Japanese Journal of Pharmaceutical Education
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Special Topics | Introduction of Nutritional Pharmacy into Pharmacy Education and Its Meaning
Introduction of Nutritional Pharmacy into Pharmacy Education and Its Meaning
—Background of the proposal and assignments to solve—
Shuji Kitagawa
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2021 Volume 5 Article ID: 2021-015

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抄録

病院でも保険薬局でも,薬剤師として活動する上において健康食品を含めた基本的な栄養学の知識を有することは重要である.今回,「栄養学」を薬学の特徴的な教科目である「薬物動態学」ならびに「薬理学」と融合させた「栄養薬学」を構築し,薬学教育モデル・コアカリキュラムに導入することを提案する.その理由としては,飲食物に含まれる生理活性物質や吸収された飲食物の成分から作られる生理活性物質の作用を抜きにして医薬品の作用は考えられず,患者にとって最適な医薬品の用法・用量も決定できないからである.一方,飲食物が医薬品の吸収や初回通過効果に及ぼす影響は大きいと考えられるが,エビデンスが少なく,今後の研究が待たれる状況である.「栄養薬学」の推進は,病院での病棟業務や在宅医療をはじめ薬剤師の活動する広範囲な分野において「医薬品の適正使用」の向上に繋がるとともに,薬学の教育研究の発展にも繋がることが期待できる.

Abstract

The purpose of this study is the proposal on the introduction of “Nutritional Pharmacy” to Model Core Curriculum for Pharmacy Education at the time of next revision. We propose this idea because the effects of drugs appear in total together with those of food and supplement ingredients which have similar physiological activity with the drugs. We will build a new subject named “Nutritional Pharmacy” which is made by combining and fusing “Nutrition” with “Pharmacodynamics” and “Pharmacokinetics”, which are characteristic subjects of pharmacy education in Japan. “Nutritional Pharmacy” consists of four main parts, which are, 1) Physiologically active compounds derived from foods and drinks and their function”, 2) Health food and supplements, 3) Prevention of Frail and Metabolic Syndrome by nutrition management, 4) Pharmacodynamic interaction among food and drink, health food and supplements, and medicines, 5) Pharmacokinetic interaction among food and drink, health food and supplements, and medicines, 6) Effects of intestinal flora on the function of food and drink, health food and supplements, 7) Chrono-nutritional pharmacy. Several assignments should be solved to introduce the subject and start the education on it, development of Nutritional Pharmacy will be helpful for their present activities in hospital pharmacy, home care, self-medication, and advanced pharmacy management. Furthermore, it will also be helpful for the development of education and research of pharmaceutical sciences in Japan. I hope “Nutritional Pharmacy” will be helpful for the pharmacists in Japan to take a responsibility in determining usage and dosage of drugs.

はじめに―薬剤師,薬学の将来―

薬剤師の存在感が薄い.頑張っている人もたくさんいるのに……!私は,最近,所属するパーキンソン病の患者会の会報誌に掲載された首都圏の病院の神経内科医の寄稿文1) の一節を見て,愕然とした.この神経内科医は,患者の自律・自立を強調し,多職種の共同作業のパーキンソン病治療・ケアの大切さを訴えている.正しい情報を元に患者自らが勉強し,意思決定し,それを尊重しながら周囲の医師,研究者,看護師,理学療法士,作業療法士,言語療法士,介護士,ソーシャルワーカーなどがサポートしていくことが理想ではないかと述べている.共感できる内容が書かれているが,しかし,そこには薬剤師が出て来ない!加えて新型コロナに関しても薬剤師も薬学部も出て来ないのは,非常に残念だ.アメリカでは,ワクチン接種は薬剤師が主体となって行う仕事である.どうして日本ではできないのだろうか?日本では,ドクターのお手伝いでしか参画できない.

今回,栄養薬学を薬学教育のカリキュラムに導入する提案に至った背景に,薬系大学教員,薬剤師の置かれた厳しい現状がある.薬剤師,中でも薬局薬剤師については,活動がよく見えないということもあって,役割を明確にするために薬機法の改正がなされ,昨年9月にその一部が施行されている.薬局は調剤業務を行う場所であることに加えて,薬剤及び医薬品の適正な使用に必要な情報の提供及び薬学的知見に基づく指導の業務を行う場所であることが明示された.薬局においては,他職種との競合もある.ドラッグストアにおいては,健康食品を扱う管理栄養士との競合がある.

