Japanese Journal of Pharmaceutical Education
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Practical Article
A trial of a new integrated cross-field pharmaceutical seminar as a team-based learning
Kumiko UedaReiko TeraokaKouya YamakiYasushi HabuOkiko MiyataShuji Kitagawa
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2017 Volume 1 Article ID: 2017-012

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Abstract

基礎系科目と臨床系科目の融合を目的とした4年次生対象の分野横断統合演習のトライアルとして,チーム基盤型学習(TBL)(準備確認のみ:個人テスト(iRAT),チームテスト(tRAT),解説;応用演習課題は実施せず)を,4年次生21名を対象に実施した.iRAT,tRAT共通問題は,分野横断的に計6問作成した.トライアル当日は,iRAT,tRAT(スクラッチカード方式),解説,アンケートを実施し,終了後ピア評価をweb入力させた.テスト結果を解析したところ,各チームの各問のtRAT得点は各チームの各問のiRAT平均点と相関した.ピア評価では,自己評価と他者評価に相関が認められなかった.アンケートでは,科目間をつなげることができた,tRATにより理解が深まった,4年次生にこのようなTBLがあるとよい,と回答した参加学生はそれぞれ86%,100%,95%であった.以上より,TBLによる分野横断統合演習は実施可能であり,また有用であると考えられた.

目的

薬学教育における基礎系科目と臨床系科目の連携は,強化すべき重要な課題の一つである.大久保らは,実務実習における薬学部授業内容の活用状況に関する薬学部生を対象としたアンケート調査において,実務実習生は,特に基礎系科目(有機化学,物理化学,生化学等)で学んだ内容を実務実習中に活用できていないことを明らかにした1.この理由として,薬学部生がこれら基礎系科目の知識を薬剤師業務に応用するための思考プロセスを学んでいないことが挙げられている.一方,安原らは,薬学部初年次生に対して分野横断的統合型薬学教育を実施することにより,有機化学的,物理化学的,生化学的なアプローチから生体内現象の本質的な理解が可能であることを,具体例で学生に示している2.また加藤らは,4年次後期に「薬物治療学」として,基礎系科目の知識の統合も目的の一つとした,症例に基づく統合型の問題解決型学習(Problem-based learning, PBL)を実施している3.この統合型PBLでは,疾患の理解,患者の理解のみならず,薬物の理解(物理化学的性質,作用機序,製剤の特徴,体内動態など)にも重点を置いた内容となっている.このように,分野横断統合教育はいくつかの薬系大学で積極的に実施されているものの,まだ一部にとどまっているのが現状である.

チーム基盤型学習(Team-based Learning, TBL)とは,1970年代後半にオクラホマ大学ビジネススクールのラリー・マイケルソン博士が開発した教育手法であり,自学自習したのちに,チームでディスカッションしながら協力して課題を解決することにより学習の定着を図るという,少人数によるチーム学習の教育方法である4,5.PBLと比較して,教員負担が少ないにもかかわらず,学生の学習促進効果が高いことから,近年わが国でも医療系学部で導入されている4,5.薬学部においても近年,低学年での基礎系科目・臨床系科目の教育,実務体験実習などにおいてTBLが数多くの大学で取り入れられ,その教育効果の高さについても報告されている610

本学では数年前より,「基礎系科目と臨床系科目との融合」を目指し,特徴あるカリキュラムの策定を試みている.たとえば,1年次前期必修科目「薬学入門」においては,分野の異なる教員がそれぞれの専門の視点から,オムニバス形式にて1つの薬物「鎮痛抗炎症薬・抗血小板薬アスピリン」について講義することで,各分野の重要性と必要性について理解させ,さらにPBLを行うことによりその学習の定着を試みている11.ところがこれまで本学では,この分野横断統合学習を高学年にて発展的に行う機会がほとんどない状況であった.

