Japanese Journal of Pharmaceutical Education
Online ISSN : 2433-4774
Print ISSN : 2432-4124
ISSN-L : 2433-4774
Original Article
A survey of students’ perceptions of online classes by learning domain for first to fourth-year pharmacy students
Tomohisa YasuharaYuka SakaTaro KushihataMasahiro UedaMisa NagataTomomichi Sone
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2022 Volume 6 Article ID: 2021-038

Details
抄録

COVID-19の感染拡大により始めたオンライン教育は我々に新たな教育上の選択肢を与えた.しかし,オンライン教育の学生からの評価については丁寧な調査と分析を行う必要がある.本研究では,2020年度を通して,様々なオンライン授業及びCOVID-19流行下での対面型の授業を経験した摂南大学薬学部の1~4年生にアンケート調査を行い,特定の科目や学年に限らない総論的な薬学部生のオンライン授業への評価を調査した.アンケートは2021年3月に無記名方式でGoogleフォームを用いて行い,1~4年生それぞれ,123人(53%),128人(62%),90人(41%),62人(29%)から回答を得た.薬学生のオンライン授業への総論的な評価は,学習領域によって捉え方が大きく異なっていることが明らかとなった.特に,知識領域の学習では対面型よりも高い支持と自己効力感があることも示唆された.今後は領域や目標,学習者の属性に最適化された,オンライン授業も含めた授業デザインを検討する必要がある.

Abstract

Online education, bolstered by the spread of COVID-19, has provided a new educational option. First, however, student evaluation of online education must be carefully studied and analyzed. In this study, a questionnaire was given to first to fourth-year students of the Setsunan University Faculty of Pharmaceutical Sciences who had experienced online and face-to-face classes amidst the COVID-19 pandemic throughout the 2020 academic year. The purpose was to investigate their evaluation of online classes in general terms, not limited to specific subjects or grades. The questionnaire was conducted in March 2021 using a Google form anonymously, with 123 (53%), 128 (62%), 90 (41%), and 62 (29%) responses obtained from first to fourth-year students, respectively. The results revealed that the pharmacy students’ overall evaluation of the online classes differed greatly depending on the learning domain, particularly the knowledge domain. The results also suggested higher support and self-efficacy for online learning than face-to-face classes. In the future, it will be necessary to consider lesson designs, including online lessons, that are optimized for the learning domain, objectives, and learner attributes.

緒言

2020年度は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により,大学教育の多くの部分がオンライン化された.手探り状態で始めたオンライン教育ではあったが感染状況や各大学の方針に合わせて,オンライン授業と対面型の授業を織り交ぜながら,2020年度の薬学部の教育を終えることが出来た.それらの経験は,我々にオンラインも学習方略となり得るという新たな選択肢と経験を与えた.その効果及び学生に与えた影響,学生からの新たな方略に対するニーズについて,丁寧な調査と分析を行う必要がある.

COVID-19の流行により急遽始めた対面型授業の代替方法にも様々な方法があり,それぞれ長所と短所があり,学生の受け止め方も異なると考えられる.それらの方法ごとに,どのような教育目標に対してどの方法が適しているかを明らかにする必要があるが,オンライン授業の定義も曖昧であるのが現状である.相場1) は,現在行われている授業を,オンライン性と同期性の有無により,I型:対面型授業(オフライン・同期),II型:リアルタイム授業(オンライン・同期),III型:オンデマンド授業(オンライン・非同期),IV型:通信教育(オフライン・非同期)の4つの類型に分類している.本論文においてもこの類型化に準じて対面型授業の代替方法を分類し議論をすることとする.田縁2) は小学校の,安倍3) は大学生の英語教育において,オンデマンド授業では,繰り返し動画を見ることを利点として上げている一方で,質問をすることができないことを問題点として指摘している.大谷4) はリアルタイム授業において,オンラインデバイス上では出席状態であるのに,指名されても返事がないなど実際には不在である学生に対する他の学生が抱く不公平感が強かったと報告している.医学教育の領域では,三苫ら5) が対面型授業よりもオンデマンド授業のほうが理解しやすく学びやすいと答えており,オンデマンド動画を約1.5倍の時間をかけて見ていることがその要因の一つとして報告している.一方で,授業ではないが藤野ら6) は,オンライン会議よりも対面型会議のほうが議論内容の記憶量が多く理解度が高いことを示す興味深い実験を報告している.

