2021 Volume 5 Article ID: 2021-027
2016年度から5年次の選択科目として実施している多職種連携教育(IPE)において,2020年度は新型コロナウイルス感染症拡大中のため,Zoomを利用した「オンラインIPE」にて実施した.本プログラムは対面でのそれと変わりなく,全8回実施した.薬学生,医学生や看護学生を2グループに分け,各グループはブレイクアウトルームにて各職種の専門的視点からの議論と相互理解のもと,模擬患者家族にアプローチするという取組で行った.討論する症例は「認知症が疑われる糖尿病の患者」であり,グループワークを効率よく行うため,事前にIPEや症例の認知症に関する動画教材を名城IPEホームページから視聴してもらった.終了後のアンケートでは,他職種の考えや見方を知る貴重な機会であったこと,オンライン診療にも対応できる重要な経験であったことが,両学部から挙げられた.これらは,臨床現場での多職種連携が避けられない状況であり,オンライン診療のあり方を学ぶ機会でもあったと示唆され,新たな有用性も見出された.
An online interprofessional education (IPE) program was created in response to the coronavirus pandemic using Zoom, a cloud-based video conferencing service for educators and learners. To engage the students before the live web conference, they were provided materials about the IPE program and professional roles, scenarios of elderly patients with diabetes and dementia, and video lectures with fundamental information regarding dementia care for each profession. From May to September 2020, eight online IPE classes were conducted with students from mixed professional groups divided into two groups. Each group had one pharmacy student, three to four medical students, and three nursing students. In the first session of the program, students were given a clinical scenario focusing on an elderly patient with diabetes and dementia. Then, they discussed each profession’s roles and made care plans. Finally, they interviewed a standardized family member (SFM) and explained the care plans as a mixed professional team during the live web conference. In addition, the students were asked in a questionnaire following the online IPE program to describe what they learned regarding interprofessional collaboration. It revealed that it was useful in understanding the importance of team-based care and meeting the students’ learning objectives.
医療過誤を防ぎ,より質の高い安全な医療の提供を実現するため,医療従事者の専門職能を生かしたチーム医療が推進されている1).チーム医療実践のためには,学生のうちから臨床現場で臨床講義やケースカンファレンス,討論学習などを通じて他の医療系学生と接し共に学ぶ機会を増やし,臨床薬学へのモチベーションを向上させる必要がある.そのためには,異なる専門職同士が互いに理解し合い,尊重する態度や基礎となる問題解決能力,コミュニケーション能力,協調学習能力などを身につける多職種連携教育(Interprofessional Education: IPE)が重要視されている2).
名城大学薬学部では,2012年度から5年次にIPEを名古屋大学医学部の医学生および看護学生と対面にて実施している(2016年度から選択科目として実施)(つるまい・名城IPE)3).本プログラムの特徴は,①実臨床での短時間多職種カンファレンスを想定したプログラムであったこと,②学部間でカリキュラムが異なっていても短時間完結型のため実施可能であったこと,③離れたキャンパスでも少数の教員で導入可能なプログラムであったこと,④短時間に効果的に実施できるように,模擬患者,フィードバックや動画教材を導入したことが挙げられる.また,本プログラムは,薬学部以外の医療系学部および医療施設を有さない大学にとって,新しい薬学教育に対応したIPEの導入であり,他大学他学部との連携と模擬患者参加型の組み合わせによって短時間完結型プログラムとして有用であることが示されている3).
2020年度は,新型コロナウイルス感染症拡大中のため,対面でのIPEの実施が困難となったため,Zoomを利用した「オンラインIPE」にて実施した4).そこで,2020年度オンラインでの模擬患者家族参加型IPEにおいて,受講した学生にとって有用であったかどうか,アンケート調査を行ったので,報告する.