一方,AIの発達によって調剤はもとより,相互作用チェックも含めて服薬にあたっての説明もAIが行うことが可能になって来た.AIは人の心も癒してくれる.そんな時代がやってくるとき薬剤師は何をすべきか?また,その薬剤師を毎年多数輩出している6年制の薬系大学では,どのような教育を行うべきか?「栄養薬学」がその鍵を握っている.

提案に至った経緯

薬学教育への栄養薬学の導入を考えたのは7年前に遡る.図1は,私が神戸薬科大学の学長になって1年くらいの間に考えたものである2).これからの薬系大学は,スポーツ健康科学や健康食品学を含む栄養薬学,香粧品学,臨床心理学などの周辺領域を積極的に教育・研究に取り込み教育研究基盤を拡大・充実し,地域に密着した形で大学の3つの役割である教育・研究・社会貢献活動を展開していく必要がある.関連領域で最も重要なのが栄養薬学であり,近隣大学の医療栄養学部とも連携活動を深めた.また,地域で活動する拠点として,神戸市東灘区住吉の校地に平成30年9月に地域連携サテライトセンターを開設した.

図1

薬学の近接領域も取り込んだ地域の中での連携教育の推進

「栄養薬学」を薬学に特徴的な科目である「薬理学」や「薬物動態学」と融合した形で導入し,展開していくことが必要であるという考えに至ったのは,パーキンソン病患者としての自身の服薬の経験である.図2に示すようにアミノ酸骨格をもつレボドパは,腸管吸収及び脳血液関門を通過する過程で血中アミノ酸と拮抗する.また,腸管吸収,脳血液関門通過は,飲食物摂取の影響を大きく受ける2).レボドパの薬効を十分に発揮させ,副作用であるジスキネジアをできるだけ抑えた投与をするためには,栄養学,薬理学,薬物動態学を統合した栄養薬学の知識に基づく投与計画の立案が必要となる.

図2

アミノ酸類似構造をもつレボドパ

一部の患者は治療にレボドパを含有するいわゆる健康食品の一つであるムクナ豆を利用しており,健康食品の知識も必要である.

ところで,以前から多くの 患者がレボドパをレモン水に懸濁して飲用しているのが,ブログ等で紹介されている.恐らく患者は化学的根拠まではご存知ないと思う.図3に示すように,レボドパは液性が酸性であると溶解しやすく,ビタミンCの液性は酸性であるため溶解しやすい.また,ビタミンCのもつ抗酸化作用が,酸化されやすいレボドパを防御してくれる.加えてバナナなど室温で放置すると褐変する野菜果物中に含まれるポリフェノールオキシダーゼによってレボドパは代謝を受けるが,ビタミンCはそれを防いでくれる.このようにレボドパは飲食物成分の影響を大きく受ける.したがって,飲食物に含まれる物質について十分な知識を有し,それを薬理学や薬物動態学の知識と融合させて用いることが,パーキンソン病の薬物治療を進める上で,大切になる.これらの詳細については文献2)を参照されたい.

図3

レボドパの溶解度のpH依存性

「栄養薬学」の内容

以下,今回提案する栄養薬学の内容と,そこで扱う例について示す.

1.飲食物に由来する生理活性物質とその機能発現

私達の身体は,ビタミンやミネラルなどの生理活性物質を飲食物から体内に吸収し利用している.一方,原料となる物質を吸収した後に酵素反応によって作り出されている生理活性物質も数多い.神経伝達物質やプロスタノイドなどが該当する.医薬品の作用は,体内へ作られたり,吸収された原料から酵素反応によって作られるこれらの生理活性物質とのトータルで考える必要がある.なお,飲食物の摂取は,個人差が大きく,また個人個人でも日による変動が大きいことが予想され,解析法に工夫が必要である.

2.健康食品・サプリメント

日本の健康食品・サプリメントは,保健機能食品として法的位置づけがなされている特定保健用食品,栄養機能食品,機能性表示食品の3つと法的位置づけがなされていないいわゆる健康食品の4つの分野から成り立っている.このうち,いわゆる健康食品の市場規模が最も大きいが,法的根拠がないために,肉や魚,野菜と同じ範疇で位置づけられており,このことが,日本の健康食品に対する考えをあいまいなものとし,混乱を生じる原因となっている.改善が必要であり,考え方の基盤となる栄養薬学の必要な理由でもある.

3.栄養管理によるフレイル,メタボ予防

栄養薬学の内容として栄養管理に基づいて生活習慣病を予防することがあげられる.逆に最近問題となっている低栄養に起因するフレイル予防が重要な対象となる.

