2020 年 32 巻 2 号 p. 187-199
天然資源を持たない小国シンガポールにとって「人」の問題は国の死活問題である.そのために,複線型教育制度の導入などを通じて「人の質」を保証しつつ,結婚・出産・子育てへの手厚い支援や外国人労働者の受け入れなどの制度を中心に「人の量」も確保することは,国力を維持・発展させる礎となる.その一方で,人材の質量確保が競争を促し,学校教育段階を終えても「勝ち」にこだわるレースは続く.本稿では,シンガポールの公的統計および現地の若者を対象とした個別面接質問紙調査の結果をもとに,小学校から始まる学歴競争がいかに強固な「トーナメント競争マインドセット」を国民の間に浸透させ,そのことが晩婚化,未婚化,そして少子化といった社会問題につながる可能性があるのかを考察する.