このように,様々な領域において新たに取り組まれたオンライン授業の分析が進んでいるが,その報告の多くが,単一科目での調査によるものであり,学生が受けた授業の準備状況,担当教員のICTスキルによって結果が左右されることは否めない.オンライン授業全体を学生がどのように評価しているかは,複数の多様な方法,多様な質のオンライン授業を経験した学生の総論的な調査が必要となる.

本研究では,2020年度全体を通して,様々なオンライン授業及びCOVID-19流行下での対面型の授業を経験した摂南大学薬学部の1~4年生にアンケート調査を行い,特定の科目や学年に限らない総論的な薬学部生のオンライン授業への評価を調査する.

方法

1.アンケート実施方法

Googleフォームにて,1~4年生の学生を対象として匿名アンケートを行った.アンケートへの回答依頼は,大学の学生向け連絡システムにより教員から行った.回答期間を2021年3月23日~30日とし,期間中に2回の再案内を,対象とするすべての学生に同じ方法で行った.アンケート内容は図1に示すものを基本としたが,学年によって該当する領域に関わる授業の有無が異なるため,各学年用のGoogleフォームを作成し,学年ごとに案内を送った.また,各学習領域が何を指すのかを明確にするため,それぞれの学年で該当する科目名を具体的に併記した.例えば,1年生では,「知識修得を目的とする学習について」(有機化学I,薬品分析学,生化学I,生理解剖学IIなど),と記載した.「グループでのディスカッションや合意形成を目的とする学習について」はテーマについて意見を出し合い,必ずしも一定の正解が存在しない内容に関するプロダクト作成を想定した問題解決型学習などを,「グループでの知識の活用や応用を目的とする学習について」は基礎知識の活用によって一定の正解が存在する問題演習に取り組むチーム基盤型学習などを想定している.前述のように,それぞれの項目に紐づく各学年の科目を列挙しているので,学生は混乱なく回答できると思われる.なお,知識修得を目的とする学習講義科目では,1~4年生のすべての学生がオンデマンド型,リアルタイム型,対面型を体験している.技能の修得を目的とした実験実習では,1~3年生とも,対面型の実習を行っており,オンラインで実習の代替を行っていない.ディスカッションにおいては,1年生はオンラインによるディスカッションと対面型のディスカッションの両方を経験している.2~3年生は,2020年度はオンラインによるディスカッションのみを経験しているが,前年度までの授業にて対面型のディスカッションを経験している.「薬学臨床の基礎修得を目的とする実習科目」は実務実習事前学習を指しているため,対象者は4年生のみである.

図1

アンケート(各学年によって細部の変更あり)

アンケート中で聞いている,「教材・課題提供型による実施【プリント,パワーポイント,PDFのみの提供】」はオンラインによる資料の提供の場合も含めて,相場の類型による通信教育(オフライン・非同期)に当てはめている.同様に,「教材・課題提供型による実施【パワーポイント+音声や動画など】」はオンデマンド授業(オンライン・非同期),「リアルタイムオンライン型による実施【一方向の講義形式,リアルタイム配信形式】」はリアルタイム授業(オンライン・同期),「対面による実施」は対面型授業(オフライン・同期)を想定している.また,参加型授業であるディスカッションはこれらの4つの類型から独立させて,「オンラインによるディスカッション」と「対面によるディスカッション」で分けた.統計学的解析は,JMP Pro 14.1で行った.なお,一部の解析において多重比較を行っていることを踏まえて,p < 0.01を目安に結果に対する価値判断を行った.

2.倫理的配慮

本アンケートは,学生本人の自由な意思での参加が可能である回答者の個人情報を収集しない匿名アンケートであること,回答内容が成績に影響することがないことを周知して行った.また,一斉配信による案内以外のアンケートへの回答の促しは行っていない.本研究は,摂南大学の人を対象とする研究倫理審査委員会の承認を経て行った(承認番号:2021-018).

結果

1~4年生それぞれ,123人(53%),128人(62%),90人(41%),62人(29%)から回答(回収率)を得た.それぞれの領域ごとの結果を表14に示した.

