Japanese Journal of Pharmaceutical Education
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Practical Article
Adopting the psychology of learning approach to improve pharmacy student test scores
Toshihiko WatanabeKunio ItohMieko MoroneAtsuko SatoKoichi MachidaAkihiko Yonezawa
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2020 Volume 4 Article ID: 2020-016

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抄録

我々が2011年度~2013年度に行った調査により,東北医科薬科大学薬学部薬学科2年次に開講される免疫学の定期試験合格率が年々低下していることが明らかになった.我々は,この状況を改善するため学習心理学を取り入れた講義方法を考案し,実践した.学習心理学では,知識の修得には記銘・保存・再生の完遂が必要とされることから,免疫学の成績不振は,これら過程に不調が発生していると予想した.我々は,記銘の改善策として「プレ・ポストテストの実施」,保存の改善策として「問題を解く練習の重要性についての説明」,再生の改善策として「練習問題と解答・解説の配付」を行った.その結果,保存と再生の改善策を導入した2014年度は定期試験の平均点が前年度に比べ15点上昇し,定期試験の合格率は40.1%上昇した.また,2015年度からは保存と再生に加え記銘の改善策を導入したところ,2016年度以降の平均点は80点台にまで向上した.この教育効果は2019年度現在でも継続されており,この教育方法に高い有効性がある可能性が示唆された.

Abstract

A previous study examining student learning achievements revealed that the regular examination pass rate decreased annually in a second-year pharmaceutical immunology course from 2011 to 2013 at the Tohoku Medical and Pharmaceutical University. A lecture method based on the psychology of learning was designed and implemented to address this decline. The psychology of learning defines knowledge acquisition as completing memory processes, such as encoding, storing, and retrieving. Attributing the poor learning achievements to difficulty with these three processes, approaches to improve memory were adopted in 2014. They included “encoding” by conducting pre- and post-tests, “storing” by explaining the importance of solving practice problems for training, and “retrieving” by distributing sets of practice problems with the answers and explanations. The result was that the examination pass rate increased by 40.1% from the previous year with a mean score increase of 15. Encoding approaches were also used in 2015, resulting in an exam mean score increase to over 80 from 2016 onward. As of 2019, these approaches continue to maintain high educational effectiveness.

緒論

講義方法は双方向性講義と一方向性講義に大別することができる1)

双方向性講義には学習者の能動的思考力を活性化させる長所があるが,一定時間に教授できる情報量は一般的に少ない.

一方向性講義は一定時間に多くの情報を学習者に教授できることから,修得すべき内容が多い医療系大学における講義形態の主流となっている.

しかし,一方向性講義は,教員の発信する情報を学習者が受動的に受け取るため,学習者のモチベーション低下や教授錯覚(教員が教えたつもりでも,学習者に伝わっていない状態)の発生が教育効果の低下を引き起こすことが報告されている2)

我々は,東北医科薬科大学・薬学部・薬学科(以下,本学)における一方向性講義の教育効果を評価するため,本学で2011年度~2013年度に開講された免疫学の定期試験結果について調査を行った.

その結果,この調査期間中の定期試験合格率は年々低下を続けており,2013年度の合格率は56.5%にまで落ち込んでいることが判明した.

我々は,それまで行っていた免疫学の講義方法では十分な教育効果が得られないと判断し,講義方法の改善策を検討することにした.

講義方法の改善策を考えるにあたり,我々は教授した情報を学生がなぜ活用できないのか原因を想定する必要があった.

人間が情報を活用するためには,その情報について「記銘できる」・「保存できる」・「再生できる」ことが必要であると言われている3)

記銘とは「情報の内容を理解すること」,保存とは「理解した情報を記憶すること」,再生とは「記憶した情報を使用すること」を意味しており,記銘・保存・再生の完遂により情報を活用できるようになると考えられている.

この理論を基に,我々は「教授された情報を活用できない学生は,記憶の過程(記銘・保存・再生)のいずれかに不調が生じている.」と想定した.

また,情報を活用する能力は反復により向上することが報告されていることから4),教育効果の高い講義を行うためには,学生に記憶の過程を反復させること(記銘→保存→再生→記銘→保存→再生→記銘→‥‥)が重要と考えた.

そこで,我々は「記憶の過程」と「反復学習」を重視した教育方法を考案し,本学で開講される免疫学の講義において実践した.

このような記憶のメカニズムを基盤とした講義方法の有効性について論じた報告は未だないため,本稿ではこの方法による教育効果について解析を行った.

方法

1.調査対象者

2011年度から2019年度に,本学薬学科2年次に開講された免疫学(1単位,必修科目)の受講生(2,759名)を調査対象とした.