そこで本学では,実務実習開始前の4年次生を対象とした,分野横断統合TBLを構築することを試みた.TBLのうち,準備確認のみ;個人テスト(iRAT),チームテスト(tRAT,スクラッチカード方式),フィードバック(解説) 9を選択し,基礎系科目と臨床系科目の問題を学生に同時に提示することで,学生にそれらをつなげてもらうことを第一目標とした.本来TBLで行うこととなっている応用演習課題は,時間の関係上,今回は行わないこととした.今回は,対象疾患として,薬物治療に直結させやすい薬理学,薬物治療学,臨床検査学,製剤学,薬物動態学のみならず,有機化学や機能生態学,生化学等の基礎系科目の中でも臨床症例と結び付けるのに工夫を要する科目を含めた問題作成が可能であると考えられた糖尿病を選択し,その中からインスリン,ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP-4)阻害薬が使用される症例に関連づけて出題することとした.また,今回はトライアルとして,少数の学生を対象に実施し,その成績について簡単な解析を行うとともに,グループ学習に対する参加学生の姿勢をピア評価にて確認することを試みた.さらに,本トライアルについてのアンケート調査を実施し,参加学生の意見を集計した.

方法

1. 分野横断統合TBLトライアル実施計画

分野横断統合TBLトライアル(本トライアル)は,実務実習事前教育が終了した4年次生を対象に,糖尿病とその治療薬(インスリン,DPP-4阻害薬)について実施することとした.トライアル当日はiRAT,tRAT,解説,アンケートを計2時間で,またピア評価をトライアル実施終了後web入力にて実施することとした.iRAT,tRAT共通問題は5肢選択問題とし,インスリンに関する問題を4問,DPP-4阻害薬に関する問題を2問,いずれも連問で,基礎系科目(有機化学,生化学,薬理学,製剤学,薬物動態学等)と臨床系科目(薬物治療学,臨床検査学等)の両方が含まれるようにして作成した(図1).これら問題は,一部は薬剤師国家試験過去問題を参考にし,他は各担当教員が作題した.また,用語の暗記だけではなく,現象が生じる理由やメカニズムも含めて理解することが重要であるとのメッセージを参加学生に伝える目的で,一部の問題を除き,できるだけ問題文を長くして,学生の考えを促すように設定した.iRATはマークカードにて行い,各問1点,計6点満点で採点した.tRATはスクラッチカード方式にて行い,各問について6 −(スクラッチした数)点(最高5点,最低1点),計30点満点で採点した.tRATを行う際の1チームあたりの人数は4–5名となるようにした.

図1

iRAT,tRAT共通問題例

参加学生は,平成28年度の4年次生(259名)のうち,有機化学系,物理化学系,薬理学系,薬剤学系,社会薬学系の各研究室に所属する学生で,かつ,このトライアルへの参加に同意した21名とした.参加学生には事前に,本トライアルに先立ち勉強しておいてほしい項目(糖尿病およびインスリン製剤,DPP-4阻害薬についての薬理学・薬物治療学・薬物動態学,製剤学(注射剤),有機化学・生化学(全般,CBTレベルで応用可能),臨床検査学(糖尿病関係,一般生化学,肝・腎機能関係))を提示し,予習を促した.

計画,準備,実施は,有機化学系教員,薬理学教員,薬剤学教員,製剤学教員,情報支援室教員各1名の計5名で行った.

2. 本トライアルの実施

平成29年3月18日(土)午後1時30分より約2時間,4年次生21名を対象に,本学図書館にて本トライアルを実施した.トライアル当日は,参加学生を5チームに分け,当日の流れについて簡単に説明したのち,iRATを15分間,tRATを30分間実施した.その後,オムニバス形式で問1から順に担当者ごとに計1時間解説し,アンケートを実施,回収したのち,ピア評価入力を参加学生に依頼して終了した.

3. ピア評価

本トライアルでのチーム内でのピア評価は,Googleフォーム(Google Inc., CA, USA)を用いて行った.評価する対象としては,チーム内の他のメンバー(他者)と自己とした.評価項目は,①雰囲気:グループワークをよりよいものにしようという姿勢が見られたか;②貢献度:グループ得点獲得に有益な貢献を行ったか;③積極性:積極的にグループの討論や作業に参加したか;④配慮:他の人の意見を尊重していたか,異なる意見に柔軟であったか,意見を出すよう求めたか;⑤教育性:他の人に丁寧に教えようとしていたか,あるいは,わからないところを素直に学ぼうとしたか,の5項目とし,1から10の10段階で評価させた12.評価段階の目安として,合格基準(標準)を6点とするように,入力サイトに記載した.参加学生には,事前に学内Web掲示板にて入力サイトのアドレスを掲示し,トライアル終了後1週間以内にチーム内メンバーの他者評価と自己評価を各自で入力するよう依頼した.

