Japanese Journal of Pharmaceutical Education
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Practical Article
Proposal for an approach to support a clinical research by pharmacists
Mai IkemuraMotozumi AndoTohru Hashida
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2017 Volume 1 Article ID: 2017-015

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Abstract

近年,薬剤師による質の高い研究が求められているが,その活動を行うにあたっては多くの問題が存在する.2015年より,神戸市立医療センター中央市民病院薬剤部にて,我々が独自に作成した研究に関する進捗状況報告書と報告会(Laboratory Conference)を導入することとした.薬剤師は,修正を重ねながら報告書を書くことにより,テーマの重要性や方向性を見直し,Laboratory Conferenceにて共同研究者とデータについて議論を交わす.今回,我々は,薬剤師を対象としたアンケート調査により,進捗状況報告書とLaboratory Conferenceの必要性を評価した.報告書のほとんどの項目で必要と回答されていた.報告書もLaboratory Conferenceも必要性を理解できる,テーマの整理ができるなどの意見が出された.進捗状況報告書やLaboratory Conferenceの導入後,学会の発表数は変わらなかったが,学会発表のテーマの論文執筆数は増加した.我々は,研究の進捗状況報告書やLaboratory Conferenceの導入が,薬剤師による研究の質の向上に寄与しうることを期待する.

目的

近年,臨床現場に従事する薬剤師は薬学的専門性に基づいて薬物治療に携わるとともに,積極的にエビデンスを構築することが求められている.そのためには,質の高い研究活動を進める能力が必要とされるが,これまでに我々が薬剤師を対象として実施した調査では,研究経験には個人差が大きく,特に4年制学部のみの卒業者や一部の6年制学部卒業者では,ほとんど研究指導を受けていない者もいる1.そのため,臨床現場において研究を進めるにあたり,着目すべきポイントがわからない,限られた時間の中で効率的に研究活動を進めることができない,論文執筆まで至らない,などにより難渋するケースが多い.

神戸市立医療センター中央市民病院(当院)は,2011年に神戸学院大学大学院薬学研究科と「教育・研究協力に関する協定」を締結した.同大学の一部教員が当院薬剤部で研修を行うとともに,薬剤師の研究指導に従事している.指導内容は,研究テーマや進め方の相談応需,学会要旨・論文の執筆やスライド作成の指導など,多岐にわたる.2015年度より,当院薬剤師が限られた時間の中でより質の高い研究活動を進めることができるよう,学位を有する薬剤部管理職と大学教員2名を構成員として薬剤部内の研究支援者のグループ(連携研究部門)を立ち上げるとともに,研究テーマに関する進捗状況報告書と進捗状況報告会(Laboratory Conference)を導入した.このような指導を行っている大学や研究室はあるが,全ての薬学部卒業生が経験しているとは限らず,卒後に初めて臨床研究に取り組む薬剤師も少なくないことから,臨床研究の支援体制が必要であると考えられる.また,その指導を,市民病院にて,薬剤師としての現場経験が豊富な薬剤部管理職と,大学での通常業務として研究指導を行う大学教員が共同で行っている.これまで,臨床現場の薬剤師が行う研究に対する質的完成度を高めるための支援体制に関する報告は,ほとんどない.そこで,我々が実践した進捗状況報告書とLaboratory Conferenceによる薬剤師への臨床研究の支援について報告する.

方法

1. 進捗状況報告書とLaboratory Conferenceの導入と運用

2015年4月より研究テーマに関する進捗状況報告書とLaboratory Conferenceを導入した.これらの提出・発表は,テーマを実施している薬剤師(係長以上とパートタイム職員を除く.薬剤師レジデントを含む)に義務付け,係長以上とパートタイム職員は任意とした.

進捗状況報告書は,研究テーマの意義や実施状況など,研究に必要な要素をまとめた様式として,書籍等も参考に独自に作成した(図12,3.学会要旨作成で必要とされる背景,目的,結果だけでなく,患者数や調査項目など調査に必要な条件を満たすことができそうか(実現可能性),臨床現場でいかに問題となっているテーマか(必要性),既報と比較してどこが新しいか(新規性),倫理的配慮はできているか(倫理的配慮),得られた結果をどのように臨床現場にフィードバックして今後の治療に貢献するか(結果の活用)といった研究実施の意義を細かく見直し,さらに,研究デザインやPICO/PECO(Patients, Intervention/Exposure, Comparison, Outcome)といった臨床研究の基本要素を整理することを目的として作成した.研究テーマを有する薬剤師(筆頭発表者・著者)全員が,研究開始時から進捗状況報告書を作成・改変し,3か月に一度,連携研究部門へ提出する(図2).原則,4,7,10,翌年1月の最終月曜日を締め切りとし,2015年4月のみ,5月を締め切りとした.連携研究部門にて,提出された進捗状況報告書の内容や進め方,研究体制について協議し,その協議内容についてコメントや添削を加えて返却した.その際,学会要旨作成や論文執筆を念頭に,テーマの方針だけでなく,文書表現も細部にわたって確認した.さらに,学会への演題登録前など,共同研究者内での詳細なデータの確認が必要な場合には,進捗状況報告書の提出から1週間後に薬剤部内でLaboratory Conferenceを開催した.Laboratory Conferenceでは,筆頭発表者が背景・目的から考察まで学会と同様の構成でスライドを作成して発表し,その内容を共同研究者やその他薬剤師と議論した.