2.免疫学の講義方法

本稿で調査対象とした免疫学は,ヒトの主な生体防御反応,アレルギー反応,自己免疫疾患ならびに免疫反応を利用した検査方法に関する知識を修得することを一般目標とした講義である.

調査対象期間中は同一の教科書「薬系免疫学(植田正・前仲勝実編,南江堂)」を使用した.

免疫学の講義時間は1回70分,講義は各年度14回行った.

調査期間中は同じ教員が講義を担当し,講義ではパワーポイントで作成した図や解説文のスライドが表示され,学生は教員の解説を聴きながらスライドの内容をノートや配付されるプリントなどに書き写す形式で講義が行われた.

なお,2011年度から2013年度の講義では,2014年度以降に実施した記銘・保存・再生の過程を活性化させるための講義方法は導入されていない.

2014年度の講義では,学生の再生過程を活性化させる目的で,練習問題とその解答・解説を講義毎に学生に配付した.

配付した問題には,薬剤師国家試験問題と担当教員が作成した問題が含まれている.

また,学生の保存過程を活性化させる目的で,講義中に「練習問題を解くことで知識の理解と定着が進むこと」と「練習問題を解けるようになれば,定期試験の問題も解けるようになれること」を繰り返し説明した.

2015年度から2019年度の講義では,2014年度の講義内容に加え,記銘の過程を活性化させる目的で講義毎にプレ・ポストテストを行った.

プレ・ポストテストはマークシート方式で行い,その日の講義内容に関するものを2~4問出題した.

試験は講義開始前(プレテスト)と講義終了後(ポストテスト)に行い,どちらも同じ問題を出題した.

また,プレ・ポストテストは以下①~③の条件下で行うことを学生に指示した.

①解答時間はプレ・ポストテストともに7分間とする.

②教科書,ノート,携帯電話などを利用して解答しても良い.

③他者と相談して答えを出すことは禁止する.

ポストテストは講義終了後に回収し,出題された問題毎に誤答率(%)を算出した.

プレ・ポストテストを行う時間を確保するため,2015年度からは,スライドの内容が印刷されたプリントを講義開始時に学生に配付した.

配付したプリントにはスライドに表示される図や解説が記載されているが,重要な部分は空欄になっており,空欄は学生が聴講しながら埋めていく形式をとった.

この配付したプリントを使った筆写方法の導入により,学生のスライド内容を書き写す時間が短縮され,解説に費やす時間を減らすことなくプレ・ポストテストを実施することが可能になった.

3.免疫学の到達度

免疫学の一般目標に対する到達度は,学期末に行われる定期試験により評価した.

定期試験の問題は薬剤師国家試験問題を参考に作成した.

近年の薬剤師国家試験では,免疫学の範囲にも問題解決能力を必要とする高難度の問題が出題されるようになっている.

しかし,実際に出題される問題の大部分は想起・解釈レベルの内容であり,また要求される知識についても2011年度から2019年度で大きな変化がないことから,免疫学の定期試験問題の難易度は年度間で差がないと考えている.

定期試験はマークシート方式で行い,問題数は50問(4択または5択問題),各2点の配点とし(100点満点),合格基準は本学の学則に従い60点以上とした.

4.解析

統計解析は,IBM SPSS Statistics Ver. 17.0を使用して行った.

正規性の判定はKolmogorov-Smirnovの検定で行い,独立した2群の平均値の比較はMann-WhitneyのU検定で行った.

Mann-WhitneyのU検定では,P < 0.01を有意差ありとした.

5.倫理的配慮

2017年度以降の調査対象者には事前に研究目的について説明を行い,全員から調査協力への同意を文書で得ている.

また,調査対象者には,「研究対象者から撤回・拒否があった場合は,いつでも(研究の開始前あるいは研究開始後でも)研究対象者から除外すること」および「研究対象者等に経済的負担または経済的利益(謝礼)は発生しないこと」を文書で伝えている.

本研究では個人情報保護のため,プレ・ポストテストおよび定期試験で得られる情報は点数のみをデータ化し,それ以外の個人名や出席番号などの情報は記録として残さなかった.

本研究の実施については,東北医科薬科大学の倫理委員会の承認を得ている(受付番号2017-4,2017年7月31日承認).

結果

1.免疫学定期試験結果の推移

2011年度から2019年度に実施した免疫学定期試験の結果を表1および図1に示した.

