Japanese Journal of Pharmaceutical Education
Online ISSN : 2433-4774
Print ISSN : 2432-4124
ISSN-L : 2433-4774
Short communication
Investigation of simulated patient’s attitudes toward physical assessment task
Toru OtoriTomomi InoueKoichi HosomiShunji IshiwataMai FujimotoManabu KitakojiTakeshi Kotake
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2018 Volume 2 Article ID: 2017-017

Details
Abstract

これまで医療行為と解釈されてきた薬剤師による聴診や血圧測定等が,適法と解釈され,臨床現場での実施が可能となった.これにより,改訂薬学教育モデル・コアカリキュラムにフィジカルアセスメント(PA)が盛り込まれ,客観的臨床能力試験(OSCE)にPA課題の導入が検討されているものの,PA課題に対応した模擬患者(SP)の養成等に関する検討は行われていない.そこで,薬学生が行うPAと在宅医療に関するSPの意識調査を行った.SPは「在宅医療」やPAについて,少なからず知識や関心を持っていた.これらの結果は,一般の患者より高くなっていた.さらに,SPは,聴診に対して,その他の項目ほど受けたいと思っていないことが明らかとなった.そして,この傾向は,女性で高くなることが明らかとなった.したがって,PA課題を円滑に実施するためには,薬剤師教育(医療人)を十分理解したSPを養成する必要があるとともに,SPの立場に立った細かな配慮を行う必要があることが明らかとなった.

目的

高齢化社会の進展に伴い医療費削減は喫緊の課題であり,その対策として在宅医療やセルフメディケーションの拡大が挙げられる.そして,その実践のために薬剤師に期待されるところは大きい.とりわけ,平成22年4月に厚生労働省より出された通知〔平成22年医政発0430第1号〕1) を受けて,薬剤師の業務例について日本病院薬剤師会が解釈と具体例を発表したことは2),薬剤師の臨床業務において重要なキーポイントとなっている.すなわち,これらの通知により,これまで医療行為として,医師法に抵触すると解釈されてきた,薬剤師による喘息治療における呼吸音の聴診や降圧薬投与時の血圧測定等は,薬物治療の効果判定のために必要な行為として適法とのお墨付きが出たものと解釈され,臨床現場で実施が可能となった.

また,平成25年に発表された改訂薬学教育モデル・コアカリキュラム3)にフィジカルアセスメント(Physical assessment:PA,以下PA)が盛り込まれるとともに,薬学共用試験OSCE(以下OSCE)においても聴診や血圧測定等を盛り込んだPAに関する課題の実施が検討されている.多くの薬系大学では既に各大学独自のPA教育が行われており46,コアカリキュラムやOSCEは教育現場に追従する形となっている.模擬患者(Simulated patient:SP,以下SP)を用いたPA課題では,薬学生がSPに触れて胸部の聴診や血圧測定等を対して行うため,この様な課題に対応したSPの養成が必要となる.しかし,薬学生による聴診や血圧測定等にかかる手技の評価に関しては,様々な論議がなされているものの,PA課題に参加するSPの養成等に関する検討はなされていない状況である.そこで,今回われわれは,OSCEや事前学習でSPの同意を得てPA課題を問題なく実施可能か否かを検証するために,近畿大学薬学部(以下,本学と略す)「模擬患者の会」の会員を対象に,薬学生が患者に触れて行う聴診や血圧測定等に対する意識調査を行うとともに,在宅医療に関する理解度調査を併せて行ったところ,興味深い結果を得たので報告する.

方法

1. アンケート方法

対象は,2016年7月に実施した本学模擬患者講習会に参加したSP 37名で,PA関連課題の説明を行った後にアンケートを配布し,回答を依頼した.アンケートは,在宅医療に関する設問とPA実施に関する設問の計15設問となっており,各設問は,5段階の数値評価による回答とした(図1).なお,本アンケートは,本学倫理委員会により審査承認されている.

図1

アンケート

2. アンケート解析方法

回収したアンケートは,設問ごとにスコア値として平均値±標準偏差を算出し,統計学的評価を行った.統計学的評価は,エクセル統計2015 for Windows®((株)社会情報サービス)を用いて行い,P < 0.05を有意差ありとした.

