Japanese Journal of Pharmaceutical Education
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Special Topics | Challenges and prospects for clinical education required for the revised model core curriculum
What is the most important principle needed for pharmacy students training as critical care and emergency medicine pharmacists in Japan?
Takahiro KatoMasafumi Onisi
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2022 Volume 6 Article ID: 2022-025

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抄録

救急・集中治療は,臨床実習の中で専門領域に位置付けられている.救急・集中治療では,薬剤師の積極的な介入が安全な薬物治療の提供につながること,患者の状態の変化が激しいため薬物動態変化の予測が立てづらく,数時間単位から毎日のアセスメントを繰り返し,薬物治療を適宜修正する必要がある.当院では実習期間中に身につける資質として「常に考え続け,臆さず積極的に行動できる」ことを意識して臨床実習を行っている.実習生は救急薬剤師をテーマとしたディベートを通じて,薬剤師が参画する意義を常に考えることの重要性を学ぶ.また,Intensive care unit(ICU)実習では指導薬剤師が実習生の自ら考えた薬物治療に責任を持たせるよう接することで,自分の知識を総動員し,薬物治療について考えることを経験する.第一線で活躍できる薬剤師を育てるために,常に考え続け積極的に介入していく資質を,臨床実習を通して実習生が身につけることが望ましい.

Abstract

Emergency medicine and critical care are defined as advanced and specialist fields for clinical experience for a pharmacy student in Japan. Active involvement of pharmacists in patient treatment in emergency medicine and intensive care units has been shown to lead to better clinical outcomes for critically ill patients. Critically ill and emergency patients experience ongoing changes in their organ function, hemodynamics, and pharmacokinetics, and it is therefore difficult to predict their condition. Emergency and critical care pharmacists must therefore keep assessing patients’ condition and if necessary, intervene aggressively. During their clinical experience, pharmacy students discuss the provision of pharmacy services in emergency medicine, and learn about the importance of evaluating pharmacy services. We teach pharmacy students the principles of working as a critical care pharmacist during their clinical experience in intensive care units. We encourage students to take responsibility for the drug treatment plans they develop. We also teach them to recognize each patient’s unique clinical concerns and problems, and develop ways to address these issues. To cultivate the next generation of pharmacist leaders, we encourage pharmacy students to focus on assessing patients and empowering them to deliver aggressive interventions where necessary.

はじめに

平成27年度から導入された6年制薬学教育モデル・コアカリキュラム平成25年度改訂版1) では,卒業時までに修得されるべき「薬剤師として求められる基本的な資質」を前提とした学習成果基盤型教育に力点が置かれ,それまで教育者主体のカリキュラムであったものが,学生主体のカリキュラムとなり,卒業時点での目指すべき薬剤師像が明確となった.「薬剤師として求められる基本的な資質」は,①薬剤師としての心構え,②患者・生活者本位の視点,③コミュニケーション能力,④チーム医療への参画,⑤基礎的な科学力,⑥薬物療法における実践的能力,⑦地域の保健・医療における実践的能力,⑧研究能力,⑨自己研鑽,⑩教育能力の10の視点として示されている.また,このカリキュラムの中で,「E医療薬学」は,「薬物療法における実践的能力」に直結するとされている.薬物療法における実践的能力とは,薬物療法を主体的に計画,実施,評価し,安全で有効な医薬品の使用を推進するために,医薬品を供給し,調剤,服薬指導,処方設計の提案等の薬学的管理を実践する能力と示されている.このように,今後の薬剤師に求められる役割として,改訂コアカリキュラムでは医薬品の供給・調剤・服薬指導に留まらず,処方提案も含めた総合的な薬学的管理を掲げており,この能力を具現化したspecific behavioral objectivesとして,患者情報の把握,処方設計と提案,薬物療法における効果と副作用の評価などを明示しており,臨床実習ではこれらを実践できるレベルへの教育が求められている.

救急・集中治療を取り巻く環境

救急・集中治療領域における臨床実習は,「③臨床実習の基礎の項目」に「急性期医療(救急医療・集中治療・外傷治療等)や周術期医療における適切な薬学的管理について説明できる.」と記載されている.また,薬学アドバンスト教育ガイドライン(例示)1) には,「施設において専門領域(救急医療,腎臓病薬物療法,褥瘡治療,医薬品情報等)で活動する薬剤師業務を体験する.(技能・態度)」と記載されており,臨床実習の中でも高度な内容であり,臨床薬学の中でも専門領域に位置付けられている.