表1 免疫学定期試験結果の推移
開講年度 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019
学生数 302 310 317 319 309 290 301 306 305
定期試験合格者数 229 223 179 308 279 288 290 292 289
定期試験不合格者数 73 87 138 11 30 2 11 14 16
定期試験平均点±SD 60.8 ± 14.8 68.1 ± 18.7 62.8 ± 16.9 77.6 ± 9.7 78.9 ± 14.0 88.6 ± 8.6 85.4 ± 12.4 82.0 ± 12.6 84.7 ± 13.2
合格者平均点±SD 67.6 ± 9.0 77.7 ± 10.9 75.0 ± 10.0 78.4 ± 8.8 81.9 ± 11.0 88.9 ± 8.0 86.9 ± 9.6 83.5 ± 10.8 86.6 ± 10.4
不合格者平均点±SD 39.4 ± 7.2 43.3 ± 9.6 47.0 ± 8.9 54.3 ± 3.4 51.0 ± 5.7 49.0 ± 1.0 45.8 ± 11.9 51.1 ± 8.5 49.4 ± 5.6
合格率(%) 75.8 71.9 56.5 96.6 90.3 99.3 96.3 95.4 94.8
図1

免疫学定期試験の平均点±SD

平均点は,2011年度が60.8 ± 14.8,2012年度が68.1 ± 18.7,2013年度が62.8 ± 16.9となっており,2013年度の定期試験合格率が調査対象期間中で最も低い56.5%であった.

2014年度の講義に保存過程と再生過程を活性化させる手法を取り入れたところ,定期試験の平均点は,77.6 ± 9.7に向上した.

統計学的解析を行うために定期試験の点数について正規性を検定したところ,2013年度と2014年度以外は正規分布していないことから,平均値の比較はノンパラメトリックな検定(本稿では,Mann-WhitneyのU検定)を行った.

2013年度(学生数317)と2014年度(学生数319)の平均点の差を比較したところ,P < 0.01(自由度634)となり,2013年度と2014年度の平均点には有意な差が認められた.

2015年度以降の講義では保存過程と再生過程に加え,記銘過程を活性化させる手法を取り入れた.

2013年度と2015年度以降の定期試験の平均点に統計学的な有意差があるか検討したところ,2015年度(学生数309)はP < 0.01(自由度624),2016年度(学生数290)はP < 0.01(自由度605),2017年度(学生数301)はP < 0.01(自由度616),2018年度(学生数306)はP < 0.01(自由度621),2019年度(学生数305),P < 0.01(自由度620)となり,いずれの年度でも2013年度との間に有意差が認められた.

保存・再生過程を活性化させる手法を講義に取り入れた2014年度と記銘・保存・再生過程を活性化させる手法を講義に取り入れた2015年度以降の定期試験の平均点との間に統計学的な有意差があるか確かめたところ,2014年度と2015年度の平均点の比較では,P = 0.014(自由度626)となり,有意差は認められなかった.

一方,2014年度に対して2016年度ではP < 0.01(自由度607),2017年度ではP < 0.01(自由度618),2018年度ではP < 0.01(自由度623),2019年度ではP < 0.01(自由度622)となり,いずれも有意差が認められた.

2.ポストテスト誤答率の推移

2015年度から2019年度に実施したポストテストの平均誤答率を表2に示した.

表2 免疫学ポストテスト誤答率の推移
開講年度 2015 2016 2017 2018 2019
ポストテストに出題した問題の総数 89 70 73 72 72
平均誤答率(MEAN ± SD) 20.4 ± 12.9 7.4 ± 6.3 5.7 ± 5.9 7.4 ± 5.0 8.6 ± 8.4

ポストテストの誤答率の正規性を検定したところ,2015年度と2018年度以外は正規分布していないことから,平均値の比較は,Mann-WhitneyのU検定で行った.

2015年度免疫学の講義で出題したポストテストの総問題数は89問,平均誤答率は20.4 ± 12.9であった.

2015年度と2016年度以降に行ったポストテストの誤答率との間に統計学的な有意差があるか検討したところ,2016年度(問題数70問)ではP < 0.01(自由度157),2017年度(問題数73問)ではP < 0.01(自由度160),2018年度(問題数72問)ではP < 0.01(自由度159),2019年度(問題数72問)ではP < 0.01(自由度159)となり,いずれの年度でも有意差が認められた.

考察

本学で開講されている免疫学の教育状況を把握するために,免疫学の定期試験結果について調査を行った.

2011から2013年度の免疫学定期試験の平均点は60点台に留まっており,2013年度の合格率はこの3年間で最も低い56.5%に落ち込んでいた(表1).

また,2013年度の期末試験の平均点が62.8 ± 16.9であったことから,統計学上この年度に免疫学を受講した学生の68%は,この講義で学ぶべき知識の6割程度しか修得できていないと推察された.

多くの学生が合格基準点(60点)付近の学力しかないことから,我々は講義方法の改善が必要と判断し,記憶のメカニズム(記銘・保存・再生)を考慮した改善策を立案した.

