2020 Volume 4 Article ID: 2019-033
本研究では,受講生が主体的に論文を評価し,論文データの活用を学習できるチーム基盤型学習(team-based learning: TBL)を取り入れた授業コースにより受講生の論文評価能力が向上するかについて検証を行った.TBL 1回目と2回目の個人準備確認試験(iRAT)を比較した結果,2回目のiRATの平均点が(1回目:4.60 ± 2.11,2回目:6.49 ± 2.11,平均点の差:1.88[95%CI, 1.45–2.31])向上した.アンケートの単純集計から,受講生はチーム議論よりも試験解説で論文内容を理解できたと評価し,EBMの理解においては応用課題演習が重要であると評価していることが示された.さらに,因子分析とiRATの結果から,論文を理解できたと自己評価した受講者はiRATの得点が高い傾向にあった.以上のことから,TBLを取り入れた論文評価学習コースは,EBM実践に必要な論文評価能力の向上に寄与することが明らかとなった.
In this study, we examined whether the ability of students to evaluate literature improved through an Evidence-Based Medicine (EBM) educational course including team-based learning (TBL). We compared the results of the first and second individual readiness assurance test (iRAT). The results showed that the average score on the second iRAT was significantly higher than on the first iRAT (first 4.60 ± 2.11, second 6.49 ± 2.11, mean difference: 1.88 [95% CI, 1.45–2.31]). Questionnaire results indicated that students understood the content of the literature through the lecture about the test rather than through team discussions. Furthermore, we found that students recognized application exercises regarding what was important for understanding EBM. The results of factor analysis and the iRATs showed that students who highly self-evaluated their understanding of literature evaluations tended to score higher on iRAT scores. The findings confirmed that an EBM educational course including TBL is effective for improving the performance of pharmacy students when it comes to evaluating literature.
薬剤師は,チーム医療や地域包括ケアシステムの現場において,公正な医薬品情報から医薬品の有効性・安全性・費用対効果などを総合的に評価し,薬物治療方針を策定することが求められている1).薬学教育において,2013年度に薬学教育モデル・コアカリキュラムが改訂され,医学論文の質を評価した上でEvidence-Based Medicine(EBM)の実践へと繋げられる薬剤師を養成することが明記された2).しかし,薬学部におけるEBM教育の現況調査によれば,多くの大学はEBMの概念などの講義が中心であり,EBM実践を行う上で必須となる論文評価演習の機会は不足しているとの報告がある3,4).このため,大学教育で論文評価の基礎的能力を身に着けておらず,臨床現場において薬剤師が医学論文をふまえたEBMの実践をできていない一因になっていると考えられる5).
我々は,兵庫医療大学でのEBM教育における最初の取り組みとして,2014年度より2~4年次学生の希望者10名程度に1回60分,全15回の小グループ討論による論文評価教育を行った.その学習効果として,初見の論文でも質を評価できる能力が身についていることを明らかにしている6).さらに,2015年より薬学部3年次学生約140名に対する必須科目としてEBM教育を行う機会を得た.当初は小グループ討論形式を考えていたが,スペースおよび複数のチューターの確保が困難であったため,講義と個別演習を組み合わせた授業を実施した7).しかし,講義・演習方式の問題点として,指導者が論文評価ポイントを講義した後に,授業内で受講生が確認する程度の演習を取り入れるだけでは,卒後に論文評価を行える力は身につかないものと考えられた.