海外と日本の医療制度の違い

日本と海外の救急・集中治療制度は大きく異なる.本邦の救急医療体制は救命センター型救急医療と呼ばれ,1960年代の第一次交通戦争の影響を受けて外傷診療の整備を中心に構築され,やがて初期,二次,三次施設からなる救急医療体制が基盤になっている2).これは,病院前救護の段階で,重症度に応じて搬送施設を振り分ける仕組みであり,特に重症度の高い三次救急患者を搬送する救命救急センター,高度救命救急センターでは,センター内にIntensive care unit(以下,ICU)やHigh care unit(以下,HCU)があり,初療だけでなくICU,HCUへの入院後も救急医が担当する場合が多い.海外では主にEmergency room(以下,ER)型救急医療と呼ばれ,救急医がすべての救急患者を救急室で診療することを主な業務としており,入院後の入院病棟やICUでのケアはそれぞれの専門医師が引き継いで治療を行うため,関わるスタッフは分かれている.このような背景があり,米国では,Emergency medicine pharmacist(救急専門薬剤師),Critical care pharmacist(集中治療専門薬剤師)は別々の専門として確立している3,4),わが国では救急もしくは集中治療における薬物療法に関する高度な知識,技術,倫理観を備え,迅速かつ最適な救命救急・集中治療に貢献することを理念とした「救急認定薬剤師」を育成している5)

現在,救急・集中治療領域は,臨床業務を行う多くの薬剤師から敬遠されがちである.これは,入院の原因の主となる疾患が重篤であること,バイタルサインが不安定であること,意識がなかったり,人工呼吸器を装着していたりして,患者との会話が困難であること,救急・集中治療領域の薬物治療については薬学部で学ぶ機会はほとんどないことなどが原因と考えられる.また,病態が非常に不安定で生命を脅かす状態であることから,自らの処方提案によって病態を悪化させてしまうのではないかなどという自信のなさもその原因として考えられる.一方で,米国では,救急医療へ従事する薬剤師や集中治療へ従事する薬剤師は6年間の教育課程を経てPharmDの学位を取得したあと,Post graduate year(PGY)1の臨床薬学教育プログラムを受けた後にEmergency medicine pharmacistおよびCritical care pharmacistの教育プログラムを受ける必要があり,そのカリキュラムは,米国病院薬剤師会により詳細に定められている6,7) ことから,確立した教育のなかで訓練を受け,質の担保された薬剤師を現場へ輩出するシステムが確立しているといえる.

救急・集中治療領域における薬学的管理上の障壁

敗血症などの重症患者は初期治療に失敗すると死亡率が上昇することが知られており8) 超急性期の薬物治療を適正化することは重症患者にとって極めて重要である.重症患者は治療による介入や病態の変化によって薬物動態は大きく変動する.敗血症性ショックによる急性循環不全では,輸液蘇生が行われ,その輸液量は治療開始6時間以内に約2–3 L,72時間で約6~13 L投与される9,10) ため,分布容積は大きくなり,急性腎障害や肝不全などの臓器障害によりクリアランスは低下する.心拍出量の上昇があればクリアランスは上昇し,腎代替療法(Renal replacement therapy; RRT)や体外式膜型人工肺(Extracorporeal membrane oxygenation; ECMO)によっても設定により分布容積やクリアランスが変動する(図111).しかしながら,分布容積だけに着目しても,患者個々でその分布容積には大きなばらつきがあり12),時間や病態変化とともに変動していると考えられる(図2).また,臓器障害の程度も急激に変化し,一般に用いられるようなCockcroft-Gault式から推定クレアチニンクリアランスを算出する方法は,血清クレアチニン値が急性腎障害の状態を正確に反映しないことから適応できない.さらに,その時々の病態に応じて,腎代替療法(Renal replacement therapy; RRT)や体外式膜型人工肺(Extracorporeal membrane oxygenation; ECMO)を緊急で導入することも多くあり,数日間にわたって薬物動態が変動するような症例も少なくない.そのため,実臨床においてその薬物動態を推定することは非常に困難である.

