Japanese Journal of Pharmaceutical Education
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Special Topics | Challenges and prospects for clinical education required for the revised model core curriculum
Evaluation of the revised model core curriculum and the future of clinical education in a 6-year pharmacy education
Tadashi Suzuki
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2022 Volume 6 Article ID: 2022-011

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抄録

平成25年に改訂された薬学教育モデル・コアカリキュラムは,6年制薬学部教育の本格的な薬剤師育成を目標にしたカリキュラムとして提示された.そこに示された重要な改訂の観点が効果的に実施されているかについて考察した.学習成果基盤型教育の実践については,一般目標,到達目標という形式の記載の中で,薬剤師が身に付けるべき能力の目標が明確でなく,それが薬学臨床教育の効果的な評価を困難にしている.参加・体験型の実務実習,代表的な疾患については,理解され広がっているが,学生が本当に臨床の実践的能力を向上させたかについて,未だ課題が多い.臨床薬学教育の卒業時までの一貫した評価を提示することは,これらの課題解決のためにも必要であると考えている.上記の考察等から,これから改訂されるモデル・コアカリキュラムの方向性について論じてみた.

Abstract

The revised model core curriculum for pharmacy education in 2013 was presented as a curriculum that aimed at fostering professional pharmacists in the 6-year pharmacy education. The effective implementation of the important revision perspectives was considered. Regarding outcome-based education, the goals of the abilities that pharmacists should acquire are unclear in the description of the general instructional and specific behavioral objectives. Pharmacy practical training that students can really experience and minimum medical conditions have been understood and are widespread, however, many challenges existed, such as the improvement of the clinical practical abilities of students. I believe that presenting a consistent educational evaluation is necessary up to the time of graduation in pharmacy education. Therefore, I discuss the direction of the model core curriculum that will be revised in the future.

はじめに

薬剤師を養成する6年制薬学部が始まって15年以上が経過し,その間,薬剤師を取り巻く環境は激しく急速に変化してきた.まず,薬事法と呼ばれた法律は,医薬品・医療機器等法となって,その中に規定された薬剤師の業務は,まさに「モノ」から「ヒト」への急速な転換を求められている.薬剤師という日本でも長い歴史のある医療専門職も,時代(社会)の変化により求められるニーズに対応できなければ縮小され,必要がなくなれば無くなっていく.薬剤師という職業が縮小され,無くなっていけば,薬剤師を養成する薬学部も縮小を余儀なくされる.

厚生労働省に設置された「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」からは,現在そして今後の薬剤師の動向について厳しい試算と要望が提示され,大学における薬剤師養成教育にも厳しい提言がなされた1)

検討会では,このまま現状維持では地域偏在はあるものの薬剤師は確実に余剰になることが試算され,薬剤師が医療の中でチーム医療の一員として確実に貢献できる能力を有し,地域住民の健康増進や公衆衛生の向上に真に役立つ心構えと能力を有し,成果をあげていくことが必須であると提言された.

そのような,急激な薬剤師の業務や使命の変化の中で,6年制薬学部教育も,6年間の一貫した薬剤師育成のカリキュラムとして平成25年に改訂薬学教育モデル・コアカリキュラム(以下,改訂コアカリ)2) が提示され,そのカリキュラムに準じた薬学実務実習についても「薬学実務実習に関するガイドライン(以下,ガイドライン)」3) が示された.

改訂コアカリ,ガイドラインが提示されて10年近くが経過した今,それらの教育成果を踏まえ課題について考察してみたい.

改訂コアカリの課題

1. 学習成果基盤型教育(outcome-based education: OBE)

改訂コアカリから取り入れられた学習成果基盤型教育(OBE)では,何を教えたかというプロセス基盤型教育から,何ができるようになれば良いかを目標にした教育が実施された.改訂コアカリでは「薬剤師として求められる基本的な資質(以下,基本的な資質)」2) が提示されており,薬学生が卒業時までに修得すべき10種類の資質があげられている.しかしながら,一般目標(general instructional objective: GIO),到達目標(specific behavioral objective: SBO)で記載された改訂コアカリでは,OBEの基本となるアウトカムと呼べるものが明確でなく,基本的な資質も卒業時の目標としてどのレベルまで修得していればよいか曖昧である.OBEに基づいたカリキュラムでは,薬剤師としてどういう業務ができればよいかではなく,薬剤師の実践的な臨床能力とは何かを学生に理解させる必要がある.現在の実務実習では,業務の観点から何ができるかが評価の主になっており,学生が修得すべき能力の評価になっていない.この課題の改善が待たれるところである.

