Japanese Journal of Pharmaceutical Education
Online ISSN : 2433-4774
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Review Article
Mission of academic societies for health profession education
Yasuyuki Suzuki
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2017 Volume 1 Article ID: 2017-003

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Abstract

わが国の医学教育は過去四半世紀の間に多くの変革がなされてきたが,これまでは世界の潮流を受入れ,反応することに追われてきた.今後は社会の現状を踏まえて,これらを深化・内面化させる時代にしなければならない.教育者の指導力向上も,これまでは教員個人の努力に大きく依存してきたが,今後は教育の基礎を学ぶシステムを構築し,教育者としての多様なニーズとキャリアを支援する必要がある.教育研究に関しても,輸入超過状態が続いてきたが,若手研究者を支援して世界に向けて発信していく必要がある.いかに学習するか?いかに指導するか?といったささやかなリサーチクエスチョンから研究が生まれ,集積されて大きな教育の進歩につながることを期待したい.医学教育と薬学教育は「共通の言語・文化」を有しており,「医療者はすべて教育者である」という理念のもと,両学会が密に連携しながら活動していきたいと切に願っている.

日本薬学教育学会の設立にあたり,日本医学教育学会の現状と課題を共有し,今後の展望と協働について期待を込めて私見を述べたい.

日本医学教育学会

日本医学教育学会Japan Society for Medical Education(JSME)は1969年に創立され,間もなく50周年を迎えようとしている1.1973年,WHOの下部組織であるRegional Teacher Training Center(Sidney)で開催されたIntercountry workshopに2,医学教育学会から牛場大蔵,館 正知,日野原重明の3氏が初めて参加し,翌1974年から“医学教育者のためのワークショップ”(通称“富士研”)がスタートし,これをモデルとしてワークショップスタイルの教育研修が普及していった.医学教育学会は2016年6月現在,個人会員2,604人,機関会員294機関(医学部・医科大学・研修病院等)からなり,150名の代議員と23名の理事が中核となって,各種の委員会活動,機関誌発行などを推進している.毎年夏に開催される学術大会には1,000名近い参加者と500題近い一般演題があり,活発な討議が行われている.2017年は札幌医科大学,2018年は東京医科歯科大学で開催される予定となっている.また2014年から“認定医学教育専門家資格制度”を発足させ,今後,わが国の医学教育の発展に寄与し,医学教育のグロ-バル化にも対応できる高度な医学教育学の専門的人材養成をめざしている1

医学教育改革の潮流

我が国の医学教育は,過去四半世紀にわたって様々な改革が行われてきた.高等教育の大綱化と6年一貫教育の導入,低学年からの各種臨床体験教育,問題基盤型学習problem-based learning(PBL)をはじめとした能動的学習,模擬患者参加型コミュニケーション教育,統合カリキュラム,シミュレーション教育,モデル・コア・カリキュラムの導入,共用試験(CBT, OSCE)の導入,診療参加型臨床実習の拡充,初期臨床研修必修化,多職種連携教育,アウトカム基盤型教育の導入など,大きな変革が次々に行われてきた.これらの改革は社会のニーズと世界的な潮流を踏まえて行われてきたもので,これまでは受け入れ,反応することに追われてきた側面があるが,今後はこれらを真の意味で適合・深化させていく必要がある.

医学教育の分野別認証

近年,特に注目を集めているのは医学教育の分野別認証評価である.2010年に米国Educational Commission for Foreign Medical Graduates(ECFMG)が,「2023年以降は国際認証されていない医学部の卒業生は米国に受け入れない」とする声明が発表され,我が国でも医学教育の分野別認証評価が重要課題として浮上した.2012年,東京女子医科大学の国際外部評価の試験的受審を皮切りに,2013年から国内のパイロット評価が開始され,2015年度には日本医学教育評価機構Japan Accreditation Council for Medical Education(JACME)が設立された3.2016年度末にはJACMEが世界医学教育連盟World Federation for Medical Education(WFME)から正式機関として認められ,2017年度から正式な分野別認証評価が開始されることとなった.

アウトカム基盤型教育と臨床医学教育

分野別認証評価で重要視されているのは,アウトカム基盤型教育と臨床教育であり,国際認証に向けて各大学の改革課題となっている.アウトカム基盤型教育とは,卒業時までに修得すべき能力(コンピテンシー)を具体的に設定し,それを達成するための教育カリキュラムを構築し,実際に学生がそれを修得したかを評価し,カリキュラム評価を行うという一連の仕組みである.アウトカムの設定は各教育機関でなされるものであるが,国家的アウトカムの設定も必要と考えられ,現在,医学教育学会では卒前・卒後・生涯教育を見通した一貫性のあるアウトカム設定に向けて,関係各機関と話し合いを始めている.近い将来には米国やカナダの国家的アウトカムに匹敵するものが構築されることを期待している.

また,アウトカムの大きな部分を占めるのは医師としての基盤的能力であり,それを修得するための臨床教育,とりわけ臨床実習の改革が迫られている.そのためには実習期間の充実だけではなく,学生の医療チームへの参加度を高め,指導医など臨床現場のスタッフから充実した指導を受けられる教育体制を作ることが重要である.我が国の医学部における臨床実習期間は,かつては1年未満であったが,現在は各校とも約2年間の臨床実習の実現をめざしており,基本診療科での実習期間を十分に確保することや,高次・急性期の入院診療だけでなく,地域の様々な医療現場を経験できるような改革も進められようとしている.

