Japanese Journal of Pharmaceutical Education
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ISSN-L : 2433-4774
Review Article
Interprofessional education from faculty to clinical practice and community
—Multidisciplinary team for patient-centered medical care
Naoko TateKiyotaka WatanabeKaijiro AnzaiKimiko UenoNobuhiro Yasuno
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2021 Volume 5 Article ID: 2021-013

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抄録

質の高い医療を患者に提供するためには,多様な専門性をもつスタッフによるチームアプローチが求められる.学部教育において多職種連携教育(interprofessional education: IPE)の重要性が問われ始めて久しい.学部学生・大学病院・地域住民との協業におけるチーム医療の実践報告や,医療職にとどまらない介護・福祉職や住民との連携実践例の報告を通して,それぞれの構成員がもつ基礎的な知識や技能をもとに,主体的に議論に参画し,患者や家族が抱える課題をそれぞれの視点でアセスメントした上で,適切な介入や支援に繋げていくことが重要であると考えられる.医療専門職連携の実践に向けて学部レベルでの養成プログラム・カリキュラムの連携を推進するとともに,卒後の医療現場・地域における継続的学修機会の確保が,医療現場や地域ニーズに応える多職種連携教育の実現に必要である.

Abstract

A multidisciplinary approach by healthcare professionals with a variety of specialties is necessary to provide high quality medical care for patients. It has been a long time since the importance of the interprofessioal education (IPE) in undergraduate medical education has been considered. A symposium on “Interprofessioal education from faculty to clinical practice and community—multidisciplinary team for patient-centered medical care” was held at the 5th annual meeting of the Japan Society for Pharmaceutical Education in September 2020. At the symposium, practice reports of the team approach in medical care in the cooperation with undergraduate, university faculties, professionals, and citizens in local communities were presented. Based on the basic knowledge and skill of each member organizing the team, it is important to participate in discussions, to assess the problem of patients and families from various viewpoints, and to share the information so that appropriate intervention and medical care can be provided. To establish an effective learning program for IPE, the coordinated curricula between the departments is required. The opportunity of continuing education and training programs for postgraduates and healthcare professionals in an on-site setting should also be implemented.

はじめに

現在,医療専門職連携の実践・推進のために学部教育レベルでの各医療職の養成カリキュラムを連携させることによる学修成果基盤型の多職種連携教育(interprofessional education: IPE)の実現,これに続く卒後の医療現場・地域における継続的な多職種連携の実践が展開されつつある.患者中心の医療を実践するための多職種連携がさらに進展することを目指し,改めてまず学部教育におけるIPEの現状・位置づけをヒューマニティ・コミュニケーション教育および地域医療連携教育の視点から捉え直したい.次に医療現場・高齢者施設等における多職種連携の実践の実態を多角的に見据え,この連携を一層充実したものとするための研修やネットワーク構築等の取り組みを紹介する.

1.薬学部におけるヒューマニティ・コミュニケーション教育の取り組み

患者中心の医療を実践するために医療者の多職種連携が不可欠となる.医療者間で互いに患者情報を的確に収集・提供・共有できるコミュニケーション能力の習得は,薬学教育モデル・コア・カリキュラムに準拠し,医療の担い手として質の高い薬剤師育成を目指す6年制薬学部教育の重要な柱の1つである.薬学教育モデル・コア・カリキュラムに掲げられた薬剤師として求められる基本的な資質のうち,(1)薬剤師としての心構え,(2)患者・生活者本位の視点,(3)コミュニケーション能力,(4)チーム医療への参画等の資質の育成は,ヒューマニティ・コミュニケーション教育の目標となる.薬学部教育におけるヒューマニティ・コミュニケーション教育にフォーカスを当て帝京大学薬学部における取り組みを紹介する.

本学薬学部ではヒューマニティ・コミュニケーション教育における卒業時の最終到達点,アウトカムを次のように設定している.

(1)豊かな人間性を有し,医療人として生命の尊厳を深く認識し,人の生命と健康な生活を守る使命感,責任感をもつ.

(2)患者の人権を尊重する態度を身につけ,患者・生活者から情報を適切に収集し,また有益な情報を提供することができる.

(3)医療現場においては他職種と的確な情報交換ができる正確で豊かなコミュニケーション能力を身につけている.