そこで,受講生が主体的に論文評価を行い,さらに論文データの活用を学べる方略として,事前学習と準備確認試験で論文評価のポイントを学んだ上で,応用課題で臨床疑問の定式化と治療方針の策定にも取り組めるチーム基盤型学習(team-based learning: TBL)の導入を着想した8).論文評価教育におけるTBLは,10名程度の薬剤師に対する論文評価学習の比較試験において,講義形式よりTBL形式の方が高い学習効果を示す傾向が報告されている9).また,我々は,薬学生を対象としたTBL形式による論文評価教育により薬学生の論文評価能力が授業前後で向上することを明らかにしている10).しかし,いずれの報告も単回実施での効果であった.そこで本研究では,大学教育での講義とTBLを組みあわせた全8回中6回のランダム化比較試験(randomized controlled trial: RCT)論文の評価方法を受講した受講生の論文評価能力が向上するかを,2回の準備確認試験(readiness assurance test: RAT)の結果を比較することで検証した.さらに,本授業内容の効果的であった部分を抽出するために,受講後のアンケートの単純集計と因子分析を用いて解析した.
2018年度兵庫医療大学薬学部3年次前期必修科目・薬学英語〈論文評価コース〉(90分×8回)の授業の流れを表1に示す.第1,2回では,EBMの流れを説明した後に,臨床疑問の定式化の解説と個人演習,日本語のRCT論文を用いて,医学論文の評価ポイントや図表の解釈に必要な基礎知識について解説した.第3,4回目ではTBLにより,論文の評価と患者への適用を行った.さらに,第5週目で2回目のTBLを実施した.6回目では,TBLで学習した2報の論文のデータを比較した上で,改めて治療方針の策定を行った.7,8回目は,システマティックレビュー(systematic review: SR)論文の評価について,解説と確認試験を実施した.
授業回 | 授業内容 | 学習方略 | 時間(分) |
---|---|---|---|
第1回 | EBMの5 stepsとは | 講義 | 30 |
臨床疑問の定式化(帯状疱疹後疼痛患者) | 個人演習 | 60 | |
RCTの構成と論文評価のポイント | 講義 | ||
(配布資料)帯状疱疹後疼痛患者シナリオ,PICOシート,解説用論文(プレガバリン,日本語) | |||
第2回 | RCT結果の解釈 | 講義 | 60 |
相対危険度,オッズ比の計算 | 演習 | 30 | |
課 題 | RCTの論文評価(エンパグリフロジン) | 自習 | |
(配布資料)課題論文,解説資料,チェックシート | |||
第3回 | 個人準備確認試験(iRAT-1st) | TBL | 30 |
チーム試験(tRAT-1st) | 60 | ||
第4回 | RAT解説 | TBL | 45 |
臨床疑問の定式化(2型糖尿病患者) | 演習 | 20 | |
データを基にした治療方針の策定 | 講義 | 25 | |
課 題 | RCTの論文評価(カナグリフロジン) | 自習 | |
(配布資料)課題論文,解説資料,チェックシート | |||
第5回 | 個人準備確認試験(iRAT-2nd) | TBL | 30 |
チーム試験(tRAT-2nd) | 30 | ||
RAT解説 | 30 | ||
課 題 | 患者の問題の定式化,治療方針の策定 | 自習 | |
(配布資料)糖尿病患者シナリオ,PICOシート | |||
第6回 | 治療方針の策定 | 講義 | 10 |
個人演習,チーム内共有 | SGD | 45 | |
チーム間共有 | 発表 | 20 | |
振り返り解説 | 講義 | 15 | |
第7回 | SRの構成と評価ポイント | 講義 | 90 |
第8回 | SR評価ポイントの個人確認試験 | 演習 | 30 |
確認試験の解説 | 講義 | 60 |
1回目のTBLは,事前学習で使う課題論文,論文評価ポイント解説資料,RCTチェックシートは,2週目の授業終了時から兵庫医療大学Moodleからダウンロードできるようにした.3週目の授業開始時に事前学習資料の内容に合わせて作成した準備確認個人試験(individual readiness assurance test: iRAT)(30分)を行い,次いで,RATの問題に関して議論を行いチームの解答を導き出すチーム試験(team readiness assurance test: tRAT)(60分)を実施した.4週目の授業では,RATの解説および応用課題を実施した.2回目のTBLは,5週目の授業で実施したが,tRATの解答時間を30分に短縮して,RATの問題解説を30分行った.
