家族社会学研究
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現代家族法学
佐々木 光郎
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2000 年 12 巻 1 号 p. 110

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抄録

2000年4月、介護保険法が施行され、成年後見制度が発足したが、このように家族に関わる法律は家族のあり方に直接的・間接的に影響を与え、また、逆に社会や家族の変動が法を変えていく。いま、家族の変容が大きいときに、家族のあり方と家族法に関する先駆的な研究書が刊行された。本書は、編者のほか、異なる法領域を専攻する研究者9人による共同研究である。
本書は、 (1) 実定法 (たとえば戸籍法、民法、男女雇用機会均等法など) が、いまの家族にどのような影響を与えているかを明らかにし、 (2) 各法分野において、直面する問題の共通点と相違点を検討するなかで、家族と法との関係を広い視野からとらえ、 (3) 家族が「真に人間の生存基盤」となるように法システムを方向づけようとする。編者は、 (2) (3) の試みはまだその途にあるが、この研究は「男女共同参画社会の実現に貢献する」と述べる。
さて、本書の大半のスペースは、家族に関わる実定法の洗い出しと、各法が家族に作用している役割と機能を明らかにするために費やされている。現行法を四つの領域にふるいわける。 (1) 家族システムの方向性を示す法、 (2) 家族のあり方を示す法、 (3) 家族と関係しつつ市民生活の規制と保障にあたる法、 (4) 家族の安定をはかる法、である。この分類のカテゴリーも興味深い。四つの法領域は、相互に影響しあう関係にあり、その検討をつうじて、これからの新しい家族法システムの構造に接近するのだという。
本書の構成であるが、上記の (1) については、「第1章・憲法と家族」、「第2章・国際法と家族」で、 (2) は「第2章・国家法による家族の把握」、「第3章・民法と家族」で、 (3) は「第4章・労働法と家族」、「第5章・社会保障と家族」、「第6章・医事法と家族」、および「第7章・租税法と家族」で、それぞれとりあげる。 (4) については「第8章・家族の紛争解決」でふれる。
今後、本書が積み残したという教育法や農事法なども研究対象となると、より厚みのある家族法システムの全体構造が明らかになるものと期待する。本書は、法律体系に精通していなくても、わかりやすく理解できる。そのうえ、これからの家族法が、ジェンダー状況の変化や自己決定の尊重などの新しい理念とどのように向き合うべきなのか、そのゆくえを示唆している。また家族法と関わる実務にも学ぶものが多い。

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