Japanese Journal of Pharmaceutical Education
Online ISSN : 2433-4774
Print ISSN : 2432-4124
ISSN-L : 2433-4774
Original Article
Trial adoption of modified team-based learning for sixth-year pharmacy students and its learning effects
Nobuhiro InoueRiriko NakajimaRie YamauchiShuji OhnoHajime KuboKazunori Asai
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML
Supplementary material

2019 Volume 3 Article ID: 2018-042

Details
Abstract

本研究では,薬学部6年生に対する改変型team-based learning(m-TBL)の成績向上効果を検討することを目的として,病態・薬物治療分野の問題を用いるm-TBL演習を実施した.従来のTBLと異なり,個人及びグループテストには難易度が同等になるように調整したそれぞれ別の問題セットを用いた.その結果m-TBL演習を行った試験群では,グループテストの得点が個人テストと比較して有意に高かった.また試験群と,同一課題を自主学習する対照群との,演習期間前後の試験成績を比較した結果,その得点向上率は試験群の方が有意に大きかった.さらにアンケートの顧客満足度分析の結果から各試験の難易度は同等と評価され,因子分析の結果と試験成績から,TBLに期待している学生ほど成績が高いことが明らかとなった.以上のことから,m-TBLが6年生の成績向上に効果的であることが示された.

目的

近年の医療系大学の学部教育では,臨床における実践能力等を身につけるための方策として問題基盤型学習(problem-based learning: PBL)やチーム基盤型学習(team-based learning: TBL)に代表される能動的学習法が注目されている.1969年にH. Barrowsから提唱されたPBLは,臨床推論の方法や知識を学ぶことのできる学習方法として,医学部1) や看護学部2),また薬学部3,4) に導入されており,医療系学部の教育において効果があると一般に認知されている.一方でPBLを適切に行うためには,スモールグループの数に応じた均質で指導力のあるチューターや,グループ学習に適した学習環境などの整備が必要になる.1970年代にL. Michaelsenにより開発されたTBLは,PBLと比べ人的・物的資源が少なく済み,学生数が200人程度の大規模な講義でグループ学習させることができる効率の良さと,数名でグループ学習させる教育効果の高さを併せ持っている5).TBLのこうした利点から,アメリカでは従来用いられてきた経営学や自然科学における学部教育だけでなく,医療系学部の教育においても導入が進んでいる6).日本では2010年前後に医学部でTBLの手法が紹介され5),医学専門教育における教育効果を報告しているほか7,8),歯学部 9) や看護学部10) でもTBLによる教育が行われている.その後薬学部でもTBLが導入されており,薬物治療や薬剤師業務の体験実習などの科目で実施されている11,12)

以上のようにTBLは,薬学部を含む医療系学部の教育において有用であると考えられている.しかしその有効性に関する知見は,相互学習や学習意欲,問題解決能力などに着目したものがほとんどでありe.g. 1014),グループ学習での知識の共有や獲得による学習成績の向上効果に焦点を置いた報告については数報8,15) しかない.さらに,薬学部で教育すべき基本的な知識等と実践に関する総合的能力が問われる薬剤師国家試験の合格を指向したTBLの教育効果を検討した報告はまだみられない.そこで我々は薬学部6年生を対象とした薬学専門科目にTBLを導入し,学習成績との関連を明らかにすることを目的とした.本研究では,学生により多くの専門知識を効率よく獲得させるため,各確認テストを同じ問題で行う従来のTBLとは異なり,同等難易度に調整した別の問題セットを各テストに用いる改変型TBL(modified TBL, m-TBL)で演習を行った.このm-TBL演習(以下,演習と表記する)の学習内容は,基礎から応用までの幅広い薬学専門知識を統合的に利用することが求められる病態・薬物治療分野とした.演習の際にはルーブリック評価表を配布し,主にグループ学習への取組み方や省察の目安とさせた.そしてm-TBLの学習効果を成績向上率の測定により評価し,演習の設計に関する妥当性をアンケート調査結果に基づく顧客満足度(CS)分析により確認した.加えて,m-TBLにより成績が向上する学生を事前に把握することは,個々の学生にとってより効果的な学習方法の選択を可能にするため,どのような学生がTBLに適しているかを因子分析により検討した.

