日本鳥学会誌
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マダガスカル降雨林におけるビロードマミヤイロチョウの果実に対する選好性
Hajanirina RAKOTOMANANA日野 輝明
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1998 年 47 巻 1 号 p. 11-19,29

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抄録

ビロードマミヤイロチョウ Philepitta castanea は,マダガスカル固有の果実食の鳥である.マダガスカル南東部のラノマファナ降雨林の下層部で唯一の果実食者である本種について,乾期(8月-10月)における果実の選好性を調べ,それを果実の結実量の季節変化やさまざまな形質的な特徴(栄養素,エネルギー量,色,大きさ,重量,種子の負荷量,処理時間,種子の体内通過時間)との関係から解析した.
果実の供給量が鳥のエネルギー要求量を越えている期間においては,明確でかつ安定な選好性が示された,すなわち, Oncostemon の果実は好まれたのに対し, Psychotria 3 種の果実に対しては果実量に比例したランダムな採食が行われ, Saldinia の果実は忌避された.しかし,果実の供給量が不足している期間には,果実に対する特別な選好性は示されなかった.このような果実量に対する選好性の季節変化は,最適採食理論による予測と一致した.
ところが,選好された Oncostemon と忌避された Saldinia の果実は Psychotria の果実よりも多くの形質において類似しており,ビロードマミヤイロチョウによる果実の選好性の順序は果実のどのような形質の順序とも一致しなかった.そこで,本種はある一定の規準を満たす果実のみを採食すると仮定すると, Saldinia の果実が選好されなかったのは,この果実は栄養価あるいはエネルギーに関する規準(同化される栄養素の割合,エネルギー獲得量/処理時間,エネルギー量/果肉重)を満たさなかったためであると考えることができるかもしれない.また,果実食の鳥にとって好ましいいくつかの形質をもつ Psychotria sp. 8 の果実が選好されなかったのは,その果実サイズが嘴の開口幅とほぼ同じであることによって採食が制約されたのであろう.一方, Oncostemon の果実が選好されたのは,Psychotriaの果実に比べて大きな果肉/種子の重量比と短い体内通過時間をもつことから,果実の体内処理速度がすぐれているためであると推測された.

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