Japanese Journal of Pharmaceutical Education
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Practical Article
A trial of integrated pharmaceutical subject learning using gamification
Mai AoeSeiji EsakiHyun-Sun ParkIsamu WatanabeSeigo TanakaToru Nishinaka
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2020 Volume 4 Article ID: 2020-018

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抄録

薬学部4,5年生の希望者を対象に,医薬品の構造式を中心とし,その特徴や性質,薬理作用など分野横断的な学習の促進を目的に,ゲーミフィケーションを活用したツールとして構造式かるたを開発した.この「かるた」を用いた教育手法として,事前学習を含めた講座対抗かるた大会を企画・運営し,大会後,アンケートを実施した.その主成分分析の結果,第1主成分は「かるた」と大会への印象が,第2主成分は大会への参加動機と事前学習が対応すると考えられた.5年生は事前学習の有無に関わらず,「かるた」及び大会への印象が良好な一方,4年生では事前学習は行われたが,相対的に「かるた」への印象は不良な傾向にあった.その要因として,実務実習によって分野横断学習に対する関心が増加したことが考えられた.また,「かるた」等への印象が不良な群も確認され,その要因には競争心の低さとの関連が考えられた.

Abstract

Chemical-structure formula cards using gamification elements in the form of “Karuta” were used as an integrated learning tool for pharmaceutical students to learn the structural features, properties, and pharmacological effects of drugs. An inter-laboratory “Karuta” tournament for the 4th and 5th-year undergraduate students provided the opportunity to investigate the learning effects of this method. The competition was planned with pre-learning and followed by a questionnaire. The result of a principal component analysis of the questionnaire indicated that the first principal component corresponded to impressions of “Karuta” and the tournament. The second principal component corresponded to the students’ motivation to participate and prepare for the tournament. The 5th-year students received the tournament favorably, whereas the 4th-year students felt the preparation was carried out well, but were left with a poor impression of “Karuta”. The increased interest in the integrated learning for the 5th-year students might be due to the practical training for pharmacology. Moreover, the students with bad impression to “Karuta” had weak senses for competition.

緒言

近年,薬剤師には,有機化学や物理化学などの基礎薬学と,医療系薬学の分野横断的な理解が求められており,その知識を生かした臨床現場での問題解決力が期待されている.薬剤師は,大学で専門科目として有機化学を学んでいるが,化学構造式から医薬品の特徴や性質を理解し,医療現場で解決可能な問題もあることから1),化学から医療へのアプローチは有用であり,薬剤師の強みであるともいえる.各薬科系大学でも,低学年次や実務実習前教育において有機化学のような基礎系薬学科目と医療系薬学科目のつながりを教育するための様々な取り組みが行われているが2,3),その一方で,添付文書に示されている医薬品の化学構造式を,実務実習中に目にはしたものの,実務に活用できなかった事例など,大半の学生が有機化学の知識を実務実習に活用する機会が得られなかったと感じたことも報告されている4).その要因の一つには,化学は学力差がつきやすい科目でもあり5),化学に対して苦手意識をもつ学生がいることが考えられる.そこで,化学構造式を中心に,楽しみながら学生間での共同学習が促され,分野横断的な学習機会が増えることを期待して,医薬品の化学構造式を中心とした科目分野横断的な学習を動機付けるための教育手法を開発することとした.

動機付けの手法として,近年,ゲーミフィケーションが注目されている.ゲーミフィケーションとは,一般に「ゲームの考え方やデザイン・メカニクスなどの要素をゲーム以外の社会的な活動やサービスに利用すること」と定義されており,人の行動に対するモチベーションを向上させる方法に利用されている6).大学教育では,岸本らがゲーミフィケーションを活用した授業デザインを考案,実践し,大学生の学習意欲の向上に効果があった事例や海外の有機化学教育における事例も報告されている7,8).しかし,薬学教育における科目分野横断教育にゲーミフィケーションを活用した事例については十分に研究されていない.そこで我々は,医薬品の化学構造式を中心に,その構造上の特徴や性質,薬理作用,薬物動態などをつなげる科目分野横断的な学習促進を目的に,ゲーミフィケーションを活用したツールとして,構造式かるた(以下,「かるた」)を開発した.その「かるた」を用いた効果的な教育手法として,事前学習を含めた,講座対抗のかるた大会を企画・運営した.本教育手法は,神馬らが示したゲーミフィケーションにおける17の要素9) のうち,「競争:身近な人の動きを知ってやる気を上げる」「協力:仲間と居たいという気持ちで継続させる」「イベント:特別な催し物でわくわく感を高める」を用いている.本研究では,ゲーミフィケーションを用いた薬学の分野横断的な教育手法の試みについて,アンケートによって評価し,より効果的な化学構造式を中心とした科目分野横断的な学習を促進するための教育手法の開発を目的とする.

