Japanese Journal of Pharmaceutical Education
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Review Article
Recommendation of research activities for pharmacists playing an active role in clinical settings
Mai IkemuraTohru Hashida
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2022 Volume 6 Article ID: 2022-022

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抄録

薬学部が6年制となり,より高い資質や能力を持つ薬剤師の養成が望まれている.研究活動は,医療の発展に寄与するためのエビデンスを創出する上で有用であるだけでなく,薬剤師としての業務を行う上で必要な幅広い能力を養成することができる.我々の調査から,研究室在籍期間が長いほど,研究経験を積んでいる傾向にあったものの,6年制薬学部卒業者の経験値は,4年制薬学部卒業後に2年の修士課程を修了した者の経験値と比較すると,低い傾向にあった.この結果も踏まえ,主として臨床研究の経験の少ない薬剤師を対象に,効率的で有意義な研究活動の一助となるよう,研究の意義や方向性を定期的に見直すための「研究テーマ進捗状況報告書」を独自に作成し,運用している.臨床能力の高い薬剤師を養成するために,ひいては,薬物治療の発展のために,基礎研究・臨床研究を問わず,薬学生や薬剤師が積極的に研究に取り組む機会を設けることが重要である.

Abstract

In the 6-year pharmaceutical science course, training pharmacists with superior qualities and abilities is highly desirable. Research activities are not only useful in the creation of evidence to contribute to the development of medical care, but they also help to develop a wide range of skills pharmacists require. Our investigation indicates that, although there was a direct correlation between the duration of research in the laboratory at university and graduate school, and research experience gained in most instances, those who completed the 6-year pharmaceutical sciences course tended to have less experience than those who completed a combination of the 4-year degree and subsequent master’s course. To help efficient and significant research activities mainly for pharmacists who have less experience in clinical research, we have introduced and used an originally developed report on the progress of clinical research to routinely revise the significance and theme direction. For the purpose of training pharmacists who demonstrate high clinical performance, furthermore, of development of pharmacological therapy, it is important to provide an opportunity for both students in pharmaceutical sciences course and pharmacists to actively engage in research, regardless of whether it is basic or clinical.

はじめに

2006年より,薬剤師を養成するための薬学教育は,修了年限が4年から6年に延長された.これにより,臨床で必要な能力の養成に重点を置き,高い資質を持つ薬剤師の養成を目指す.高い知識や技能を備えた薬剤師を養成することはもちろんのこと,研究能力を兼ね備えた薬剤師 “Pharmacist-Scientists” として薬物治療に貢献することが期待されている1)

2011年に神戸学院大学大学院薬学研究科と神戸市立医療センター中央市民病院は,「教育・研究協力に関する協定」を締結した.これを基盤として,同大学薬学部と同病院においても,優れた薬剤師の養成や臨床上の問題点の解決を目的に,教育および研究において相互に情報交換・指導を行う体制を構築している2).その実例として,以下が挙げられる.

・大学教員による薬剤師への研究指導(テーマの進め方,学会発表,論文執筆など)

・大学教員と薬剤師が協働した,薬学生の卒業研究や業務研修の指導

・薬剤師による,薬学生を対象とした実務に即した講義や実技指導

・薬剤師による大学へのクリニカルクエスチョンの提供と,双方が協力した解決

・大学-医療連携講演会の開催

以下では,大学教員による薬剤師への研究指導を実践する中で得られた知見や構築したシステム,薬剤師や薬学生に対する教育への応用について概説する.本稿の筆頭筆者は,4年制薬学部を卒業後,薬学研究科の修士課程,博士後期課程を修了し,博士(薬学)の学位を取得して,薬剤師レジデントを1年間経験,その後は大学教員として勤務している.薬剤師レジデントにおいては,高度医療に対応した臨床薬剤業務並びにチーム医療を実践できる薬剤師の養成を目的とし,薬剤師としての業務の研修のみならず,5年生の実務実習の指導や臨床研究を実施するカリキュラムを修了している3).本稿では,これらの経験を踏まえた考察についても併せて概説する.

大学・大学院在籍時の研究活動の現状

2012年に6年制の薬学部を卒業した薬剤師が初めて世に送り出された.高い資質を持った薬剤師として期待された彼らの研究レベルはどの程度なのか.