知識修得を目的とする学習に関しては,オンデマンド授業が高い支持を集め,次いで対面型授業となった.事前学習,事前準備への取り組みやすさでは,リアルタイム授業と対面型授業に大きな差は見られなかった.復習のしやすさではオンデマンド授業が圧倒的に高い支持を集めているが,リアルタイム授業は低い支持となった.質問のしやすさでは対面型授業が最も高い支持を得ており,同じオンライン方式であっても,オンデマンド型よりもリアルタイム型のほうが質問をしやすいとの結果になった.自分の実力を高められると感じられるものは,オンデマンド授業と対面型に大きな差は見られなかった一方で,リアルタイム授業は低い結果となった(表1).

表1 知識修得を目的とする学習に関するアンケート結果

χ2 test

ディスカッションを伴う授業に関しては,合意形成を目的とする学習,知識の活用や応用を目的とする学習を問わず,事前学習への取り組みやすさ,学習時間の確保のしやすさ以外は,対面によるディスカッションへの支持が高かった.特に,コミュニケーションの取りやすさに関しては対面への評価が極めて高い結果となった(表2).

表2 ディスカッションを伴う学習に関するアンケート結果
「まったく同意しない」1~5「強く同意する」 p
1 2 3 4 5
グループでのディスカッションや合意形成を目的とする学習について n = 213
自分に向いていると感じる.            
・オンラインによるディスカッション 31 58 63 45 16 <0.001
・対面によるディスカッション 12 23 59 86 33
事前学習や事前準備に取り組みやすい.            
・オンラインによるディスカッション 25 42 63 63 20 <0.001
・対面によるディスカッション 5 42 83 52 31
復習しやすい.            
・オンラインによるディスカッション 32 73 65 32 11 0.069
・対面によるディスカッション 18 62 81 33 19
学習時間を確保しやすい.            
・オンラインによるディスカッション 26 53 58 55 21 0.881
・対面によるディスカッション 25 46 64 53 25
質問しやすい.            
・オンラインによるディスカッション 26 43 57 52 35 <0.001
・対面によるディスカッション 10 22 43 87 51
自分の実力を高められる.            
・オンラインによるディスカッション 20 49 74 56 14 <0.001
・対面によるディスカッション 8 18 61 89 37
コミュニケーションを取りやすい.            
・オンラインによるディスカッション 47 61 38 40 27 <0.001
・対面によるディスカッション 7 18 23 83 82
資料やプロダクトなどの作成がしやすい.            
・オンラインによるディスカッション 46 48 48 47 24 <0.001
・対面によるディスカッション 9 24 49 82 49
グループでの知識の活用や応用を目的とする学習について n = 185
自分に向いていると感じる.            
・オンラインによるディスカッション 28 47 55 44 11 <0.001
・対面によるディスカッション 10 21 65 63 26
事前学習や事前準備に取り組みやすい.            
・オンラインによるディスカッション 19 43 69 46 8 0.096
・対面によるディスカッション 8 40 78 43 16
復習しやすい.            
・オンラインによるディスカッション 23 54 46 52 10 <0.001
・対面によるディスカッション 14 46 88 30 7
学習時間を確保しやすい.            
・オンラインによるディスカッション 17 42 47 60 19 0.053
・対面によるディスカッション 18 38 72 41 16
質問しやすい.            
・オンラインによるディスカッション 22 43 46 54 20 <0.001
・対面によるディスカッション 9 16 48 68 44
自分の実力を高められる.            
・オンラインによるディスカッション 14 40 61 49 21 0.002
・対面によるディスカッション 4 20 62 66 33
コミュニケーションを取りやすい.            
・オンラインによるディスカッション 33 46 41 51 14 <0.001
・対面によるディスカッション 5 16 38 67 59

Fisher’s exact test

技能の修得を目的とした実験実習の『手技』に関する学習では,事前学習や復習のしやすさ,学習時間の確保のしやすさなどはオンラインによる方法と変わりがない結果となったが,対面であることが,質問もしやすく,実力を高める方法であるとの認識を強く持っており,自分に向いた方法であると感じていることが明らかとなった(表3).

