抄録
症例の概要:患者は,初診時71歳の女性で右側口蓋粘膜の疼痛を主訴に来院した.右側口蓋粘膜に浮腫性の紅斑と多数の小水疱が認められ,一部は自潰し潰瘍を形成していた.3年前に右側Th5-6領域の帯状疱疹(herpes zoster: HZ)の診断で皮膚科にて治療を受けていたことから,再発性HZと診断した.抗ウイルス薬の内服により右側口蓋粘膜の接触痛および浮腫性紅斑は消失したが,その後も持続痛と右側上顎大臼歯の歯痛が持続する状態が続いていた.初診時より4か月後に後遺していたこれらの痛みが咬合時に増悪するようになったため再受診した.右側上顎大臼歯に異常所見はなく口蓋粘膜のアロディニアが認められたため帯状疱疹後神経痛(post herpetic neuralgia: PHN)と診断し,プレガバリンの内服を開始したところ疼痛は完全に消失した.
考察:HZの再発は稀とされてきた.しかし,HZの発症には細胞性免疫が重要な役割をもつため,加齢により免疫が低下するとHZが再発する可能性がある.本症例は71歳と高齢であり,VZV特異的細胞性免疫の低下から,HZの再発を生じ,その後に非歯原性歯痛を伴うPHNに移行したと考えられた.
結論:HZの再発を認め,非歯原性歯痛を伴うPHNに移行した高齢者の1例を経験した.