Japanese Journal of Pharmaceutical Education
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Practical Article
A case report on utilizing text mining for developing disaster medical education
Hidenori SagaraSeiji EyaYosuke KurokawaHiroshige Ono
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2022 Volume 6 Article ID: 2021-023

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抄録

災害医療において,大学における教育は充実しているとは言い難い.教育内容についての理解度を熟知することも難しい.そこで,災害医療に対して学生がどのように理解し,認識しているかを視覚的に把握することを目的に,質的データ分析の一つであるテキストマイニングを用いて検討した.学生の自由記述をテキストデータに変換して,重要キーワードリストとキーワードコンセプトマップを作成し,学生の理解度を視覚した.キーワードコンセプトマップを詳細に読み解くことにより,学生の理解,ならびに知識と認識の繋がりの概略を把握することが可能と考えられた.学生の考えの全体像を,各キーワードの関連性と共に理解できることは,学生教育において発展性を期待できるツールの一つになると考えられる.テキストマイニングを用いた質的データの可視化は,薬学教育において学生の理解度を把握するための有益な方法になると考えられた.

Abstract

Pharmaceutical colleges struggle with inadequate instruction in disaster medicine, making it difficult to determine how much students understand of the educational content. Therefore, this study collected and qualitatively analyzed data with text mining to visually grasp student responses. With text mining, the students’ personal descriptions were converted into text data, creating keyword lists and concept maps to visualize the degree of comprehension and knowledge. By analyzing the relevant keywords from the concept maps, it was possible to gain an overview of the students’ understanding and develop a tool to facilitate disaster medicine in pharmaceutical education. The visualization of qualitative data using text mining was a useful method for examining the comprehension levels of pharmacy students.

目的

災害医療において,薬剤師が活躍する領域はさらに拡大すると推察される.これまでの本邦における災害時への病院薬剤師および保険薬剤師の活躍16) が評価されると共に,薬学部においては災害医療に関する教育の充実がより一層求められる.

平成25年改訂薬学教育モデル・コアカリキュラムには,F.薬学臨床の【④災害時医療と薬剤師】において,「前)災害時医療について概説できる(F-(5)-④-1)」,「災害時における地域の医薬品供給体制・医療救護体制について説明できる(F-(5)-④-2)」,「災害時における病院・薬局と薬剤師の役割について説明できる(F-(5)-④-3)」とのSBOsが記載されている.また,B.薬学と社会の【①地域における薬局の役割】において,「災害時の薬局の役割について説明できる(B-(4)-①-5)」とのSBOsが記載されている.すなわち,災害医療の教育は,大学と医療現場が一体となって学生に教育していく項目とされている.しかしながら,大学と医療現場において,災害医療の教育を実施している報告は幾つかある715)

そこで,山口東京理科大学薬学部では,災害薬事研修(PhDLS: Pharmacy Disaster Life Support)インストラクターと,PhDLS世話人で実災害対応経験(国際緊急援助隊など)を有する教員とで,災害教育の講義と災害時想定演習課題を作成し,災害医療に対する学生教育の実施を試みた.災害時想定演習課題は,発災時に薬剤師として考慮すべきことに主眼を置いて考えさせた.教科科目の理解度を把握する上で,講義や演習後の確認試験だけでは限界がある.

本研究の目的は,災害医療の講義と災害時想定演習課題を学習することにより,災害医療に対して学生がどのような知識と繋がりをもって理解し,認識しているかをテキストマイニングの手法を使って視覚的に把握することである.

方法

災害医療に関する教育は,医療安全学IIの科目内において講義1コマ(90分)と演習1コマの2コマで実施した(表1).講義は災害医療に関する内容と災害薬事に関する内容を中心に講義した.演習時のSmall group discussion(SGD)の課題は,講義終了後に配布した(図1).演習のSGD開始までに指定の3つの設問に答えるよう指示し,演習のSGD当日に追加課題(設問1つ)を提示した.学生は,SGDにおいて4つの設問に対して考え,各設問あたりスライド1枚(計4枚:課題プロダクト)に纏めて教員に提出させた.各SGD班の課題プロダクトは,演習内の指定の時間に教員へメール添付で提出させ,全SGD班のプロダクト提出を確認した後,直ちに学生全員にメール配信することにより課題プロダクト(PDF)を共有した.その後,教員による課題解説を実施した.演習終了後に課題を提示して(図2),7日後までにWordファイルでメールにて教員まで提出させた.なお,演習終了後の課題については,演習の評価に加味しないことを説明し,必要に応じて学会・論文等で匿名性を厳守して資料として使用することを提示し説明した.演習終了後の課題は,資料として使用することに同意した学生のみ任意で提出することとした.講義および演習に参加した学生は,2020年度3年次後期科目の履修学生107名,演習のSGD班は7~8名を15班に分けて実施した.