方法

1.対象

本学薬学部の6年生を対象とし,5年生までのgrade point average(GPA)に基づいて,演習を実施する試験群と実施しない対照群に30名ずつ割り当てた.試験群のGPAの平均と標準偏差は2.36 ± 0.17であり,対照群のそれは2.85 ± 0.20であった.

2.m-TBL演習の実施

演習は,6年生前期に設置されている選択科目の「薬学特別演習」において実施した.演習のグループは,メンバーの成績および男女比が均一になるよう調整した6人で構成し,5グループを組んだ.演習課題は,改訂薬学教育モデル・コアカリキュラムに準拠した,代表的な8疾患の病態・薬物治療の国家試験程度の問題を中心とし,薬理に関連する問題も併せて使用した.演習方法はL. Michaelsenの方法を参考に,TBLの3つの段階のうちreadiness assurance processを改変したプログラムとした16)図1に示すように,演習は週1日75分×2コマを1ユニットとした学習を7日間と,前後のプレおよびポストテストで構成され,学生には2–8回目の学習内容についてシラバスに基づき予習しておくように指示した.演習1回目のプレテスト(50問,100分)では,学習を行う前の学生個々の演習課題に関する学力を測定した.2–8回目の1コマ目は,前回成績のフィードバックを行った後,50分間の個人学習(参考書あり)を行わせ,続いて個人確認テスト(individual readiness assurance test(IRAT),10問,20分)を実施した.2コマ目は,前週の課題に関して簡単な補足講義を行った後,グループ確認テスト(group readiness assurance test(GRAT),10問,20分)について,参考書等を用いずにグループ全員で討議させ解答を導かせた.正答は全グループの解答直後に,掲示により公開した.演習9回目に,学生個人の学力を評価するためのポストテスト(50問,100分)を実施した.原則として,プレテスト,ポストテスト,IRAT及びGRATには,過去に本学で実施した試験の中から全国平均正答率の明らかな問題を使用し,それにより各試験の難易度が同等となるように調整した.また各問題が有する全国平均正答率の算術平均値をその試験の予想正答率とし,各群の平均得点率との比較検討に利用した.ルーブリック評価表は5つの観点とそれぞれ5つの基準で構成され,各観点の最高点を5点,合計25点とし(表S1),これを演習の1回目に配布し9回目に自己評価させた.対照群では試験群と同じプレテストを実施した後,試験群のIRAT及びGRATで使用した課題を配布して,m-TBLは行わず試験群と同じ期間,教員が監督しない形式で自己学習を行わせた.また,対照群は試験群と同じ日時にポストテストを実施した.

図1

m-TBL演習のスケジュール.演習の1ユニットは2コマから構成され,週に1日行った.1コマ目の開始5分間に前回成績のフィードバックを(*1),2コマ目の開始15分間に前回の問題の簡単な解説を(*2)それぞれ行った.また,特に指導が必要と考えられる内容に関しては,対照群の学生に対しても掲示により周知した(*3).試験群は全7回のTBL演習による学習を行い,対照群はその期間同じ課題を教員が監督しない形式で自主学習した.どちらの群もプレおよびポストテストを実施した.IRAT: individual readiness assurance test. GRAT: group readiness assurance test.

3.アンケート調査

1)アンケート調査の実施と単純集計

ポストテスト終了後に,演習に対する姿勢や演習への評価等を質問する30項目のアンケート調査(表S2)を試験群にのみ実施した.調査にはアンケート等の無料作成ツールであるgoogleフォームを利用し,学生個人の所有するスマートフォン等により回答させた.得られた回答は表計算ソフトにより単純集計した.