図1

重症患者における体内動態の変化

図2

健常人の分布容積および重症患者の分布容積の変化

薬剤師介入の効果

このような理由から,重症患者への薬物療法を適正化していくことは非常に難しいが,薬剤師が介入することがICUにおける死亡率および副作用リスクを有意に低下させることが示されている.Leapeらの報告では,ICUのスタッフが必要時に病院薬剤部へ電話し相談する対象群と,ICUに専属の薬剤師が毎朝のラウンドに参加し,一日中ICUに常駐し,必要に応じて助言を行った能動的介入群でプロスペクティブに比較したところ,能動的介入群は対象群に比べて有害事象の発現率が66%低かった13) 図3).また,薬剤師の介入を評価したメタアナリシスでは,集中治療へ薬剤師が介入の死亡に対するオッズ比は0.78(95%CI: 0.73–0.83, I2 = 35%)であった14).さらには,Emergency departmentに受診,搬送された患者の血栓溶解薬や抗凝固薬の拮抗薬,鎮痛薬投与までにかかる時間の短縮1518),経皮的冠動脈形成術の実施までの時間短縮19),メディケーションエラーの減少2022),抗菌薬適正使用率上昇2325) など,多くの介入効果が報告されており,このような重篤な状態の患者にこそ薬剤師は必要とされている.

図3

集中治療における薬剤師の介入による副作用発現率の低下

救急・集中治療領域における薬剤師の介入は重要であり,これは医療制度の異なる本邦においても例外ではない.集中治療においては,バンコマイシンのトラフ維持率向上および中毒濃度到達率の低下26,27),ICU患者への適正処方率上昇28),鎮静剤による副作用発現率低下29) などの効果が報告されている.さらには,プロトコルに基づく薬物治療管理(Protocol-based pharmacotherapy management; PBPM)の有用性も報告されている30) 表1).これらの効果は,救急・集中治療領域へ従事する薬剤師が,患者の変化の予測が難しい状況の中でも,毎日患者状態を確認しながら,治療効果をモニタリングし,考察を繰り返しながら薬物療法を適正化していった結果と考えられる.それらの活動により,2016年には「病棟薬剤業務実施加算2」が算定可能となり,重症患者に対する薬剤師による薬物治療管理の重要性が本邦でも高まってきている.

表1 ICUにおける薬剤師の効果
VCMのトラフ維持率向上,中毒濃度到達率の低下
ICU患者への適正処方率上昇
鎮静剤による副作用発現率低下
t-PA投与までの時間が短縮

また,薬剤師を3次初療および救急外来へ配置させている施設においては,薬剤使用歴確認までの時間の短縮効果31) が報告されている.また,救命ICUの担当薬剤師が,脳卒中初療へ関与することでt-PA投与までの時間が有意に短縮する32) ことが報告されている.しかしながら,救急外来および3次初療においては,薬剤師配置に対するインセンティブがないこともあり,2016年に行われた調査では救急外来へ専任として配属されている薬剤師はわずか2.6%であり,ICUと兼務している薬剤師を合わせても23.1%と少なく33),今後発展が期待される分野である.

救急・集中治療領域で薬学実習生に求められる資質

これらのことから,救急・集中治療領域において薬剤師が介入することは安全かつ効果的な薬物療法を推進するために必要であり,本領域に従事する薬剤師の拡充をさらに推進していくことが必要と考えられる.そのためには,救急・集中治療へ従事する薬剤師の資質を備えた薬剤師を育成していくことが求められる.すでに述べたように,救急・集中治療領域では,①積極的な薬学的介入が重要である.②患者の状態は不安定であり,不確定要素が多い.③刻一刻と変化する患者の状態に合わせて,患者の変化に合わせたきめ細かい投与設計が求められる.これら3つを実行できる資質を備えることが必要と考える.

この領域へ従事できる資質を持った薬剤師を輩出していくためには,薬学実習生(以下,実習生)が実習期間中に身につける資質として「常に考え続け,臆さず積極的に行動できる」ということが第一に挙がると考える.

愛知医科大学病院薬剤部における重症病棟実務実習の実際

当院では,年間およそ40から60名の実習生を受け入れている.そのなかで,救急・集中治療領域における実習(重症系実習)を積極的に取り入れている.当院での重症系実習はおもに,重症系病棟(高度救命救急センターICU,院内ICU,手術室サテライトファーマシー)の見学,災害医療に関する講義,高度救命救急センターICUにおける病棟実習である.2020年,日本においても新型コロナウィルス感染症の蔓延により,社会の多くのサービス業や学会等が活動自粛,オンライン開催とせざるを得ない状況となり,病院実務実習においても制限せざるを得ない状況が生じた.その中で,少しでも臨床現場を身近に感じ,薬のプロフェッショナルとして医療現場で働くことを意識してもらうために,オンラインコミュニケーションツールを用いて救急薬剤師に関するディベートを実施することとしている.特にディベートおよび病棟実習については,「常に考え続け,臆さず積極的に行動できる」ということにフォーカスした内容としている.

