Japanese Journal of Pharmaceutical Education
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Special Topics | Challenges and prospects for clinical education required for the revised model core curriculum
Utilizing the routine clinical practice of intensive care pharmacists in education: Training pharmacists to assist critically ill patients
Yoshihiro NishitaMasatoshi TagaYoshimitsu TakahashiTogen Masauji
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2022 Volume 6 Article ID: 2022-015

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抄録

薬学生教育において集中治療領域を学ぶ重要性は認識されているが,実際に集中治療領域の学生実習を実施している施設は多くはない.集中治療領域の実習内容は,集中治療を要する患者の薬学的管理に加えて集中治療室退室後の患者に対する薬学的管理も含むため,全ての薬学生が学ぶべきである.当院では集中治療領域の実習を講義とSGDを交えて2日間実施している.当院での実習は特に敗血症に対する薬物治療と臓器系統別評価を学ぶことに寄与し,実習生に集中治療領域の薬剤師業務への興味を与える可能性がある.また,集中治療領域における薬剤師業務の必要性は実習経験の有無に関わらず薬学生から認識されており,学習ニーズも高いため,学習機会の提供が望まれる.今後は学生実習内容の更なる充実と集中治療に関する卒後教育プログラムの継続により,重症患者に向き合える薬剤師育成を図っていく.

Abstract

Learning about intensive care is well recognized as an important element of pharmaceutical studies, yet few organizations provide pharmacy students with practical training in this field. This training is, nevertheless, essential for all pharmacy students as it includes the pharmacological management of patients requiring intensive care and those discharged from the intensive care unit. Our hospital provides a two-day practical training program in intensive care, including lectures and small group discussions. The practical training at our hospital contributes to learning about pharmacotherapy for sepsis and organ system assessment, and may encourage trainees to develop an interest in working as a pharmacist in the field of intensive care. Furthermore, because the need for intensive care pharmacy services is recognized by pharmacy students regardless of their practical training experience in intensive care, there is a high demand for learning opportunities in this field. Therefore, we will further enhance the content of student training and continue the post-graduate education program in intensive care in order to train and prepare prospective pharmacists to be able to effectively assist critically ill patients.

はじめに

薬学教育の改訂モデル・コアカリキュラムにおいて,集中治療領域は「F. 薬学臨床」の項の臨床実習の基礎に記載があり,急性期医療の一部として適切な薬学的管理について説明できることが求められている1).また,薬学アドバンスト教育ガイドラインの「F. 薬学臨床」では,施設において専門領域で活動する薬剤師業務を体験することが記載されており2),専門性が高い集中治療領域も該当する.

また,アメリカ病院薬剤師会が発表したPosition Paper on Critical Care Pharmacy Services 2020 Update3) では集中治療に携わる薬剤師の望ましい活動として学生教育が挙げられており,本邦における集中治療室における薬剤師の活動指針4) においても薬学生に対する教育が明記されている.

このように薬学教育では急性期医療において特に専門性が高い集中治療領域を学ぶ重要性は認識されており,集中治療に携わる薬剤師が行う活動として薬学生に対する教育への参加が望まれている.一方で,薬学生の実習カリキュラムに集中治療領域の教育プログラムを導入している施設は多くはない.

集中治療領域を学ぶメリット

薬学生が集中治療室(intensive care unit,以下ICU)における薬剤師業務を学ぶメリットは多く存在する.

ICUにおいて薬剤師は,薬物療法への介入や治療薬物モニタリング,費用対効果,医薬品情報,ICU転出時の情報提供といった薬物療法への関与,副作用への対応,感染管理,苦痛緩和,不穏,せん妄に対する管理,栄養療法への支援など多岐にわたる活動が求められている3,4).これらの活動を学ぶことは集中治療を要する患者に対する薬学的管理を学ぶことに直結する.また,集中治療を要する重症患者は病態が複雑であることが多く,適切な薬物治療を行うためには病態を正確に把握する必要がある.このような複雑な病態に対してICUの薬剤師は臓器・器官系統別に(状況によっては複数の臓器・器官を関連付けながら)評価を行うことで問題点を整理して薬学的管理に活用している5).この臓器・器官系統別評価方法は複雑な背景を有する患者病態の把握と整理に有用であるため,集中治療領域のみならず一般病棟や在宅など様々な場面で活用できる.