3.チーム編成対象学生を4人あるいは5人を1チームとして編成した.チームは,学籍番号を基にした編成であるため,学力レベルや男女比は考慮していない.
4.事前学習資料事前学習資料は,課題論文,論文評価ポイント解説資料,RCTチェックシートを配布した.
5.課題論文課題論文は,2度のTBLで同種同効薬の論文を扱うようにした.2018年度はナトリウム・グルコース共役輸送体2(SGLT2)阻害薬の論文とした.3回目の授業では,「Empagliflozin, Cardiovascular Outcomes, and Mortality in Type 2 Diabetes. (N. Engl. J. Med. 2015, 373(22): 2117–28.)」,5回目の授業では,「Canagliflozin and Cardiovascular and Renal Events in Type 2 Diabetes. (N. Engl. J. Med. 2017; 377(2): 644–57.)」とした.
6.準備確認試験(RAT)の内容試験内容は,事前学習資料に即した内容で,論文の対象患者(Patient)(問1),介入(Intervention)および比較対象(Comparison)(問2),アウトカム(Outcome)(問3),グループ割付(問4),盲検化(問5),サンプルサイズの決定(問6),結果の解析方法(問7),結果の主要評価項目やサブグループ解析(問8~10)の10問を五者択一式で出題した(図1).個人準備確認試験(iRAT)は各問1点,計10点とし,チーム試験(tRAT)は,各問5点,計50点,ただし,正解に至るまで5回の解答が可能であり,誤った解答回数に応じて1点ずつ減点した.
RAT-2nd例
応用課題は,事前学習資料および準備確認試験の内容を踏まえて検討できるように糖尿病患者の仮想症例シナリオを準備した.授業内では,まず,受講生個人で仮想症例シナリオから患者の医学的問題点をPICO形式で抽出し,抽出した問題点についてチーム内で共有を行った.次に,論文データを参考にして.各チームでの治療方針策定の結果や経過等を発表させ,担当者からの肯定的な評価と改善点の提示によりフィードバックを行った.受講生のプロダクト例を図2に示す.
応用課題シートと受講生のプロダクト例
解析対象は,研究協力に承諾を得られた受講生のうち,3週目のRAT-1stと5週目のRAT-2nd両方を受験した受講生のデータについてEZRを用いて解析した11).この際,tRATの得点を50点満点から10点満点へと換算し,さらに,iRATと同じ採点基準でのtRATの得点を補正tRATの得点とした.平均点の前後変化は,平均値の差および効果量Cohen’s dを算出し,Cohenの著書記載の基準により評価した12).また,iRATの各設問の得点の前後変化は,フィッシャーの正確確率検定からp値を算出した.
9.受講後アンケートの単純集計授業コース終了後に自己理解度や授業への評価について図3に示す16項目のアンケート調査を実施した.評定尺度は,「とてもそう思う,そう思う,どちらとも言えない,そう思わない,全くそう思わない」の5段階とし,満足度や意欲が高い順番に5点から1点で点数化した.さらに,EBMの理解度(Q15)に対する各項目のスピアマンの相関係数を算出した(図3).
アンケートの単純集計
因子分析には統計解析ソフトJMP Pro® 13.1(SAS Institute)を用いた.質問項目は,Q1~15の15項目を分析対象とした.スクリープロットおよび因子の固有値が1以上であることを指標として,最尤法,Promax回転で探索的因子分析を行った後,いずれの因子にも負荷の低い項目を除外し,最終的な共通性が0.4以上の質問項目を採用した.得られた各因子の因子得点とiRAT-1stまたはiRAT-2nd得点とのピアソンの相関係数を算出した.
11.倫理的配慮本研究は,兵庫医療大学倫理審査委員会(承認番号:16045-3号)の承認を得て行っている.なお,アンケートは記名制であるが,公開する際に個人の特定はされないこと,記載内容による成績への影響はないことを説明し,アンケート記載の諾否欄により書面による同意を得た.
