論文ID: 30.e2
目的:治験のように統制された体制で実施される研究と比して,観察研究一般やRWD を用いた研究を実施する際には観察者(医療者)による特性の違いが課題となることがある.特段,診療科による観察ビヘイビア(態度)に系統的な違いが生じている場合には研究結果を解釈するうえで混乱を生じる可能性があるため,診療科別に患者観察に対するビヘイビアの違いについて数値を定量化することを目的とした.
調査デザイン:千年カルテデータベースを用いた記述集計.フリー記載欄である臨床サマリーに記載の文字数について診療科別に中央値等の基本統計量を求める.なお,本研究の目的を踏まえ,入院後の記載については治療期間により記載量に違いが生じることが考えられるため省略するのが妥当と判断し,臨床サマリーのうち入院までの経過のみ文字数カウントの対象とした.
結果:内科における記載文字数の中央値は503 文字であった.これをベースとして種々の診療科における記載文字数の中央値との比は,それぞれ外科(0.55),眼科(0.57),精神・心療内科系(2.85),小児科系(1.19),産婦人科系(1.04),皮膚・整形外科・形成外科(0.41)であった.
考察:臨床サマリーへの記載量は疾患の特性や患者個々の容態の違いにより変化すると考えられるものの,診療科全体をマスでみた今回の結果には医療者の観察行動のビヘイビアの違いも反映されていると捉えることが妥当と考える.RWD の活用に際しては,データの欠損やアウトカムバリデーションといった種の品質レベルには意識が向くものの,こうした観察(者)バイアスに対しては意識が向きにくいところがある.また,意識が向いたとしてもその定量化や可視化ができないことから,研究結果の解釈を困難にしたり,何ら裏付けもない状況下においては観察者バイアスによる影響を記述することがためらわれることもあるだろう.
今回の結果は本データ内に含まれる施設に限定するものではなく,国内全体の施設においてもその傾向性については転用できる可能性がある.RWD 活用等,観察研究を行った際に診療科の違いによる観察バイアスが疑われるような研究結果が得られた場合にあっては,本研究を適宜引用したり指標で重み付けした感度解析を行ったりといった利用の可能性も考えられる.
結論:診療科によりフリー記載項目に記載される文字数は特徴的な差異がある.