また,ICUで患者に何が起こっているか,ICUを介することで患者に何が起こるかを知ることは,ICU内での薬学的管理のみならず,ICUを退室した患者に対して適切な薬学的管理を行う上で重要である.例えば,ICUでは必要最小限の薬剤から再開されるため,慢性疾患の治療薬が十分に再開されずに患者の長期的な予後を悪化させる可能性が示されている6).一方,ICUで生じるせん妄に対して抗精神病薬が処方される場合があるが,ICUでの抗精神病薬の処方は退院時の抗精神病薬処方に関連する独立因子と報告されている7).更に退院時に抗精神病薬が処方された患者のうちせん妄有症状患者は17%に過ぎなかったと報告されており7),抗精神病薬が不要な患者に対しても処方され続けている可能性が示されている.また,ICUでは様々な予防的な薬学的管理が実施される.例えばICU入室患者は多くのストレスを抱えており,ストレス性の消化性潰瘍予防として頻繁にプロトンポンプ阻害薬が使用され,ガイドラインにおいても一部の患者で推奨されている8).一方で,プロトンポンプ阻害薬の使用はClostridioides difficile感染症や肺炎,心血管イベントの発生率を増大させ911),心血管疾患,上部消化器癌,慢性腎臓病による死亡率を上昇させる可能性が示されており12),不要と判断された時点で中止を検討する必要がある.このようにICU入室に関連して中止した薬剤が再開されないことや,新たに開始された薬剤が継続されることにより患者の予後が悪化する可能性があるため,転棟時や退院時といったケア移行のタイミングで処方内容を評価する必要がある.

近年ではPost intensive care syndrome(以下,PICS)が注目されている.PICSとはICU在室中あるいは退室後,更には退院後に生じる運動機能,認知機能,精神機能の障害(家族を含む)の総称13) である.例えば敗血症患者では,入院する前に機能的で自立的な生活をしていた患者であっても6ヵ月後,12ヵ月後の時点で普段の活動や身の回りの管理などに障害を抱えている場合がある14).また,ICUで低活動型せん妄に罹患した場合,せん妄罹患期間に関連して3ヵ月後の認知機能,実行機能は低下し,実行機能は12ヵ月後においても低下していることが示されている15).このようにICU退室後においても運動機能や認知機能,精神機能は十分に改善していないことがあるため,ICU入室前と同様の服薬管理が困難となる可能性がある.

以上のように,集中治療領域の薬剤師業務を学ぶことは集中治療中の患者に対する薬学的管理だけでなくICU退室後の患者に対する薬学的管理の適正化に繋がるため,集中治療領域に限らず将来様々な分野での活躍が期待される薬学生にとって重要である.

金沢医科大学病院における集中治療領域の学生実習

金沢医科大学病院(以下,当院)では,2018年度より集中治療に関する学生実習を実施している.2018年度は4月に高度医療薬剤師演習として5年生に対する大学講義の一環として3時間の集中治療特論講義を実施したが,同年度に高度医療薬剤師演習は終了となった.その後,同年秋季より病院実習内での学生実習を開始した.学生実習開始当初は一般病棟と同様の形式で10日間程度の病棟業務実習を実施していたが,集中治療を要する患者は病態が複雑であり短期間の実習期間では薬学部実務実習生(以下,実習生)の症例への理解が不十分になること,集中治療の実習を経験できる実習生の人数が限られること,入室期間が短く担当患者と十分な関りが持てないことなどが問題であった.そこで2020年度より,実習生全員を対象として,重症患者に対する薬剤師の役割を学ぶための講義とSGDを中心とした2日間の実習を病院実習期間の後半に実施することとした(図1).1日目に集中治療概論,栄養管理の講義と抗菌薬治療,栄養管理についてのSGDを行い,2日目に循環管理,ケア移行,PICSの講義と循環管理(敗血症性ショック,急性心不全)についてのSGDを行っている(図2).SGDは模擬症例を用いて,医師からの問い合わせに対する回答を実習生同士で考察して発表する形式を取っており,SGD終了後に解説を実施している.実習生はSGDを通じて,臓器・器官系統別評価を実践して病態を把握するプロセスとエビデンスに基づく薬物療法を提案するプロセスを経験する.プロセスを経験していく中で,重症患者に対する薬学的管理と重症病態特有の薬物動態を学んでいる.

図1

金沢医科大学病院における集中治療領域の学生実習の変遷

図2

実習スケジュールと実習風景(SGD)

このように,実習生全員に対して集中治療領域の実習を行い,短期間ながらもICUでの薬剤師業務に触れる機会としている.また,集中治療において臨床での遭遇頻度が高い抗菌薬治療,栄養管理,循環管理(敗血症性ショック,急性心不全)に対してSGDを行い,臓器・器官系統別評価と薬学的管理を体験する.