我々は,薬剤師に対して研究指導を行う際に,薬剤師によりテーマに取り組む姿勢や論理的思考力に大きな差があることを実感した.中には,文献検索ができなかったり,科学的文書を書けなかったりするケースもみられた.これらの違いは,これまでの研究経験の違いが関与している可能性が考えられた.そこで,我々は,各個人の研究経験を明らかにし,その経験値に合わせた指導体制を構築することを目的に,大学・大学院での研究経験について各薬剤師にアンケート調査した4).6年制薬学部を卒業した薬剤師が最初に就職して2年目となる2014年3月に,神戸市立医療センター中央市民病院薬剤部において,6年制薬学部を卒業した薬剤師を含む様々な課程を修了した薬剤師を対象に調査した.大学・大学院の研究室在籍期間における主な活動内容,研究に取り組むにあたって自ら考えて進めた割合,研究室セミナー発表回数,学会発表回数,論文執筆数などについて調査し,修了経験ごとに集計した(4年制(旧制度)学部のみ,6年制学部のみ,4年制(旧制度)学部+修士課程2年,4年制(旧制度)学部+修士課程2年+博士課程3年,社会人大学院進学).

まず,主な研究活動内容としては,4年制薬学部卒業者(修士課程,博士課程修了者含む)のほとんどが実験であった.それに対し,6年制薬学部卒業者の場合は,実験が最も多かったものの,臨床研究や演習(文献調査)など,多岐に渡っていた(図1A).

図1

修了課程ごとの大学・大学院における研究活動の実態.(A)主な研究活動の内容,文献4を参考に作図.(B)研究に取り組むにあたって自ら考えて進めた割合,文献4より引用.

次に,研究に取り組むにあたって自ら考えて進めた割合についてである(図1B).個人差はあったものの,大学・大学院在籍期間が,4年(4年制学部のみ),6年(6年制学部のみ,4年制学部+修士課程2年),9年(4年制学部+修士課程2年+博士課程3年)と,概ね在籍期間が長くなるほど,自ら考えて進めた割合が多い傾向にあった.しかしながら,在籍期間が同じ6年でも,4年制学部+修士課程2年修了者は,ほとんどの人が研究過程のうちの半分以上を自ら考えて研究を進めていたのに対し,6年制学部卒業者は,研究過程のうちの半分以上を自ら考えて進めていたのはわずかで,約半数の人が教員や先輩から言われた通りに実施していた.これ以外の大学・大学院在籍期間における研究経験に関する調査項目についても,自ら考え進めた割合と同様,概ね在籍期間が長いほど経験値が高いものの,6年制学部卒業者の経験値は,4年制学部+修士課程2年修了者の経験値と比較すると,低い傾向にあった.

この背景には,何があるのか.その一つに研究に取り組めるまとまった時間が限られることが挙げられる(図2).4年制+修士課程2年修了者では,4年生の期間は,病院での実務実習や大学院入試,国家試験対策などにより,まとまった時間をとることは難しいが,修士課程では,ほぼ研究に集中することができる.一方,6年制卒業者では,薬学共用試験CBT(Computer-Based Testing)・OSCE(Objective Structured Clinical Examination)対策,薬局・病院での実務実習,国家試験対策などにより,研究室配属以降,学部卒業までにまとまった時間を取りにくい.博士課程への進学をしない限りは,ほとんど時間をかけて研究に取り組める期間はない.このように時間に限りがある中で卒業発表までに成果を求められるため,教員らが方針を事細かに提示せざるを得ず,それでも十分な成果を得るに至らないために,学会発表や論文執筆の機会が与えられることがなく,結果として研究経験が乏しくなると考えられる.

図2

修了課程ごとの研究に取り組める期間例.文献5より引用.

研究経験は薬剤師の仕事に必要か?

ここまで,研究経験に関する調査結果およびその考察を概説してきた.研究経験は,研究遂行能力の養成のために必要なものであることは言うまでもないが,薬剤師の仕事を行うにあたって必要なのか.

結論から言えば,「必要」と考えられる.図3に,大学・大学院で学ぶことが薬剤師業務にいかに活かされるかを示す5).近年の薬剤師の仕事は,調剤,無菌調製などの主に知識や技能が必要とされるもののみならず,薬剤管理指導,チーム医療,薬剤師外来などの様々な能力が必要とされるものもある.チーム医療を例に挙げれば,多職種で治療上の問題点について話し合うための「ディスカッション能力」,患者の訴えや臨床検査値など限られた情報ではあるが,多くの情報の中から薬物治療上の問題点を見出して解決する「問題解決能力」,他職種からの質問にエビデンスをもって答えるための「情報収集能力」や英文論文を読むための「語学力」,他職種に情報提供をする際の「プレゼンテーション能力」,必要に応じて患者から情報を得るための高度な「コミュニケーション能力」などが必要とされる.これらの能力は,チーム医療だけでなく,他の業務においても必要とされる.

