2022 Volume 6 Article ID: 2022-021
技術進歩が激しい現代医療は,著しく複雑・高度化が進展し,それに伴い社会は高い専門性を持った薬剤師を必要とするようになった.このような背景から,わが国の薬学教育は,実践的な能力を有した薬剤師の育成を目的として6年制に移行し,さらに改訂モデル・コアカリキュラムが導入されることで教育内容の充実が図られている.それにしたがって,薬剤師の臨床能力を向上するための教育体制の確立が現場レベルで急務となっており,大学ではアドバンスト教育,臨床現場では実践的実習を実施することが重要となっている.
新しいカリキュラムの根幹となっている学習成果基盤型教育とは,設定した学習アウトカムに達成できるよう目標・方略・評価など教育全体をデザインする方法であり,言い換えると臨床現場で通用する薬剤師像(ゴール)を明確に示す必要があると考えられる.一方で,臨床現場の薬剤師においては多忙な日常業務を遂行する合間に,限られた時間を利用し実務実習生の教育に注力しているのが現状であり,教育体制の充実が急がれる.このような背景から,学習アウトカムとなる高い臨床能力を有する薬剤師を取り上げ,医療現場(における実務実習)の課題や展望と言った情報を大学・病院・保険薬局間で共有することは,終始一貫した薬学教育を行うためには非常に重要であると考えられる.
誌上シンポジウムでは,はじめに一般病院における臨床教育の現状について認識するために,代表的8疾患に対応した取り組みの紹介を通して,現行の実務実習について基本的な情報共有を行う.さらに,臨床現場で活躍するための方法論としてフィジカルアセスメントの重要性について取り上げ,実践的な薬剤師の育成に向けた基礎教育のあり方について考えてみたい.その上で,薬学アドバンスト教育ガイドラインにおいて更なる貢献が期待されている急性期領域(救急・集中治療)や終末期医療(がん,緩和)など,専門性が高い分野における薬剤師の業務展開や実務実習についての説明をもとに,臨床現場で求められる薬剤師像(ゴール)について考察する.そして最後に,大学と医療施設の連携を含めた臨床教育の課題と展望についての解説をもって,シンポジウムのまとめとしたい.
本シンポジウムを通して,臨床現場で必要とされる薬剤師の資質とは何かと言ったことを理解した上で,薬剤師が更なる活躍をするために克服すべき課題,それを解決へと導くための臨床教育のあり方について考えてみたい.そして,薬剤師の10年後の将来像をも見据え輝ける未来に希望を持てるよう,大学での基礎教育や医療現場での臨床教育の更なる発展に貢献できればと願っている.