(4)医療機関や地域におけるチーム医療に積極的に参画し,医療人として求められる適切な行動をとることができる.

上述の医療人としてのあるべき姿に到達することを目指し,1~5年次までヒューマニティ・コミュニケーション科目を必修とし,アウトカム基盤型教育に基づき,学年進行形の順次性あるカリキュラムを構築し教育を実施している.まず,1年次にはヒューマニティの涵養を目的とした科目「ヒューマンコミュニケーション」において,自己概念や他者との相互理解,コミュニケーションの在り方,きく力を高める等の演習授業を実施し,最後に医療系3学部(医学部,薬学部,医療技術学部)合同でチームビルディングおよびチーム活動と成果発表を行う学部横断型演習を実施する.2~3年次では高齢者福祉施設における体験学習や身体の不自由体験,および薬局来局者からの情報収集と適切な情報提供を行うロールプレイ等も含めた医療コミュニケーションの学びを進めていく.さらに各専門分野の学習を深めた4年次にはチーム医療について多職種間コミュニケーションの観点から学びを深め,医療系3学部合同で医学部附属病院との連携教育として臨床事例に基づく多職種医療コミュニケーション演習を行う.本演習は毎年,異なる臨床事例を対象に行っており,本演習用に作成した複数の臨床事例をまとめた教科書1) も発刊し公表している.この3学部合同演習の最後には医学部附属病院の医療チームによる多職種カンファランスを学生全員が臨床講堂で参観し,学生はプロフェッショナリズムを改めて自覚し,多職種連携の重要性を明確に認識する.そして5年次には薬局・病院など医療施設での実務実習の経験を踏まえた症例解析を組み込んだ患者対応の実践的な医療コミュニケーション演習を行う.これらのヒューマニティ・コミュニケーション科目の評価は,レポート評価,行動・態度評価,実技試験などを組み合わせて行っている.また4年次の多職種医療コミュニケーション演習については,その有効性を評価するために演習の前後において医療系3学部の学生を対象に2種類のアンケート(社会性に関しては「KiSS-18」,多職種連携教育の効果に関しては「RIPLS」)を実施している.両アンケートの結果,演習後のスコアは有意に高くなっており,多職種医療コミュニケーション演習の有効性を確認している.

上述のヒューマニティ・コミュニケーション教育の中でとりわけ4年次に医療系3学部が合同で多職種連携教育として実施する多職種医療コミュニケーション演習では,教育・指導に携わる3学部の教員同士の多職種連携が演習授業の企画・運営の基盤に必要となる.本学では学部横断型の合同運営委員会を組織し,その運営委員会においてチーム医療における医療コミュニケーション教育について協議を重ねて教育内容(臨床検討事例)・方法について決定していく形式をとっている.各学部の教員同士の相互理解と協働作業によって学部横断型教育を構築しており,運営委員会の組織力の維持が重要となるが,この学部横断型演習を継続していく過程で自ずと組織力・機動力は経時的に安定化・増進していると実感している.教育活動での学部横断的な教員の連携は,現在では学部の枠を超えた研究活動の連携へと広がりを見せている.

2.医療職としての心・態度の醸成

帝京平成大学薬学部では,「建学の精神」を具現する本学独自のセミナー科目(9科目)によって「医療職としての心・態度」を醸成している.1年次から3年次まで「薬剤師倫理,薬剤師プロフェッション,地域社会と医療,コミュニケーション,医療リスクと倫理,環境・情報倫理」をテーマとして順に学び,4年次には実務実習に備えて「薬剤師の行動規範」を学ぶ.また,5,6年次では「医療で起きるモラルジレンマ(科目名,アドバンスIII)」と「薬剤師プロフェッショナリズム(科目名,アドバンスIV)」を学んだ後,全学生が地域医療見学・体験実習を行う.ここでは,5,6年次のアドバンスIII,IVと地域医療見学・体験実習について紹介する(図1).

図1

アドバンスIII,アドバンスIVの履修スケジュールと学修成果

アドバンスIII,IVの編成にあたっては,セミナー科目を学んでいない旧コアカリの6年生を対象に「実務実習に行く前に学ぶべきこと」を調査し,その結果を盛り込んだ.「患者とのコミュニケーション法」,「在宅における薬剤師と他職種の役割」や「介護保険など在宅医療の関連法律」を中心として,アドバンスIIIは倫理的側面,アドバンスIVでは,より実践的側面を学ぶこととした.両科目とも実務実習と関連付けて前・後半に分け,それぞれを実習の前・後でIII,IVの順に履修している.