2)CS分析

分析は相良ら(2006)の方法に従い,結果を明確にするためトップ2分析とした17).名義尺度の質問(Q8,Q23–27)は除外し,重要度(各質問と総合評価(Q30)の相関係数)と満足率(各質問の全回答数に占める上位2段階の合計の割合)を指標として散布図を作成した.散布図は2変数の平均値で境界線を引き,4象限とした.第1象限は満足率と重要度がどちらも高いため,重点維持分野と設定した.同様に第2象限は,重要度は低いが満足率が高いため維持分野と,第3象限は重要度も満足率も低いため改善分野と,第4象限は重要度が高いが満足率が低いため重点改善分野と設定した.

3)因子分析

分析にはIBM SPSS Statistics Version 20を用いた.質問項目は,学生のTBLに対する適性を因子として抽出するために,それを表現すると考えられるQ3,Q5–7,Q9–14の10項目を分析に供した.スクリープロットおよび因子の固有値が1以上であることを指標として,最尤法,プロマックス回転で探索的因子分析を行った後,いずれの因子にも負荷の低い項目を除き,最終的な共通性が0.3以上の項目を採用した.得られた各因子の因子得点と,演習成果の指標としてプレテスト得点からポストテスト得点の向上率(以下,プレ-ポスト得点向上率とする)をプロットし,その相関係数から,TBL演習に適した特性を判断した.

4.統計解析

2群間の検定にはStudentのt検定を,3群間以上の検定には反復測定2元配置分散分析を用い,多重比較はTukey法とした.いずれの検定も,p < 0.05を有意水準とした.

5.倫理的配慮

参加した学生には,本研究の趣旨および目的を書面および口頭で説明し,収集したデータは厳重に保管されること,個人が特定される情報は外部に示されないこと,学術発表されることについて,同意書に署名した者のみを解析に使用した.(星薬科大学倫理審査委員会 承認番号 30-027)

結果

1.試験成績の解析

各群の平均得点率と,予想正答率を表1にまとめた.各試験はその予想正答率と標準偏差から,正答率が同じ程度の範囲で分散した問題で構成されていることがわかるため,演習を実施して得られた各得点は標準化等の操作をせずそのまま使用した.

表1 各群間の得点率の比較
N M/F IRAT GRAT プレテスト ポストテスト プレ-ポスト
得点向上率
予想正答率(Ave. ± SD) 58.6 ± 22.9 58.8 ± 24.3 55.9 ± 25.3 56.2 ± 25.3
試験群(Ave. ± SEM) 28 13/15 51.0 ± 2.0 78.6 ± 1.0††† 34.1 ± 1.2 50.7 ± 2.1*,††† 1.53 ± 0.14***
対照群(Ave. ± SEM) 30 8/22 35.8 ± 1.2n.s. 40.5 ± 2.0 1.15 ± 0.11

有意差検定はStudentのt検定もしくは反復測定2元配置分散分析後Tukey法で行った.予想正答率:各試験問題の全国平均正答率の総和を問題数で除したもの.プレ-ポスト得点向上率:ポストテスト得点をプレテスト得点で除したもの.* p < 0.05,*** p < 0.005(試験群対対照群). p < 0.05,††† p < 0.005(同一群内のIRAT対GRATもしくはプレ対ポストテストスコア).n. s. 有意差なし(試験群対対照群).

1)試験群内のIRATおよびGRAT得点率の比較

まず,試験群のIRAT平均得点率は51.0%であり,予想正答率(58.6%)と比べると低い傾向にあった.一方GRAT平均得点率は78.6%で,予想正答率(58.8%)を上回った.

2)群間のプレおよびポストテスト得点率の比較

次に,試験群と対照群の成績を比較した.なお試験群の2名はポストテストを受験できなかったため解析から除外した.プレからポストテストへの平均得点率の変化は,試験群(N = 28)は34.1%から50.7%(p < 0.0001)に,対照群(N = 30)は35.8%から40.5%(p = 0.025)に,それぞれ有意に上昇した.またポストテストの得点率は試験群の方が有意に高かった(p = 0.011).さらにプレ-ポスト得点向上率は,試験群(1.53倍)の方が有意に大きかった(p = 0.0006).