結果

アンケートは,40歳代から70歳代のSPを対象とし,事前に研究目的,アンケートの協力は自由意志であること,得られたデータは研究以外に使用しないことを説明した上で,同意を得られた37名から回答を得た(回答率100%).男女の比率は男性38%,女性62%であった.

アンケート設問①:「「在宅医療」という言葉をご存知ですか?」において,「意味までよく知っている」を5,「まったく知らない」を1とした時,スコア値は3.6 ± 0.8であった.また,「在宅医療という言葉を聞いたことがある」を意味する3以上の回答が,97%であった(図2).

図2

設問①から③の結果

設問①:(まったく知らない)1-2-3(聞いたことがある)-4-5(意味までよく知っている)

設問②:(まったく知らない)1-2-3(聞いたことがある)-4-5(意味までよく知っている)

設問③:(まったく必要ない)1-2-3(どちらともいえない)-4-5(非常に必要ある)

**:P < 0.01 Student-t検定

アンケート設問②:「「フィジカルアセスメント」という言葉をご存知ですか?」において,「意味までよく知っている」を5,「まったく知らない」を1とした時,スコア値は2.3 ± 1.3であり,設問①よりもスコア値が有意に低くなっていた(P < 0.01).また,「フィジカルアセスメントという言葉を聞いたことがある」を意味する3以上の回答が41%であった(図2).

アンケート設問③:「薬剤師が血圧測定や聴診などをすることをどう思いますか?」において,「非常に必要である」を5,「まったく必要ない」を1とした時の希望度のスコア値は4.1 ± 0.9であり,全体の79%の患者が「必要である」を意味する4以上の回答となっていた(図2).

表1にフィジカルアセスメント項目に関連したアンケート設問④および⑤の各項目のスコア値等を示す.アンケート設問④:「下記のバイタルチェック項目を薬剤師にしてもらうことについてどのように感じられますか,その度合いを1(全くしてもらいたくない)から5(全く問題なくしてもらえる)の数値でお聞かせください.」において,呼吸音の聴診,心音の聴診,腸音の聴診,血圧測定,脈拍測定,意識確認のすべての項目で70%以上のSPが「問題なくしてもらえる」という肯定的な考えを示す4以上の回答をしていた.特筆すべき点として,「腸音の聴診」スコア値が最も低くなっていた(表1).また,この結果を男女別に見てみると,女性は聴診に関係する項目において,男性よりもスコア値が低くなる傾向が示された.アンケート設問⑤:「模擬患者の課題で,下記のバイタルチェック項目を薬学生にしてもらうことについてどのように感じられますか,その度合いを1(全くしてもらいたくない)から5(全く問題なくしてもらえる)の数値でお聞かせください.」において,呼吸音の聴診,心音の聴診,腸音の聴診,血圧測定,脈拍測定,意識確認のすべての項目で70%以上のSPが「問題なくしてもらえる」という肯定的な考えを示す4以上の回答をしていた.特筆すべき点として,「腸音の聴診」がもっともスコア値が低くなっていた(表1).また,この結果を男女別に見てみると,女性は聴診に関係する項目において,男性よりもスコア値が低くなる傾向が示された.更に,設問④の全PA項目のスコア値は,全回答者で4.2 ± 1.1(男性4.2 ± 1.3,女性4.2 ± 1.1)となっており,設問⑤の全PA項目のスコア値は,全回答者で4.3 ± 1.1(男性4.4 ± 0.9,女性で4.1 ± 1.2)であった(表1).

表1

薬剤師と薬学生が行うバイタルチェック希望度

考察

薬学共用試験センターは,改訂薬学教育モデル・コアカリキュラム3)にフィジカルアセスメントが盛り込まれたことを受けて,OSCEにおいても聴診や血圧測定等を盛り込んだPA課題の実施を検討している.PA課題の実施には,検討すべき2つの問題がある.そのうちの一つは,評価者が測定値を正確に把握し適正に評価できるかという問題である.そしてもう一つが,肉体的・精神的な負担が増大するSPを十分に確保できるかである.現在,評価に関する問題は,活発に議論が行われているものの,SP確保に関する問題は,十分に調査・検討が行われていない状況である.特にSP確保を危惧する理由として,ボディータッチを行う聴診によるSPへの負担は肉体的負担と同時に羞恥などの精神的負担が女性SPで非常に大きいと考えられるためである.したがって,SPの60%が女性である本学SP会において,これまで通りOSCEや事前学習でSPの協力が,得られるか予測できない状況にある.そこで,今回我々は,PAが実際に必要となる在宅医療に対するSPの知識を調査するとともに,SPが薬剤師や薬学生から聴診や血圧測定等を受けることについてどのように考えているかを把握し,SPが負担なくPA課題を実施できる方法について検討することとした.