令和2年5~9月までに開催されたオンラインつるまい・名城IPEに受講した名城大学薬学部5年生(薬学生)16名,名古屋大学医学部医学科5年生(医学生)39名,および名古屋大学医学部看護学科4年生(看護学生)40名を対象とした.医学生と看護学生は臨床実習中の必須科目であり(医学生はコロナ対策としてオンライン実習の準備期間中のため最初の2回は選択),薬学生は多職連携の選択科目であった.アンケートに対する回答は任意とし,薬学生は16名(回答率100%),医学生は9名(23.1%),および看護学生は0名であった.なお,表1に示したように第7回目では看護学生の受講者はいなかった.
第1回目 | 11名(薬2名,医3名,看護6名) | グループ1 | 薬1名,医1名,看護3名 |
グループ2 | 薬1名,医2名,看護3名 | ||
第2回目 | 10名(薬2名,医2名,看護6名) | グループ1 | 薬1名,医1名,看護3名 |
グループ2 | 薬1名,医1名,看護3名 | ||
第3回目 | 10名(薬2名,医2名,看護6名) | グループ1 | 薬1名,医1名,看護3名 |
グループ2 | 薬1名,医1名,看護3名 | ||
第4回目 | 15名(薬2名,医7名,看護6名) | グループ1 | 薬1名,医4名,看護3名 |
グループ2 | 薬1名,医3名,看護3名 | ||
第5回目 | 15名(薬2名,医7名,看護6名) | グループ1 | 薬1名,医4名,看護3名 |
グループ2 | 薬1名,医3名,看護3名 | ||
第6回目 | 14名(薬2名,医6名,看護6名) | グループ1 | 薬1名,医3名,看護3名 |
グループ2 | 薬1名,医3名,看護3名 | ||
第7回目 | 8名(薬2名,医6名,看護0名) | グループ1 | 薬1名,医3名,看護0名 |
グループ2 | 薬1名,医3名,看護0名 | ||
第8回目 | 12名(薬2名,医6名,看護4名) | グループ1 | 薬1名,医3名,看護2名 |
グループ2 | 薬1名,医3名,看護2名 |
薬学生16名,医学生39名,および看護学生40 名を対象とした.
オンラインIPEは薬学生,医学生や看護学生がグループとなり,各職種の専門的視点からの議論と相互理解のもと,模擬患者家族にアプローチするという取組で2グループにて,全8回実施した.全8回の学生の内訳を表1に示した.
本プログラムの運用にはZoomクラウドベースビデオ会議サービス(Zoom Video Communications, San Jose, CA)を用いた.各学部教員や職員が,ホスト(1名),司会(1名),タイムキーパー(1名),ファシリテーター(2名),模擬患者家族の管理者(1名)を担当した.
討論する症例は「認知症が疑われる糖尿病の患者」であり,シナリオの場面設定と学習目標について,学生には事前に説明や名城IPEホームページ(https://yyipe.meijo-u.ac.jp)で視聴可能とした.シナリオの場面設定を以下に示した:患者は糖尿病があり血糖コントロール目的で鶴舞病院(450床)に入院となった.入院2日目,患者の夫が来院できないため,患者の長男の嫁が来院し,診療チームからの説明を受けることとなった.
オンラインで効率よくグループワークが行えるように,事前学習として名城IPEホームページから1)IPEについての動画と解説,2)今回使用するシナリオ,3)認知症に関する各学科用の動画教材の3種類を視聴してもらった.また,表2に示した手順で実施した:①全体でオリエンテーションや自己紹介,②グループに分かれ,1)薬・医・看護学生の観点からシナリオの問題点を抽出し情報共有,2)薬・医・看護学生別々に医療面接,3)情報を統合し療養計画(①疾患,治療,②服薬,③退院後の生活,④その他)を立案,③全体で療養計画発表とフィードバック.グループワークは,あらかじめセットしていたブレイクアウトルームへホストが誘導し,各ブレイクアウトルームにはファシリテーターが待機し,自己紹介,司会と書記の決定,面接順序と時間管理の補助などを行った.なお,以前に行った対面のIPEでは,薬・医・看護学生別々に医療面接とグループ毎に行う治療計画を基にした医療面談の2回の面談があった.