実務実習前のアドバンスIII(2日間)では,実習に備え「医療職としての倫理観を確かにする」ことや,「療養者の症状や気持ちを推察できるようになる」ことを目標にした.1日目には,各班のモラルジレンマの課題を医療倫理の4分割表を作成して検討し,物語中の療養者へ薬剤師がかける言葉を含め,発表する.色々な言葉を考えることで,コミュニケーションの取り方を学ぶ機会にしている.2日目には,市販薬の副作用で子供を亡くした親が実際に記録した闘病記の語りを聞き,また,医療事故で子供を亡くした親の心の葛藤をDVDで観て,医療職としての責任,倫理観,リスクを避ける市販薬情報の在り方,薬剤師の役割の重要性を学ぶ.さらに目の不自由な方や難聴の方への対応を通じ,高齢の療養者とのコミュニケーションにおいて心掛けることを学ぶ.このようにして,実務実習の成果を高めることを目標にしている.

実務実習前のアドバンスIV(2日間)は,1年生からのまとめと位置づけ,プロの薬剤師への成長に重要な「問題発見能力」「課題形成能力」「問題解決能力」など,実践的な能力を伸ばせるようにした.1日目には,在宅医療の実施経験がない薬局薬剤師が,療養者宅に行けるようになるまでのDVDを視聴した後,「あなたならどうする」といった問いかけを通じて問題発見能力を高める.また,在宅医療に関係する医療・介護保険制度や在宅医療の実践的動画によって,療養者宅で注意すべきこと,薬剤師としての「気づき」の大切さを学んでいる.2日目は,高齢者の生活や住まいの映像を観て,療養者の生活環境に配慮できること,どのような高齢の療養者にも元の生活があること,食の大切さや食を通して多くの医療・介護職が連携していることを学ぶ.さらに,歯科医師の多職種連携に関する講義も踏まえ,薬剤師の食への関わりを考えることで課題形成能力や問題解決能力を養い,実務実習に臨んでいる.

実務実習後のアドバンスIII(2日間).実習中に薬剤師から聞いたこと,あるいは自身が経験したモラルジレンマの事例をグループ内で発表する.次いで,その中から1つを選び,4分割表で問題点を整理・発表し,「療養者のQOLを最大値にする」という視点から医療職としてのあるべき姿について討論する.授業の最後には,「実務実習を通じ,療養者の価値観や人間性に配慮することについて,考えがどのように変化したか」自己分析し,アドバンスIIIの最終レポートを作成している.

実務実習後のアドバンスIV(2日間)では,実務実習を振り返り,療養者の困りごとに対して実習施設や自分が行った対応を発表する.その後,実習先が異なる学生を集めてグループを作り,グループ内で発表・共有して実務実習で体験した多職種連携を振り返りまとめている.

地域医療見学・体験実習(2日間)は,実務実習後のアドバンスIII,IVの終了後に実施する.この実習では,「中野区の医師・看護師の在宅診療や在宅訪問,中野区医師会の在宅難病患者訪問診療事業,老健施設での体験」から1つを選び,療養者や家族の生活の様子,他職種による医療やケアの実際を見学する.終了後には,同じ在宅または施設で実習した学生が集まってSGDを行い,他の学生の「体験や気づき」をもとに理解を深める.次いで,異なった施設の学生を集め,SGDによって,それぞれの施設における多職種の役割を理解できるようにした.「まとめ」では,「在宅医療では,薬を専門に見る人がいない」ことや,「在宅では,実務実習で行ったことができていないことに驚き,薬剤師がいればできる」という大切な「気づき」も発表された.さらに,この「地域医療見学・体験実習ならではの成果」として,「近未来の薬剤師のあるべき姿」を一言でまとめさせた.学生の言葉から,この見学・体験実習が「目指すべき薬剤師像を自らの言葉で表現する力」を身につける機会になったことが分かった.このように学生が成長できたことは,5,6年次に,セミナー科目,実務実習,地域医療見学・体験実習を順次・体系的に学ぶことで,それぞれの成果がまとめられ,統合されて,新しい変化と成長に繋がった結果と考えている.以上のように,地域医療の現場において,医師・看護師・介護職の役割と連携,療養者とその家族の生活を目の当たりにすることで,地域医療における薬剤師の役割自体がクローズアップされ,大切な「気づき」を導くなど,全員を地域で学ばせることは予想を超えた成果に繋がり得ることが分かった.また,訪問看護ステーションや介護施設にとっては,薬学生を現場に受け入れるのは初めてとのことで,「驚いた」という声に加え,薬学生の教育に触れることで,薬剤師との連携の在り方について考える良い機会にもなったと感想を頂いた.しかし,薬学部としての「本気度」を問う声がなかったわけではない.地域医療の現場に受け入れて頂いた教育を,地域の隅々にまで広げてゆくには,誠実さをもって交流を深めてゆくことが何よりも大切と感じている.