4. アンケート調査

本トライアル参加学生に対し,本トライアル終了後ただちに本トライアルについてのアンケート調査(図2)を無記名にて実施した.

図2

アンケート用紙の内容

5. 統計解析

各チームの各問のtRAT得点とiRAT平均値との相関について,およびピア評価における他者評価と自己評価との相関について相関分析を行い,スピアマン順位相関係数を求めた.p < 0.05を有意差ありと判定した.解析には,SAS Studio 3.6(SAS University Edition, SAS Institute Inc.,東京)を用いた.

6. 参加学生への本トライアルの成果報告に対する同意取得

アンケート調査については,アンケート用紙にその集計結果について成果報告する旨記載した.また後日,文書にて参加学生全員に対し,iRAT,tRAT,ピア評価,アンケート集計結果について,個人が特定できないよう加工して成果報告する旨の同意を改めて取得した.本報告に用いたデータは,これら同意した参加学生のものである.参加学生が各種データを研究目的での利用を自由意志により拒絶した場合,そのデータを削除することとしていたが,そのような参加学生は存在しなかった.

結果

1. iRAT,tRAT得点

iRATの平均値±標準誤差,最高点,最低点はそれぞれ2.0 ± 1.1点,4点,0点,tRATの平均値±標準誤差,最高点,最低点はそれぞれ24.4 ± 3.2点,29点,20点であった.

各チームの各問のtRATの得点に対するiRAT平均点について相関分析を行い,スピアマン順位相関係数を求めたところ,0.76061であった.さらに,相関係数が0であるとの仮説を検定したときのp値は<0.0001であった.すなわち,tRAT得点とiRAT平均点との間には有意な相関が認められた.

2. ピア評価

雰囲気,貢献度,積極性,配慮,教育性についてのチーム内メンバー間でのピア評価(他者評価)の集計結果を,平均値としてヒストグラムにて図3に示した.いずれの項目についても,平均8.1–8.5点,標準誤差約1点であり,参加学生はある程度の点数の幅でチームメンバーを採点したことがうかがえた.

図3

ピア評価集計結果

これら各項目について,自己評価と他者評価との相関を分析したところ,スピアマン相関係数は①雰囲気,②貢献度,③積極性,④配慮,⑤教育性の順にそれぞれ–0.06594,0.34145,0.34960,0.11282,–0.09770であり,相関係数が0であるとの仮説を検定したときのp値はそれぞれ0.7764,0.1298,0.1203,0.6263,0.6735であった.すなわち,いずれの項目についても,自己評価と他者評価に相関は認められなかった.

3. アンケート結果

アンケート集計結果を,図4に示した.問1でiRATについて問うたところ,内容はやや難しいとの回答が8割を超え,分量はやや少ないとやや多いがほぼ半数ずつであり,時間についてはやや短いと感じた学生が約6割であった.一方,問2でtRATについて問うたところ,内容はやや難しいと感じた学生が約9割であり,分量がやや多いと感じた学生が約6割,時間がやや長いと感じた学生が6割近くであった.

図4

アンケート集計結果

問3で今回の分野横断統合演習について問うたところ,科目間をつなげることができて良かったと感じた学生は8割を超え,多岐にわたりすぎて混乱した学生の6倍であった.問4でtRATを行うことにより理解が深まったか問うたところ,すべての学生が非常に深まった,またはやや深まったと回答した.非常に深まった理由としては,「いろんな分野から繋げることができた」,「自ら考えてみんなの考えた意見も聞けた」などが挙がった.やや深まった理由としては,「いろんな科目を総合して勉強できた」,「グループで話し合うことでお互いに知っている知識を繋げることができた」などの意見があった一方,「もっと具体的な現場での使用例などがあれば良かった」,「もう少し説明して欲しかった」などの意見もあった.問5で4年次(実務実習開始前)にこのようなTBLがあれば良いと思うか問うたところ,非常に思う,やや思うが合わせて95%であった.非常に思うと回答した理由として,「一度問題を解いてから話し合うので理解が深まる」,「いろんな分野から問題を見ることで勉強になった」などの意見があった.やや思うと回答した理由としては,「授業とは違った視点から学ぶことができた」,「話し合いで理解が深まりやすいと感じた」,「スクラッチカード方式で楽しんで勉強できた」などの意見があった一方,「ディベートが得意でない人にも配慮があれば良い」,「発言しない人が出るので,ルールを設ければ良い」などの意見も見られた.あまり思わない,と回答した学生は,「(4年次生は他の)授業等で忙しい」,を理由として挙げた.