図3

大学・大学院の講義・実習・研究活動で習得しうる知識や能力と薬剤師の業務との関係.文献5より引用.

大学・大学院で受講する講義や実習では,薬剤師の仕事に必要な知識や技能を習得することを目的にカリキュラムが組まれている.一方,上述のチーム医療で必要な能力として挙げたもののうちのいくつかは,講義や実習でもその能力を身につけるための教育が行われているが,実際には学生は受動的な取り組みとなりがちで,その養成は難しいのが現状である.しかしながら,これらの能力は,講義や実習よりも,研究室活動において,自分の研究テーマとして能動的に取り組むことで,効率的に身につけられると考えられる.研究室での教員や先輩・後輩との活動を通して,社会人としてのマナーや指導力が身につけられる.研究実施時に文献を検索することで,文献調査能力,英語の論文の読解能力が身につけられる.実験や調査においては,得られた結果の考察を行う過程などで問題解決能力や論理的思考力が身につけられる.中でも臨床研究は,薬物治療への貢献が身近に感じられ,臨床に即した思考力を身につけるのに有用と考えられる.一方,基礎研究では,結果の考察においてはもちろんであるが,時には思いがけず,溶けるはずの試薬が溶けない,増えるはずの細胞が増えない,といった本格的な実験をする以前の問題に遭遇することもあり,その問題点に対して様々な原因を考えて試行錯誤することで,問題解決能力や思考力を身につけることができる.読んだ論文や得られた結果の発表(日常の議論,セミナー,学会発表)では,プレゼンテーション能力,ディスカッション能力,論理的思考力が身につけられる.どうすれば聴いている人に分かりやすく説明できるか,どのような質問が来ると想定されるのか,その質問にどのように回答するか,などを考える過程で,様々な能力が身につく.論文の執筆においては,科学的な文書作成能力,論理的思考力が身につけられる.このように,研究経験で培われうる能力は多岐に渡る.研究のプロセス自体,問題点を見出し,それを科学的根拠に基づいて解決するという薬剤師の仕事を行う上での問題解決のプロセスと似かよっている点からも,研究経験は薬剤師としての仕事を充実させるのに必要なものであると考えられる.

就職後の研究活動の実態

以上のことから,大学や大学院で研究経験を積むことにより,薬剤師として必要な能力を身につけることができると考えられる.では,大学・大学院での研究経験がほとんどない薬剤師が臨床現場で活躍できないかと言えば,そういうわけではない.取り組みたかったが,取り組める環境になかったなどのケースもある.大学・大学院での研究経験を調査した際に,就職後の学会・論文発表の有無についても調査を行った4).その結果,就職後の研究実績は,修了課程ごとの違いは見られなかった.この結果は,就職後の個人のモチベーションや環境・教育体制次第で,研究経験を積むことができることを示している.

このように,就職後も研究経験を積むことによって,薬剤師として必要な能力を高めることにつながると考えられる.神戸市立医療センター中央市民病院の薬剤師は,こういった自己研鑽や医療への貢献のためのエビデンスの創出・情報発信を目的として,研究活動にも積極的に取り組んでいる3,6).臨床現場での問題点は,臨床現場にいる者にしか分からず,またその解決も臨床現場にいる者がその手段を最も持ち合わせている.つまり,対象となる患者が身近におり,過去から現在までの膨大な診療情報がある.その点でも,臨床現場で活躍する薬剤師が臨床上の問題点の解決,すなわち研究に取り組むことは意義深い.また,同病院の薬剤師レジデントプログラムでは,研究活動が必修となっている.薬剤師レジデントが研究活動を行う目的は,成果を追い求めるのではなく,臨床上の問題点を自ら見出し,解決する過程を体系的に学び,体験することにより,論理的思考力に基づき,医師をはじめ他の医療スタッフと科学的視点を持ってディスカッションし得るスキルを身につけることにある3).これら薬剤師が行う研究活動を薬剤部の研究指導者や連携する大学教員が支援している.