解析対象者は115名(解析率83.3%)であった.iRAT,tRAT,補正tRATの平均点は,1回目がそれぞれ4.60 ± 2.11,9.42 ± 0.43,7.99 ± 1.42となり,2回目がそれぞれ6.49 ± 2.11,9.88 ± 0.14,9.40 ± 0.73となった.iRAT,tRAT,補正tRATそれぞれの試験種別における平均点の差の効果量(Cohen’s d)は0.85以上であった(表2).
種別 | 1st | 2nd | 平均点の差(95%信頼区間) | 効果量(Cohen’s d) |
---|---|---|---|---|
iRAT(n = 115) | 4.60 ± 2.11 | 6.49 ± 2.11 | 1.88(1.45–2.31) | 0.863 |
tRATa(n =30) | 9.42 ± 0.43 | 9.88 ± 0.14 | 0.46(0.37–0.55) | 1.46 |
補正tRATb(n = 30) | 7.99 ± 1.42 | 9.40 ± 0.73 | 1.40(0.88–1.96) | 1.24 |
a:tRAT(50点満点)の得点を10点満点に換算
b:tRATをiRATと同じ基準で採点した得点
iRAT-1stおよび2ndの各設問の正答率を表3に示す.ポストテストで正答率が有意に上昇した問題数は6問であり,このうちの5問は,論文の患者情報を抽出する内容(問1,2)および結果の図表を解釈する内容(問8~10)が占めた.一方,ポストテストで正答率の上昇率が10%ポイント程度または低下した問題は論文の研究デザインを問う内容(問4~7)であった.
項目 | 1st | 2nd | p値a |
---|---|---|---|
問1. 論文の対象患者 | 47 (41%) | 68 (66%) | <0.001 |
問2. 介入および 比較対象 | 51 (44%) | 77 (67%) | <0.001 |
問3. アウトカム | 63 (55%) | 77 (67%) | 0.079 |
問4. グループ割付 | 86 (75%) | 70 (61%) | 0.034 |
問5. 盲検化 | 53 (46%) | 54 (47%) | 1.00 |
問6. サンプルサイズの決定 | 46 (40%) | 64 (56%) | 0.025 |
問7. 結果の解析方法 | 59 (51%) | 68 (59%) | 0.29 |
問8. 主要評価項目の結果 | 27 (24%) | 79 (69%) | <0.001 |
問9. 副次評価項目の結果 | 27 (24%) | 78 (68%) | <0.001 |
問10.サブグループ解析の結果 | 44 (38%) | 78 (68%) | <0.001 |
a:Fisher’s exact test
解析対象者は115名(解析率83.3%)であった.日本語の論文を用いた論文の読解ポイントの講義,1回目の事前学習とtRATにおいて理解度レベルが5および4と回答した受講生はそれぞれ60%前後であったが(図3,Q1~3),1回目の解説講義で80%に向上した(図3,Q4).さらに,2回目の事前学習とtRATで5または4と回答した受講生はそれぞれ76%,70%と1回目より向上傾向にあり(図3,Q5,6),解説講義で81%となった(図3,Q7).臨床疑問の定式化に関する質問(図3,Q8~10)に対して5および4と回答した受講生は,いずれの項目でも65%前後であった.適用に関する項目では,事前解説,事前学習,チームワークにおける5と4の回答した受講生の割合はいずれも60%前後であったが事後解説で76%となった(図3,Q11~14).本授業形式でEBMの考え方が理解できた点については,78%の受講生が5と4と回答し,次年度以降も続けた方がよいと回答した受講生は88%であった(図3,Q15,16).さらに,EBMの考え方が理解できた点(Q15)に対する相関係数の上位4項目は,適用の解説(Q14, ρ = 0.569),適用の議論(Q13, ρ = 0.531),2回目のTBLにおけるtRAT(Q6, ρ = 0.494),チームワークにおけるPICO立て(Q10, ρ = 0.474)であった(図3).
