日本口腔顔面痛学会雑誌
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症例報告
顔面部交通外傷後の神経障害性疼痛に全人的医療を応用した一例
今泉 うの別部 智司三橋 晃吉田 和市
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2016 年 9 巻 1 号 p. 75-80

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抄録

症例の概要:49歳の女性.X-1年,交通外傷で顔面を打撲,上顎前歯を脱臼し,同部と咽頭部の痛み,手の痺れを訴え救急搬送された.上顎前歯は徒手整復され,脳神経外科でのCT検査でも異常はなかった.1か月後,上顎右側中切歯を抜髄し痛みは軽減したが,間もなく痛みが増強した.某病院耳鼻科と脳神経外科を受診,頭部MRI検査でも異常が見られず半年が経過し,X年に当科を受診,上顎右側中切歯の慢性根尖性歯周炎と神経障害性疼痛の疑いと診断した.治療は歯内療法,漢方治療,傾聴を中心としたロゴセラピーを用いて全人的医療を行った.その際,Patient evaluation grid(PEG)患者評価表で問題点を分析し,経時的に評価した.初診から1年2か月後には痛みは漸減し,従病状態となった.以後,全人的医療を継続的に行った.
考察:身体面には歯内療法,漢方治療が効を奏した.心理面,社会・環境面,実存面では痛みが原因で不安や焦り,鬱症状,社会生活への自信喪失,将来への失望などがみられたが,ロゴセラピーが前向きに生きていく意志を目覚めさせた.これらの方法が有効であったのは,問題点を的確に抽出してからの治療であったためと考えられた.
結論:難治性慢性痛の治療では傾聴に重きを置き,全人的に分析して,治療目標を設定する方法を用いた全人的医療の有用性が示唆された.その際経時的な評価と治療目標の検討が重要であった.

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© 2016 日本口腔顔面痛学会
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