終わりに,中野区医師会をはじめ,ご協力頂いている区内・外の医療・介護関連の施設や本学の看護学科に感謝申し上げたい.

なお,ここで述べた5,6年次のセミナー科目の編成と実施には,以下に紹介する多くの教員が携わった.担当教員氏名:福島紀子,鈴木政雄,菊地真実,渡辺伸一,富田隆,吉田貴行,亀井美和子

3.介護老人福祉施設の多職種連携における薬剤師への役割期待

2014年に制定された医療介護総合確保推進法により,医療・介護サービスを一体的に提供するための制度改革が継続して推し進められている.この中で,高齢者の尊厳の保持と自立した生活支援の目的のもと,可能な限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるようにと,地域包括ケアシステムの構築・深化・推進を目指し,国を総じて取り組んでいる2).地域包括ケアシステムは,医療や介護,予防のみならず,福祉サービスを含めたさまざまな生活支援サービスを日常生活の場で適切に提供できるような地域の体制である.また,医療介護総合確保推進法における介護保険制度の施設サービスには,介護老人福祉施設,介護老人保健施設,介護療養型医療施設,介護医療院の4つがある.そのうち要介護度3以上の要介護高齢者の生活の場であり終の棲家として位置づけられているのが介護老人福祉施設(以下特養)である.

特養の人員配置基準では,常勤の看護・介護職員,栄養士,機能訓練指導員,介護支援専門員のほか,非常勤の医師が構成員として規定され,その中に薬剤師は含まれていない.また,特養で提供されているケア(サービス)内容では,介護サービス,食事サービス,アクティビティ,および「服薬管理」を含む健康管理サービスが挙げられる.しかも「服薬管理」は特養の入所高齢者が受けている治療の中で最も多く,治療全体の84.9%にも及んでいる3).複数の慢性疾患を抱えながら生活しているという高齢者の特性から,特養に入所している高齢者の多くは薬物療法が必須となっている.それゆえ,通常は常勤の医師不在の中で看護師が入所高齢者に処方されている薬の種類や内容および期待される薬の効果を把握し,入所高齢者の日常生活状況を踏まえつつ,適切性についてもアセスメントすることが求められる「服薬管理」業務を担っている4).具体的には,①服用している薬の作用・副作用・量・投与方法などの把握,②薬の効果についてモニタリングおよび副作用の早期発見のための観察,③定期的に処方されている薬継続の必要性の検討,④ポリファーマシー回避に向けた非薬物療法ケアの検討,⑤介護職への薬に関する情報提供と指導などである.これらは薬に関する豊富な知識がないと務まらない.

それに加えて,慢性疾患を併せもち多剤併用や長期服用の高齢者が多く,何より認知機能や視力・聴力の機能低下により服薬アドヒアランス(理解して正確に内服できているか否か)に関する問題が生じやすいといった服薬管理上の困難も抱えている.この困難な課題をクリアしようと,人員配置基準にない薬剤師を多職種連携の一員として迎え,服薬管理上の課題解決に向けて取り組んでいる特養がある.特養近隣のかかりつけ薬局の薬剤師が特養を訪問して医師の回診に同行するなど,看護師と介護職および医師と連携して服薬管理業務の一端を担っている.看護学における老年看護学実習でその場に居合わせた看護学生は,実習を振り返り,特養での多職種連携にも薬剤師は欠かせない専門職であるとの見解を示す.実際に現場においては,薬剤師から内服薬の調整や見直し提案がなされることにより,認知症高齢者のBPSD(心理・行動症状)の悪化防止や改善にも繋がっており,さらに施設職員の服薬管理意識が向上し,誤薬(重複投与や過量・過少投与など)事故発生の件数も減少している.正に薬剤師の業務の場が,薬局や病院・病棟から在宅・訪問へと拡大したことによる効果の一例を示しており,在宅に匹敵する特養であるがゆえに薬剤師への役割期待は大きい.薬剤師は,薬物療法の安全性・有効性を確保し,国民の健康保持のために貢献できる専門職であり,地域包括ケアシステムが構築される中,多職種連携・協働の構成員として果たすべき役割が確実にある.

