Japanese Journal of Pharmaceutical Education
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Special Feature | Pharmacy education through the COVID-19 pandemic: Towards resilient educational systems
The establishment of an online lecture system during the pandemic at the Hiroshima University School of Medicine
Naoko HasunumaMinoru Hattori
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2021 Volume 5 Article ID: 2020-055

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抄録

新型コロナウイルス感染症の流行に伴い,広島大学医学部医学科ではMicrosoft Teamsをプラットフォームとした,オンライン講義システムを構築し,4月6日からの新学期(医学科の授業開始日)より運用することができた.ライブ講義およびオンデマンド講義を併用し,グループワークもその中で行っている.実習として解剖学実習はオンラインバーチャル実習として,臨床実習も一時期にはオンラインで行った.オンライン試験も行ったが,今後は評価に関しては講義デザインにも工夫が必要である.withコロナ時代の医学教育では従来の対面型の講義だけではなく,オンライン講義とのハイブリッドとして新たな教育システムを構築する必要がある.ハイブリッド教育における対面講義の意義など大学での教育の在り方を考え直す機会にもなった.

Abstract

In response to the novel coronavirus infection outbreak, Hiroshima University’s School of Medicine established an online lecture system using the Microsoft Teams platform from the beginning of the new semester in April. The online platform allowed a combination of live and on-demand lectures, group work, and virtual anatomy and clinical practice training. Exams were also conducted online, but they identified a need for better lecture design and assessment methods. A hybrid approach to medical education, combining traditional face-to-face with online lectures, was necessary during this pandemic era. It opened the opportunity to reconsider the significance of face-to-face lectures and other aspects of university education.

はじめに

2020年度の医学教育は初めて尽くしであった.新型コロナ感染症の拡大の影響を受け,入学式は中止となり,1年生は大学に講義を受けに来ることなく夏休みが終わろうとしている.4月からの遠隔授業,バーチャル解剖学実習,オンライン臨床実習などICTを活用した授業の導入,運用を余儀なくされたが,裏を返せば医学教育へのICT活用が一気に進んだともいえる.

この機会に半年余りの広島大学医学部医学科での動きや対応について振り返りたい.

Microsoft Teamsを用いたライブ講義とオンデマンド講義

1月の日本は中国武漢での新たな感染症発生のニュースは聞いていたものの,まだ日本は対岸の火事といった認識で,海外出張も中国経由は避けるといった程度であった.その後,日本でも患者が発生し,2月下旬には医学部の医学教育担当部門が参加するメーリングリストでも医学生の海外実習などに関する投稿があった.

広島大学では3月12日からの臨床実習の中止が決定され,遠隔講義についての検討が始まった.

まず行ったのは学生のインターネット環境調査である.短期間での調査であったが,回収率は80%と高く,また97%の学生が自宅に何らかのインターネット回線を整備していると回答した.そこで,自宅で受講するオンラインでの講義を主体として,自宅で視聴できない学生は登録制として十分な感染対策のもと講義室の利用を許可することとした.当初は講義の代わりであるから,ライブ講義のみを配信する計画があった.ライブ講義はこれまでの講義と同じパワーポイント(PPT)で作成した講義スライドを用いて双方向性で行うことができ,教員,学生とも負担が少ないと考えた.しかし,インターネット環境やパソコン(PC)の性能による不具合も想定されることから,ライブ配信を録画し,オンデマンドでも授業が視聴できることとした.

講義のプラットフォームは広島大学が契約しているMicrosoftのコミュニケーションツールであるMicrosoft Teamsを用いることとした.大学のIDと紐づけられており,安全性も高いと考えた.また広島大学にはBb9というLearning Management System(LMS)があり,教材の提示やレポートの提出先などに活用した1)

遠隔授業についてはメディア授業告知にその詳細が説明されているが,①同時かつ双方向に行われるものであって,かつ教室以外の場所において履修させるもの,②授業の後にすみやかにインターネットその他の適切な方法を利用することにより添削指導,質疑応答などによる十分な指導を行うことができるものとされている2).これに沿いライブ配信ではその時間内などに演習や質疑の時間を取ること,オンデマンド講義ではBb9の掲示板に講義終了後1週間後まで学生は質問を投稿でき,担当教員が対応することとした.

これらの準備が整ったため,学生向けに3月下旬から配信テストを行い,その後Teamsの使用法講習会を1回,授業説明会を各学年に対して2回ずつ行った.また学内教員向け,事務職員向けの説明会をそれぞれ3回実施した1).これらを4月3日までに行い,医学科の新学期である4月6日からオンライン講義をスタートさせることができた.なお広島大学の新学期は4月8日からだが,医学科の専門教育は例年月曜日から始まるため,全学に先行してオンライン講義が開始された.

