2018 年 30 巻 1 号 p. 72-84
本稿では,いじめ裁判で家族に対して課されている帰責の変容と,司法において受容されている家族観を明らかにする.具体的には,1979年から2016年までのいじめ裁判の判決文94件を対象として,内容分析を行った.その結果,(1)1990年以降,被害者家族への帰責の度合いは加害者家族よりも強まっている,(2)家庭環境の細部にまで踏み込んで過失が追及されるようになった,(3)子どもの教育に対して,親は第一義的な責任を持つように求められる傾向が強くなっている,(4)「親は子の最良の教師」といった,ある種の理想化された家族像が求められるようになっている,という知見が得られた.これらの変化の背景として,「家庭の教育力」言説が司法に浸透している可能性が示唆された.本稿は,司法の中の家族言説を研究する意義と,その家族言説が被害者家族と加害者家族のいずれに向けられているかに着目した分析の必要性を示した.