,調査地域の水田に直接飛来することはなかった.
2.朝,マガンが調査地域の上空を移動する際に使用する経路は5つあった.このうち,調査地域の西よりの経路を通過するのは沼中央部のねぐらから飛び立った群れ,その他4つの経路を使用するのは沼東部のねぐらから飛び立った群れであると考えられた.マガンはこの朝の移動で調査地域よりも奥に位置する水田に一時降り立ち,その後昼間活動する水田へ分散移動をすると考えられた.
3.朝の移動でもっとも多くの個体が移動したのは,沼東部のねぐらから北西へ向かう経路と沼中央部のねぐらから北へ向かう経路であった.これは北へ帰る方向が北西であるため,この時期にマガンが沼の北西に位置する水田を採食場として利用することと関連していることが考えられる.
4.夕方になるとマガンは朝の移動と同様な5つの経路をたどってねぐらへ帰った.これは昼間の活動後,朝香降り立った,調査地域よりも奥に位置する水田に再び集合する可能性を示唆した.しかし5つの経路を通過する個体数には対応関係が認められず,すべての個体が再び集合するのではないと考えられた.
5.夕方,マガンが調査地域の上空を移動する経路は5つあり,1つは調査地域の西よりを北から沼中央部のねぐらへ向かう経路であった.その他4つの経路は沼東部のねぐらへ向かうと考えられた.
6.調査期間中の朝と夕方の移動個体数を全体で比較すると,朝の移動個体数の方が多かった.これは調査時期がマガンの北帰時期にあたり,伊豆沼•内沼から次の滞在地への移動が始まっていることと関連していると考えられた.
7.朝,調査地域上空を通過したマガンは,9時から11時ごろに調査地域に飛来して活動をはじめた.その飛来経路でもっとも多くの個体が認められたのは,調査地域の北東方向に位置する奥地の水田からの経路であった.これは,朝の移動後,調査地域よりも奥の水田に降り立ったマガンが分散移動してきた群れの一部であると考えられた.
8.昼間,マガンは南風や南東風のときは採食し,北風や北西風のときは飛来しても休息したことから,マガンの活動と気象条件との関係が示唆された.
9.マガンの分布をみると,特定の地区に集中分布した.この理由として,高圧送電線の影響,マガンの土地執着性の問題が考えられた.またマガンは耕起されていない水田で採食したので,食物現存量の問題も考慮する必要があること,越冬期を通した生態を明らかにする必要があることなどが 示唆された.

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