4.アンケートの因子分析探索的因子分析を行った結果,3因子が抽出され,その累積寄与率は55.61%となったことから3因子と推定された.さらに共通性0.4を下回ったQ13を除外し,最終的に累積寄与率79.59%の3因子構造として決定した.因子行列から,因子1(寄与率33.27%)は,iRATおよびtRATによる理解についての項目での負荷が高かったことから「論文評価の理解」と命名した.因子2(寄与率24.71%)は,臨床疑問の定式化(PICO)の理解に関する項目,因子3(寄与率21.61%)は適用に関する項目で負荷が高かったことから,それぞれ「PICOの理解」,「患者適用の理解」と命名した(表4).次に,これら3因子の因子得点と2回のiRATとの相関を検討したところ,いずれも因子1の間に弱い正の相関があった(iRAT-1st:r = 0.31,iRAT-2nd:r = 0.34).一方,因子2,3では相関は確認できなかった(表4).
項目 | 因子1 | 因子2 | 因子3 |
---|---|---|---|
(因子1:論文評価の理解) | |||
Q7 | 0.841 | –0.085 | –0.014 |
Q1 | 0.751 | –0.108 | 0.106 |
Q4 | 0.741 | –0.191 | 0.089 |
Q6 | 0.717 | 0.281 | –0.154 |
Q5 | 0.716 | 0.083 | –0.021 |
Q3 | 0.618 | 0.155 | 0.063 |
Q2 | 0.503 | 0.141 | –0.028 |
Q15 | 0.461 | 0.142 | 0.220 |
(因子2:PICOの理解) | |||
Q9 | –0.106 | 0.941 | 0.100 |
Q8 | –0.031 | 0.771 | 0.092 |
Q10 | 0.195 | 0.647 | –0.097 |
(因子3:患者適用の理解) | |||
Q11 | 0.008 | –0.086 | 0.812 |
Q12 | 0.005 | 0.150 | 0.782 |
Q14 | 0.124 | 0.194 | 0.433 |
寄与率(%) | 33.27 | 24.71 | 21.61 |
累積寄与率(%) | 33.27 | 57.98 | 79.59 |
因子スコアとiRAT-1st得点との相関係数 | 0.31 | 0.01 | 0.11 |
因子スコアとiRAT-2nd得点との相関係数 | 0.34 | –0.09 | 0.08 |
本研究は,医学論文の評価を初めて学習する受講生に対して,論文の評価ポイントの講義の後に,同種同効薬の医学論文を2回のTBLで学習させる授業コースを実施し,受講生の論文評価能力が向上するかiRATを比較することで検証した.授業の第1,2回目に論文の評価方法を解説した後に2回実施したiRAT(10点満点)の平均点は2回目の方が1回目に比べて1.88点上昇した(表2,iRAT).この平均点の差の効果量Cohen’s dの値は0.863と効果が大きいことが示唆された.1回目と2回目で対象論文が異なっているため,問題や論文の難易度に差があったことは否定できないが,試験問題は事前学習資料と論文内から出題しており,2回目の事前学習の段階で受講生の理解度が進んでいた,もしくは予習に積極的に取り組んだものと考えられる.この傾向は,臨床薬学教育のTBL適用事例で,異なる症例を扱った場合でも,iRATで得点が向上する報告と同様の傾向が示された13).