集中治療領域の学生実習に関するアンケート調査

当院で実施している実習生に対する集中治療に関する2日間の実習が ①ICUにおける薬剤師業務に対する理解度(以下,理解度)②集中治療に携わる薬剤師に対する認識(以下,認識)に与える影響を明らかにすることを目的に,令和3年7月に無記名自記式アンケート調査を実施した(表1).対象は令和2年度に薬学実務実習を経験した北陸大学薬学部6年生とし,当院で実習を行った実習生を当院群,当院以外で実習を行った実習生を当院以外群とした.理解度については各質問に対して4段階(十分に学べた,まあまあ学べた,あまり学べなかった,まったく学べなかった)で評価し,学べた(十分に学べた,まあまあ学べた)と回答した割合を算出した.認識については,興味のある領域に関する質問は各領域を選択した割合を,薬剤師の支援の必要性に関する質問は必要(必ず必要,時には必要)と回答した割合を,集中治療における薬剤師の業務への学習意欲に関する質問は学びたい(是非学びたい,機会があれば学びたい)と回答した割合をそれぞれ算出した.算出した各項目について当院群と当院以外群で比較した.データ解析は結果の比率の差の検定にFisher’s exact testを行った.解析ソフトはEZR ver1.5416) を使用し,有意水準は両側0.05とした.当院の病院研究倫理審査委員会の承認を得た後に調査を実施した(整理番号:H287).

表1 アンケート調査内容
1.病院実習先を教えて下さい
1)金沢医科大学病院(以下,当院) 2)当院以外(石川県内) 3)当院以外(石川県外)
○「理解度」について
2.敗血症治療について学べましたか
1)まったく学べなかった 2)あまり学べなかった 3)まあまあ学べた 4)十分に学べた
3.重症患者への薬物投与設計について学べましたか
1)まったく学べなかった 2)あまり学べなかった 3)まあまあ学べた 4)十分に学べた
4.臓器系統別評価について学べましたか
1)まったく学べなかった 2)あまり学べなかった 3)まあまあ学べた 4)十分に学べた
5.カテコラミン(アドレナリン,ノルアドレナリン,ドパミンなど)について学べましたか
1)まったく学べなかった 2)あまり学べなかった 3)まあまあ学べた 4)十分に学べた
6.輸液療法(電解質輸液,蘇生輸液を含む)について学べましたか
1)まったく学べなかった 2)あまり学べなかった 3)まあまあ学べた 4)十分に学べた
7.栄養輸液について学べましたか
1)まったく学べなかった 2)あまり学べなかった 3)まあまあ学べた 4)十分に学べた
8.ケア移行時(入院時,転棟時,退院(転院)時)の薬剤師の役割を学べましたか
1)まったく学べなかった 2)あまり学べなかった 3)まあまあ学べた 4)十分に学べた
○「認識」について
9.以下の専門領域において興味のある領域はどれですか(複数選択可)
1)癌領域 2)精神科領域 3)感染制御領域 4)妊婦授乳婦領域 5)緩和ケア領域 6)集中治療領域 7)救急領域 8)腎臓病薬物療法領域 9)褥瘡治療領域 10)医薬品情報領域 11)なし 12)その他
10.以下の専門領域において最も興味のある領域はどれですか
1)癌領域 2)精神科領域 3)感染制御領域 4)妊婦授乳婦領域 5)緩和ケア領域 6)集中治療領域 7)救急領域 8)腎臓病薬物療法領域 9)褥瘡治療領域 10)医薬品情報領域 11)なし 12)その他
11.重症患者に対する薬物療法の実施に薬剤師の支援は必要ですか
1)不要 2)あまり必要ではない 3)時には必要 4)必ず必要 5)わからない
12.集中治療における薬剤師の業務について(更に)学びたいですか
1)学びたくない 2)学ばなくてもよい 3)機会があれば学びたい 4)是非学びたい

アンケートの回収率は46%(41/89)であり,当院群は25名,当院以外群は16名であった.理解度については「敗血症治療について学べましたか」と「臓器系統別評価について学べましたか」において,学べたと回答した割合が当院群で有意に多かった(P = 0.003, P = 0.047).その他の質問においては有意な差はみられなかった(図3).認識については「専門領域において興味のある領域はどれですか」における癌領域の回答と「専門領域において最も興味のある領域はどれですか」における癌領域の回答が,それぞれ当院以外群で有意に多く(P = 0.009, P = 0.030),「専門領域において最も興味のある領域はどれですか」において集中治療領域の回答が得られたのは当院群のみであった.両群において重症患者に対する薬物療法の実施に薬剤師の支援が必要と回答した割合は100%であり,集中治療における薬剤師の業務について(更に)学びたいと回答した割合は当院群で100%,当院以外群で94%とともに高かった(図4).