ライブ講義内の質疑はチャットやマイクをオンにして行うが,チャットでの質問はこれまでの対面講義より多く出る印象である1).講義最初に音声や映像についてチャットで返事してもらうと,「大丈夫です!」といった返事が全員からくる.チャットにこちらから質問を投げかけ,「はい」の場合は「いいね」マークを押してもらうなどすると,簡単なアンケートもとれる.講義最初に前述のようなチャット利用のウォーミングアップをしているせいか,講義途中での投げかけにもチャットで答える学生が何人もおり,講義終了時の質問もでるようだ.

なお,講義の視聴は自宅または講義室のみとし,講義の撮影,講義や資料の学外へのSNSによる発信などは禁止としている.

アクティブラーニング

例年1年生において入学式翌週から最初の専門科目である医療者プロフェッショナリズムが開講される.この講義は毎回すべてスモールグループディスカッションの時間があり,学生が主体的に取り組み,議論し発表を行い,その前後にエッセンスを講義する形式である.

当初,1年生はPC能力に差があると考えられグループワークができるか心配したが,さすがにdigital native世代で4月15日にはMicrosoft Teamsの接続テスト,Microsoft Teamsの使い方の説明を行った後Microsoft Teams内の小グループで自己紹介を行うことができた.本格的なグループワークは連休明けから行った.その際のグループ発表は口頭発表としたが,中には資料をクラスに共有しながら発表するグループもあった.

筆者はZoomでのワークショップにも今年に入り何度か参加したが,ブレイクアウトセッションでグループに自動的に振り分けられ,また事前に決められた時間で全体講義に自動的に戻ってくるシステムは便利だと感じた.Microsoft Teamsではそのようなシステムはなく 注1),各グループへの全体的なアナウンス(例:「あと5分です.」)もできないので,全体講義に戻る時間になってもディスカッションに夢中になっているグループへはそれぞれ教員がグループに入り,「そろそろ時間だからまとめて,全体講義に戻ってきてください.」と伝える必要があった.

グループワークでは原則カメラをオンにしてもらうこととしたが,実家におり居間からの参加のため家族などが映りこんでしまう,オンライン講義に参加する場所が実家になく自動車内からの参加であったなどカメラをオンにしづらい状況もあることが分かった.バーチャル背景の設定方法の指導など配慮が必要であった.

出席の取り扱いについて

出席についてはライブ配信に出席した場合は講義終了後Microsoft Formsを送信することとした.オンデマンド講義を聞いた場合も同様だが,オンデマンド講義はライブ講義終了後すぐに視聴できないことを考慮し,1週間以内に視聴の上Formsを提出するルールとしている.

Microsoft Formsには学籍番号と氏名のほか,音声,画像の質について(5段階),講義について(7段階),講義の感想などを記載する.出席の証明として毎回記載する必要があることからできるだけ項目を少なくするよう工夫した.

試験・評価

試験についてはその時期の大学の行動指針に従うかたちで,対面またはオンラインとした.夏休み前の講義は原則オンラインとなっており,可能な限りオンラインでの試験とすることとした.具体的にはMicrosoft Teamsの中に小グループを作り,学生は振り分けられたグループに入り,カメラをオンにして受験する.時間になると開始できる設定にして,Microsoft Formsを用いた試験とした.Microsoft Formsでは写真や図も使え,多肢選択形式テスト(multiple choice question: MCQ)のみならず,記述式も混在した試験の作成ができる.これまでと同じ試験問題作成をし,医学教育センターでMicrosoft Formsの問題作成を行った.オンライン試験は一部の科目でトラブルがあったものの,多くは問題なく運用できた.

しかし韓国の医学部でのカンニングがニュースをにぎわしたこともあり3),不正防止に限度があるのではという声も大きくなってきている.オンライン試験ではカメラをオンにしても完全に不正を防ぐことはできないが,抑止力にはなっていると考えている.

またMCQで評価できる能力は限られており,この評価方法が完璧なわけではない.例えば講義のたびに形成評価的な小テストを行う,講義時間内にその日の学びをまとめ提出する,学生自身が問題を作成する,オープンブックと言われる教科書持ちこみの試験で思考力を評価するなど,多様な評価方法を併用し,総合的に学生の学力がアウトカムの基準に達しているかを評価する必要がある.

また,Microsoft Formsでは試験途中のPCトラブルによりそれまで回答したものが消えてしまうことがあるようである.LMSを用いた試験ではそういった際に途中から再開できるようだ.

MoodleなどのLMSを用いたオンライン試験を定期試験として施行している大学もある4)

現在大学の行動方針はレベルダウンしつつあり,制限が解除されていくことが考えられるが,第3波が来た時のために講義デザイン,評価方法について再考しておくことが必要だと感じている.