2. 参加・体験型実習

改訂コアカリに準拠した実務実習の指針として書かれたガイドラインでは,大学で学んだ知識を,臨床現場で本物の医薬品,本物の患者,生活者を体験することで,どこまで臨床の実践的能力が身に付いているかを指導薬剤師そして学生自身が評価をすることになっている.従って,実習中に学生が実際に薬剤師の業務を指導薬剤師のもとで幅広く継続して行うことが必須である.実務実習が開始された当時は,薬局や病院で,大学で行うような講義や指導薬剤師とのロールプレーなどに長時間を費やす実習や,同じ調剤業務を長期間毎日繰り返す実習などが多く見られたが,臨床現場での患者等との体験が実務実習では重要であることを理解いただき,現在は,ほぼどこの実習でも早い時期から服薬指導や病棟業務を体験できるようになってきている.学生達の満足度が大きく向上したと思われるが,では,この参加,体験は本当に学習効果を上げているのだろうか.参加させればよい,体験させればよいという体験主義,網羅主義に陥ってはいないだろうか.学生達の能力の効果的な指導や評価につながってこそ,参加・体験が活きるわけであり,そこをしっかり確認していく必要がある.

3. 代表的な疾患

改訂コアカリでは,がん,高血圧症など8種の臨床で学ぶべき代表的な疾患が提示されている2).これは,やはり実務実習が開始された当時,薬局ではマンツーマン医院の皮膚科の処方ばかり体験していた,病院ではがん患者にしか対応しなかったなどの不満が学生から多く寄せられた.それを受けて,改訂コアカリやガイドラインでは,臨床で広く多くの疾患を体験させて欲しいという方針から,この代表的な疾患を明示した.確かに,学生は毎日どんな疾患を体験したかを日報で報告するようになり,薬局,病院でもこの代表的な疾患を意識していただき,薬局では主に慢性疾患を,病院ではがんや感染症などそれぞれの施設で学生に幅広く疾患を体験させてくれている.

しかしながら,この代表的な疾患も,まるでチェックリストをチェックするように,この疾患は体験した,あと体験していないのは精神疾患だけだね,のような対応も多くなってしまった.8疾患を意識して体験させてもらえることは,実習の公平性にもつながり良いことではあるが,必ず8疾患を体験させなければいけないという配慮が,結局先ほど言及した疾患を見せればよい,体験させればよいという体験主義に陥っていないかとても心配している.学生には,臨床での「疾患」の捉え方,さらに言えば,複数の疾患を同時に抱える患者にどのように対応すべきかということが身に付くことが重要であり,万遍なく疾患を見ることが重要ではない.むしろ,一つの疾患でも深く関わることで,薬物治療への理解が深まることもあるだろうし,8疾患にはない疾患を医療施設で体験できることもとても勉強になるはずである.8疾患が重要なのではなく,個々の患者さんがどのような疾患でどのような症状で,どのような薬物治療が必要かを考察できる基礎を身に付けることが重要である.

大学4年間学んできた基礎薬学,衛生薬学,医療薬学などの知識を臨床現場でどのように「使えれば」よいかを身に付けることが実務実習の大きな目標である.本に書いてあった知識が,医療現場で実習することで,その意味や使い方が結びつき,整理され,概念化され,一般化されて,一生使える知識になっていく.そのための臨床実習であり,体験であり,疾患の学習であることを学生も指導薬剤師も再度認識する必要があると考える.

4. 成長を促し,質を担保する「評価」

実務実習の質の担保を行うためには,もちろん薬局や病院施設の環境や,指導薬剤師の指導内容の評価からまず行う必要があるが,最も重要な評価は,実務実習で学生がどれだけ成長したか,どれだけの能力が身に付いたかの評価であり,その評価が確実にできなければ実習の成果を評価することができない.

現在,実務実習では,ガイドラインにより,改訂コアカリF臨床薬学の領域(1),(2),(3)は,いわゆるルーブリック評価表を用いた概略評価を行い,領域(4),(5)においては,実習記録等を確認して評価をすることになっている3).概略評価では,学生自身と指導薬剤師がそれぞれ評価することで学生自身の振り返りと,指導薬剤師からの形成的評価から,その評価表に示された目標にどれだけ到達したかを確認しながら成長を記録する.しかしながら,まず,この概略評価は,それまでのSBOのチェックと異なり,主観(責任ある主観)で評価することになり,指導薬剤師の体験や能力に大きく左右される.この評価を十分に活用できるだけの教育的な理解を指導薬剤師ができていることがこの評価を担保する重要な条件となる.また,学生も,この評価表に示された文章から目標を正確に把握できるかどうかも重要な条件となる.大学では,実務実習の準備教育でこの概略評価を取り入れているところが多い.また,実習施設の指導薬剤師にも,調整機構で企画されたアドバンストワークショップなどで,評価法についての研修を継続しているが,実習現場での概略評価には,学生にも指導薬剤師にもまだまだ十分な理解が得られているとは言えない.一方,(4),(5)領域の評価は,現行ではただ実施したかどうかの評価になっていて,チーム医療や在宅支援,地域保健への貢献など今後の薬剤師業務で非常に重要な内容であるのに,その領域を上手に評価しているとは言えない.

