日本農薬学会誌
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後発開発途上国(ラオス,ミャンマーおよびカンボジア)における農薬規制・管理に関する研究—日本の経験と各国の実態を踏まえた戦略的処方—
北村 恭朗
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2021 年 46 巻 1 号 p. 1-10

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抄録

近年のグローバリゼーションの進展を受けて開発途上国においても市場志向型農業へと移行が進んでおり,農薬の使用量の急激な拡大がみられている.農薬は不適切に使用されると深刻な問題が生じる恐れがあり,適切な規制・管理が必要である.しかしながら,開発途上国,特に後発開発途上国における農薬規制・管理に関する能力や実態を体系的に分析した研究はほとんど見当たらない.そこで本論文では,ラオス,ミャンマー,カンボジアを研究対象とし,同じアジアモンスーン地域の先進国である日本をベンチマークにして農薬規制・管理に関する規制当局の能力を分析した.分析では,科学技術力,マクロ的な経済力,インフラの整備状況に着目した.分析の結果,分析対象3か国は,日本が農薬取締法を制定し農薬規制・管理を開始した時期(1948年)と比べても国内の科学技術を担う人的資源が大きく不足していること等が明らかになった.この結果を踏まえて,後発開発途上国では,農薬規制・管理の第一義的な目的が農業振興であることを再確認すること,政策の優先順位を決めて限られたリソースを有効に配分すること,先発国の経験を活用できるところは活用すること,発展の段階をスキップして次の段階に進むことはできないことから一段ずつ発展の段階を進んで行くことが重要であると結論付けた.後発開発途上国のこのような戦略的対応を可能にするために,国際社会の理解と支援が求められている.

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