薬剤師が行う臨床研究に対する指導体制の構築:進捗状況報告書の導入

薬剤師が研究経験を積む必要性は高い.しかしながら,本来の業務がある薬剤師が研究活動を行うには,業務の合間や時間外などの限られた時間で取り組む必要がある.また,先のアンケート調査からわかるように,必ずしも研究経験が豊富な薬剤師ばかりではない.大学・大学院では基礎研究に取り組んでいて,就職後に初めて臨床研究に取り組む薬剤師も多数いる.臨床研究では,押さえておくべき項目が多数あり,それらを研究開始時に確認しておくことが重要である.そこで,我々は,薬剤師が限られた時間の中で,効率的に有意義な臨床研究を進めることができるよう,「研究テーマ進捗状況報告書」を作成した(図47)

図4

研究テーマ進捗状況報告書.(A)テンプレート.(B)記入例,文献7より引用.

「研究テーマ進捗状況報告書」では,テーマ概要/背景・目的,結果などの研究の成果をまとめるにあたって必要な項目を論述するだけでなく,実施する臨床研究の意義や構造などの臨床研究特有の項目も論述する.すなわち,患者数や調査項目など調査に必要な条件を満たすことができそうか(実現可能性),臨床現場でいかに問題となっているテーマか(必要性),既報と比較してどこが新しいか(新規性),倫理的配慮はできているか(倫理的配慮),得られた結果をどのように臨床現場にフィードバックして今後の治療に貢献するか(結果の活用)といった研究実施の意義を細かく見直し,さらに,研究デザインや,対象患者,介入/要因,比較対照,アウトカムを示すPICO/PECOといった臨床研究の基本要素を整理することを目的としている.これらは,特に臨床研究の実施においては,いずれも重要なポイントで,研究開始時に確認し,計画を立てる必要がある.一方で,研究経験,特に臨床研究の経験の少ない人では見落としがちな点でもある.この報告書を,特に研究テーマを有するが研究経験が少ない薬剤師に対し,作成や修正を行いながら,定期的に提出することを義務付けている.提出された報告書を,薬剤部の研究指導者や連携する大学教員が研究チームをつくり,内容を確認して,フィードバックしている.

この体制のもとで,各薬剤師は定期的な研究テーマ進捗状況報告書の提出により,研究の意義を明確にすることができ,計画的に研究を進めることができる.指導者としても,定期的な確認を実施することで,研究実施の上での確認項目を漏らさず,指導を充実させることができた.

得られた成果の薬学生・薬剤師に対する教育への応用・展望

得られた成果は,大学と病院の密な連携を行える環境があるからこそ,なしえたものである.以下では,得られた成果の普遍的な活用を目指し,研究経験に関するアンケート,研究テーマ進捗状況報告書の作成・運用から得られた知見を薬学生や薬剤師にどのように活かすべきかについて述べる.

1. 薬剤師への研究指導への展望

薬剤師の研究経験は,個人により大きな差があることが見出された.このことから,薬剤師としての問題解決能力にも差がある傾向が推察される.従って,各個人の研究経験を把握し,経験値に基づく研究指導を行う必要がある.特に,研究の経験があまりない薬剤師には,懇切丁寧に指導を行う必要がある.研究経験が薬剤師としての業務遂行能力にも関係する可能性があることから,研究活動の指導のみならず,状況に応じて,業務の指導においても留意が必要である.その指導すべき業務は,調剤や無菌調製などの知識や技術的な業務よりも,業務における問題点のリストアップ,治療方針決定のための情報や論文の検索,その内容把握や他職種への情報提供,他職種との議論といった,図3で示すような研究経験で磨かれる能力が関与する業務である.これらは,研究経験がなければ,実践は難しいため,先輩薬剤師により懇切丁寧な指導が必要とされる.なお,本稿の筆頭筆者は,基礎研究の経験はあったものの,実務経験がほとんどないまま,薬剤師レジデントとして研修を行うこととなった.6年制薬学部を卒業した同期の薬剤師レジデントと比較して,知識や技術面は明らかに劣っていたものの,情報や論文の検索は比較的スムーズに行うことができた.

