要旨:本論は手術室看護師が行う術前訪問の歴史を概観して,周術期看護における術前訪問の実践と意義を考察し,今後の課題を明確にするものである。
1955年,東京大学医学部附属病院が中央手術化し手術室看護師が配属され,術前訪問の土台が築かれた。それ以前は病棟看護師が手術介助,器械出しを行っていた。最も早い報告である松下(1967)は直腸がんで人工肛門を作る女性患者への術前訪問の事例を報告した。また木原(1973)の手術前訪問面接記録用紙を使っての報告があり,現在の型式と類似している。
わが国の手術看護の実践,発展は,1978年AORN第1回世界手術室看護婦会議に参加した上野温子氏らの実践活動に負うものである。AORN提唱の周術期看護への理念や実践は,わが国の術前訪問の重要性を確信させた。
術前訪問の実践とは,患者に手術室看護師が専門的に関わり,手術を安全に実施するために必要な情報を収集・提供し,患者の不安軽減を図ること,患者等が手術前に身体・精神的準備ができるための援助を行うこと,チーム医療確立のための行動を行うことである。
術前訪問の意義は,1)患者情報の収集により,問題点の具体的な事前考慮ができる, 2)継続看護の実施手段となる,3)不安が軽減され,患者に寄り添う看護の提供ができる,4)生命の尊厳を体験的に学ぶ,5)医療チーム連携の確立につながる,である。
手術室看護師による術前訪問は,50年近くの歴史を辿り,術前訪問の看護実践によって拡がり深まってきた。また医療環境の急速な変化に伴い,術前患者に対して術前の外来から対応するように変化してきた。そのような中で,今後の課題は術前外来や当日入院した患者の看護実践の効果などの研究報告が必要となる点である。