1. 救急薬剤師に関するディベート

1) 方法

ディベートはおよそ2時間程度で,救急認定薬剤師である病院薬剤師がはじめに救急医療について簡単に説明し救急現場のイメージを共有する.その後に,「救急外来に薬剤師は必要か?」というテーマで,賛成(必要である)と反対(必要ではない)に分けてディスカッションを行う.先述したように,薬剤師を救急外来へ配置する施設は日本ではまだ少なく,救急外来における薬剤師活動は発展途上にあり,各薬剤師が試行錯誤の中で業務を行っているのが現状である.批判的な意見を出しやすいように,あえて発展途上にある領域をディスカッションテーマとした.それでも,ディスカッションに入る前に実習生に賛成か反対かを尋ねるとほとんどの実習生が賛成に手を挙げる.そのため,賛成派と反対派は講師となる薬剤師がランダムに振り分けてディベートを開始する.

ディベート終了後に,指導薬剤師から,現在の日本における救急薬剤師の現状,海外では救急薬剤師が評価され,救急の専門薬剤師として確立していること,またそれらは,海外の医療制度の基で薬剤師が実績を報告したからこそ受け入れられていることを説明し,新たな業務を確立し,その必要性が広く受け入れられるようにしていくためには,薬剤師に何ができるか,行っている業務に意味があるかを常に考え,実際に意味があるということをデータにして論文として発表していくことが極めて重要であるということを解説する.

2) ディベートの内容

賛成派の意見の一例として,医師,看護師だけのチームよりも多職種チームのほうが幅広い疾患に対応可能なのではないか,医薬品情報をすぐに得られるため迅速な対応が可能,必要となる薬剤を先読みして準備できる,薬の配合変化などもチェックできるなど,現場に出た経験のない実習生であっても,薬剤師として何が現場へ提供できるかを想起することができていた.一方で,薬剤師が活躍しているところを実際に見たことがないので必要かどうかがわからない,救急現場に必要な職種のなかでは薬剤師の優先順位は高くないのではないか,患者に投薬するなど直接的な処置に関われるわけではないので必要ないのではないか,薬剤師が遠隔ツールで現場の医療職へアドバイスを行えば十分ではないか,薬剤師を一人入れるより医師や看護師を入れた方が役立つではないかなど,実習生は薬剤師の仕事を批判的にとらえ,薬剤師として行うべき介入は何かを考えるきっかけを作ることができたと考えられた.

3) 考察

実務実習では指導薬剤師の下で実習を行うため,基本的に薬剤師が行っている業務,すなわちすでに業務として確立している内容を体験することになる.しかしながら,未確立の業務を確立していくには,まずはどんなことができそうかを考え取り組んでみるという過程を経る必要がある.そのため,日本ではほとんど実績のない救急医療をテーマとすることで,薬剤師に何ができるかを自らが考えて業務を行うことや,そこに薬剤師としてどんな付加価値をつけることができそうなのかを考えるきっかけになったと考える.また,「なんとなく必要だと思うから行っている」ではなく,反対意見を持つ人にも理解できるようなデータを示さなければ,必要性を訴えることが難しいことも経験できたのではないかと考える.

2. 高度救命救急センターICUにおける病棟実習

当院では,一般病棟実習と同様に,高度救命救急センターICUでも実習を受け入れている.一つの実習期間に2名の実習生がそれぞれ3週間ずつ実習を受ける.

