2008 年 20 巻 2 号 p. 2_48-2_59
近年,個人の選択性の増大や家族の拘束性の減少を意味する「家族の個人化」の進行が指摘され,増加する離婚率はその証左と見なされてきた。しかし子どもの存在を分析枠組に入れて新聞の離婚相談欄を研究した本稿からは,異なる知見が導かれた。まず,離婚したいという夫や妻個人の希望の正当性を,子どもという夫婦以外の第三者の都合から審査する傾向は,相談者の間では1930年代以降,2000年代の現在においても全く減少していない。次に,「あなたのための離婚」と述べて個人の選択権の増大を強調する1980年代以降に特徴的な回答者の言説は,実は「あなたのため」が「子のため」を阻害しないという前提のもとでしか語られていない。つまり夫婦の離婚は子どもという拘束からは自由になったとは言い切れないのである。このように本稿は子どもを分析枠組に入れることで,個人化とは矛盾する現代家族の一側面を明らかにした。