方法

1.「かるた」及びかるた大会

「かるた」は50個の医薬品を題材とした.取り札には医薬品の化学構造式を,読み札には医薬品の化学構造が有する官能基や複素環名などの特徴や性質,薬理作用,薬物動態などを記している.例えば,読み札に記されている「抗菌剤」,「マクロライド系」,「ヘリコバクター・ピロリ感染に有効」のような複数の情報から,取り札に化学構造式で示されている1つの医薬品が特定され,様々な分野の情報から医薬品を理解できるよう工夫した.この「かるた」を活用した教育手法の概要を図1に示す.対象者は,本学薬学部4,5年生とし,大会には,各講座1名以上の競技者の参加を促し,応援のみの参加も可能とした.かるた大会(2019年1月に実施)は2回戦から構成され,第1回戦は8テーブルに分かれて対戦し,1位は1位同士,2位は2位同士…とテーブルを移動し,第2回戦を実施した.この第2回戦の結果を基に各講座中,最上位であった競技者の順位を講座の順位とした.大会終了後には競技者に向けてアンケートを行った.

図1

本教育手法の概要

2.事前学習

本教育手法では,大会そのものよりも事前学習が鍵となると考え,ツール面と環境面より動機付けを行った.ツール面では「かるた」を契機として学習が促されるよう,大会で用いる「かるた」の実物とその取り札・読み札リストを各講座に配布し,実物を使った練習ができるようにした.また,「かるた」で取り上げた50個の医薬品について,構造上の特徴や,つながりなどを解説した動画(約10分×9本)を作成し,学内のLearning Management System(LMS)のMoodle(ver.3.5.5)上で閲覧できるようにした.また,環境面として,かるた大会を講座対抗とすることで,講座内の教員からの声掛けや学生間の共同学習を期待した.

3.アンケート調査

本教育手法における教育効果は,かるた大会後に実施した競技者に対するアンケート調査により評価した(図2).そのうち,ツール面に関する項目はQ1,5,環境面に関してはQ2,4がそれぞれ該当する.また,Q3により事前学習時間を,Q6-①~④により大会への印象を評価することとした.また,Q1,2,3,5及びQ6-①~④の結果より主成分分析を行った.統計解析にはJMP®14.2を用いた.

図2

かるた大会後に実施したアンケ-ト項目と内容

4.倫理的配慮

本研究は,大阪大谷大学薬学部生命倫理審査委員会の承認(BE-0048-19)を得ている.なお,競技者には,アンケート結果を研究に使用する旨,アンケートに回答しない場合も不利益は生じない旨の説明を行い,拒否の機会を担保した.

結果

1.アンケート結果

競技者は54名[4年生19名(在籍する4年生の約13%),5年生34名(在籍する5年生の約23%),研究員1名],応援は33名(教職員込み),参加講座数は13講座(全18講座)であった.また,競技者のうち,53名(4年生18名,5年生34名,無記入1名)からアンケートの回答が得られた(回収率は98.1%).表1に全体及び学年別アンケート結果(単純集計)を示す.「かるた」への印象(Q1)に対し,約80%の学生が“興味がもてる”“少しは興味がもてる”と答えた.大会への参加動機(Q2)に対し“講座の先生に勧められた”が約64%,“友達に誘われた”が約34%を占めた.事前学習時間(Q3)に対し,“1~3時間程度”が最も多く約36%であった.また“3時間以上”と答えた学生は4,5年生が各7人の計14人(約26%)であり,“30分未満”と答えた学生は5年生4名(約7%)であった.競技不参加の共同学習者の有無(Q4)に対し“いた”が58%であり,共同学習者の平均人数は約4.9人であった.4,5年生全員が競技者として参加する講座や,1名のみが競技者と参加し,それ以外は応援する講座など,共同学習者の大会への関わり方は講座により様々であったが,競技者以外にも共同学習者が複数いたことが確認された.事前学習の方法(Q5)は“複数の学生同士ゲーム形式で練習した”が約67%と最も多く,共同学習が行われていたことが示された.また,“説明動画を利用した”が約30%,その約88%が“役立った”と回答した(data not shown).大会の感想(Q6-①~④)に対し,約75%の学生がいずれも“そう思う”“まあまあそう思う”と答えた.図3に「かるた」及び大会の利点と改善点(Q7)に対する全コメント(9件)を示す.

表1 全体及び学年別アンケート結果(単純集計)
図3

「かるた」及びかるた大会に対するコメント(自由記述)

2.主成分分析結果

主成分分析の結果から,主成分1と2について主成分負荷量の散布図を作成したところ,第1主成分の寄与率は41.6%であった(図4b).第1主成分にはQ1及びQ6-①~④の寄与が大きいことから「かるた」とかるた大会への印象と考えることができ,「かるた」への興味と大会への印象には関連があることが示された(表2).第2主成分はQ2,Q3,Q5-2の寄与が大きいことから,大会への参加動機と事前学習時間と考えることができ,大会への参加動機と事前学習時間には関連があることが示された.図4aより,直交する第1主成分と第2主成分に配置されたため,そこに主として属する内容である“「かるた」とかるた大会への印象”と“大会への参加動機と事前学習時間”の間には相関がほとんどないことが示唆された.

図4

アンケートの主成分分析(n = 53).a:矢印は因子負荷量を示す.

b:主成分1と主成分2の学年別分散図(●:5年,+:4年,△:学年不明)を示す.