1.オンライン事前学習 |
薬学生180分:多職種連携教育(1)と(2):各90分 |
医学生0分: |
看護学生60分:多職種連携教育 |
2.オンラインIPE:約120分 |
①オリエンテーション・自己紹介:約25分 |
②グループワーク:約65分 |
1)グループワーク1:約20分間 |
・各グループでシナリオの問題点を抽出 |
・医療面接での確認内容を各職種間で共有と準備 |
2)医療面接 1:約25分間 |
・看護学生(約8分)あるいは 医学生(約8分)から開始→薬学生(約8分)の順 |
3)グループワーク2:約20分間 |
・各グループで,得られた情報を統合し療養計画を立案. |
③療養計画の発表とフィードバック:約30分(各約5分) |
IPE:多職種連携教育
模擬患者家族は外部団体(一般社団法人日本SP協会)に所属する非医療系の一般の方であり,シナリオの年齢設定に合わせた方に参加して頂いている.事前練習では,①シナリオ理解,②演技練習,③フィードバックの練習をそれぞれ2時間程度行った.2回目の練習では,授業担当の教員も加わり教育目標との整合性をとりながら演技練習を行い,その後本プログラムに参加してもらった.なお,選考の基準はオンラインでの医療面接が可能な者とした.
3.アンケート調査と評価方法本プログラム実施後,オンラインIPEに関する以下の4つのアンケート(表3~6)をオンラインで任意に回答してもらった:1)オンラインIPEの到達目標に関する7項目(①~⑦)および全体に関する3項目(⑧~⑩),2)オンラインIPEと大学講義や将来に関する4項目(①~④),3)名城IPEホームページにおける動画教材に関する4項目(①~④),および4)実施時間に関する6項目(①~⑥).また,本オンラインIPEプログラムに関する意見や感想を自由に記載してもらった.
肯定的回答 | 中間 | 否定的回答 | |||
---|---|---|---|---|---|
とてもそう思う | そう思う | どちらでもない | そう思わない | 全くそう思わない | |
①チーム医療の重要性が理解できた(学習目標3) | |||||
薬学生 | 8(50.00) | 8(50.00) | 0 | 0 | 0 |
医学生 | 1(11.11) | 8(88.89) | 0 | 0 | 0 |
②チーム医療に必要なコミュニケーションスキルが実践できた(学習目標2) | |||||
薬学生 | 1(6.25) | 9(56.25) | 5(31.25) | 1(6.25) | 0 |
医学生 | 0 | 4(44.44) | 4(44.44) | 1(11.11) | 0 |
③医師(薬学生の場合)/薬剤師(医学生の場合)の専門性を理解できた(学習目標1) | |||||
薬学生 | 6(37.50) | 8(50.00) | 1(6.25) | 1(6.25) | 0 |
医学生 | 1(11.11) | 6(66.67) | 2(22.22) | 0 | 0 |
④看護師の専門性を理解できた(学習目標1) | |||||
薬学生 | 9(56.25) | 6(37.50) | 0 | 0 | 1(6.25) |
医学生 | 4(44.44) | 4(44.44) | 0 | 1(11.11) | 0 |
⑤自分の専門的視点から意見を述べることができた(学習目標1) | |||||
薬学生 | 2(12.50) | 10(62.50) | 4(25.00) | 0 | 0 |
医学生 | 0 | 4(44.44) | 2(22.22) | 2(22.22) | 1(11.11) |
⑥他の職種の意見を尊重してコミュニケーションができた(学習目標2) | |||||
薬学生 | 3(18.75) | 11(68.75) | 1(6.25) | 1(6.25) | 0 |
医学生 | 0 | 7(77.78) | 1(11.11) | 1(11.11) | 0 |
⑦患者やその家族の視点を考慮したディスカッションができた(学習目標4) | |||||
薬学生 | 1(6.25) | 11(68.75) | 3(18.75) | 1(6.25) | 0 |
医学生 | 1(11.11) | 4(44.44) | 3(33.33) | 1(11.11) | 0 |
⑧他の医療系学部とのグループワークは,他の職種との相互理解に役立つ | |||||
薬学生 | 10(62.50) | 6(37.50) | 0 | 0 | 0 |
医学生 | 2(22.22) | 5(55.56) | 2(22.22) | 0 | 0 |
⑨今回のIPEの題材(テーマ)は,患者中心の医療/医療倫理の理解に役立つ | |||||
薬学生 | 7(43.75) | 8(50.00) | 1(6.25) | 0 | 0 |
医学生 | 0 | 8(88.89) | 0 | 1(11.11) | 0 |
⑩今回のオンラインIPEは満足した | |||||
薬学生 | 4(25.00) | 10(62.50) | 2(12.50) | 0 | 0 |
医学生 | 1(11.11) | 5(55.56) | 3(33.33) | 0 | 0 |
各値は各学部学生(薬学生16名,医学生9名)の数と全体の割合を示した(%).IPE:多職種連携教育.