問6で本トライアルでの良かった点を問うたところ,「難しい問題や考えさせられる問題があり,さまざまな分野を広く学習できると思った」,「みんなと一緒に考えて答えを導き出す方法はすごく新鮮で良かった」,「知っている知識が役に立ったときや自分が知らないこと,忘れていることに気づいたときに,自己学習しようと思えた」,「スクラッチカード方式で,削ったら答えがすぐ出るのが良いと思った」,「スクラッチカード方式だと,間違えないようにと話し合うので,理解が深まって良い」,「4,5人くらいが発言しやすくちょうど良い」等の意見が得られた.問7で要望を問うたところ,「iRATの時にもう少し考える時間が欲しかった」との意見のみが得られた.

考察

本トライアルを通して,TBLの準備確認のみ(iRAT,tRAT,フィードバック(解説))ではあったが,4年次生を対象とした分野横断統合演習として実施できることが示された.tRATをスクラッチカード方式で実施したことは,参加学生にはとても新鮮で,かつゲーム感覚でできて楽しめたようであった.さらに,スクラッチ場所の正誤が直接得点と関係することから,その選択肢が正しいかどうか真剣に考えたようであった.アンケート集計結果でも,やって良かったとの感想が多く認められた.

本トライアルでは,各チームの各問のtRATの得点とiRAT平均点に相関が認められた.このことは,iRAT,tRAT共通問題の難易度設定が重要であること,チーム編成の際,各チームの成績が均等になるようにすることが重要であること,の2点を示していると考えられた4,5.iRAT,tRAT共通問題が簡単であれば,すぐに解答できて時間を持て余してしまい,反対に難しすぎると議論が止まってしまう可能性がある.本トライアルにおいても,iRAT,tRAT共通問題がやや難しいと感じていた参加学生が多いにもかかわらず,時間がやや長いと感じた参加学生も多かったことから,早く正解に到達したチームだけでなく,わからずに時間を持て余したチームも存在した可能性が示唆された.

今回本学では初めてピア評価を導入したが,自己評価と他者評価に相関関係は認められなかった.このことは,初めてのTBLで慣れていなかったり,自分が思っている状態(評価)と他人が感じている状態(評価)が異なっていたりしたことなどが考えられた.また一方で,数字のみによる評価は評価基準が明確でなく,人によって数字のとらえ方にばらつきが生じる可能性が考えられた.今後は,薬学教育で近年導入されたルーブリックを,このピア評価にも活用すべきであると考えられた1315.さらに今回は,教員による参加学生へのグループワークに対する態度や理解度の評価は行っておらず,指導者の評価と学生同士のピア評価にも乖離がある可能性も考えられる4,9,12.今後は,学生同士のピア評価の回数を重ねていくと同時に,適切な時期に教員と学生同士での評価結果について調査解析を行うことを考えている.

以上,本トライアルを通して,2年次生を対象とした基礎系科目から臨床系科目までの分野横断統合TBLが実施可能であることが示された.しかしながら本トライアルでは,本来のTBLで実施することになっており,かつ最も重要であるとされている「応用演習課題」までは準備できておらず,未完成な状態である1,46.今後は,臨床症例を用いた応用演習課題の追加なども含めて内容をブラッシュアップしたうえで,本当の意味での「基礎系科目と臨床系科目との融合」のできたTBLを学年全体で実施できるよう準備していきたいと考えている.

謝辞

本トライアルの計画,実施にあたり,摂南大学薬学部 安原智久准教授には,種々の有益なご助言を賜りました.衷心より御礼申し上げます.さらに,本トライアルに参加いただいた学生の皆様,本トライアルの実施にご協力いただきました神戸薬科大学教職員の皆様に深謝いたします.本研究は,神戸薬科大学 平成28年度学長裁量経費による教育改革プログラムの助成を受けたものです.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

文献
 
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