Japanese Journal of Pharmaceutical Education
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Practical Article
Changes in patient-oriented attitudes among fifth-year pharmacy students during practical ward training
Yuki YasutakaKentaro OgataHidetoshi Kamimura
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2019 Volume 3 Article ID: 2019-006

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Abstract

現在,多くの薬学部5年生が将来のビジョンに「患者に寄り添う薬剤師」や「信頼される薬剤師」と掲げるものの,病棟実習開始時に「患者」ではなく「薬」に目を向ける姿勢を感じる.そこで我々は,福岡大学病院脳神経センターにおける6日間(約40時間)の薬物療法の実践実習を構築し,実習を通して実習生に生じる意識変化を検討した.実習開始時には薬に関する確認や指導ができると思う実習生が多かった.一方,実習終了時には患者の状態把握や薬の評価ができたと実感する実習生が増加した.また,将来,薬剤師として「把握力」が必要であると実感する実習生が最も多かったことより,実習生の目線を「患者」にシフトさせることができたと考えられる.改訂コアカリに基づく実務実習の目標は「薬剤師としての資質」の習得であり,短期間ではあるが難病や脳手術施行の患者に対して継続的に面談および薬物療法の評価を実施することで実習生の意識に変化をもたらすことができたと考える.

はじめに

福岡大学病院(以下,当院)では,2010年の6年制実務実習開始時より1期最大32名,年間3期に亘り薬学生を受け入れており,その実習成果を報告してきた1,2).現在,2013年に改訂された薬学教育モデル・コアカリキュラム(以下,改訂コアカリ)(http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/02/12/1355030_02.pdf,2018年11月27日)F:薬学臨床の(3)「薬物療法の実践」,(4)「チーム医療への参画」を履修させるため,1期53日間のうち26日間を病棟での実践実習に充てている.多くの薬学部5年生は実習開始時に将来のビジョンとして「患者に寄り添う薬剤師」や「信頼される薬剤師」と掲げるものの,病棟実習開始時に「患者」ではなく「薬」に目を向ける姿勢を感じる.2015年に公表された「薬学実務実習に関するガイドライン」(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/058/gaiyou/__icsFiles/afieldfile/2015/03/03/1355408_01_2.pdf,2018年11月27日)において,病棟実習の利点としてコミュニケーション技能,薬物療法に関する効果と副作用のモニタリング能力,これらを踏まえた薬物療法についての主体的な提案能力などについては,病棟実習での体験なくしては「できる」ようにはならないと明記されているように,実習生は継続的に患者を担当することにより,これらの技能を習得しながら「信頼される薬剤師」になるために何が必要なのかを実感できると考えられる.

2019年度より適用の改訂コアカリでは,継続的に関わるべき代表的8疾患(がん,高血圧症,糖尿病,心疾患,脳血管障害,精神神経疾患,免疫・アレルギー疾患,感染症)が挙げられている.この中で,脳梗塞や脳動脈瘤などの「脳血管障害」の薬物療法を主として学習できるのは当院では脳神経内科・外科や救命救急センターといった診療科に限定される.そこで,本研究では改訂コアカリの目標である「薬剤師として求められる基本的な資質」を実習生が習得するための質の高い実習体制を構築するために,当院脳神経センターにおける6日間の薬物療法の実践実習を通して実習生に生じる意識変化を検討したので報告する.

方法

1.対象

2018年度1期あるいは2期に薬局実習を終了し,次の期(2期:2018年8月17日~11月2日あるいは3期:2018年11月5日~2019年2月1日)に当院で実習した福岡大学薬学部5年生計43名を対象とした.

2.実習方法と病棟実習スケジュール

当院の実習は,オリエンテーション(1日間)後,調剤(13日間),調製(13日間),病棟実践(26日間)で構成している.実習生は各部署から実習を開始し,1クール13日間でローテーションする.病棟実習期間は,脳神経内科・外科(脳神経センター)と腫瘍血液感染症内科を各6日間,他の診療科(チーム医療見学を含む)を13日間,初日導入講義1日,計26日間とした.病棟における実習時間は,講義日(1回75分,3回/クール)を除き,8時40分~16時(昼休憩45分)とした.