本オンラインIPEの学習目標は以下の4つである4):1)自分の職業や他の人に対する自分の認識と役割の理解,2)チームのコミュニケーションのための適切な態度とスキルの習得,3)患者中心の医療とケアの重要性の理解,4)チームの一員として患者と家族のために医療を実践する方法の理解.なお,学習目標1)は項目③~⑤,2)は項目②と⑥,3)は項目①,4)は項目⑦に対応する.
項目毎に5段階で回答してもらい,肯定的な回答から順に5,4,3,2,および1とし,4と5を肯定的な回答,1と2を否定的な回答とした.なお,実施時間に関する項目では,5は長い,4はやや長い,3は丁度良い,2はやや短い,1は短いとして回答してもらった.各学部におけるそれらの割合を算出した.
4.倫理的配慮本調査は,名城大学薬学部(承認番号:2015-19)および名古屋大学医学部(承認番号:2012-0002-12)の倫理審査委員会の承認を得て実施した.手順に従って,個人情報は学生毎にデータ収集・集計者が番号によって符号化し,他者が個人を特定できないようにした.
本プログラムに関するアンケートには,薬学生16名(男:女=6名:10名),医学生9名(男:女=5名:4名),および看護学生0名が回答した.本プログラムに回答した学生全員(100%)がオンラインIPEに初受講であった.
1.オンラインIPEの到達目標(7項目)本オンラインIPEの達成目標に関するアンケート結果を表3に示した.薬学生において,「①チーム医療の重要性が理解できた」「③医師/④看護師の専門性を理解できた」「⑥他の職種の意見を尊重してコミュニケーションができた」に対して87%以上が肯定的な回答であった.それ以外の項目(②,⑤と⑦)に対しては75%以下であり,肯定的回答の割合が低かった.一方,医学生では,「①チーム医療の重要性が理解できた」「④看護師の専門性を理解できた」に対して88%以上が肯定的な回答であった.それ以外の項目(②,③,⑤,⑥と⑦)に対しては78%以下であり,肯定的回答の割合が低かった.肯定的回答の割合が低かった項目(薬学生3項目vs医学生5項目)は薬学生の方が少なく,「コミュニケーションスキル」(②63%)や「意見やディスカッション」(⑤75%や⑦75%)に関わる項目であった.
一方,「⑨今回のIPEの題材(テーマ)は,患者中心の医療/医療倫理の理解に役立つ」に対しては,いずれの学生も約90%が肯定的な回答であった.しかし,「⑧他の医療系学部とのグループワークは,他の職種との相互理解に役立つ」や「⑩今回のオンラインIPEは満足した」に対して薬学生の肯定的回答の割合は87%以上であり,医学生のそれら(⑧78%や⑩67%)よりも高かった.