しかし,設問別の正答率では,2回目のiRATで有意に正答率が上昇している設問は,論文の患者情報を抽出する内容(表3,問1,2)と結果の図表を解釈する内容(表3,問8~10)に集中していた.論文の患者情報を抽出する内容の上昇率で有意な差が出たのは論文の対象患者,介入条件,アウトカムが同種同効薬のため1回目と類似していたためであると考えられる.また,結果の図表を解釈する内容は,講義内での演習と1回目のTBLにおいて図表の解釈を自身で考えた回数が10回以上行えたためであると推測される.一方,研究の質を評価する内容(問4~7)では正答率の上昇率は10%ポイント程度もしくは低下していた.この要因を明確に特定することはできないが,我々が他大学で実施した単回TBLにおいて同一の論文から作問したプレ/ポストテストの結果と同一の傾向が見られており,1~2回のTBL学習では受講生が理解して解答できていない内容であると考えられる.
アンケートの単純集計結果では,論文の評価ポイントの理解について5または4と回答した受講生は,1回目に比べて,2回目の事前学習とtRATで増加しており,iRATの結果を反映していると考えられた(図3,Q2,3,5,6).また,それぞれの回の事前学習とtRATに比べて解説講義の段階で5または4の回答率が上昇し,特に2回目のiRATの解説は総合評価に対して中程度の相関があった(図3,Q2~7).薬剤師に対するTBL教育の研究においてもtRAT後の解説講義の重要度が高いことが報告されており9),薬学生も薬剤師と同様に解説講義が論文評価およびEBMの理解において重要であると感じていることが示唆された.応用課題に関する質問では,臨床疑問の定式化や適用の宿題と演習における自己理解度を5または4と回答した受講生は60%程度であったが(図3,Q8~14),適用の解説に対しては受講生の76%が5または4と回答した(図3,Q14).また,EBMの考え方の理解に対して,適用のチーム内討論(図3,Q13)と適用の解説(図3,Q14)の相関が高かった.海外の研修医に対する論文評価学習の比較試験において,論文評価だけを学習するジャーナルクラブ形式よりも,患者への適用を念頭に置いたワークショップ形式の方が高い学習効果を示すことが報告されている14).薬学生に対しても,患者への適用を検討する演習を取り入れたことでEBMに対しての理解がより深まったものと考えられる.
アンケートの因子分析から,受講生の自己理解度の特徴を表す因子として,因子1(論文評価の理解,寄与率33.27%),因子2(PICOの理解,寄与率24.71%),因子3(患者適用の理解,寄与率21.61%)の3因子が抽出された(表4).これら3因子の因子得点と1回目,2回目のiRATの得点との相関係数から,iRATの得点と因子1との間に弱い正の相関が認められた(表4).本結果は,事前学習を行いiRATで得点が高い受講生には,TBL学習による論文評価ポイントの理解を促進する傾向があることを示唆しており,今後の授業においてもより積極的に事前学習を行わせる工夫が必要であると考えられる.また,本研究の授業ではTBLで必須とされるピア評価を取り入れておらず,今後の授業でピア評価を導入することで,チームメンバーに対する責任感などをもたせ,より積極的に事前学習やチームワークに取り組むかどうかを検討したい8).
以上,薬学部3年次生を対象に実施した論文評価教育において,TBLの手法が受講生の評価能力の向上に寄与することが明らかとなった.しかし,今回のデータは,1つの同種同効薬の論文での結果であり,各回を全く異なる論文で実施した場合に論文評価能力が向上するかどうかはわからない点が本研究結果の限界点である.また,論文評価を行った上でEBMを実践する能力の修得するためには,臨床現場で患者への実践を行うことが必要である.米国のPharm. Dコース15) のように,大学教育での授業を踏まえ,実務実習や卒後の業務において繰り返し実践することが必要であると考えられる.
本研究は,摂南大学・兵庫医療大学「薬学部演習科目におけるチーム基盤型学習プログラムの共同開発」に関する協定により,安原智久准教授(摂南大学薬学部)の支援を得て実施した.また,公益財団法人北野生涯教育振興財団研究助成金,兵庫医療大学研究助成金の支援を得て行った.本論文の作成段階において,有益な助言を頂いた大森志保先生(兵庫医療大学薬学部)に深く感謝いたします.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.