まず,SPが在宅医療をどの程度理解しているか検証した結果,アンケート設問①:「「在宅医療」という言葉をご存知ですか?」のスコア値は3.6 ± 0.8であり,97%のSPが「在宅医療という言葉を聞いたことがある」を意味する3以上の認知度であったことから,SPは「在宅医療」という言葉は知っており,少なからず知識や関心を持っていることが示された.また,アンケート設問②:「「フィジカルアセスメント」という言葉をご存知ですか?」の結果を見てみると,41%のSPが「PAと言う言葉を聞いたことがある」を意味する3以上の回答をしており,一部のSPはPAという言葉を知っているものの「在宅医療」よりもその認知度は低いことが明らかとなった.しかし,これらの結果は,一般の患者に対して行った同様の調査結果と比較して高くなっていた7).この様に本学SPが在宅医療やPAについての高い知識や関心を持った理由は,本学SP会が,単にSPのロールプレイ練習のみを行っているのではなく,心肺蘇生(CPR)講習など医療に関する様々な話題を提供すことにより,SPが医療に対する理解を深める場になっているためと考えられる.

次に,実際に薬剤師や薬学生から聴診や脈拍測定などを受けることについてSPがどのように考えているかについて考察した.設問③:「薬剤師が血圧測定や聴診などをすることをどう思いますか?」の結果において,スコア値は4.1 ± 0.9であり,全体の79%の患者が「必要である」を意味する4以上の評価をした.さらに,設問④と⑤の結果において,ほぼ全ての項目において「問題なくしてもらえる」を意味する4以上の回答が70%を超えていたことから,SPは,聴診や脈拍測定等を薬剤師や薬学生から受けることについて非常に肯定的(前向き)であることが明らかとなった.さらに,これらの結果を詳しく見てみると,聴診に対する態度は,血圧測定や脈拍測定等に対する態度ほど肯定的でないことが示唆された.この結果をSPの男女別で見てみると,女性の方が男性よりも,その傾向は高かった.中でも腸音の聴診のスコア値は,女性において血圧測定,脈拍測定,意識確認と比較して低い傾向が明らかとなった.また,当初から女性のSPより胸部の聴診に対して大きな抵抗があると予想していたが,今回の結果で抵抗の大きい聴診部位が腹部であったことは特筆すべき点であった.この結果について後日回答者に確認したところ,「日常診療で腹部の聴診が実施されることはまれであるため,おなかを見られたり触られたりするのは恥ずかしい」とのコメントを得ている.したがって,SPに対して聴診を行う際には,羞恥に関する配慮を行う必要があり,その配慮は特に女性SPにおいて十分に行われるべきであると考える.次に,設問⑤全体のスコア値が設問④全体のスコア値と比較して高かったことから,SPは薬学生によるPAに対して,より肯定的であり,この傾向は男性のSPで,より顕著であった.したがって,SPはSP講習会を通じて様々な医療に関する情報を得ることにより,医療人養成に対する理解を深めた結果,薬学生によるPAに対してより高い理解をあらわしたものと考える.

今回のアンケート結果より,PA課題を事前学習やOSCEで実施する場合,聴診に比べて血圧や脈拍の測定については,問題なく実施することができると考えられた.さらに,本学「模擬患者の会」のSPは,模擬患者講習会で在宅医療などの医療に関する知識を学ぶことにより,医療人養成に理解を示すようになり,薬学生が行うPAに対して肯定的になっていることが明らかとなった.しかし,聴診においては,危惧していた通り女性のSPの羞恥に対する十分な配慮の必要性が明らかとなった.したがって,PA課題の実施に向けて女性SPの理解を得ることができるよう,模擬患者講習会で「聴診は衣服の上から行う」,「女性のSPに対して聴診を行う学生については,性別を配慮した実習やOSCEを行う」など適切な情報提供と演習を行うことが必要であると考える.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

文献
 
© 2018 Japan Society for Pharamaceutical Education
feedback
Top