2.オンラインIPEと大学講義や将来(4項目)オンラインIPEと大学講義や将来に関するアンケート結果を表4に示した.「①今回の他の医療職との連携にあたり,大学での講義・実習は役立つ」と「②今回の症例課題を行うにあたり,大学での講義・実習は役立つ」に対して薬学生の88%と94%が肯定的な回答であったが,医学生では56%と67%であった.「③今後の臨床研修に役立つ」に対してはいずれの学生も87%以上が肯定的な回答であった.また,「④将来の自分の仕事に役立つ」に対して薬学生の94%が肯定的な回答であったが,医学生では78%であった.
肯定的回答 | 中間 | 否定的回答 | |||
---|---|---|---|---|---|
とてもそう思う | そう思う | どちらでもない | そう思わない | 全くそう思わない | |
①今回の他の医療職との連携にあたり,これまでの大学での講義・実習は役立つ | |||||
薬学生 | 4(25.00) | 10(62.50) | 2(12.50) | 0 | 0 |
医学生 | 0 | 5(55.56) | 4(44.44) | 0 | 0 |
②今回の症例課題を行うにあたり,大学での講義・実習は役立つ | |||||
薬学生 | 4(25.00) | 11(68.75) | 1(6.25) | 0 | 0 |
医学生 | 1(11.11) | 5(55.56) | 2(22.22) | 1(11.11) | 0 |
③今後の臨床研修に役立つ | |||||
薬学生 | 5(31.25) | 9(56.25) | 2(12.50) | 0 | 0 |
医学生 | 2(22.22) | 6(66.67) | 1(11.11) | 0 | 0 |
④将来の自分の仕事に役立つ | |||||
薬学生 | 7(43.75) | 8(50.00) | 1(6.25) | 0 | 0 |
医学生 | 0 | 7(77.78) | 2(22.22) | 0 | 0 |
各値は各学部学生(薬学生16名,医学生9名)の数と全体の割合を示した(%).IPE:多職種連携教育.
動画教材に関するアンケートの結果を表5に示した.①~④のすべての項目に対して,薬学生の81%以上が肯定的な回答であった.医学生では,「③他の学部用に作られたビデオは,他の学部の理解に役立つ」に対して78%が肯定的な回答であった.しかし,それ以外の項目(①,②と④)に対しては67%以下であり,肯定的回答の割合は薬学生のそれより低かった.
肯定的回答 | 中間 | 否定的回答 | |||
---|---|---|---|---|---|
とてもそう思う | そう思う | どちらでもない | そう思わない | 全くそう思わない | |
①多職種連携教育に関する紹介ビデオは,今回のIPEを受講する上で役立つ | |||||
薬学生 | 2(12.50) | 11(68.75) | 3(18.75) | 0 | 0 |
医学生 | 1(11.11) | 4(44.44) | 3(33.33) | 1(11.11) | 0 |
②自学部用の事前のビデオは,患者の治療計画を作成する上で役立つ | |||||
薬学生 | 5(31.25) | 10(62.50) | 1(6.25) | 0 | 0 |
医学生 | 2(22.22) | 4(44.44) | 2(22.22) | 1(11.11) | 0 |
③他の学部用に作られたビデオは,他の学部の理解に役立つ | |||||
薬学生 | 5(31.25) | 9(56.25) | 2(12.50) | 0 | 0 |
医学生 | 1(11.11) | 6(66.67) | 1(11.11) | 1(11.11) | 0 |
④名城IPEのホームページは,チーム医療を考えることに役立つ | |||||
薬学生 | 3(18.75) | 11(68.75) | 2(12.50) | 0 | 0 |
医学生 | 1(11.11) | 5(55.56) | 2(22.22) | 1(11.11) | 0 |
各値は各学部学生(薬学生16名,医学生9名)の数と全体の割合を示した(%).IPE:多職種連携教育.