表1 講義およびSGDのスケジュール
講義(1コマ) 災害医療に関する内容,演習課題(SGD用)の提示
2日後 2日間の課題学習期間
演習SGD(1コマ) 演習追加課題(SGD当日)の提示
演習時間内にて課題プロダクトの提出(各課題を各班スライド1枚に纏める,計4枚)
教員による課題の解説
演習後課題の提示(理解度調査用)
7日後 演習後課題の提出

(テキストマイニング)
図1

演習課題(SGD用)および演習追加課題(SGD当日)

図2

演習後課題

演習終了後に提出された課題は,テキストデータに変換して質的データ分析の一つであるテキストマイニングの手法を用いて分析した.分析には,テキストマイニングソフトの「トレンドサーチ2015(株式会社社会情報サービス)」を使用した.テキストマイニングの分析には,キーワードアソシエイター機能により,重要キーワードリストを作成し重要度の高い順(昇順)に出力した.さらに,コンセプトマッパー機能により,スプリングモデルシミュレーションをして,キーワードの関連性の強弱から意味のあるまとまりとして平面上にマッピングした(図345).キーワードコンセプトマップは,関連度の高い単語は近くに,関連度の低い単語は離れて配置される.なお,テキストマイニングの分析に用いた単語の品詞のうち,「動詞」「副詞」「数詞」「連体詞」は除外した.

図3

演習後課題(問1)のキーワードコンセプトマップ ~災害医療に対して薬剤師はどう立ち向かえば良いか~

図4

演習後課題(問2)のキーワードコンセプトマップ ~医薬品を医療従事者や患者へ適切に届けるためにはどうすれば良いか~

図5

演習後課題(問3)のキーワードコンセプトマップ ~医療情報を医療従事者や患者へ適切に届けるためにはどうすれば良いか~

結果

災害医療の教育において,履修学生107名中102名より演習終了後に任意課題が提出された(提出率:95.3%).

テキストマイニングの分析に使用することができたデータは,演習後課題の問1~3において102名であった(所得データ有効使用率:100%).

演習後課題の重要キーワードリストにおいて,問1~3の上位30語について表2に示した.順位は,文書群の中に含まれるキーワードの重要性を計量的に表した重要度の数値を昇順に並べて示した.キーワードの出現頻度は,102名のテキストデータ中に出てくる語句の回数として示した.演習後課題の問1~3のキーワードコンセプトマップは,図35に示した.キーワードコンセプトマップにおいて,重要キーワードリストの単語との関連から読み取れる語群をA~K(問1:A~D,問2:E~G,問3:H~K)にグループ化した.

表2 演習後課題の問1~3における重要キーワードリスト(上位30語)
順位 (問1) (問2) (問3)
キーワード 重要度 出現頻度 キーワード 重要度 出現頻度 キーワード 重要度 出現頻度
1 災害 4.55 534 3.48 998 情報 4.65 689
2 4.50 422 医療 3.31 262 災害 3.34 377
3 薬剤師 3.63 440 災害 3.30 442 患者 3.32 227
4 被災 3.57 259 必要 3.28 355 3.19 95
5 医療 3.16 382 3.17 133 従事者 2.89 135
6 患者 3.10 223 患者 3.04 182 EMIS 2.82 86
7 支援 2.80 99 情報 2.98 110 医療 2.52 269
8 必要 2.69 210 型支援 2.70 69 システム 2.35 105
9 現場 2.61 100 適切 2.54 124 現場 2.23 63
10 対応 2.28 76 供給 2.38 215 2.22 50
11 医師 2.19 105 機関 2.36 92 必要 2.17 175
12 2.14 91 提供 2.30 71 共有 2.15 107
13 看護師 2.05 66 現場 2.28 59 提供 2.08 96
14 チーム 2.04 62 薬剤師 2.27 115 大切 2.04 49
15 活動 1.92 90 無い 2.04 112 伝達 2.03 58
16 知識 1.91 63 従事者 2.02 73 無い 2.00 80
17 提供 1.83 68 重要 2.00 57 機関 1.96 87
18 役割 1.81 42 地域 1.98 40 適切 1.95 99
19 1.75 92 方法 1.84 64 チーム 1.86 47
20 行動 1.69 52 備蓄 1.83 82 避難所 1.77 46
21 無い 1.69 102 連携 1.82 47 掲示板 1.74 21
22 治療 1.68 42 処方 1.73 35 被災 1.69 110
23 従事者 1.67 60 自治体 1.72 58 正しい 1.65 28
24 管理 1.67 74 被災 1.70 50 重要 1.61 53
25 避難所 1.66 93 把握 1.70 72 1.60 47
26 業務 1.66 57 支援 1.65 49 状況 1.55 89
27 大切 1.65 65 手帳 1.60 28 機能 1.52 45
28 情報 1.56 70 薬局 1.58 55 混乱 1.51 46
29 不安 1.56 29 薬剤 1.57 32 対応 1.51 42
30 活躍 1.52 36 被災地 1.57 68 発信 1.51 26