表3 実習における手技の学習に関するアンケート結果
「まったく同意しない」1~5「強く同意する」 p(vs対面)
1 2 3 4 5
技能の修得を目的とした実験実習の『手技』について n = 341
自分に向いていると感じる.            
・パワーポイント+音声や動画など(III型) 38 102 109 71 21 <0.001
・一方向の講義形式,リアルタイム配信形式(II型) 48 81 126 74 12 <0.001
・対面による実施(I型) 28 29 81 143 60
事前学習や事前準備に取り組みやすい.            
・パワーポイント+音声や動画など(III型) 36 79 119 90 17 0.192
・一方向の講義形式,リアルタイム配信形式(II型) 46 80 131 74 10 0.002
・対面による実施(I型) 30 58 130 98 25
復習しやすい.            
・パワーポイント+音声や動画など(III型) 45 78 117 80 21 0.531
・一方向の講義形式,リアルタイム配信形式(II型) 50 90 120 71 10 0.575
・対面による実施(I型) 48 76 128 63 26
学習時間を確保しやすい.            
・パワーポイント+音声や動画など(III型) 33 74 118 84 32 0.859
・一方向の講義形式,リアルタイム配信形式(II型) 39 78 117 88 19 0.122
・対面による実施(I型) 31 79 106 88 37
質問しやすい.            
・パワーポイント+音声や動画など(III型) 44 114 123 45 15 <0.001
・一方向の講義形式,リアルタイム配信形式(II型) 42 89 108 79 23 <0.001
・対面による実施(I型) 20 31 77 119 94
自分の実力を高められる.            
・パワーポイント+音声や動画など(III型) 45 76 134 73 13 <0.001
・一方向の講義形式,リアルタイム配信形式(II型) 44 68 144 66 19 <0.001
・対面による実施(I型) 19 28 91 120 83

Fisher’s exact test

薬学臨床の基礎修得を目的とする実習科目に関しては,4年次からの回収率が29%と低かったため,結果の解釈に慎重になる必要があるが,以下の傾向が見て取れた.『知識』の学習については,オンデマンド授業と対面型を好み,実力を高めるに関してもオンデマンド授業と対面型を同等に評価している結果となった.一方で,予習・復習のしやすさ,学習時間の確保のしやすさに関してはオンデマンド授業の方が良いと感じていることがわかった.質問のしやすさについては対面型授業への支持が高かった.『手技』の学習については,復習のしやすさ,学習時間の確保のしやすさはオンデマンド授業が支持されたが,質問のしやすさ,実力を高めるかについては対面型授業に高い評価が集まった(表4).