脳神経センターの実習概要を図1に示す.実習生は日々担当患者に対して把握,確認,指導を通じ評価を行い,薬剤管理指導記録を記載した.また,担当患者のうち1名に関しては診療ガイドラインなどの情報源を用いて「病因・病態」,「疾患のリスクファクター」,「非薬物療法は必要か?」,「薬物療法は必要か?」,「選択されている薬物は適切か?」,「選択されなかった薬物について」,「薬物の用法用量について」,「注意すべき副作用の把握・評価」,「注意すべき相互作用の把握・評価」,「アドヒアランスの評価」の項目3)を評価し,6日目に指導者と実習生で担当患者の情報共有を行った.脳神経センターでの実習指導は当院薬剤部兼任の福岡大学薬学部の教員1名で実施した.指導者は実習指導に加え,改訂コアカリに基づく代表的8疾患の実践状況,担当患者数と疾患名,指導継続日数を日々記録した.

図1

脳神経センター実習概要

3.脳神経センター実習前後のアンケート

脳神経センターの実習開始時に患者に対して「できそうなこと」,脳神経センターの実習終了時に「できたこと」,「将来,薬剤師として必要と感じたもの」を自由記載させた.実習に対する満足度は6件法とし,1.非常に満足,2.満足,3.少し満足,4.少し不満,5.不満,6.非常に不満の中から該当する番号を一つ選択させた.

4.実習生の意識変化に関する評価方法

実習生が記載した内容を,以下のように基準を決めて分類した.「把握/把握力」は患者の問題点抽出,状態把握に関する記載(単に患者と会話するや不安に思っていることを聴くなどの記載は除く),「確認」は処方薬とその用法用量,薬の効果および副作用モニタリング,服薬コンプライアンスの確認に関する記載,「指導/指導力」は患者教育を含む服薬指導に関する記載,「評価/評価力」は調査や処方提案,考察などの評価に関する記載,「知識」は薬剤や疾患に関する知識に関する記載,「会話力」はコミュニケーション能力に関する記載を実習生数でカウントした.なお,記載内容の分類は,分類の妥当性を確認するために著者3名で実施した.

患者に対する記載内容を「把握」,「確認」,「指導」,「評価」に分類し,実習前後の意識変化について,McNemarの検定を行った.危険率(p)5%未満を有意水準とし,統計解析にはStatMate V(アトムス,東京)を使用した.また,薬剤師として必要と感じたものに対する記載内容を「知識」,「会話力」,「把握力」,「指導力」,「評価力」に分類し評価した.

5.倫理的配慮

本研究は,「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(平成29年4月14日通達,厚生労働省)に従うとともに,福岡大学医の倫理委員会に医学系研究の対象外であることを確認したうえで実施した.また,実習生に対する配慮として脳神経センターにおける実習評価が確定した後に本研究の解析を実施した.

結果

1.実習概要

代表的8疾患の実践状況を表1に示す.実践件数の平均±標準偏差は主疾患2.1 ± 0.5疾患(合併症を合算すると4.3 ± 1.2疾患)であり,主として評価した1疾患の内訳はパーキンソン病:精神神経疾患(41.9%),脳卒中:脳血管障害(30.2%),てんかん:精神神経疾患(7.0%),重症筋無力症:免疫・アレルギー疾患(7.0%),血管炎:免疫・アレルギー疾患(7.0%),正常圧水頭症:精神神経疾患(4.7%),多発性硬化症:免疫・アレルギー疾患(2.3%)であった.実習生が担当した患者数と指導継続日数の平均 ± 標準偏差はそれぞれ2.8 ± 0.9名,5.4 ± 0.8日であった.

表1 脳神経センターにおける実践状況
代表的8疾患 主疾患 実施率(%) 主疾患+合併症 実施率(%)
がん 0 0.0 0 0.0
高血圧症 0 0.0 38 88.4
糖尿病 0 0.0 22 51.2
心疾患 0 0.0 10 23.3
脳血管障害 37 86.0 37 86.0
精神神経疾患 38 88.4 42 97.7
免疫・アレルギー疾患 15 34.9 19 44.2
感染症 1 2.3 17 39.5
上記以外の疾患 3 7.0 43 100.0
n = 43 n = 43

2期と3期をあわせた実習生43名が実習期間中に担当した総患者数は40名であり,1患者を実習生が他の実習生に引き継ぐこともあった.1患者において実習生が担当した日数の平均±標準偏差は7.1 ± 4.5日であった.実習生担当時に副作用と考えられる有害事象を認めた患者は11名,指導の下,実習生による薬学的な介入(副作用回避や他の医療従事者への情報提供)は13件,うち副作用の重篤化回避0件,副作用の未然回避4件,薬物治療効果の向上3件,その他の処方提案や情報提供が6件であり,各1例を表2に示す.