配信室

これまで講義室で行っていたものが遠隔授業となった際にどのように学生に配信するかということは大きな問題だった.教員には遠隔講義の経験者はなく,当初は講義室から配信することが検討された.各学年の講義が始まった際に講義室に分散することでサポートがしづらくなることが懸念され,チュートリアル室を使い配信室を作ることとなった(図1).

図1

広島大学医学部医学科のオンライン講義配信室.PCが2台設置してあり,1台は配信用,もう一台は別IDでログインしており,学生が見ている画面と同じである.このPCでチャットなどの確認を行う.教員はUSBに講義スライド(PowerPoint)を持参すれば,これまでと同じように講義することができる.

1台目のPCは教員がスライド教材を共有し,講義するためのPCである.2台目のPCは学生にどのように見えるかを示すため,別IDでログインしているPCである.チャットなどを使う際もこちらのPCで確認する.

配信室を使うことで,教員は講義スライドをUSBメモリに入れて持ってくれば,すぐに講義が始められるようになった.

また医学教育センター教員と事務職員,学生支援室の職員がMicrosoft Teamsにログインしており,トラブル等に対応できるようにしている.

基礎系実習

解剖学実習は人体の構造を学ぶという最初の基礎医学としての位置づけのみならず,献体された御遺体は医学生にとっての最初の患者として医師になるという責任と向き合う機会となる重要な科目である.解剖学実習室は他の実習室や教室とは異なり,高機能の換気装置があるものの全員が一斉に解剖実習に参加するとなると密が避けられないと考えた.また,医学部では2年生以降の平日は専門科目がぎっしり詰まっており日程の変更(延期)は多大な影響を与えることが考えられた.また,世界的な感染状況をみても先が見えないことから実習の繰り下げは行わず,まずはオンラインバーチャル実習をスタートさせた5)

その後,大学の行動指針のレベルダウンに伴い申請の上で,学年をグループに分け,感染対策を行ったうえで一度に実習を行う人数を減らして行った.

そのほかの基礎系実習もバーチャルスライドなど利用できるものはオンラインで行われ,大学の行動指針がレベルダウンしてからも登校する人数を制限しながらオンラインを併用して行う予定である.

臨床実習

オンライン臨床実習は新型コロナウイルス感染拡大にともない,学年により既に春休みであったが3月13日から臨床実習が中止となった.その後の全国的な感染拡大および広島県内の新型コロナ感染者増加に伴う,学内行動指針のレベルが上がったことにより,新学期からの対面講義は中止となり,臨床実習再開が不透明な状況が続いた.

臨床実習は4年生学年末から5年生で全診療科をまわる臨床実習Iと5年生学年末から6年生夏休み明けまで希望する学内外の診療科を2–4週間まわる臨床実習IIに分けられる.6年生の臨床実習終了後にはすぐに診療参加型実習終了後OSCE(PostCC-OSCE)があるため時期を後ろにずらすことはカリキュラム上難しい.

5年生の臨床実習Iは病院での臨床実習の再開のめどが立たないことから,新学期になってから準備を開始し,5月25日より従来の実習スケジュールに沿って,診療科ごとにオンラインでの臨床実習として再開した.その後夏休みを挟んで,9月末より病院での実習を再開したところである.

6年生については特に学外実習先の医学生受け入れ再開ができておらず,また学外実習先でのオンライン実習は難しいと考えられたことから学年全体でのオンライン臨床実習を再開する方針となった.

最初の2週間はMicrosoft TeamsをプラットフォームとしてPDF(患者情報),YouTube(スライド動画の講義),Microsoft Forms(カルテ記載,Daily Review),Microsoft Teamsのチャットでのディスカッションを用いたオンライン臨床実習を行った.この実習は一人の患者の入院から退院までを学生がstudent doctorとして回診してカルテ記載,問題について考察ディスカッションするものであった6).週1回はこのオンライン実習の考案者である外部講師をMicrosoft Teamsに迎えQ&Aの時間を設けた.

その後,厚生労働科学研究「ICTを活用した卒前.卒後のシームレスな医学教育の支援方策の策定のための研究」(代表研究者:門田守人)の分担研究班「ICTを活用した医学教育コンテンツ等の開発」(研究分担者:河北博文)で開発されたコンテンツが全国病院長医学部長会議を通して無償配布された.この教材は患者の医療面接および身体診察の動画や患者情報や検査データなどの資料が示され,学生は担当医として診療をすすめる.その間にMCQや診療録記載などの課題をこなし,解説資料を参照しながら学習を進めていく7)

6課題の提供があったが,広島大学教員が作成した教材も活用し,4週間で8課題を学習した.また,その症例に関するレポート作成を課題とし,また各症例の疾患担当診療科からQ&Aの時間を取ってもらった.プラットフォームとしているMicrosoft Teamsのチャットを活用してグループごとに症例についてのディスカッションを行っていたが,質問も挙がることがある.学生同士でのやり取りで解決している部分もあったが,その中から項目を取り上げQ&Aの時間に解説していただくこともあった.