医療に関わる専門職教育において,医学・薬学・看護学それぞれの分野で別々に学修している教育を省察すると,専門職連携の実践・推進のためには各専門職の相互理解は欠かせない.そこで「地域包括ケアシステム」を担う専門職の育成も視野に,多職種連携・協働についてさまざまな医療関連分野で学んでいる学生が合同で学ぶことのできる実習教育やシミュレーション教育の場・方法・内容の新たな構築を提案したい.その前提には各専門分野の教育に携わる教授陣の連携・協働のさらに進展が望まれる.

4.学部教育から医療現場・地域へ広がる多職種連携―病院と薬局における真の連携を目指して―

医療現場において薬剤師の専門性を発揮するためには,自身の薬学に関する知識の習得が重要であるが,それ以前にコミュニケーション能力が必要と考えている.そこで,これまで我々は学生に対してコミュニケーション能力の重要性を踏まえた多職種連携について教育を行ってきた.

帝京大学薬学部は医学部附属病院に隣接した環境であるため,病院内の多職種におけるチーム医療をはじめ,病院薬剤師と薬局薬剤師間の薬薬連携の実際について体験できる体制を構築してきた.そのため,大学の教育では医療現場における最新の実例を教材にした教育を繰り返すことで,学生はより理解力を深めることができると考え,我々はコミュニケーション能力に優れた薬剤師を育成することを喫緊のテーマとして教育を行っている.

今回,学生が多職種連携を理解する上で,医療現場において良好なコミュニケーションをとることにより,薬薬連携が確立された事例について報告する.

まず,薬機法改正において薬局の果たすべき責務や連携の重要性が具体化されたことから,医療機関においては一層充実した多職種連携の強化が期待されており,特に我々薬剤師が病院内と地域薬局とのシームレスな連携のための臨床教育体制を構築する必要があることに注目した.

病院と薬局の薬剤師が連携を強化し質的向上を図るためには,院内で処方されている処方薬や各種病態に関する薬学的知識を一緒に研鑽し,問題点を解決するための研修会や実務研修を定期的に開催する必要があると考えている.そのため,我々は大学教員の協力を得て地域薬局薬剤師を中心とした研修会を開催し,病院の立場と地域薬局からの問題点を抽出した.その結果「疑義照会」,「副作用モニタリング」,「入退院時の連携に対するポリファーマシー」,「抗がん剤治療への介入アドバイス」,「地域医療と薬薬連携との関わり方」などの実践に関わる内容の研修を望む回答が多く見受けられた.これらの中で,薬局との良好なコミュニケーションにより成功した事例の1つである疑義照会に関連したPBPM(Protocol Based Pharmacotherapy Management)について報告する.これは薬局からの疑義照会に対し,病院側も薬局薬剤師側もお互いに多くの時間と労力を要していたが,本PBPMの構築と医師との連携により効率的な薬薬連携が完成した(図2).

図2

PBPM(Protocol Based Pharmacotherapy Management)の構築

さらに,地域薬局とのシームレスな連携のための臨床教育に1つとして,病院と薬局間でのトレーシングレポートの導入がある.これにより,薬局側においても薬機法改正で謳われている継続的な高度薬学的管理の1つである有害事象の早期発見による重症化の回避等が可能となり,患者の安全性はもちろんのこと病院と薬局間の良好な連携が構築された.

このように,病院薬剤師と薬局薬剤師がお互いの問題点を把握し,これらを解決すべき研修を行うことにより,薬局・病院実務実習にも生かされ,今後の社会人教育に繋がっていくと考えられる.また,この背景には研修会開催や情報発信等の多くのコミュニケーションの機会があったからこそ良い連携が確立されたことと考えている.