2. 薬学生への研究指導への展望

得られた成果は,薬剤師のみならず,薬剤師を目指す薬学生にも応用可能な知見を提供すると考えられる.研究経験を積むことにより,薬剤師に必要な能力を養成できることから,臨床現場で必要とされる薬剤師の養成のためには,薬学生は,できる限り研究経験を積むことが重要であると考えられる.図2に示す通り,研究室配属された薬学生は,研究に集中できる時間は限られる.多くの学生が配属される研究室では,研究スペースが限られることにより研究実施が困難なケースもある.さらに,昨今のコロナ禍においては,オンライン授業の推奨や密集・密接・密閉のいわゆる三密の回避などにより,大学へ来ること自体が制限され,これまで以上に研究実施のための時間が限られている.また,指導にあたる教員も,オンライン授業の準備など,研究指導以外の業務量が増えており,限られた時間の中での大学に来ない学生への研究指導に苦労している現状もある.

そのような状況でも,できる限りの研究経験を積む機会を提供する工夫が必要である.限られた時間・場所であっても,学生が学術論文を読み,発表し,指導教員や研究室所属学生と議論をすることは可能である.研究実施ほどの効果は得られないかもしれないが,薬剤師として論文を検索し,内容を理解し,それを他職種に伝え,議論するというステップを習得することが期待できる.発表を聞く学生にも積極的に質問をさせることで,その学生においても問題点を見出す能力,適切に質問する能力,議論する能力が身につくと考えられる.

神戸学院大学薬学部では,神戸市立医療センター中央市民病院と協力し,研究経験を積む機会が与えられている.神戸市立医療センター中央市民病院との共同研究として実施し,学生は,診療情報を用いた後方視調査や検体の測定などを通して,臨床上の問題点の解決に取り組んでいる.そのテーマに関連する業務や病棟の見学の機会も与えられ,そこで得た知見を調査内容や考察につなげる.これら一連の研究活動の指導は,大学の指導教員と病院の研究指導者やその業務に関わる薬剤師が協力して行っている.これにより,大学における研究スペースや指導教員の不足の問題が解消できるうえ,学生が臨床上の問題点に取り組むことによって,薬物治療の実際や薬剤師としての仕事を学ぶことができ,薬剤師を目指すモチベーションの向上につながると考えられる.

3. 研究テーマ進捗状況報告書の活用

研究テーマ進捗状況報告書は,医学・薬学研究,特に臨床研究を実施する際に必要とされる項目を多数含む.従って,臨床研究を進める者にとっては,薬剤師はもちろんのこと,薬学生にも有益なツールとなりうると考えられる.本報告書では,テーマ概要や結果の概要,さらには,研究実施の意義として,実現可能性,必要性,新規性,倫理的配慮,結果の活用を記すこととしている.これらの多くは,臨床研究のみならず,基礎研究を進めるにあたっても考えるべきポイントである.倫理的配慮は,基礎研究であっても,特に実験動物を用いた検討では,必ず考慮するべき点である.これら研究実施の意義に基づき,何が報告されていなくて,何が問題で,得られた結果はどう患者治療に貢献しうるのか,これは,臨床研究であっても基礎研究であっても,医学・薬学研究である以上は必ず念頭に置いて進めなければならない.以上のことから,研究テーマ進捗状況報告書は,薬剤師,薬学生,その他医学・薬学研究に携わる者が,臨床研究,基礎研究のいずれの研究を進める際においても,活用することができる.

研究を進める者から提出された研究テーマ進捗状況報告書は,指導者により,内容を確認し,添削し,コメントを付けて返却している.この指導の過程で,研究を進める者は,研究方針に関するアドバイスを受けることができるとともに,科学的文書を書くトレーニングを積むことができる.科学的文書を書く能力は,薬剤師として薬物治療に関する文書,すなわち薬剤管理指導記録やチーム医療の一員として診療録に医師への処方提案などを記載するのに必要であり,この報告書の記載や添削を通してその能力を身につけるための一助となることが期待できる.

おわりに

高い資質を持つ薬剤師を養成するためには,薬学生も,臨床現場で活躍する薬剤師も,研究活動に積極的に取り組み,研究経験を積むことが必要であると考えられる.研究に取り組むには,環境,人材,その他様々な問題がある.その状況でも,本人や指導者が工夫をしながら,可能な範囲で研究経験を積むこと,またその環境を整えることが重要である.本稿では,研究経験を積む重要性,研究経験を積むための工夫の一端を概説した.さらなる薬物治療の発展のためにも,薬学生・薬剤師とも,継続して研究経験を積み,薬剤師としてのスキルアップ,ならびに臨床現場からの薬物治療の発展につながるエビデンスの創出・情報発信が望まれる.

倫理的配慮

本稿で紹介したアンケートは,集計結果の一部を学会や講演会などにおける発表で使用することがあることを文書で説明し,同意を得て実施した.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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