表4 実務実習事前学習に関するアンケート結果
「まったく同意しない」1~5「強く同意する」 p(vs対面)
1 2 3 4 5
薬学臨床の基礎修得を目的とする実習科目の『知識』について n = 62
自分に向いていると感じる.            
・パワーポイント+音声や動画など(III型) 3 5 15 26 13 0.642
・一方向の講義形式,リアルタイム配信形式(II型) 3 12 25 19 3 0.032
・オンラインによるディスカッション 7 14 25 15 1 <0.001
・対面による実施(I型・講義) 1 4 20 28 9
事前学習や事前準備に取り組みやすい.            
・パワーポイント+音声や動画など(III型) 1 9 11 28 13 0.002
・一方向の講義形式,リアルタイム配信形式(II型) 3 17 25 14 3 0.804
・オンラインによるディスカッション 6 19 24 12 1 0.281
・対面による実施(I型・講義) 2 14 24 20 2
復習しやすい.            
・パワーポイント+音声や動画など(III型) 2 4 12 26 18 <0.001
・一方向の講義形式,リアルタイム配信形式(II型) 9 17 26 7 3 0.264
・オンラインによるディスカッション 11 25 19 7 0 0.022
・対面による実施(I型・講義) 5 14 27 15 1
学習時間を確保しやすい.            
・パワーポイント+音声や動画など(III型) 2 5 13 27 15 0.013
・一方向の講義形式,リアルタイム配信形式(II型) 5 8 24 21 4 0.802
・オンラインによるディスカッション 10 13 22 13 4 0.639
・対面による実施(I型・講義) 5 12 22 17 6
質問しやすい.            
・パワーポイント+音声や動画など(III型) 8 23 18 12 1 <0.001
・一方向の講義形式,リアルタイム配信形式(II型) 6 24 23 7 2 <0.001
・オンラインによるディスカッション 6 16 21 13 6 0.168
・対面による実施(I型・講義) 4 7 22 17 12
自分の実力を高められる.            
・パワーポイント+音声や動画など(III型) 3 7 27 21 4 0.353
・一方向の講義形式,リアルタイム配信形式(II型) 4 10 37 11 0 <0.001
・オンラインによるディスカッション 5 10 31 14 2 0.005
・対面による実施(I型・講義) 2 4 20 28 8
薬学臨床の基礎修得を目的とする実習科目の『手技』について n = 62
自分に向いていると感じる.            
・パワーポイント+音声や動画など(III型) 3 12 15 23 9 0.244
・一方向の講義形式,リアルタイム配信形式(II型) 3 17 24 16 2 <0.001
・オンラインによる双方向性のある解説 5 18 22 16 1 <0.001
・対面による実施(I型・実習) 1 5 15 26 15
事前学習や事前準備に取り組みやすい.            
・パワーポイント+音声や動画など(III型) 2 7 16 22 15 0.169
・一方向の講義形式,リアルタイム配信形式(II型) 3 21 22 13 3 0.394
・オンラインによる双方向性のある解説 3 20 25 13 1 0.115
・対面による実施(I型・実習) 2 15 19 19 7
復習しやすい.            
・パワーポイント+音声や動画など(III型) 3 1 14 25 19 <0.001
・一方向の講義形式,リアルタイム配信形式(II型) 6 21 24 8 3 0.310
・オンラインによる双方向性のある解説 10 18 24 10 0 0.121
・対面による実施(I型・実習) 6 15 20 17 4
学習時間を確保しやすい.            
・パワーポイント+音声や動画など(III型) 1 4 21 22 14 0.166
・一方向の講義形式,リアルタイム配信形式(II型) 4 13 22 21 2 0.136
・オンラインによる双方向性のある解説 7 16 21 17 1 0.038
・対面による実施(I型・実習) 6 9 18 19 10
質問しやすい.            
・パワーポイント+音声や動画など(III型) 8 25 27 1 1 <0.001
・一方向の講義形式,リアルタイム配信形式(II型) 8 22 25 6 1 <0.001
・オンラインによる双方向性のある解説 7 13 23 16 3 <0.001
・対面による実施(I型・実習) 1 8 13 25 15
自分の実力を高められる.            
・パワーポイント+音声や動画など(III型) 5 9 24 18 6 0.032
・一方向の講義形式,リアルタイム配信形式(II型) 4 12 32 13 1 <0.001
・オンラインによる双方向性のある解説 4 11 34 12 1 <0.001
・対面による実施(I型・実習) 1 7 14 25 15

Fisher’s exact test

考察

知識修得を目的とする科目においては,学生はオンデマンド授業を望む傾向がかなり強い.その理由として,学習時間の自己調整もふくめた予習・復習の利便性への高い支持があると思われる.一方で学習効果に関しても,対面型授業の方が高いと学生自身が感じている傾向が見て取れるものの,オンデマンド型でも大きく変わらず学習に対する自己効力感は十分に得られていると思われる.本結果は,「単純な知識教育に対して対面型授業の必要性を疑問視する声」7) や「学生は一方的な講義に対して,オンデマンド型を望んでいる」8),「繰り返し見ることで理解が深まる」9) という薬学教育で実施されたオンライン授業におけるこれまでの報告に合致するものである.一方で,「オンラインでの授業は質問がしづらい」9) という報告と同様に,質問のしやすさに関しては同期性のあるリアルタイム授業や対面型授業のほうが支持されている.学生が疑問を感じたときに質問ができるという環境が用意されていることは重要であり,オンデマンド授業の欠点を補うヒントとなると思われる.