図3

「理解度」についてのアンケート結果.A:敗血症治療について学べましたか.B:重症患者への薬物投与設計について学べましたか.C:臓器系統別評価について学べましたか.D:カテコラミンについて学べましたか.E:輸液療法について学べましたか.F:栄養輸液について学べましたか.G:ケア移行時の薬剤師の役割を学べましたか.「十分に学べた」と「まあまあ学べた」を合わせて「学べた」とした.

Fisher’s exact test.n.s.:not significant

図4

「認識」についてのアンケート結果.A:興味のある専門領域(複数選択可).B:最も興味のある専門領域.C:重症患者に対する薬物療法の実施に薬剤師の支援は必要ですか.「必ず必要」と「時には必要」を合わせて「必要」とした.D:集中治療における薬剤師の業務について(更に)学びたいですか.「是非学びたい」と「機会があれば学びたい」を合わせて「学びたい」とした.

Fisher’s exact test.

2日間の実習を通して実習生は,集中治療で最も重要な疾患の一つである敗血症に対する薬物治療と,臓器系統別評価のスキルを学ぶことができていた.敗血症の生存率は年々改善しているものの未だに高く17,18),敗血症診療ガイドラインにおいては抗菌薬治療や循環作動薬,栄養療法など薬物療法に関する項目が多く取り上げられている19,20).敗血症の生存率を更に改善するためにはガイドラインに記載されている薬物療法を実施する必要があり,薬剤師が薬学的管理を適切に行うためには患者病態評価のスキルである臓器系統別評価の習得が望まれる.一方で,重症患者への薬物投与設計やカテコラミン,輸液療法,ケア移行時の薬剤師の役割といった集中治療領域で必要な知識については実習を通して十分に理解が得られておらず,実習内容の改善が今後の課題である.また,当院群でのみ集中治療領域が最も興味のある領域に選択されており,集中治療に関する実習は実習生が集中治療領域に興味を持つきっかけになっていることが示唆される.また,両群ともに重症患者に対する薬物療法の実施に薬剤師の支援が必要と回答しており,実習経験の有無に関わらず集中治療における薬剤師の業務への学習意欲は高かった.薬学生は集中治療領域における薬剤師業務の重要性を認識しており,学習機会を与えることが望まれる.

このように,集中治療に関する実習は薬学生のニーズに即した学習機会を提供する.また,SGDを交えた実習は敗血症に対する薬物治療と臓器系統別評価を学ぶことに寄与し,集中治療領域の薬剤師業務への興味を与える可能性がある.

当院における集中治療領域の卒後教育

患者の重症化は一般病棟でも起こる場合があり,その際の薬物治療にはまず一般病棟の薬剤師が対応する必要がある.当院では若手薬剤師の卒後教育プログラムである屋根瓦式教育制度の一環として若手薬剤師に対して症例をベースとした学習会を実施し,臨床推論,早期対応が必要なバイタルサインやショックへの対応,ルート管理といった重症患者に対する初期対応に必要な能力を習得する機会としている(図5).今後も定期的な学習会により重症患者に対して適切な薬物療法を実施できる薬剤師育成を目指し,教育を継続していく.

図5

若手薬剤師を対象とした学習会

最後に

集中治療領域の薬学生教育は,薬学教育のコアカリキュラムや集中治療に携わる薬剤師が行うべき活動に明記されており,その必要性は認知されている.集中治療領域の薬剤師業務から学ぶべき事項は多岐にわたるが,特にICUの薬剤師が日常臨床で用いる臓器・器官系統別評価の習得は薬学生の臨床能力の向上に繋がる可能性がある.また,敗血症をはじめとしたICU内での薬学的管理に加えて,PICS,ケア移行といったICU退室後の薬学的管理にも関連する内容は全ての薬学生や薬剤師が学ぶべきである.

薬学生に対する集中治療領域の2日間の実習により,集中治療における薬剤師業務(特に敗血症,臓器系統別評価)に対する理解度の向上に繋がり,更に薬学生に集中治療領域への興味をもたらす可能性が示された.また,集中治療の薬剤師業務に関する実習は薬学生のニーズに即しており,多くの病院で導入されることが望まれる.当院においても今後は実習内容を更に改善し,薬学生が集中治療領域の薬剤師業務に触れる充実した機会としていく.また,若手薬剤師の卒後教育プログラムに組み入れている重症患者への薬物療法に関する講義を継続し,重症患者に向き合える薬剤師育成を図っていく.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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