表2 アンケートの主成分負荷量(n = 53)
第1主成分 第2主成分
Q1 –0.793 0.302
Q2 0.016 0.366
Q3 0.044 0.908
Q5-1 –0.067 0.045
Q5-2 –0.109 0.517
Q5-3 0.015 0.301
Q5-4 0.213 –0.052
Q6-① 0.775 –0.156
Q6-② 0.704 0.036
Q6-③ 0.786 –0.164
Q6-④ 0.813 0.354
固有値 2.485 1.091
寄与率 41.61% 18.27%
累積寄与率 41.61% 59.89%

第1及び第2主成分について,主成分得点をプロットし,学年別で比較したところ,第1主成分の軸の付近に5年生,第2主成分の正の領域に4年生が配置された(図4b).5年生は事前学習時間の長短に関わらず「かるた」に興味があり,かるた大会満足度が高い群,4年生は事前学習時間が長い傾向にあるにも関わらず,相対的に「かるた」に興味が薄く,大会満足度が低い群と考えられた.Fisherの正確確率検定より,大会への参加動機のうち,講座の先生に勧められた(Q2-1),友達に誘われた(Q2-2),事前学習時間(Q3),大会不参加の共同学習者の有無(Q4),事前学習方法のうちMoodle上の説明動画を利用して勉強した(Q5-2),「かるた」で複数科目のつながりがみえた(Q6-③)の各項目において,4年生と5年生で有意な差が確認された(表1).

考察

主成分分析より,本教育手法の鍵となると考えた事前学習時間について,大会への参加動機との関連が確認されたが,“「かるた」とかるた大会への印象”との間には相関がほとんどないことが示された(図4a).また,図4bより,5年生は4年生と比較し,事前学習の長短に関わらず,「かるた」やかるた大会に対して好印象の傾向にあり,学年によって傾向の違いが確認された.その要因として,5年生は実務実習の体験により,科目分野横断的な学習の興味につながり,「かるた」やかるた大会への好印象につながったことが考えられる.

図4b及び表1のQ3より,4年生は5年生と比較し,事前学習時間が長い傾向が確認された(p < 0.01).その要因として,大会の実施時期(1月)がCBTやOSCEが終わった直後であり時間的なゆとりがあったことが考えられる.また,Q2より,友達に誘われたことが,かるた大会に参加する動機となっている点で5年生と有意な差があり(p < 0.01),友達との事前学習につながったことが推察された.事前学習にはつながったものの,5年生に比較すると,「かるた」への印象や大会への印象が不良傾向にあった原因として,化学構造を中心とした分野横断学習への必要性を感じにくかったことが考えられる.実務実習で得られるような分野横断学習への興味と共に,化学が実臨床に役立つという視点を低学年よりもたせる必要性がある.また,事前学習時間が長い傾向を活かせるよう,本教育の中でも改めて分野横断学習の必要性と共に本教育手法の主旨や意義を学生に伝える機会を作る.さらに,事前学習がより学習成果につながるよう,今後は「かるた」に関する自習課題を用意するなど,事前学習の充実を図る.

また,図4bより,5年生では「かるた」やかるた大会に好印象を抱く群がみられるが,「かるた」やかるた大会への印象が悪く,事前学習にもつながらなかった群も確認された.「順位がつくことで,やる気が出たか」の質問(Q6-①)に対する結果のうち,“どちらでもない”“あまり思わない”と答えている群では,競争心の低さとの関連が考えられる.田中らは,ランキングを用いた小テストに対して,競争心が低い学生はモチベーションが低く,小テストの点数も有意に低かったと報告しており10),競争心の低い学生には,かるた大会で順位付けするような本教育手法が効果的でない可能性が示唆された.自由記述(図3)より,“1回参加してもう満足しました”との記述も確認され,「かるた」を通じた教育を楽しめていない可能性もある.今回のゲーミフィケーションを活用した教育手法に親和性の低い学生には,競争要素の低い別の教育法が必要だと考えられ,従来の講義形式も含め様々な教育のアプローチが重要であることが示唆された.

医薬品の化学構造式を中心とした科目分野横断的な学習促進をめざして,今後も事前学習を含めた講座対抗かるた大会を継続的に開催し,今回得られた知見を基に,より学習効果の高い分野横断教育手法を検討する.第一に,競技者のみに限定していたアンケートの対象を,応援者や大会不参加者にも拡大する.応援者の教育効果を評価すると共に,不参加者が大会に参加しない理由等も検討することで,より多くの学生にとって本教育手法が効果的な学習機会となることを目指す.第二に,学習効果の検証法として,学内に在籍する全4,5年生を対象にプレとポストの客観評価を導入し,アンケートと併せて教育効果を評価する.本教育手法と成績との関連を確認して,効果的な分野横断的な学習の促進を目指し,各学生群に応じた教育方策を検討する.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

謝辞

本研究の統計解析手法に関して貴重なご助言を賜りました摂南大学薬学教育研究室の皆様に深くお礼申し上げます.

文献
 
© 2020 Japan Society for Pharmaceutical Education
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