実施時間に関する結果を表6に示した.「③医療面接」の実施時間に対して薬学生の25%が「やや長い・長い」と回答しており,医学生の11%より高かった.それ以外の実施時間に対しては,「丁度良い」あるいは「やや短い・短い」と回答した薬学と医学生の割合は81%以上であった.
長い | やや長い | 丁度良い | やや短い | 短い | |
---|---|---|---|---|---|
①オリエンテーション・自己紹介 | |||||
薬学生 | 1(6.25) | 1(6.25) | 13(81.25) | 0 | 1(6.25) |
医学生 | 0 | 0 | 9(100.00) | 0 | 0 |
②グループワーク1 | |||||
薬学生 | 1(6.25) | 1(6.25) | 9(56.25) | 4(25.00) | 1(6.25) |
医学生 | 0 | 0 | 8(88.89) | 1(11.11) | 0 |
③医療面接 | |||||
薬学生 | 1(6.25) | 3(18.75) | 11(68.75) | 1(6.25) | 0 |
医学生 | 0 | 1(11.11) | 7(77.78) | 1(11.11) | 0 |
④グループワーク2 | |||||
薬学生 | 1(6.25) | 1(6.25) | 6(37.50) | 5(31.25) | 3(18.75) |
医学生 | 0 | 0 | 5(55.56) | 4(44.44) | 0 |
⑤療養計画のプレゼンテーションとフィードバック | |||||
薬学生 | 1(6.25) | 1(6.25) | 13(81.25) | 1(6.25) | 0 |
医学生 | 0 | 0 | 8(88.89) | 1(11.11) | 0 |
⑥全体の時間 | |||||
薬学生 | 1(6.25) | 2(12.50) | 11(68.75) | 2(12.50) | 0 |
医学生 | 0 | 1(11.11) | 7(77.78) | 1(11.11) | 0 |
各値は各学部学生(薬学生16名,医学生9名)の数と全体の割合を示した(%).IPE:多職種連携教育.
薬学生からは,「学部生のうちは多職種の考えや見方を知る機会が少ないのでとても良い経験になった」「インターネット接続が悪い時があり,画面が止まったり音声が途切れたりしてしまった」「他の職種が患者とどのように向き合っているかなどを学ぶことができた」「オンライン診療などが増えていく中ではこういう経験は貴重であった」「模擬患者家族に行うことでコミュニケーション能力を確認できた」などと記載していた.一方,医学生からは,「他学部の視点が知れて有意義だった」「薬学生と関わる機会はほとんどないので,貴重な機会だった」「臨床現場でも多職種連携は避けられない,しかし,現状その重要性を理解し,実践できる学生は少ないと思う」「オンラインIPEは有用であり,今後広まっていくことを期待する」などと記載していた.
薬学・医学教育などでは新型コロナウイルス感染症のパンデミックに対応して,授業・実習をオンデマンド形式やオンラインプラットフォームに移行するためのガイドラインが提案された5).Evans et al.は,専門職間の実践に関連する学生の態度と知識を改善するためのオンラインIPEの有効性を報告している6).我々は,このアプローチを応用して,対面IPEの経験に基づいた新しいオンラインIPEのプログラムを構築した.本オンラインIPEでは,対面と同様に,シナリオの患者設定を認知症としたこと,模擬患者家族は模擬患者と同様にトレーニングすれば学生の学習を強化できること7) から,模擬患者家族を使用した.厚生労働省は,最近の患者自身の医療知識が増えてきたこと,セルフメディケーションの観点から,患者参加型医療を推進している8).患者参加型医療を行うためには,単独でなく多職種の医療従事者が連携し,チームとして得た情報を理解し,患者やその家族と接する必要がある.本プログラムでは模擬患者家族を用いたこと,模擬患者家族から学生にフィードバックを行ってもらったこと,学生への振り返りや感想を促進したことから,87%以上の学生が「研修や将来の仕事に役立つ」「満足感を得られ,実践に近い教育が実施できた」と回答していた.薬学生の自由記載からも「模擬患者家族と実際に行うことでコミュニケーション能力を確認できた」などという意見があり,模擬患者家族参加型IPEの有用性が示唆された.
