2021 Volume 5 Article ID: 2020-078
本稿では第4回日本薬学教育学会大会におけるシンポジウム13の概要をご紹介する.第4回大会は近畿地区の教育に対する意識の高さからか,多数のシンポジウムが応募され,実務実習関連についても,大学,実習指導に当たる薬剤師からの複数の応募があった.そこで,本シンポジウムはお互いの立場で共有しながら1つのシンポジウムとして再構成して企画してはどうかという大会本部からの提案に従い,企画の段階では大阪府薬の伊藤憲一郎先生,大阪府病薬の高橋一栄先生と大学から小佐野がオーガナイザーとして企画し,薬局・病院・大学の薬薬薬連携を意識して,それぞれのシンポジストの立場からお話をいただいた.
第4回大会が開催される2019年8月は,改訂薬学教育モデルコア・カリキュラムに則った実務実習が開始されて半年が経ち,1期薬局実習,第2期病院実習が終了し,22週間の連続した薬学部の実務実習が一段落した時点である.抄録作成時は,大学,薬局,病院共にどのような実施が最も望ましいかという観点で最終準備を行っている段階であったが,本稿は1期薬局実習,第2期病院実習が終了した時点での発表内容の概略である.本来,改定モデルコア・カリキュラムにおける実務実習の評価を行うには,続く第2–3期,第3–4期を待って,1年間4期にわたる実務実習の成果を対象とすることが必須であるが,本シンポジウムでは,4期全体の実習評価という点ではなく,改訂モデルコア・カリキュラムに則った22週間の連続した実務実習を,大学教員,現場の薬剤師がどのような目標(アウトカム)を描いて準備し,どこまでたどり着いたのかを,学会という環境を生かし,組織を背負った観点ではなく,一薬剤師,一教員としてあるべき姿を討論した.
大学主体の実習とはどうあるべきか,薬局・病院における今後の国民のニーズに合った薬剤師育成には,大学時代に何を修得しておくべきか,薬局-病院の連携は如何にあるべきかを,実務実習という大学-薬局-病院が一体となった修学環境で効果的に進めるための薬学教育に関わる者が共有できれば本望である.
本シンポジウムのプログラムを以下に示す.
S13-1 大学主体の実務実習の在り方を考える
小佐野 博史(帝京大学薬学部)
S13-2 新しい実務実習への大学・学会の主体的貢献―サテライトシンポジウムから見えたこと―
鈴木 匡(名古屋市立大学大学院薬学研究科)
S13-3 薬学教育の質は,薬剤師の質であり 薬剤師の質は,薬学教育の質である
中川 素子(株式会社中川調剤薬局)
S13-4 大学-薬局-病院連携実習で何ができるのか?―2019年第I期,第II期を経験して―
篠原 裕子(大阪府薬剤師会・八尾市薬剤師会・みどり薬局)
S13-5 臨床薬剤師の育成につなげる病院実務実習とは
室井 延之(神戸市立医療センター中央市民病院 薬剤部)
S13-6 薬剤師になりたい!と感じる実務実習とは
大津山 裕美子(医療法人社団洛和会 洛和会音羽病院 薬剤部)
総合討論
大学からは,大学主導の実務実習についての基本的な考え方を小佐野,3月に実施したサテライトシンポジウムの取りまとめを鈴木先生,薬局からは,中川調剤薬局の中川先生,みどり薬局の篠原先生,病院からは神戸中央市民病院の室井先生と洛和会本部の大津山先生にそれぞれの現状をお話しいただき,地域の環境や施設状況を超えた実務実習の在り方を考える機会とした.それぞれが所属する機関,団体にとらわれず,学術集会としての学会の利点を生かし,大学での事前準備,施設間おいて必要とされる重要な観点,多方面にわたる様々な工夫などを,学生,教員,指導にあたる薬剤師が一体となって共有し,社会のニーズに合った未来の薬剤師を,実務実習から創り出すための機会としたい.
「理想とは,現実をはかる尺度である」この言葉を感じて頂ければ幸いである.