最も大きな課題は,本来,入学してから卒業までにどれだけの臨床的実践能力が身に付いたかを評価するためには,6年間を通しての一貫した評価表で評価する必要があるが,現行の評価では,大学,薬局,病院で個々の観点から作られた評価表によって行われており,継続した評価ができていないことである.学生が入学してから卒業までにどこまで薬剤師に求められる能力を身に付けたかを確実に評価していく評価表(評価方法)を今後準備していく必要性を強く感じる.それを実行することで初めて,大学も,自校の教育目標であるディプロマポリシーに合致した学生を卒業させているのかを評価できると考えている.

これから改訂されるコアカリをどう創ればよいか

6年制薬学部教育に求められているのは,これからの社会のニーズに対応して個々の患者や地域の課題に主体的に関わって解決していくことができる医療人材の育成である.日本の薬学が積み上げてきた基礎薬学のベースを医療現場等で活かして確実に社会貢献できるいわゆるPharmacist-Scientistの育成のためには,基礎薬学というベースとなる知識,それを医療や社会に適応していく医療薬学,公衆衛生などの知識,そして最終的にそれらの知識を個々の患者や地域で使える能力に導く一貫した教育が必要である.

そのためには,今ある,有機化学,生物化学,医療薬学などの科目が臨床での能力にどのように結びついているか明確にしたカリキュラムの編成がまず必要になる.このような「知識」をどのように教えていくかというカリキュラムの一方で,医療倫理や患者に寄り添うというような医療人材として必要な「行為」を深くその意義を理解して実際に行動できるようになる教育も薬学部教育では重要である.新しいモデル・コアカリキュラムでは,多くの領域が連携して進んでいく知識レベルの教育と,シミュレーションから行動できるところまで継続する行為レベルの教育を6年間で並行して行うような目標等の設定が望まれる.また,基本的な資質に掲げられる目標の位置づけも明確にしておく必要があると考えている.

OBEを土台にした教育カリキュラムの製作には,この知識レベルの目標と行為レベルの目標をどちらも組み入れて創る必要がある.基礎薬学の知識を医療へとつなげ,それを臨床でどのように活かしていくのかそれを単純なアウトカムの羅列で完全に表示するのはとても難しい作業だと考えられる.まずは,薬剤師の修得すべきアウトカムをきちんと整理し,領域間の連携を確認しながら作業を進める必要がある.その作業の中では,今の薬学部の「科目」そのものを見直すことも視野に入れなければいけないと考えている.そのような,時代のニーズに応じたカリキュラム対応を可能にするためには,モデル・コアカリキュラムそのものが大学や実習施設の実情や特長に教育を合わせることができる自由度のある程度高いものを提示しておく方が良いであろう.

改訂コアカリでは「G薬学研究」として,研究領域の目標を独立して設定している.歴史ある薬学の「研究」を実践する能力は,薬剤師が医療他職種との中で差別化できる特長とも言うべき重要な能力である.研究能力とは,解決されていない課題に仮説をたて,その仮説を証明する科学的方法を考え,実践して,その仮説が正しいことを証明する能力であるが,これは,医療現場で個々の患者や地域の問題を解決していく能力,課題解決能力と同義とも考えられ,今後の薬学教育の中ではさらに重要性を増すと考えている.現在,薬学部の卒業研究で,この研究能力の修得を目指しているわけだが,チーム医療や多職種連携などへの薬剤師の貢献を推進するためには,さらに本格的な「研究」能力の育成を十分に吟味していく必要があるのではないか.

10年後,20年後の薬剤師を育成するために

薬剤師に何ができれば良いのかという目標そのものも,社会のニーズに対応して変化していく.まさに,この変化の中で6年制薬学部教育も変化し,それにあわせてカリキュラムも改訂されてきた.改訂したカリキュラムで学修した学生が実際の医療現場等で活躍するのは,改訂してから10年後,20年後である.その時代に合わせたカリキュラムを創るだけでなく,将来の薬剤師に求められる能力をも想定してコアカリを創る必要がある.

そのような改訂の中で今後最も重要視すべき能力は,新しい問題にいかに対応し,解決策を提示しそれを実践できる「課題解決能力」と,多職種や社会の中で自分が提示した課題解決案を上手に受け入れてもらうことができる「人間関係を円滑に形成していく能力」ではないかと考えている.知識をいくら身につけても,それを実際の課題で活用できなければ成果は得られないし,いくら素晴らしい解決案を提示することができても,それを多職種や地域などの中で円滑に受け入れてもらえなければ仕事は評価されない.この2つの能力を高めていくことが,そのようなカリキュラムを創っていくことが,10年後,20年後の薬剤師を育成するためには今後ますます必要になってくると考えている.

最後に

その時代に合わせたカリキュラムを創ることは重要であるが,そのカリキュラムの改訂は,薬剤師の業務や社会貢献の変化と連動している.薬学教育,薬剤師教育の進化は,薬剤師の仕事そのものの進化につながっている.薬剤師教育の充実を目指すことは,薬剤師業務の環境整備や充実さらには新しい役割の開拓を行うことと同じであり,オール薬剤師,オール薬学で取り組むべき重要な課題である.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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