1) 方法

実務実習生の一日のスケジュールを図4に示す.実習生は指導薬剤師とともに朝のカンファレンス・ラウンドへ参加し,その後指導薬剤師と患者を観察しながら薬剤師が処方提案を行っているところを学ぶ.また,指導薬剤師が行った処方提案に対してなぜそう考えたのか,どのような考えのもとに薬物治療が行われているのか解説を受ける.日本の薬学教育のなかで,集中治療に関する学習を行う機会は少ないため,実習生はICUで交わされる専門用語の意味から理解する必要があり,午後に自己学習を行う時間を設けている.自己学習の後に指導薬剤師が学習に対する理解度を確認し,ベッドサイドで実際の患者を観察しながら,現在患者におこっている病態とアセスメント(器官系統別評価,各種機器の仕組みや考え方,薬物動態に影響を与えうる因子,循環不全の評価方法,腎機能の評価方法,薬剤の効果のアセスメント)について解説を受け,病態と薬物治療への理解を深める(表2).例えば,実習生は,腎機能が低下すれば,腎排泄型薬剤のクリアランスが低下するため投与量を減量する必要があることは大学の教育のなかで知識として有している.集中治療の現場では,腎機能が低下しているかどうか,今後どのように変化することが予想されるかを考える必要があり,もともとの腎機能がどうだったか,血清クレアチニン値,尿量の経時的な推移はどうか,水分バランス・循環不全の程度,血液浄化療法の設定などからどのように腎機能および薬剤のクリアランスを考えていくのかを解説する.

図4

実務実習生の一日のスケジュール

表2 薬学実習生がベッドサイドで患者を観察しながら受ける解説
器官系統別評価の方法
各種機器の仕組みや考え方
薬物動態へ影響を与えうる因子
循環不全の評価方法
腎機能の評価方法
薬剤の効果に関するアセスメントの方法
など

2週以降は,ラウンド終了後に,実習生に対して「患者さんの抗菌薬の投与設計を行うように」などの薬物治療に関する具体的な課題を与える.実習生はそれまで学習した知識を使って,患者状態を確認し,午後までに治療計画を立ててくる.実習生が立ててきた治療計画に対して,指導薬剤師とディスカッションを行い,処方提案を行う.そこでは,許容できる限り実習生の立てた計画は修正せずに処方提案を行うように心がけている.治療が進む過程で,実習生が立てた薬物治療計画に対して変更する必要性が生じたときにも指導薬剤師は,「変更案を考えてくるように」とは指示を行わないようにし,「このままの投与を続けていても良いか」を実習生に問う.

2) 結果

実習が始まった段階で,実習生は指導薬剤師からの指示がなければ,自ら患者情報を集めたり,考察したりすることは少なく,実習生が考えた薬物治療計画が適用されたあとも,指導薬剤師が促さなければその後のモニタリングを積極的に行うことは少ない.しかし,「このまま続けていて良いか」と確認すると,その後は指導薬剤師の方から指示をしなくても患者状態をモニタリングし,処方変更が必要と考えた際には,自発的に指導薬剤師へ確認するようになった.

3) 考察

3週間の病棟実習の中では集中治療を深く理解し,必要な薬物治療すべてについて考察し治療計画を考えることは難しい.しかし,薬物治療の一部に焦点を絞って考察し,治療提案することは実習生であっても可能と考える.実習生の考えた提案に対して,「指導薬剤師が保証するのでこのまま提案」ではなく「あなたがそう考えるなら,このまま提案するが本当に良いか」を確認して提案し,その後の治療経過についても「提案者である実習生が責任をもって考えるべき」という態度で接する.実習開始時には積極的にモニタリング,考察を行うことは少ないが,そう接することで,初めて実習生は「これは自分の治療計画である」ことを認識するようであり,以降は自ら情報を収集し,考察するようになる.もちろんその間,指導薬剤師は責任を持ってモニタリングをしており,実習生に負担にならないようにアドバイスをしながら治療をともに進めていく.実習生の多くは,何か問題に直面した時,自分の求める回答がどこに書いてあるかを「探す」傾向にある.当然ながら臨床で直面する問題に対して明確に記載してある資料は存在しないことのほうが多い.実習生は高度救命救急センターICUでの実習を通して,自分の持つ知識や感覚を総動員し,薬物治療について考えることを経験する.このような経験が,実際に薬剤師として働くようになった時に薬剤師として備えておくべき資質として身につくのではないかと考える.

おわりに

救急・集中治療領域で実習生が身につけるべき資質について,日本と海外の救急医療および集中治療の現状とそれぞれの薬剤師の立場について解説し,当院における臨床実習について紹介した.

重症患者では,病態が刻一刻と変化し,常に病態変化に合わせて薬物治療を修正していかなければならない.将来,活躍できる薬剤師を育てるために,常に考え続け,積極的に介入していくマインドセットを実習生が身につけることが望ましい.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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