図1

研究テーマの進捗状況報告書.この報告書には,記入日,テーマタイトル,共同研究者(自身も含む),テーマ概要/背景・目的(適宜文献を引用),実現可能性,必要性,新規性,倫理的配慮,結果の活用,研究デザイン,PICOまたはPECO(Patients, Intervention/Exposure, Comparison, Outcome),現在の進捗(結果の概要),研究を進めるにあたっての問題点や相談事項,今後の予定,その他,学会発表の希望や進捗,Laboratory Conferenceでの発表希望について記入する.(A)テンプレート,(B)記入例.

図2

進捗状況報告書とLaboratory Conferenceの運用方法.研究テーマを有する薬剤師(筆頭発表者・著者)全員が,進捗状況報告書を連携研究部門へ提出する.連携研究部門では,提出された報告書の内容や進め方,研究体制について協議し,その協議内容や文章表現についてコメントや添削を加えて返却する.提出者はコメントや添削内容を確認し,修正を加えながら3か月に1度提出する.Laboratory Conferenceは,希望した薬剤師のみが発表する.薬剤部内で実施し,薬剤師は誰でも参加できる.連携研究部門のメンバーが共同研究者になることもある.

本報告では,2015年の1年間における進捗状況報告書提出者数とLaboratory Conference発表者数を調査した.

2. アンケート調査の実施

2016年3月1日現在,当院薬剤部に所属する薬剤師のうち,進捗状況報告書の提出を義務付けている薬剤師に無記名でアンケート調査を実施した.調査内容は,回答者の属性,研究実施状況,進捗状況報告書とLaboratory Conferenceについてとした(図3).

図3

進捗状況報告書とLaboratory Conferenceに関するアンケート用紙

3. 学会発表および論文発表件数

進捗状況報告書およびLaboratory Conference導入前の2014年4月1日から2015年3月31日(2014年度)と,導入後の2015年4月1日から2016年3月31日(2015年度)に演題登録した学会発表の件数・内容について調査し,観察研究,症例報告,薬剤師の活動,教育に分類した.また,学会発表後一年以内の同内容に関する論文執筆状況を調査した.学会発表・論文発表とも,当院にて実施したテーマで,アンケートの対象となった薬剤師が筆頭著者となった発表と,加えて係長以上・パートタイム職員・研修生が筆頭著者となった発表について調査した.学会発表は,発表内容の査読のある学会での一般演題(口頭・ポスター)のみとし,シンポジウムは除外した.

結果

1. 進捗状況報告書提出者数とLaboratory Conference発表者数

進捗状況報告書とLaboratory Conferenceを導入した2015年度における,それぞれ提出者数と発表者数を調査した.進捗状況報告書提出者数は,6名(5月),5名(7月),4名(10月),10名(翌年1月)であった.Laboratory Conference発表者数は,4名(5月提出者),5名(7月提出者),2名(10月提出者),7名(翌1月提出者)であった.

2. アンケート回答者の背景と研究実施状況

アンケート回収率は,90%(対象者31名中回答者28名)であった.回答者の当院における連続勤務年数については,1年目が8名,2–3年目が10名,4–5年目が7名,6年目以上が3名であった.また,他医療機関での業務経験のある薬剤師は12名,当院でのレジデント経験のある薬剤師(在籍中含む)は16名であった.アンケート回答時点で,回答者28名中15名が研究に取り組んでいた.