表2 実習生による薬学的な介入例
副作用の未然回避(4件)
事例1 排尿障害が持続していたため,入院後もタムスロシン塩酸塩(0.2 mg/日)を継続内服していた.ご家族の面会時に,「自宅で胃部不調の際はご家族が市販の胃腸薬を服用させている」という情報を得た.この市販薬はロートエキスを含有している(10 mg/包)ため,退院後に服用することで排尿障害を増悪させるおそれがあると考えられた.ロートエキス散の添付文書には,前立腺肥大による排尿障害のある患者には禁忌と記載されている.そこで,患者とご家族に上記の旨を伝え,退院後もこの市販薬は服用しないこと,市販薬を購入する際には薬剤師に服用中の薬剤を示し相互作用の確認をしてもらうことを提案しご理解いただいた.
薬物治療効果の向上(3件)
事例2 入院前より症状のあった左鎖骨部の皮膚障害に対し,保湿剤(ヘパリン類似物質ローション)を開始した.5日後,患者と面談した際に保湿剤を塗布しても効果がないとの訴えがあった.左鎖骨部の炎症と掻痒感の継続を確認し,保湿剤の効果は不十分と判断した.アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版(日皮会誌126, 2016, p. 127)を参照し,抗炎症効果を有するステロイド外用剤かつ軽度紅斑を考慮して「ミディアムクラス」,患者の寝汗を考慮して「クリーム剤ではなく軟膏剤」を選択し,主治医にヒドロコルチゾン酪酸エステル軟膏の処方を提案した.提案日より軟膏を開始した.塗布後より紅斑の軽減が認められ,自覚的な効果実感も得られた.ステロイド外用剤による副作用を考慮し,皮膚障害改善後は塗布を中止するように患者へ指導した.
その他の処方提案や情報提供(6件)
事例3 患者と面談した際にロチゴチンの貼付を昼から朝へ変更したいとの訴えがあった.ご自宅では本剤を早朝に貼付していたが,入院後にパーキンソン病の薬剤調整をしていたこともあり用法が変更されたままであった.本剤は放出制御製剤であり,いつ貼り替えても大きな影響はないことを主治医に情報提供し,患者の希望通り翌日より朝貼付へ変更した.

2.実習前後のアンケート結果

脳神経センターの実習に対する43名の満足度は,「非常に満足」と「満足」の合計が97.7%となり,不満の合計は0%であった.実習開始時に実習生が病棟実習でできると思ったことの平均文字数は37.5文字であり,その内訳は,確認24名(55.8%),指導19名(44.2%),評価13名(30.2%),把握6名(14.0%)の順であった.終了時の平均文字数は106.8文字であり,その内訳は,評価31名(72.1%),把握29名(67.4%),確認21名(48.8%),指導17名(39.5%)の順となり,把握および評価で有意に(P < 0.001)意識変化が認められた(図2).将来,実習生が薬剤師として必要と感じたものの平均文字数は110.7文字であり,その内訳は,把握力29名(67.4%),評価力23名(53.5%),知識17名(39.5%),会話力14名(32.6%),指導力5名(11.6%)の順であった.

図2

脳神経センター実習前後に実習生に生じる意識変化.

脳神経センターの実習開始時に患者に対して「できそうなこと」,脳神経センターの実習終了時に「できたこと」を自由記載させ,その内容を「把握」,「確認」,「指導」,「評価」に分類した.*** P < 0.001

考察

脳神経センターでの実習を通じて,多くの実習生が短期間ではあるが難病や脳手術施行の患者に対して継続的に関わる中で患者の把握と薬物療法の評価をできたと感じ,薬剤師にとって患者を把握する力や評価する力が大切であるという意識をもつことができた.