2.ルーブリック評価表の集計

ポストテスト終了時に,試験群はルーブリック評価表に基づいて自己評価を行った.その結果,各観点の平均点とその標準偏差はそれぞれ,予習・復習の達成度は4.85 ± 0.09,当日の自己学習の達成度は4.96 ± 0.04,積極性については4.96 ± 0.04,協調性については4.96 ± 0.04,貢献度については4.96 ± 0.04で,これらの合計点は24.70 ± 0.05となった.

3.アンケート調査の解析

1)単純集計

試験群に対して行ったアンケートの有効回答数は28件であり,まずこれらを単純集計した(表S3).そのうち,m-TBLを評価する上で特に重要だと考えられるIRAT及びGRATの問題難易度の同等性に関する質問(Q22)は,82%が同等あるいは概ね同等と回答し,演習全体の満足感に関する質問(総合評価,Q30)は82%が満足したと回答した.また,個人学習が役に立った人は86%(Q1),TBLが役に立った人は75%(Q3),ルーブリックが学習の目安となった人は89%(Q12),情報共有ネットワークが役立つと思う人は71%(Q25),自身の知識や成績が向上した実感を持った人は89%(Q28)だった.

2)CS分析

重要度と満足率を指標にしたCS分析を行った結果,維持分野(第1・2象限)には試験難易度の同等性,ルーブリック評価,およびTBLの有効さに関する項目などが,改善分野(第3・4象限)には試験難易度,演習の時間配分,および他の講義への応用に関する項目などが分類された(図2).改善度からは,最も改善すべき項目としてQ9,Q17およびQ18などが示された(表S3).

図2

CS分析の散布図.満足率:回答の4と5の合計を全回答数で除したもの.重要度:各質問と総合評価とのピアソンの相関係数.各象限は2指標の平均値で分類した.

3)因子分析

TBL演習に適した学生を把握するため,探索的因子分析を行った結果,2因子が抽出され,その累積寄与率は66.9%であることから,2因子構造と推定した.さらに共通性が0.3を下回ったQ13を除外し,最終的に累積寄与率72.7%の2因子構造として決定した.因子行列を確認すると,第1因子(因子寄与率48.3%)はTBLが楽しかったか,学習に役立つか,将来の実力向上に結びつくかなど,TBLへの興味や期待の項目で負荷が高かったことから「TBLへの興味・期待」と名付けた(表2).同様に第2因子(因子寄与率24.4%)は,ルーブリック評価に関する項目で負荷が高かったことから「ルーブリック評価への適合」と名付けた.次に,学生の特性であるこの2因子の因子得点とプレ-ポスト得点向上率の相関係数を調査した.その結果,プレ-ポスト得点向上率と第1因子の間に有意な正の相関があり(r = 0.440,p = 0.019,図3),第2因子では弱い正の相関が見られたのみだった(r = 0.179, p = 0.362).

表2 アンケート調査の因子分析結果(最尤法・Promax回転)
第1因子 第2因子
〈第1因子:TBLへの興味・期待〉
Q6 薬物治療分野で,TBLは適切な学習方法だと思いますか 1.019 –.248
Q7 今後ほかの演習・講義で,TBLによる学習ができることを期待しますか .929 –.120
Q9 TBL方式は,国試合格のための学習方法として役立ちそうですか .878 .098
Q3 TBLは学習に役立ちましたか .827 .045
Q5 TBLを受け入れ,楽しく参加できましたか .570 .325
Q10 TBL方式の学習は,将来薬剤師としての実力向上に結び付く経験だと思いますか .432 .475
〈第2因子:ルーブリック評価への適合〉
Q12 ルーブリック評価基準は,学習の目安になりましたか .040 .933
Q11 ルーブリック評価の内容は,わかりやすかったですか –.124 .853
Q14 ルーブリック評価規準(項目)は,適切でしたか –.074 .789

太字は因子負荷量が0.3以上を示す.