考察

質的データ分析の一つであるテキストマイニングの手法は,学生教育や臨床教育の場面で効果判定の手法として用いられている1215).本研究では,災害医療の学生教育において学習後の理解および認識の把握を目的にテキストマイニングの手法を活用した.なお,教育した内容を学生が正しく理解したかを検証する方法として,本論には記載はしていないが,期末試験において解答させることによる評価も実施した.

本研究は,キーワードアソシエイター機能により重要キーワードリストを作成し,コンセプトマッパー機能によりキーワードコンセプトマップを作成して,設問への理解および認識の把握を試みた.重要キーワードリストの重要度は,設問への回答を記載する際に,文書コンセプトを作成する各キーワードの重要性を計量的に表した値である.重要度の数値は,キーワードの出現頻度とバラツキの度合いによって計算され算出される.従って,キーワードの重要度の順位と,出現頻度は必ずしも一致しない.キーワードコンセプトマップは,分析対象の文書群全体の重要キーワードをマッピングさせて,キーワード間の関連のイメージを把握するために,文書群全体が意味する概念(コンセプト)を可視化する方法である.関連性の強い重要キーワードはより直線的に連結して表記され,重要キーワードに関連する語句はキーワードから派生するように表記される.また,キーワード間の直線の長さは関連度の強弱を表している.

演習後課題の問1では,災害医療における薬剤師職能についての概念を問う設問を提示した.問1において,重要キーワードリストとキーワードコンセプトマップから,薬剤師は被災地において薬に関わる様々なことに関与し,災害の対応において患者とのコミュニケーションを大切にして活動することが重要と解釈することができた.キーワードコンセプトマップのAの領域において,「災害」から「医療」,「チーム」の語句が派生して連結し,「対応」から「連携」という語句が派生している.加えて,Bの領域では「薬剤師」から「看護師」,「医師」という語句が派生して連結した.このことは,講義の中で災害医療の原則として,「CSCA(C: Command & Control, S: Safety, C: Communication, A: Assessment)」の共通コンセプトのもとに活動することが重要であると提示していたことに起因すると考えられる.災害医療においては,Command & Controlを軸としたチーム医療の中で薬剤師職能を発揮するということが,学生の理解と認識に備わったと考えられる.また,Dの領域では「薬」から派生するキーワードが多岐に広がっている.「薬」の「管理」「相談」「提供」「供給」だけでなく,「公衆衛生」も「薬」と関連付けられている.このことから,災害医療の薬剤師が果たす役割において学生が公衆衛生も責務の一つであると考えられていると解釈することができる.

演習後課題の問2では,医薬品の適切な供給について問う設問を提示した.問2において,重要キーワードリストとキーワードコンセプトマップから,医療機関や医療従事者への医薬品の供給には,医薬品卸を基点とした提供体制が適切と解釈することができた.キーワードコンセプトマップのEの領域において,「薬」の「提供」に関しては「地域」での「備蓄」に基づく「管理」も必要であること,「避難所」においては「(お薬)手帳」の情報から適正な薬の供給を把握することが必要と考えていると解釈することができた.「卸」から「自治体」や「連携」,「保管」との語句が派生していることから,行政の関与も必要と捉えていることが考えられた.また,Fの領域において,「医療」から「Pull(型支援)」や「Push(型支援)」の語句が派生していることから,支援方法にも多様性があることを理解していることが考えられた.一方,Gの領域では,「従事者」の語句から「情報」や「患者」等の語句が派生している.このことから,医療従事者に適切に医薬品や情報を届けることを考察していることを捉えることができた.しかしながら,具体的な独自性のあるキーワードを見出すことは出来なかった.災害医療の現状において,卸を基点とした医薬品供給には限界があり,自治体や災害拠点病院等の備蓄医薬品だけでも限界がある.こうした問題をどのように解決すべきかのヒントが,学生から出てくるような教育を促していくことが今後の教員側の課題と考えられた.

本研究において,災害医療に関する学生のテキストデータから,テキストマイニングの手法を用いて学生が現状においてどのように理解し,認識しているかを視覚的に把握することが可能と考えられた.学生の考えの全体像を,各キーワードの関連性と共に理解できることは,学生教育において発展性を期待できるツールの一つになると考えられる.テキストマイニングを用いた質的データの可視化は,薬学教育において学生の理解度を把握するための有益な方法になると考えられた.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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