現在の社会や医療現場の環境が目まぐるしく変化する中で,本学の特性を生かした「大学・病院・薬局」における連携により,学生に対してもコミュニケーション能力と最新の医薬情報を教育することを重要視しながら,今後もさらに有意義な教育環境を整えていきたいと考えている.

5.学部多職種教育から大学病院・地域への連携へ―地域のチーム医療を支える人材育成モデル―

医療・科学技術の進歩は健康の向上と寿命の延伸をもたらしてきたが,一方で,出生前診断や臓器移植,人生の最終段階における医療など,社会・倫理面での課題も浮き彫りになってきている.医療における多職種連携教育においては,コミュニケーションや科学技術の適用という側面にとどまらず,関連する患者自身・家族,周囲の人々,さらに地域コミュニティーをも交えた多彩な関係者との対話をもとに包括的な対応が求められている.帝京大学医学部のアウトカム基盤型教育では,医学教育モデル・コア・カリキュラム(平成28年度改訂版)に基づき,統合的・連続的なカリキュラムが示され,必須の実践的診療能力として,チーム医療の実践が重視されている.学部教育・大学病院における多職種連携教育・研修の事例や,がん医療におけるチーム医療推進の動きを踏まえつつ,地域におけるチーム医療を支える人材育成に向けた事例を紹介する.

がん医療の向上により治療後の長期予後が望めるようになってきている.一方で,がん患者の歩み(trajectory)を鑑みると,疾患への「治療的アプローチ」と「緩和的マネジメント」をどのように展開していくかが課題といえる.がんにおけるチーム医療が実践されるにあたり,医師が一人で患者の治療やケアを担うのではなく,多分野の専門職の支援のもと,患者にとって最適な医療が提供されるようになってきている.その結果,伝統的な医療パターナリズムの権威主義から,意思決定についての協力型・協調型のモデルが一般的になりつつある.それぞれの専門職としての職能や倫理的責任のもとに,一方的な意思決定ではなく,ときには意見の対立や競合などが起こりながらも,最適解を対話によって見出していくようになってきている.こうしたチーム医療が実践されるにあたり,参画する医療職は患者の最善のために,自らの提案を行いながら,患者と関連職種双方からの希望や提案に応えていく役割が求められる.そのためにはコミュニケーション能力に加え,それぞれの意見に対する理解や患者の診療に関わるさまざまな人々との間に生じる衝突を解決する能力も必要になる.

チームが展開される場所や,医療・介護・福祉職種の組み合わせは多様であり,患者・家族など当事者の参画についてもさまざまであるが,情報を把握した上で課題を共有し互いに専門性を発揮して対応するアプローチにより,1)医療・生活の質の向上,2)医療従事者の負担軽減,3)医療安全の向上のアウトカムが期待される.

チーム医療実践に向けた学部教育,特に職種や領域横断的な取り組みを取り上げる.

・学部学生による1年次「地域健康管理学入門」:これから医療を学ぶ学生が,予防・検診・医療・ケアに関する問題意識をもとに,生物科学・臨床科学・社会学・法学・経済学・情報学など学際的な視点を織り込みながら都道府県や市区町村の地域医療計画を読み込み,提言をまとめ発表する

・4年次「医療コミュニケーション演習」:専門性と患者・家族の想いをもとに,課題の抽出,議論,ブラッシュアップを経てチームとして提案をまとめ,医学部附属病院のチームによる模擬カンファレンスを聴講しチーム医療を学ぶとともにキャリアパスを語り合う1)

・慢性疾患を地域で支える「板橋サバイバーシップ研究会」:がんにおけるサバイバーシップの理念を非がん領域にも展開,医師会・基幹病院・地域包括支援センターから広がるネットワーク構築を目指して,医療職に加え,介護・福祉職を交えた事例検討会を実施し,経験年数などのスキルに応じた地域包括ケアの充実に向けた提案を得られた5)

・地域における「がんの在宅療養」:がん医療・ケアにおけるニーズに応える情報づくりと地域づくりを提示すべく,地域の実情に応じた,患者・家族の支援体制の充実に向けて,医療・福祉・介護に関する支援者・専門職種がチームになって,住み慣れた地域で安心して暮らすことのできる街づくりに向けた研修会を実現し,連携や情報共有についての自己評価や提案を収集している5).大学発・大学病院発の医療・看護・介護・福祉など専門職種の学び・継続教育研修のモデルを提案できると考える.