3. 進捗状況報告書に対する薬剤師の評価

進捗状況報告書の提出経験のある16名(回答者の57%)に報告書の各項目の必要性について尋ねた.ほとんどの項目で大部分の者が必要と回答していたが,PICO/PECOについて必要と回答した割合が最も少なかった(図4A).各項目の難易度についても,PICO/PECOを難しいと感じている割合が最も多かった(図4B).進捗状況報告書の提出頻度(3か月に一度)について適切かどうか尋ねたところ,適切と回答した者は11名(69%),不適切が3名(19%)であった(その他無回答).さらに,進捗状況報告書の必要性・添削について複数回答可として尋ねた(図5).必要性については,「報告書を書くことで自身のテーマについて整理できる」を選択した者が12名(75%)で最も多く,次いで「報告書の必要性を理解できる」,「報告書を書くのに時間がかかる」を選択した者がそれぞれ9名(56%)であった(図5A).添削については,「添削されて良かった/添削されたい」を選択した者が9名(56%)で最も多かった(図5B).その他自由回答として,「自身では考えつかなかった意見やアドバイスをもらえて良かった」という意見が見られた.

図4

進捗状況報告書の各項目の必要性と難易度に関するアンケート結果.(A)必要性について,(B)難易度について.1回以上進捗状況報告書を提出した経験のある薬剤師16名を対象に調査した.

図5

進捗状況報告書の必要性と添削に関するアンケート結果.(A)必要性について,(B)添削について.1回以上進捗状況報告書を提出した経験のある薬剤師16名を対象に調査した.

4. Laboratory Conferenceに対する薬剤師の評価

Laboratory Conferenceでの発表経験のある16名(回答者の57%)にその実施について尋ねた.発表頻度(3か月に一度)が適切かどうか尋ねたところ,適切と回答した者は9名(56%),不適切が5名(31%)であった(その他無回答).また,発表時期(原則,進捗状況報告書提出期限の1週間後)についても適切かどうか尋ねたところ,適切と回答した者は7名(44%),報告書締切1週間以降が適切と回答した者が5名(31%),報告書締切1週間以前が適切と回答した者が2名(13%)であった(その他無回答).さらに,Laboratory Conferenceの必要性・第三者からの意見について複数回答可として選択式で尋ねた(図6).必要性については,「発表の必要性を理解できる」,「資料の作成に時間がかかる」を選択した者がそれぞれ10名(63%)で最も多く,次いで「発表があることで自身のテーマについて整理できる」,「発表することにより,その後の研究や学会等の準備がスムーズになった」を選択した者がそれぞれ8名(50%)であった(図6A).発表時の第三者からの意見については,「発表内容について確認・意見・批判されて良かった/されたい」と回答した者が11名(69%)で最も多かった(図6B).その他自由回答として,「一人ひとりの発表に時間をかけるため終了時間が遅くなる」,「多くの人の意見を聞くことでより良い研究になる」,「人の発表を聞くことも勉強になる」といった意見があった.

図6

Laboratory Conferenceの必要性と議論に関するアンケート結果.(A)必要性について,(B)議論について.1回以上Laboratory Conferenceでの発表経験のある薬剤師16名を対象に調査した.

5. 進捗状況報告書およびLaboratory Conference導入前後の学会発表・論文発表件数

進捗状況報告書およびLaboratory Conferenceの導入が質の高い研究活動に結び付いたかを検討するため,導入前の2014年度と導入後の2015年度について,学会発表および論文執筆件数を比較した(表1).その結果,学会発表件数とその発表内容(観察研究,症例報告,薬剤師の活動,教育)の内訳は同様であったが,導入後に口頭発表の件数が多かった.その多くがカルテの後ろ向き調査であり,前向き介入研究はなかった.また,進捗状況報告書およびLaboratory Conference導入前に発表したテーマのうち,学会発表一年以内における論文執筆中のテーマは1件であったが,導入後には3件のテーマについて論文投稿中もしくは執筆中であった.そのうち,採択されたのは,導入後の1件のみ(査読あり,邦文)であった.アンケート対象者以外の係長以上・パートタイム職員・研修生を含めると,学会発表件数は導入前後とも25件前後,一年以内の論文採択はいずれも3件であった.

表1 進捗状況報告書とLaboratory Conference導入前後における学会発表回数と論文執筆件数
導入前 導入後
学会発表回数 10 10
発表方法 ・口頭 2 5
・ポスター 8 5
発表内容 ・観察研究 5 5
・症例報告 0 1
・薬剤師の活動 4 3
・教育 1 1
論文執筆件数*
論文執筆*
・投稿準備中・投稿済・採択済 1 3
・採択済** 0 1

*学会発表後1年以内の論文執筆件数

**査読あり

考察

近年,薬剤師による研究への取り組みが活発になっている.しかしながら,研究テーマの選択や進め方などに難渋するケースも少なくない.そこで,我々は,各研究テーマについて配慮するポイントを定期的に見直し,共同研究者からの意見を加えながら研究の質を高めていけるよう,独自に進捗状況報告書を作成した(図1).その進捗状況報告書には,我々作成者の基礎研究や臨床研究,さらに論文執筆経験に基づき,基本的な研究の概念とともに,臨床研究で特に必要とされる要素も含めた.