記銘過程を活性化させる改善策の準備は2014年度の講義開始時までに間に合わなかったため,2014年度の講義には保存と再生の過程を活性化させる改善策のみ導入した.

再生過程の活性化には,知識を活用し易い環境を提供することが有効と考え,薬剤師国家試験問題を中心とした練習問題と解答・解説を学生に配付した.

また,記憶や反復学習という能動的な行動には学生のモチベーション(動機づけ)が影響を与えると考え,講義中に「練習問題を解くことで知識の理解と定着が進むこと」と「練習問題を解けるようになれば定期試験の問題も解けるようになること」を繰り返し説明し,学生の学習への動機づけを行った.

その結果,2014年度の免疫学定期試験の平均点は,調査期間中で最も合格率が低かった2013年度に比べて有意に増加し,77.6 ± 9.7に達した.

この結果は2014年度の免疫学を受講した学生の68%が免疫学で学ぶべき知識の約8割を修得していると期待されるものである.

今回の調査では,平均点が上昇した学生の内面で生じた変化については明らかにできなかった.しかし,我々は定期試験の平均点上昇には,学生の学習に対するモチベーションの上昇が関与していると推察している.

モチベーションを高める因子には価値(課題の達成がどれくらい重要なのかという主観的判断)と期待(課題に対して,うまくできそうだという主観的確率)があり,モチベーションの高い人は低い人より長時間にわたって集中して作業が行えると言われている5)

我々が行った保存過程の活性化は,練習問題を解くことの重要性を解説したもので,学生の練習問題を解く価値観を高める内容となっている.

また,我々が行った再生過程の活性化は,練習問題と共に解答・解説を配付しており,課題を解くことができるという学生の期待を高める内容となっている.

こうした理由から,保存過程と再生過程の活性化が学生のモチベーションを高め,長時間の集中した作業(反復学習)を行える学生の割合が増加したのではないかと推察している.

2015年度以降は,2014年度の講義方法に加え,記銘過程を活性化させるための改善策としてプレ・ポストテストを導入した.

プレテストは,学生にその日の講義内容を認知させる目的で行い,ポストテストはその日行った講義内容が理解できているか学生自身に確認させる目的で行った.

問題に正しく解答するためには,関連する知識の理解と記憶が必要になるが,我々が行ったプレ・ポストテストでは学生が講義内容を記憶していなくても問題が解けるように解答時の携帯電話やノートなどの使用を認めた.

また,その一方で他者との相談を禁止し,学生の理解度に依存した解答が行えるように配慮した.

プレ・ポストテスト導入初年度の2015年度の平均点(78.9 ± 14.0)は2014年度と比べて有意な差は認められなかったが,2016年度以降の平均点は88.6 ± 8.6(2016年度),85.4 ± 12.4(2017年度),82.0 ± 12.6(2018年度),84.7 ± 13.2(2019年度)となり,2014年度に比べていずれも有意な上昇が認められた.

この結果から,2016年度以降の講義では,2014年度よりも高い教育効果が得られていると推察された.

プレ・ポストテスト導入初年度の2015年度に教育効果の向上が認められなかった理由を調査するため,学生の講義内容の理解度を反映しているポストテストの解析を行った(表2).

2015年度に行ったポストテストの平均誤答率は20.4 ± 12.9(%)であったことから,講義した内容の68%を約2割の学生が理解できていなかったと評価した.

この結果から我々は,2015年度の講義では学生に理解され難い説明が多数行われていたと判断し,ポストテストの正答率が低い項目については説明方法や解説図の内容を見直すなど講義方法の改善を行った.

その結果,2016年度以降のポストテストの誤答率は2015年度に比べて有意に減少した.

誤答率が減少した2016年度以降は定期試験の平均点も上昇しており,記銘も知識の修得に対し促進的に働いていることが示唆された.

しかし,今回の検討は,「学生の学力(免疫学受講時の薬学に関する知識,学習能力など)は年度間で差異がない」という前提で行われているため,本稿で示した結果だけでは我々が考案した教育方法が有効であることの証明には至らない.

教育方法の有効性を証明するためには,年度間の学力差を補正した上で教育効果の比較・検討を行う必要がある.

学力差を補正する基準値は,学生の学力を反映できるもので,かつ年度毎に起こる教育環境の変化(教員・講義内容・カリキュラムの変更等)に影響を受けないことが条件となるが,この条件を満たす適切な基準値は未だ定められていない.

学力差を補正する基準値は,教育内容の評価に必要・不可欠な値となるので,適切な評価基準を設定するための研究を今後進めていく予定である.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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