本オンラインIPEとは異なり以前の対面でのIPEでは,薬・医・看護学生が別々に行う医療面談と治療計画を基にしてグループ毎に行う医療面談の機会が2回あった.本オンラインIPEにおいて薬・医・看護学生が別々に行った医療面談では,他の職種学生が行っている面談の様子を直接視聴・聴取することはできたが,2回目の面談機会はなかった.そのため面談後に聞き返すことができず,1回の面談で情報を十分に収集して療養計画に集約できなかったかもしれない.この点についてはさらに検討する必要がある.
Suematsu et al.は,本オンラインIPEには以下の4つの学習目標があることを報告している4):1)自分の職業や他の人に対する自分の認識と役割の理解,2)チームのコミュニケーションのための適切な態度とスキルの習得,3)患者中心の医療とケアの重要性の理解,4)チームの一員として患者と家族のために医療を実践する方法の理解.本アンケート調査において,学習目標1)は項目③~⑤,2)は項目②と⑥,3)は項目①,4)は項目⑦に対応する.薬学生は「③医師/④看護師の専門性を理解できた」に対して87%以上が肯定的に回答していたこと,自由記載の「他の職種が患者とどのように向き合っているかなどを学ぶことができた」から,「医師は診断に基づく治療方針,患者の日常生活による治療方針を提案する」,「看護師は服薬が及ぼす心理的影響,日常生活・心理社会面ケアを提案する」ことが明確になったものと示唆される.一方で,「②チーム医療に必要なコミュニケーションスキルが実践できた」「⑤自分の専門的視点から意見を述べることができた」「⑦患者やその家族の視点を考慮したディスカッションができた」に対して肯定的回答の割合が62~75%であり,他の目標より低かった.これは,「チーム医療の重要性」「他職種の専門性の理解」や本プログラムで「他の職種との相互理解に役立つ」に対して87%以上が理解しており,十分に深まったと考えられるが,実践できたと自信を持って回答するまでには至らなかったものと示唆される.本プログラムは短時間完結型であり,受講した学生全員(100%)が初回であったことから,学部間での障壁を乗り越え,各学部の専門性を発揮して詳細にディスカッションするグループワークの時間が短かったかもしれない.事実,対面でのIPEでは,グループでディスカッションする機会が3回(グループワーク2回と資料作成)あったことから3),本オンラインIPEよりは長かったこと,本オンラインIPEではグループワークの実施時間が「短い・やや短い」と回答した薬学生の割合は31~50%であったことからも支持される.したがって,グループワークの時間を長くするか,その機会を増やすなどをする必要があるかもしれない.一方,医療面接の時間が長いと回答した薬学生の割合は25%であった.医学生や看護学生は2~3名が交代で約8分間の医療面接を実施するのに対して,薬学生は1名で約8分間実施しなくてはならなかった.そのため,実施時間が長く感じられたものと示唆される.短時間完結型プログラムでは,受講しやすい利点もあるが,学生の習得度や学習到達目標の達成率の向上などの学習効果を十分に得るには,人数を考慮した時間配分(スケジュール)を図る必要がある.