夏休み明けの4週間は医療面接実習として,最初の2週間で学生ひとりひとりが1人の患者(疾患)についてのシナリオを作成した.症候別に16の診療科がシナリオ作成指導を行った.3週目には学生は指導診療科の異なる組み合わせでグループを作成し,それぞれ1人の指導医が付き,医療面接の指導と評価を行った.4週目はグループ編成を変えピア評価を行いながら実習を継続した.学生の希望もあり,全員のシナリオを匿名で公開し,自習ができるようにした.

健康チェック

学生の健康チェックは必須としている.当初はBb9で途中からはMicrosoft Formsで検温と自覚症状の有無,同居の家族の症状の有無をチェックし,一つでも当てはまるものがあれば自宅待機とした.この健康チェックは登校時のみならず,学生全員が毎朝行うこととなっている.

なお,臨床実習に関連する学生の健康チェックは実習先の病院の基準に従うこととしている.

新入生のケア

冒頭で述べたように広島大学では入学式が中止となり,30分程度の学生証の配布のための登校が許されたのみであった.ガイダンスや必携パソコンの講習会もオンラインで行うことがきまったが,例年の新入生での経験からは入学時のパソコンの使用の習熟度が低い学生も多く,いきなりのオンラインでのガイダンスでは置いてきぼりになる学生が出ることが懸念された.また,医学科は全国的な傾向として,県外出身者で初めての一人暮らしを始めた学生も多く,孤立感やメンタルヘルスの不調の心配もあった8)

実際に,学生は未知のコロナウイルスの世界的な感染爆発に関する恐れや外出の制限,お互い直接会うことを禁じられている状態などにより,喪失感や不安や焦り,経済的な不安を抱えており,特に組織に帰属意識をまだ持たない新入生のケアが特に重要だと指摘されている9)

そこで,新入生にとってはなじみのあるSocial Networking ServiceであるLINEを用いて,学生と繋がりサポートをすることを考えた.

LINEは一斉に連絡事項を通知することができ,既読の人数がわかるため,全員の確認を把握できると考えていた.また質疑も自動的に共有できるシステムが構築できた.大学メールの受信状況や履修登録の状況など大学生活の最初に必要な情報確認ができたことは大きい8)

おわりに

この半年間,全国の大学がそうであったように,広島大学でも学生,教員が一致団結してこの状況を乗りこえる必要があった.対応が難しかったのは日々変化する状況のなか,次々に対応すべき課題が生じたことであった.対応を決定して,通知した直後に状況が変わるといったこともあった.教員,学生に時差なく情報共有する必要があり苦慮したところである.

特に学生はインターネット環境やPCの習熟度が異なるため,オンライン学修弱者が置き去りになることのないように配慮する必要があった.

広島大学で比較的スムースにオンライン講義へ移行できたのは,2015年から全学的にPC必携化を進めたことが大きい.すなわち医学科では講義資料も大学生協のDECSシステムを導入しペーパーレス化を進めており,教員が講義をパワーポイントで作成していた.これによりオンライン講義に移行する際にも教員の負担が少なく済んだと考える.

ここではデータを示さなかったが,オンライン講義のアンケートではライブ講義,オンデマンド講義がこれまでの対面講義より良いとする回答が予想以上に多かった.特にオンデマンドはライブ講義を受けた後に復習として視聴するなど,有効に利用している学生もいたようだ.その一方で成績の格差が広がっているのではという懸念もあり,今後の成績の分析が必須である.その上でサポートが必要な学生を拾い上げる仕組みが必要である.

今後,広島大学でも対面講義が一部再開される予定だが,先のアンケート結果を踏まえて対面講義の意義や在り方について,対面で何か得られるのか,何をする場となるのかといった視点からの見直しが必要だと考える.

withコロナ時代の医学教育は対面とオンラインのハイブリッド教育も念頭に,新しい教育様式を確立,整備していくことが求められている.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

注1)  2021.1.25現在Microsoft Teamsでもブレイクアウトセッションができるようになった.ホスト権限の関係で一緒に講義をしている教員も一緒に飛んでしまうなど,まだ改良の余地がある.

文献
 
© 2021 Japan Society for Pharmaceutical Education
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