本稿の目的は, 声楽の個人レッスンにおける「指導者‐学習者」関係がどのように成立し変容していくのか, そのメカニズムの一端を明らかにすることである。そのために, 学校外の音楽教育に見られる声楽の個人レッスンを事例とし, G. ベイトソンのコミュニケーション理論に基づく分析を行った。結論は以下の4点である。第1に, 「指導者‐学習者」関係は, 「威光」による基礎づけを欠く不安定な形で始まっていた。第2に, 「アブダクション」によって既存の「教える‐学ぶ」コンテクストを借用することで, 関係の存続が図られていた。第3に, 異なるソースからの情報を組み合わせて新しい情報を生み出す「二重記述」によって, 指導者と学習者を互いのサブシステムする統合的なシステムが形成されていた。第4に, 身体技法は人間の無意識に深く関与するため, 「羞恥」による「カモフラージュ」が生じるが, それが大きく関係を変容させる契機ともなる。