コミュニケーションスキル,専門的視点からの意見,および患者の視点を考慮したディスカッションにおいては学部間で差が認められた.特に,薬学生は否定的な回答がほとんど無かったが,医学生では多かった.したがって,1グループ当たりの医学生と薬学生の人数による違いにより,討議時間やグループ内で合意を形成するまでの時間の不足をより強く感じていた可能性もある.また,名城IPEのホームページにおける動画教材に関するアンケートでは,薬学生は補助教材がIPEの受講,他職種の理解,およびチーム医療に役立ったと回答していたが,医学生では否定的回答は少ないものの肯定的回答は薬学生のそれらより低かった.薬学生の事前自己学習では,名城IPEのホームページの動画教材を用いて自己学習することを義務化しているが,医学生には自己学習を義務化しておらず,動画教材を事前に見ておくことの案内のみであった.本IPE受講において,薬学生は選択科目であり,医学生は必須科目であったことから,受講者のモチベーションにバイアスがあった可能性がある.今後は,どれくらいの学生がどれくらいの時間,視聴していたかなどを調査し,受講者が学習目標を達成できるように事前学習の内容の統一化をする必要がある.看護学部では独自のレポートなどで教育効果を評価しているため,今回薬学生のそれを直接比較できなかった.また,今回のアンケート項目と類似する評価項目の解析結果がなかったため,間接的にも比較できなかった.今後は受講者全員から回答が得られるようにして,より詳細に解析し,オンラインIPEの課題などを明確にする必要がある.
終了後のアンケートの自由記載では,他職種の考えや見方を知る貴重な機会であったこと,オンライン診療にも対応できる重要な経験であったことが,両学部から挙げられた.これらの記載から,臨床現場での多職種連携が避けられない状況であり,オンライン診療のあり方を学ぶ機会であったものと示唆され,新たな有用性も見出された.一方,「④将来の自分の仕事に役立つ」に対して「とてもそう思う」と回答した医学生は0名,薬学生は約半数であり,学部間に大きな乖離があった.これは,薬学生は事前学習において医師や看護師への情報提供について学ぶ機会が多かったが,医学生はこうした事前学習を義務化していなかったことによるかもしれない(表2).本IPEをより良く発展させていくためにはこうした乖離の改善が必要であるため,共通した内容の事前学習の実施や,その内容を確認するなどが必要である.本アンケート調査のうち,以前の対面でのIPEで実施したアンケートと同じ項目は13個あり,否定的な回答は4項目(7%未満)であった.以前の対面IPEでは否定的な回答が11項目(1~17%)あり3),以前の対面IPEの方が多かった.このようにオンラインIPEでのアンケートにおいて否定的な回答は少なく,特に,名城IPEホームページでの動画教材に関する項目には否定的な回答はなかった.したがって,オンラインで実施したことが否定的な回答の要因とはならないと考える.
今回のオンラインIPEの実施中に解決すべきいくつかの問題点もあった.例えば,インターネット接続などの通信環境やオンラインプラットフォームを利用するための技術的な問題に対処すること,受講者のトラブルやディスカッションルームの運用などに時間がかかったこと,対面でのグループワークにおけるファシリテーションとは異なり,教員からディスカッションを促進する場面が多くなったこと,模擬患者家族もオンラインでのIPEを経験しておらず,教員以上に学生にフィードバックすることへの困難を経験したこと,などが挙げられる.これらの問題は逐次解決しながら行い,円滑に実施できるシステムが構築された.対面での本プログラムは,薬学部以外の医療系学部および医療施設を有さない大学にとって,新しい薬学教育に対応したIPEの導入であり,他大学他学部との連携と模擬患者参加型の組み合わせによって短時間完結型プログラムでも有用であることが示されている3).対面で実施したIPEのアンケート結果3) と比較したところ,いずれの方法でも学習目標の達成率は高く,本オンラインIPEでも学習目標は達成できたものと考えられる.しかし,対面でのIPEは5年間でのアンケート調査の結果であり,単年度のオンラインIPEのそれらと単純に比較することはできない.したがって,両者の教育効果が同じであるかどうかは,今回のアンケート結果だけでは明確でないため,オンラインIPEの実施を重ねながら結論付けなければならない.
今後オンライン診療などが増えていく中で,オンラインIPEは学生にとっても貴重な経験となると期待される.本オンラインIPEの構築には,教員が事前にWeb会議を通じて何度も検討することが不可欠であり,IPEチームとしてより高いレベルの専門家間の協働が必要である.
本取組および本論文の作成には,名城大学 2020年度および2021年度「学びのコミュニティ創出支援事業の支援」のもと実施されました.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.