その進捗状況報告書を提出した者の半数以上が全ての項目について必要と回答していたことから(図4A),いずれの項目も実際にテーマを進める者が必要性を感じていると考えられる.しかしながら,PICO/PECOや研究デザインなどは,必要と回答した者が比較的少なく,難しいと回答した者が多かった(図4).これら項目は,Journal of the American Medical Association(JAMA)に代表される一部雑誌において,論文の要旨に書くことが求められており,臨床研究を行う上で重要な項目である.今回のアンケート対象者では,アンケート回答者28名中25名が勤務年数5年未満であり,臨床研究の経験を十分に積んでおらず,重要性の認識が乏しかった可能性がある.今後,特に臨床研究に取り組み始める薬剤師は,自己学習や勉強会への参加,あるいは経験者からのアドバイスなどを通して,臨床研究への取り組み方や取り組む際の重要なポイントを学ぶ必要があると考えられる.

さらに,進捗状況報告書の提出・添削については,「報告書を書くことで自身のテーマについて整理できる」との回答が最も多く,「添削されて良かった/添削されたい」との回答も半数以上あったことから,回答者がその必要性を実感しているものと考えられる(図5).一方,「報告書を書くのに時間がかかる」と回答した者が半数以上,「学会発表までに報告書の提出が必須になったことで,学会発表のハードルがあがった」と回答した者も半数近くおり,進捗状況報告書の必要性を理解しつつも,負担に感じている現状が明らかとなった.

Laboratory Conferenceについても,進捗状況報告書と同様の意見が多かった(図6).概ね肯定的な意見が多かったが,進捗状況報告書提出期限1週間後のLaboratory Conference発表については,適切と回答した者が比較的少なかった.業務終了後にLaboratory Conferenceを開催しているが,その場合,終了時間が遅くなるとの意見もあったことから,限られた時間内で効率的に進めるための開催時間の設定(複数日に分けて各日を短時間開催とするなど)が必要であると考えられた.

我々は導入当初,進捗状況報告書では,テーマの全体像や意義を各自が確認し,文章表現も見直すことで,特に学会の要旨作成や論文執筆に役立てられ,一方,Laboratory Conferenceでは,進捗状況報告書では把握できない詳細なデータを提示することで,多くの者と議論することができると考えていた.アンケートより,Laboratory Conferenceでは「発表することにより,その後の研究や学会等の準備がスムーズになった」との意見が半数あったことから,Laboratory Conferenceのために体裁を整えた図表を学会の発表スライドやポスター作成に役立てられると考えられる.さらに,Laboratory Conferenceの自由回答の中に,「人の発表を聞くことで勉強になる」との意見もあり,Laboratory Conferenceの開催は,薬剤師に欠かせないプレゼンテーション能力の向上や他者へのアドバイスからの学習など,発表者や参加者に多くの教育効果をもたらすものと考えられる.

進捗状況報告書やLaboratory Conference導入前後の学会発表については,進捗状況報告書とLaboratory Conferenceともに「学会発表のハードルがあがった」と回答した者が半数近くいたにも関わらず,結果として発表件数や発表内容はほとんど変わらず,口頭発表の件数や論文執筆件数が増加した(表1).本調査は導入後1年のアウトカムであり,今後に期待しうるものと考える.

我々の施設では,学位を有する薬剤師,主として大学教員が進捗状況報告書の管理やLaboratory Conferenceの運営に携わっている.一方で,人材不足などにより,指導体制を構築するのが困難な施設もある.そのような施設でも,図1に示した進捗状況報告書の書式に則って記述すれば,研究を進めるにあたって重要なポイント,すなわち背景・目的や結果だけでなく,研究デザインやPICO/PECOも整理でき,研究の全体像を明確にすることができる.研究実施の意義を見直すことで,考察において他の研究との比較や研究の限界などを論じる際に役立つと考えられる.

以上,我々はこれまでの研究経験に基づき,薬剤師が効率的で質の高い研究活動を実施できるよう,独自に作成した進捗状況報告書やLaboratory Conferenceを導入した.本支援体制が,薬剤師が成果を臨床現場に還元できるような研究活動をさらに活発に行うための一助となることを期待する.

謝辞

本アンケート調査にご協力いただいた神戸市立医療センター中央市民病院薬剤部の薬剤師の皆様に深く感謝いたします.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

文献
 
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