4.飲食物,健康食品,医薬品の薬力学的相互作用

例えば血圧の高い患者に対して,従来は処方された医薬品の薬理作用のみ,あるいはせいぜい健康食品の降圧作用も加味して考える程度であったかと思われる.正確には.飲食物に起因する作用も加味して考える必要がある.具体的には,ナトリウムやカリウムの摂取量についても,把握する.野菜・果物類は,おしなべてカリウム含量が高く,中でもバナナや干し柿は高いため,過量摂取は低血圧症を招く恐れがあり,注意を要する.

5.飲食物,健康食品,医薬品の薬物動態学的相互作用

飲食物が医薬品の体内動態に及ぼす影響は非常に多岐に渡ることが予想されるが,エビデンスが十分でないものが多く,薬系大学で栄養薬学を担当する教員が中心となって,基礎薬学系の教員を巻き込んだ,臨床現場の薬剤師との連携に基づく研究による解明が待たれる.

1)大量の飲料の摂取に伴う消化管pHの変化と医薬品をはじめとする生理活性物質の吸収変化

コーラやオレンジジュースをはじめとする酸性飲料を大量に飲むことで難溶性の塩基性薬物(正確には弱塩基性薬物)の吸収が上がり,作用が増強することが明らかにされている.塩基性薬物は酸性のpHではH+イオンが結合して陽イオン型となり,水に溶解しやすくなる.塩基性薬物は胃へ移行する前に溶解しておかないと,pHが中性に近い小腸では,水に溶けにくい分子型に移行するため溶解しづらくなり,バイオアベイラビリティが低下する3)

2)飲食物に含まれる低分子化合物による薬物の腸管での代謝の不可逆的阻害による循環血中移行量の増加

これについては,グレープフルーツジュースの例がよく知られている.グレープフルーツに含まれるフラノクマリンによる腸管CYP3Aの不可逆的阻害によってCa拮抗薬をはじめとするCYP3Aで代謝される薬物の初回通過効果が減少するためバイオアベイラビリティが顕著に増大する4)

3)飲食物に含まれる低分子化合物による薬物の腸管での代謝の不可逆的阻害による循環血中移行量の増加

抗アレルギー薬のフェキソフェナジンの消化管吸収は,グレープフルーツジュースの他に,オレンジジュースやアップルジュースによっても著しく阻害されることが報告されている.上記のフルーツジュースに含まれるフラボノイドによる小腸粘膜におけるトランスポーターOATP-Aの阻害が原因として考えられている5)

4)飲食物に含まれる酵素による薬物の代謝

これについては,バナナジュースについて前述したようにポリフェノールオキシダーゼによるレボドパの酸化があげられる6).他の果物や野菜でも生じ得るが,多量に摂取した場合に限られる.医薬品の服用と1時間以上,時間を空ければ問題はない.なお,理論的には,ポリフェノールオキシダーゼの阻害剤であるビタミンCを十分に摂取することで,代謝を防ぐことができる.

5)高脂肪食摂取による難溶性薬物の溶解促進

高脂肪食摂取により,胆汁酸が分泌され,水に難溶性の親油性薬物が溶解する.これらの薬物は空腹時には溶解しづらいので,通常,食後投与する.グリセオフルビン,シクロスポリン(初期の製剤のみ,最近の製剤は溶解性改善の工夫あり),インドメタシンファルネシル,メナテトレノン,アタザナビル,ダルナビル,ネルフィナビル,パゾパニブ,エルロチニブ,ラパチニブ,クアゼパムなどが該当する3)

6)高蛋白質摂取に伴うアミノ酸類似構造をもつ薬物の腸管吸収ならびに脳血液関門透過阻害

高蛋白質食摂取により,血中アミノ酸濃度が上昇する.血中のアミノ酸は図1に化学構造を示したレボドパや図4に化学構造を示すメルファランの様なアミノ酸類似構造をもつ薬物の腸管吸収ならびに脳血液関門透過を阻害する.その結果,レボドパやメルファランの活性が低下する.レボドパについては,その回避策として,1日当たりの蛋白質摂取を0.8 g/(kg体重)に制限する考えもあるが,パーキンソン病患者は全般にジスキネジアのためにエネルギー消費が激しく,とりわけ低栄養に起因したフレイル状態にならないように気をつける必要があり,安易に行うのは危険である.

