2006 年 17 巻 2 号 p. 56-58
雇用流動化の問題を, 働き方や労働観の変化と捉えた場合, それは単に克服されるべき対象としてのみ把握されるべきではない。早くからの職場体験や職業訓練を受けて, さまざま努力の末に獲得される正社員の座が, 長時間労働と苛酷な労働条件に色づけされているものであったり, そのような状況の中で形成される家族が女性が専業主婦をしないと維持できないようなものであるとするならば, 正社員化のみを模索する議論には一定の留保が必要と思われる。従来の議論に加えて必要なのは, 正社員と非正社員との間の格差の是正, それも賃金や社会保障の整備といった「量的な格差」の是正に加え, 社会的評価にかかわるような「質的な格差」の是正を目指す議論ではないだろうか。