2000 年 12 巻 1 号 p. 19-25
日本の近代産業社会における家庭内の男女役割分業は、夫は会社で仕事に専念し、妻は家で家事に専念するというものであった。しかしこの就業-家族分業モデルは、このモデルを支えてきた雇用制度の変化のために、もはや典型的なものではなくなりつつある。従来の就業-家族分業モデルを支えてきた条件の一つは、世帯主である夫の雇用を保障していた終身雇用制度であった。またそれを支えてきたもう一つの条件は、専業主婦の存在を可能にしていた生活給の考えかたにもとづく年功賃金制度である。しかしこれからの経済社会構造の変化のなかで、終身雇用制度も年功賃金制度も次第にそれを維持することが困難になりつつある。低下する雇用保障ゆえに所得保障のセーフティーネットとしての家族の役割はある程度高まるかもしれないが、これらの雇用制度の変化は基本的には家族形成の必要性を減ずるものと考えられる。このことはまた家族の形成を経済的な制約から自由にするものともいえる。