IPEからTPEへ

近年,チーム医療の重要性が認識されるにつれ,各職種が連携なく独立して教育を行っていては,これからの医療人を育成できないとの反省から,多種の医療専門職の学生が共同して学習する多職種連携教育inter-professional education(IPE)が広まりつつある.従来,教育面での医学と薬学の連携はそれほど進んでいなかったが,共同教育も報告されるようになっており4,5,今後,広まっていくことが期待される.さらに最近では,地域住民や行政・福祉関係者などの非医療系専門職も教育に参画するtrans-professional education(TPE)6が導入されつつある.前述したように,医療者教育が大学から地域へシフトする流れの中で,こうしたTPEが広まるのは必然であり,これらの動向に適切に対応するために,異なる職種の教育者の相互理解と協働も不可欠な時代となってきている.

医学教育専任部門の広がり

我が国初の医学教育専任部門は1972年に順天堂大学に設置されたが,2000年以降急激に増加し,2016年現在,医学部80大学中75大学で設置され,医学教育部門に所属する教員は専任・兼任あわせて600名を越えるまでに増加している.岐阜大学では,2001年に医学教育開発研究センターMedical Education Development Center(MEDC)が設立され,2010年に文部科学省から医学教育共同利用拠点としての認定を得て,現在,教授3,准教授1,助教3,教務補佐員1,事務職員5名の体制で全国的な活動を展開している7.また,これらの教育専任部門の連携を深めることを目的として“医学教育ユニットの会”8が組織され,定期会合とメーリングリストによる情報交換が行われている.こうした全国的な教育専任組織の広がりは医学教育の改革と普及に大きな役割を果たしている.

教育者としての能力開発とキャリア支援

これまで教育能力の向上は教員個人の関心と努力に依存してきたが,これからは教育の基本を学ぶシステムを構築し,教育者としての多様なニーズとキャリアを支援できる体制整備が必要である.各大学内におけるFDや臨床研修指導医講習会は普及してきているが,体系的・継続的な教員能力の開発プログラムは発展途上にある.医学教育学会では医学教育の認定専門家資格制度を2014年からスタートさせ,実務力と学識を兼ね備え,各教育機関で中核的に活躍できる人材の育成を目指している1.本制度は,3回の講習会で教授法/学習法・学習者評価・カリキュラム開発について深く学び,その後各自の教育実践の改善計画を立案し,その実践成果を振り返るポートフォリオによって評価する教育プログラムとなっており,現在までに58名が認定されている.

医学教育共同利用拠点である岐阜大学医学教育開発研究センターでは,“医学教育セミナーとワークショップ”を15年にわたり通算60回以上実施し,参加者も延べ6,000名を越えている9.2015年度からアソシエイトとフェローシップ制度を開始し,ワークショップを一定回数以上受講した方をアソシエイトとして,また更に1年かけて医学教育の基本を学ぶプログラムを受講した方をフェローとして認定している7.また京都大学でも臨床指導医を対象とした継続的教育プログラムを展開している10

医学教育に関する大学院教育と研究推進

医学教育の専門性を高めたい指導者のためには大学院教育の充実が不可欠である.現在,国内の複数の大学で医学教育学博士課程が設置されているが,海外ではむしろ医療者教育修士課程が広く普及している.2013年現在,全世界に121,アジアだけでも15の医療者教育修士課程が設立されており11,医学教育専任者の教育パスとして定着しつつあるが,残念ながら我が国には1校も存在しない.日本人医師で海外の修士課程に進学する者も徐々に増えてきており,こうしたニーズに応えるためにも国内に修士課程を設置することが望まれる.

大学院教育の推進は取りもなおさず医学教育研究の推進であり,我が国の医学教育の現状分析を出発点として,新たな教育を創造・発信していくために不可欠なものである.日本医学教育学会としても教育研究に関するワークショップ,メンタリングプログラム,学術大会でのパネルディスカッション,機関誌「医学教育」での特集12などを通じて若手研究者の支援を推進しているところであるが,原著論文,特に英語論文はまだ少なく13,一層の研究活性化が課題となっている.先にも触れたように,医学教育は海外からの情報が多くを占め,輸入超過となっているが,日本からの情報発信(輸出)を図らねばならない.教育に関する研究は通常の医学・生物学的研究とは異なる側面があり,発想の転換が必要であるが,日常の教育の中に存在するささやかな課題意識から先行研究を分析し14,リサーチクエスチョンに高めていく過程はエキサイティングであるし15,質的研究から深い考察や仮説が得られた時の喜びも大きい.医学教育は単なる実践の場ではなく,不断の改善を図るためには,学識を高め,研究心を常に持つことが求められる.

まとめ

医療を担う専門職集団は,医師であれ薬剤師であれ,その能力を維持・向上させるために,自ら生涯学習するだけでなく,後進を育成する姿勢,すなわち「医療者は全て教育者である」という教育的意識“Educational Mindset”を浸透させることが大切である.個々の教育指導者の能力開発と研究推進は医療系教育学会の大きな使命であり,日進月歩で進化する医学と医療を支える人材の育成に向けて,日本医学教育学会と日本薬学教育学会が緊密に連携しながら,教育・研究活動を行い,日本と世界の医療の向上に貢献していくことを切に願っている.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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© 2017 Japan Society for Pharamaceutical Education
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