図4

アミノ酸類似構造をもつメルファラン

7)食物繊維による医薬品の吸着

食物繊維は,便秘改善作用に加えて,血中脂質低下作用,血糖上昇抑制作用や血圧上昇抑制作用をもつことが報告され,健康食品としてもよく利用されている.しかしながら,食物繊維は医薬品を吸着することが報告されており,作用減弱を招くことから注意を要する.

食物繊維には,水溶性と不溶性のものがあるが,現状,in vitroでの限られた条件下でのデータしかなく,エビデンスが十分ではない.その中で,グルコマンナンのような水溶性の食物繊維に対して,向精神薬のクロルプロマジンのようによく結合するものがあり,in vivoでも結合が無視できない可能性がある7)in vitroでの研究によれば,食物繊維に対する結合には,静電的相互作用と疎水性相互作用が関与していることが推定されている7)

6.飲食物・健康食品・医薬品の作用に及ぼす腸内細菌の影響

ヒト成人の腸内には,約500~1000種,100兆個という膨大な数の生菌が生着し,腸内細菌叢(腸内フローラ)を形成している.その構成の割合は食事(栄養)によっても大きな影響を受けるとともに,疾患の発症に関係する可能性が指摘されている.人間にとって好ましい作用を示す細菌を増やし,疾患などと関係している好ましくない細菌を減らす食事の工夫をしていく必要がある.

大豆・大豆製品に含まれる大豆イソフラボンは主に糖が結合した配糖体として存在しており,腸内細菌の働きで糖が切断されアグリコンとなって腸管から吸収される.ダイゼインについてはその一部がさらに腸内細菌のもつ3種類の還元酵素により活性代謝物であるエクオールに代謝される.なお,エクオールを産生できるのはエクオール産生菌の保有者のみであり,その割合は日本で約50%,欧米で約30%程度と言われている.

時間栄養薬学

近年,体内時計によって制御される種々の生体リズムがあり,それらを考慮した飲食物,健康食品の摂取や医薬品の投与の必要性が提唱されている.1日を通して,血中濃度は一定ではなく,むしろ夜間は低下する場合が多い.降圧薬や高脂血症治療薬,気管支喘息治療薬ではよく知られている.時間栄養学についても,糖尿病などの予防の観点からも以前より検討がなされている.ついては新たに時間栄養薬学を確立し,飲食物,健康食品,医薬品の作用を総合的に理解し,飲食物や医薬品の適正な摂取に繋げる必要がある.

「栄養薬学」を導入するにあたっての課題と将来的な目標

「栄養薬学」を導入実施する上での課題がいくつかある.現状,モデル・コアカリキュラムは,内容が手一杯であり,学生が消化不良ぎみである.「栄養薬学」を新たな領域としてカリキュラムに取り入れるためには,既存の教科目を整理・統合する必要がある.また,指導者の養成も必要である.内容的にエビデンスが十分でないものも多く,研究によって新たにエビデンスを構築していく必要がある.これらの解決のためには,大学院における教育研究を充実するとともに,新たな卒後研修制度や専門薬剤師制度についての検討を要する.

今回,私の提案を受ける形で,病院薬剤師,在宅医療に携わる薬局薬剤師,健康食品に携わる薬剤師,主として卒後教育に携わる薬科大学教員の立場で誌上シンポジウムが行われる.これを機に「栄養薬学」について読者の皆さんで是非考えていただき,内容を深め,将来的に,より良い形で,モデル・コアカリキュラムに組み入れて行く方向で検討していただければと願っている.図5に示したが,「栄養薬学」を薬学の教育研究の新たな基盤として構築し,薬学の発展に繋がっていくことを切に願っている.とりわけ薬学の明日を担う若い人達が,基礎,臨床の垣根を越えて一緒に考えてほしい.

図5

栄養薬学と薬剤師の育成

終わりに

最後に,長年薬学教育に携わって来た私の願いとして,伝統のある基礎薬学を基盤とし,栄養学を,薬理学,薬物動態学を中心に製剤学などと融合することによって栄養薬学を確立し,日本の薬学の新たな特徴とし,薬学の発展に繋げてほしい.薬剤師の皆さんには,医薬品の用法・用量を決める医療者となることを目指して是非頑張ってほしい.そのことは,医薬品の適正使用を推し進めるばかりでなく,日本の医療を患者中心の医療に変えて行く力となると思う.これらの実現には,大学と臨床現場との連携が不可欠である.私は薬科大学を定年退職後も薬剤師会に個人会員として残っており,細々としてではあるが,地域の薬剤師活動への参画を考えている.大学と臨床現場の架け橋の一部でも果たせたらと願っている.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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