まとめ:患者中心の医療を実践できるチーム医療を目指して

多領域における特色ある事例のなかで,効果的な多職種連携教育に向けた工夫について紹介したい.

・3学部合同の多職種連携教育の成り立ち

1年次に多職種連携をヒューマニティ教育の一環として学んだのち,4年次ではそれまでの各学部・学科の専門教育に基づくプロフェッションとしての学びを踏まえ,臨床事例についてチームとしての提案を策定する多職種連携教育を実施している.各医療専門職は異なる視点から患者,疾患を捉えることを互いに明確に認識すると同時に4年間の学びを振り返り,これからの専門職としての動機付けを促す機会になっている.

・帝京平成大学の地元住民と触れ合いニーズを学ぶ取り組み

帝京平成大学では地元中野区と連携し,学生のうちから地域社会コミュニティーへの接点をもっている.社会を見る目を養う,医療を地域から学ぶ場の実現に向けた準備を進めてきた.中野区医師会と連携し,がんの緩和ケアの普及啓発プロジェクト(オレンジバルーンプロジェクト)として提案,学生が地域住民や医療や看護・介護の専門職種と協働する機会を得ることができている.リアルな現場の視点を得ることによって,学生の意識の高まりを実感している.

・高齢者施設における看護の関わりとチームアプローチの必要性

看護学生として生活者の視点を学ぶことが重要であるなか,特養での多職種連携の必要性を実感している.看護師・医師とともにチームとしてかかりつけの薬剤師による高齢者施設での取り組みを目にした看護学生が,情報収集・アセスメント・処方の提案を行っている薬剤師のアプローチの実際を通してチームアプローチの在り方について考えるきっかけとなっている.薬物治療管理は高齢者施設において重要かつ不可欠なケアニーズである.学生による地域施設の実習について,各学部が個別に訪問するのでなく,複数の学部から同時にチームとして参加することでさらに学修効果を高められる可能性がある.

・チーム医療実践における薬学部学生の学び

大学病院に隣接する環境での薬学部教育において,病院内の多職種によるチーム医療,地域医療における病院薬剤師—薬局薬剤師間の薬薬連携,それらを支える多職種間コミュニケーションの実際について学ぶことができる教育体制を構築してきた.社会,医療現場の目まぐるしい変化の中で本学の特性を生かした「大学・病院・薬局」の連携により,最新の医薬情報・知識の獲得およびコミュニケーション能力の育成を重要視した教育環境をさらに整備していきたい.

・地域におけるニーズに応じた多職種連携やコミュニケーション教育に向けて

地域における多職種連携教育を実践する教員からも,アンケートなどのフィードバックにおいて,学部の枠を超えた議論と各学生の主体的な参画による多職種連携教育の効果について好意的な意見が寄せられていた.地域において,医療・介護・生活に関わる課題を共有し提案する機会を通して,さまざまなステークホルダーがもつ問題意識と課題をもとに,提案を持ち寄る形でのグループワークにより,誰もが「教え,教えられる」場が実現できることがチーム医療教育の重要な要素といえる.

本総説は,2020年9月12–13日に帝京大学においてWeb開催された,第5回日本薬学教育学会学術集会シンポジウム10「学部教育から医療現場・地域へ広がる多職種連携~患者中心の医療を実践できるチームを目指して~」の内容を元に報告するものである.各項目は以下の著者が主に担当した.1.楯,2.安西,3.上野,4.安野,5.渡邊.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

文献
  • 1)  帝京大学医療コミュニケーション運営委員会編:医療コミュニケーション―Medical Communication―.東京:京都廣川書店;2018.
  • 2)  厚生労働統計協会編:国民衛生の動向・構成の指標第67巻第9号.東京:厚生労働統計協会;2020. p. 254–256.
  • 3)  厚生労働省第1回社会保障審議会療養病床の在り方等に関する特別部会配布資料2-2.2016. p. 19.
  • 4)  公益社団法人日本看護協会編:介護施設の看護実践ガイド第2版.東京:医学書院;2018. p. 110–123.
  • 5)  がんの在宅療養 地域におけるがん患者の緩和ケアと療養支援情報 普及と活用プロジェクト[Internet](参照2021年3月25日)https://plaza.umin.ac.jp/homecare/
 
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