図3

第1因子得点とプレ-ポスト得点向上率の相関関係.r:ピアソンの相関係数.有意差検定は無相関検定で行った.

考察

本研究では,薬学部6年生に対するm-TBLの成績向上効果の検証を目的に,国家試験に準じた問題を用いたTBL演習を実施した.我々の実施したm-TBLは,TBLの学習プロセスのうちreadiness assurance process のみを改変したものである.今回の演習は,国家試験に向けた学習をまだ本格的に始めていないと考えられる6年生へ進級直後の4月から行ったこともあり,試験群のプレテスト得点率(34.1%)は予想正答率を大きく下回った(表1).演習ではシラバスに従い予習するよう指示したため,IRATの得点率は予想正答率を下回ってはいるが,プレテストよりは良い成績となった.またその後のディスカッションを経たGRATでは,得点率が大幅に上昇した.GRATでは複数人のグループで問題を解くため,正答率が上がるのは当然のことと思われるが,個人学習で得た知識はそれぞれで異なるものであり,その不明瞭な知識を他者に伝え可視化する「外化」の作業を行わなければディスカッションは成立しない.加えて,対象学生は5年生に実務実習を行っており,その経験的学習が病態・薬物治療分野の問題を議論する上で役だったと推測される.GRAT得点の向上は,活発なディスカッションによる学生間での知識の相互共有が行われたことが要因の一つであると考えられた.さらにポストテストの得点率は50.7%でプレテストの1.53倍に伸びており,予想正答率と同程度まで成績が向上した.アンケートにおいても,「本演習を受講した結果,自身の知識や成績は向上したと実感しましたか(Q28)」の質問に,約9割が肯定的に回答した.以上の結果から,m-TBL演習により学習成績が向上したことが示唆された.

次に試験群の成績を,同一課題を自主学習した対照群と比較することにより,m-TBL演習の効果を検討した.対照群の学生は試験群の成績に近い30名であり,プレテスト時点での得点率に差はなかった(表1).ポストテストの得点率はどちらの群も有意に向上しているが,その向上率は試験群の方が有意に大きく,演習を行ったことによる学習効果が表れたと考えている.しかしながら試験群に行ったアンケートで個人学習(Q1)とTBL学習(Q3)の役立ち度を質問したところ,肯定的な回答数は同程度であった.したがって,グループ学習を行ったことのみが単純な効果を与えたのではなく,別の要因も影響していると考えられた.我々は,学生の知識やスキルを向上させるためには授業以外の課外活動や友人や教員との交流も重要であるという及川らの報告に着目し,それに関連した「学生相互の情報共有ネットワークは構築できましたか(Q24)」,「情報共有ネットワークは国試合格を目指すにあたって役立ちそうですか(Q25)」の2項目を質問した18).これらに対し多くの学生は情報共有ネットワークができたと回答し,そのネットワークは国家試験合格に役立つものであると認識していた.以上のことから,m-TBL演習の成績向上効果には,グループ学習による直接的な学習に加え,副次的な要素の一つとして友人同士で学習コミュニティが形成され,教えあいのネットワークが構築されることが影響していると示唆された.

本研究のm-TBLの改変点は,各RAT間で問題を異なるものにしたことである.他の多くのTBLに関する報告でもそうしているように,従来TBLの各RATには共通の問題を用いる e.g. 9,13,19,20.しかし問題が同一であると学習内容の幅が制限されてしまい,多くの知識を効率的に獲得することを指向したTBL演習としては不十分と判断された.そこで,各試験で異なる問題を使用することにより,より多くの知識を学ぶことができると考えた.問題作成にあたっては,試験難易度の調整のために既出問題の全国平均正答率を利用した.アンケート結果から,各試験の難易度はほとんどの学生が同等あるいは概ね同等と感じており(表S3,Q21–22),CS分析においても重点維持分野に分類された(図2).これらの結果は,このm-TBL演習を実施する上で試験間の難易度調整が重要な事項であり,全国平均正答率を用いる方法が有効に機能したことを示した.