ディスカッションを伴う授業に関しては,結果に示すとおり対面によるディスカッションの支持が高い.SGDやPBLにおけるオンラインでの取り組みに関する報告で述べられている「オンラインSGDは対面でのSGDと同等の教育効果をもたらさない」10) や「対面のSGDのほうが良い.オンラインでは発言が難しい」11) という既報における教員側のコメントと一致する結果と言える.一方で,オンラインでのPBLの取り組みにおいて,「学生自身が本演習によって得られたと感じた学修成果や授業の満足度には大きな影響はない」12) との報告もある.矛盾する報告のようではあるが,前者の報告10) は1年生を対象としたコミュニケーションと合意形成を主な目的としたSGDであり,後者の報告12) は4年生を対象とした薬物治療と適切な薬学的管理を考える学習要素の強いPBLである.オンラインのPBLにおいても講義科目と同様に「何度も繰り返し見ることができるオンデマンド型の授業は学習効果が高かった」13) と報告もある.我々の調査結果においても,「学習時間を確保しやすい」という項目は,「合意形成を目的とする学習」においては,オンラインでのディスカッションと対面によるディスカッションで差が認められず,「知識の活用や応用を目的とする学習」においては,オンラインの方が学習時間を確保しやすいという結果が得られている.オンラインのPBLでは「コミュニケーションを介した相互教育の不在」13) を指摘する報告や「議論の成熟度やプロダクトの完成度を考えた場合,最終的には対面でのSGDを実施することで,より強い達成感を得られたと考えられる」14) との報告もある.学生がオンラインによるディスカッションでコミュニケーションの取りにくさを感じていることは間違いないことを考慮すると,学習の過程や目標にコミュニケーションの占める割合が高いプログラムではオンラインでのディスカッションの学習成果が低くなる可能性が示唆される.

実習科目での『手技』の修得に関しては,対面による実施を好む傾向が強く,また,質問のしやすさ,自身の実力を高められたという印象も含めて,対面での実施を学生が求めていることが示唆された.他の領域においては,事前学習や復習に関してはオンデマンド型への支持が高かったにもかかわらず,本領域では明確な差は見られない.この点からも,手技の修得に関しては,実際に行うことが重要であることを学生自身も強く感じていると思われる.本項目に関しては,摂南大学ではオンラインによる実習の代替授業を実施せず,コロナ禍であっても感染対策を十分に行った上での対面型実習を行ったため,学生自身が本アンケートに対してオンラインの実習を経験した上で比較して回答しているわけではない.そのため,この領域の考察はオンラインによる実習の代替授業による成果を過小評価している可能性がある.

薬学臨床の基礎修得を目的とする実習科目の『知識』及び『手技』の領域に関しては対象となる学生からの回収率が29%と低かったため,実務実習事前学習においても『知識』及び『手技』の修得に関しても,他の領域と同様の傾向が示唆された,というにとどめたい.この傾向もまた,「(臨床領域の学習目標の)基礎的知識の修得はオンライン授業でも十分可能」15) や「ノンバーバルコミュニケーションの重要性に対する教育効果も大きい」16) という報告を支持するものであると言える.

以上のように,本研究では様々なオンライン授業及び対面型の授業を経験した単一の大学ではあるが1~4年生にアンケート調査を行い,特定の学年に限らない総論的な薬学部生のオンライン授業への評価を調査した.その結果,学習の領域や目的,学習の過程によって,オンラインと対面型による学習成果の違い,学習者自身が感じる自己効力感に違いがあることが明らかとなった.知識修得のための授業では学習者のニーズの面でも学習目標への到達の面でも,従来の対面型授業が最適な学習方法であるとはいえない可能性が示唆された.またオンラインにおけるディスカッションでは,コミュニケーションに依存する部分が大きいため,その様な制限された状況での学習者の行動や振る舞いまで含めてデザインした授業方略を考えることが重要になるといえる.本研究による考察は摂南大学薬学部における調査のみに基づいているため普遍化には限界があると思われる.しかし本結果は,多くの薬学部からのオンライン授業の実践に基づく報告716) のみならず,対面的なディスカッションで自由に振る舞うことで得られる学習効果とオンラインによるコミュニケーション形態によって得られる学習効果を区別した上で授業をデザインする必要があるという報告17) や,協同学習では学習者同士の直接の関りや機会を失いやすいオンライン授業において,学習を効果的に進めにくい可能性があるという報告18) など他学部における研究結果にも一致するところが多く,一定の普遍性を示唆する可能性も十分にあると考えられる.

今回の調査により,薬学生のオンライン授業への総論的な評価がある程度の妥当性をもって示され,学習領域によって方法に対する捉え方が大きく異なっていることが明らかとなった.特に,知識領域の学習では対面型よりも高い支持と自己効力感があることも示唆された.COVID-19流行後の薬学教育においては,すべて旧来の教育方法に戻るのではなく,領域や目標,学習者の属性に最適化された新たに我々が手に入れた方法も考慮した授業デザインを検討する必要がある.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

文献
 
© 2022 Japan Society for Pharmaceutical Education
feedback
Top