改訂コアカリF:薬学臨床の一般目標は,「患者・生活者本位の視点に立ち,薬剤師として病院や薬局などの臨床現場で活躍するために,薬物療法の実践と,チーム医療・地域保健医療への参画に必要な基本的事項を修得する」ことであり,何よりもまず患者の視点に立つことが重要である.寺町らのテキストマイニング法を用いた実務実習における学生の感想文に関する報告4)においても,病院および薬局実習全体の単語頻度解析にて「患者」が一番多かったことから,実習生は患者を最も意識していたことが考察されている.しかし,臨床で実務実習を経験するまでは患者のいない空間で座学を行う時間が長いため,いざ患者を目の前にした際に薬の知識だけで何とかしようとする実習生が多い.また,脳神経センターでの実習開始時には,多くの実習生が薬剤師による患者応対を薬の確認や服薬指導という一過性の業務として意識しており,薬局実習では2.5か月という限られた時間の中で1人の患者に継続的に関わる機会が少ないことから,実習生は1度きりの薬に関する指導や確認を繰り返してきた可能性が推察される.

教育とは学習者の行動に価値ある変化をもたらすプロセスであり,病棟実習において実習生に変化をもたらすには,まず実習生に「自分の担当患者である」という責任感を持たせることが重要と考えられる.多少の見守りは必要であるが,指導者は実習生のみで患者応対させる機会を与えることが効果的である.実臨床において処方提案をする機会があるかどうかは状況次第であるが,実習生は継続的に患者を担当することで表2に例を挙げた介入に発展するケースもある.

脳神経センターにおける6日間の実習では主疾患として平均2疾患,合併症を含むと4~5疾患程度を患者から学ぶことができるだけでなく,パーキンソン病など薬では完治しない患者の存在を改めて認識できることが利点として挙げられる.完治困難な疾患であったとしても,薬を服用している患者のために薬剤師が何もできないということはなく,実習生は難病患者のために薬剤師として何ができるかを考える機会を得ることができる.個人差はあるものの,本実習で患者を継続的に担当し,把握,確認,指導,評価という一連の流れを実践することで多くの実習生が将来,薬剤師として把握力・評価力のどちらか一方,もしくは両方が必要と実感した.本研究は実習生の自由記載を基に解析しているため,実習生ができたことのうち確認や指導の割合が低いのは,実践していないのではなく,把握や評価の方がより強く印象に残ったことによると推察される.

筆者らは薬物療法を評価する際には情報源として医薬品添付文書やインタビューフォームに加え,診療ガイドラインを最低限用いるように指導している.担当患者の疾患とその治療法を学ぶことで医師の診察記事の内容がある程度わかるようになる.その結果,治療方針を把握した実習生は,薬に限らず幅広い知識が必要であることを実感したようである.本実習プログラムは,薬物療法を評価する上で短期間のうちに実習生の目線を「患者」にシフトさせることが可能であることを示したが,さらに,長期間の実習や他の診療科の実習にも応用可能であると考えている.

本研究では指導者間による指導力の影響を考慮し,指導者1名が常に3~4名の実習生の指導に従事した.中田ら5)は,薬局実習において実習生が薬剤師に尊敬の念を感じることが実習に対する高い満足度に繋がることを報告しており,指導者の質の向上は実習生の質の向上と同様に大きな課題である.大久保らのテキストマイニング法を用いた薬学部で学習する科目と実務実習の連動を検証した報告6)によると,学生が役に立ったと回答した科目の上位は薬理学(85%),薬物治療学(84%),病態生理学(75%)であり,各々の自由記載欄に出現する頻度が上位の語に「患者」が含まれていた.つまり,学生が患者を意識しながら薬の知識を活用できたと推察される.よって,指導者は実務実習において実習生に薬学と患者をいかに結びつけられるかが教育上重要であり,薬学的知識を患者のために活用する技能を日々磨き続ける姿勢が望まれる.今後も責任薬剤師の下,認定実務実習指導薬剤師が中心となり教育体制を維持していく必要があり,久保ら7)が報告した病棟実習パス作成も有効な手段の一つとして考えられる.本研究の限界としては,当院の実習は1期に最大32名の実習生を受け入れるため,実習生によって実習開始部署が調剤,調製,病棟と異なることが挙げられる.つまり,一般論として脳神経センターの実習開始が実習後半となる実習生は他の実習の影響を多少なりとも受けた可能性が考えられる.しかし,ながら,脳神経センターの実習において患者の病態や薬物療法を考えながら日々患者と継続的に接する機会を与えることで実習の開始時期に限らず多くの実習生に変化をもたらすことができた.今後,他の診療科においても本手法を展開していきたいと考えている.

謝辞

本実習にご協力いただいた当院脳神経センターの医師,薬剤師,看護師,リハビリテーション部の皆様に厚く御礼申し上げます.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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