ルーブリック自己評価に関しては,その得点分布が最高評価に極端に集中した.今回の演習では,学習の目安と基準を認識してもらう目的でルーブリックを事前に開示した.寺嶋らによる研究では,この方法には学習目標の明確化や,学習における課題や方法の重要性を認識させる効果があることを明らかにしている21).今回の集計結果も,適切な学習態度とはどういうものかを学生が認識できていたことを示唆しており,寺嶋らの報告を支持するものと考えられた.このことはアンケートからも確認でき,「ルーブリック評価の内容は,わかりやすかったですか(Q11)」,「ルーブリック評価基準は,学習の目安になりましたか(Q12)」の質問は高評価を得た.

演習の満足感に関わる要因や改善点を見出すCS分析では,まず「本演習を受講した結果,自身の知識や成績は向上したと実感しましたか(Q28)」は第1象限の右上方に位置し,重要度も満足率も高い,すなわち演習の総合評価(Q30)とQ28の相関が強いことがわかった(図2).このことは,演習で満足感を得られた学生は成績が伸びたと感じており,また逆の学生は演習をうまく生かせなかったことを示している.一方,「本演習を受講した結果,自身の学習意欲は高まりましたか(Q29)」は,第2象限の左上方に位置し,満足率はQ28と同様に高いが,重要度は大きく異なり演習の総合評価(Q30)と相関性が見られなかった.つまり演習の総合評価(Q30)が低かった学生でも,演習に参加することで学習意欲が向上したことを示している.これらの結果は,成績下位の学生にとって演習内容が難しくうまく学習に結び付けられない場合でも,この演習に参加すること自体がモチベーションの活性化につながり,他の学習手段による効果向上が期待されることを示唆している.

また興味深いことに,TBLへの興味や期待に関する質問が,重点維持分野(Q10)と重点改善分野(Q6–7, Q9)にわかれた.これらは質問内容が将来像を見据えた長期的視点(Q10)か,国家試験を見据えた短期的視点(Q6–7, Q9)かに起因すると考えられる.学生は演習を行うことで,将来的にはこの経験が現場で役に立つと感じている一方,現状ではTBLによる学習経験が少ないため,TBLが国家試験の学習方法として効果的かどうか,十分に判断できなかったことが理由として考えられた.

TBLに適した学生を把握するために行った因子分析では,その指標としてプレテストからポストテストへの得点向上率の大きさを用いた.因子分析から,学生の特性を表す因子として,第1因子(TBLへの興味・期待,因子寄与率48.3%)と第2因子(ルーブリック評価への適合,因子寄与率24.4%)が得られた(表2).この二つの因子得点をプレ-ポスト得点向上率と比較した結果,第1因子に有意な正の相関が認められた(図3).TBLが楽しく,学習に役立ち,国家試験に向けた学習として適していると感じた学生の成績が上がるとするこの結果は非常に合理的であり,多くの教員が抱いているイメージと一致しているであろう.学生にとってより効果的な演習とするためには,低学年のうちからTBLを実施し,同様の質問から学生の適性を把握しておくことが望ましい.

本研究では,異なる問題を用いる改変型TBL演習を薬学部6年生に実施し,m-TBLが学習成績の向上に効果的であることを示した.その際,試験難易度の調整の指標として,全国平均正答率を用いることが一つの方法と考えられた.今後は病態・薬物治療分野だけでなく,他の薬学専門科目に対して改変型TBL演習が応用できるかを検討したい.

謝辞

本研究を行うに当たり,試験問題作成の準備に関してご尽力いただいた星薬科大学薬学教育研究センター元特任助手の渡邉雅行氏に深謝いたします.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

この論文のJ-STAGEオンラインジャーナル版に電子付録(Supplementary materials)を含んでいます.

文献
 
© 2019 Japan Society for Pharmaceutical Education
feedback
Top