Japanese Journal of Pharmaceutical Education
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ISSN-L : 2433-4774
Practical Article
Cultivating ethical awareness in pharmacy students with trial lectures
Hiroko SakuraiReiko Fujisaki
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2022 Volume 6 Article ID: 2022-031

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抄録

薬剤師としての倫理観は日々の学びや経験のなかで醸成され,薬学6年間及び卒後の実践を通して培われていくものである.東京薬科大学薬学部2年生の履修科目「ゼミナール」において,独自に製作した倫理ビデオ教材「残薬調整を嫌がる患者」「若年性認知症の家族への対応」「問診表とお薬手帳を活用しきれていないケース」を用い,薬剤師が日常業務のなかで直面する倫理的問題を題材にし,気づきを促すための講義を行った.臨床の場面を可視化したビデオ教材の活用により,学生は患者一人ひとりの状況や背景をより具体的に捉え,患者の価値観を受容するとともに,患者の自己決定を促すよう解決策を考えることができた.また,グループワークからは他者の意見を聞くことにより自分とは異なる多様な考えや視点があることに気づきを得た.本講義の試行は実践的な臨床倫理教育におけるアクティブ・ラーニングの導入モデルとしての有効性が示唆された.

Abstract

Ethical values in pharmacists are fostered during the six-year pharmacy program and after graduation through learning and practice. Small group seminars for second-year pharmacy students at Tokyo University of Pharmacy and Life Sciences aimed to promote medical professionalism through active learning. Lectures included faculty-developed videos based on ethical issues faced by pharmacists in their daily work. These videos were “patients reluctant to adjust leftover medication,” “family members with juvenile dementia,” and “underutilization of medical questionnaires and medication registers.” Through these videos, students could understand each patient’s situation more concretely, accept the patient’s values, and devise solutions to encourage the patient’s self-determination. In addition, students shared diverse ideas and viewpoints in the group work and communication with peers. The results of this active learning method suggested the lectures were effective as an introductory model for practical clinical ethics education.

目的

薬学教育モデル・コアカリキュラムにおいて,薬剤師には高い倫理観をもった専門職能人として職能のすべてを通じて医療または社会に貢献するための根底となる「薬の倫理」が謳われている.しかし,現在のヒューマニズム教育について,薬剤師の職能は質的に変容し,医療人=対人援助職として機能することが求められているが,ヒューマニズム教育の根幹である心理学領域と倫理学の内容が極めて不十分である1).また,学生の倫理観涵養のためには薬学系大学が独自のアイデアを駆使し,実務教育教材を考案していくことが課題とされている2).実務教育ビデオとして公益社団法人日本薬剤師会生涯学習ポートフォリオシステムを活用したe-learning3) や薬剤師が介護保険を具体的に理解するために作成したものがあるが4),倫理教育を目的としていない.

そこで,2018年度に東京薬科大学(以下本学)は薬学生の実践的な倫理判断能力の涵養を目的に,本学薬学部生命・医療倫理学研究室と金城学院大学国際情報学部遠藤ゼミとの共同で倫理ビデオを制作した.このビデオは多くの学生が就職する病院や薬局を舞台とし,薬剤師が日常業務のなかで出会う身近な倫理的問題を題材にしている5).本稿では,この倫理ビデオを教材としたゼミナールにおける受講者の知識と態度の習得について報告する.

方法

1. ゼミナールの概要

本学2年選択必修科目「ゼミナール」は,優れた医療人となるための基本的な知識と技能,態度に加え,世の中を取り巻く様々な話題・課題・見解などについて豊富な知識を持ち,的確な見識を持って行動できるようになるために少人数クラス単位で実施する科目である.

筆者らが担当する「薬剤師が直面する倫理的問題について,みんなで考えてみよう」(2019年度開講:24名),「薬剤師としてのコミュニケーション力向上をめざそう」(2021年度開講:21名)では計45名の学生が受講した.学習目標は薬剤師が臨床現場のなかで出会う事例について,患者や家族,薬剤師の倫理的問題や思いを把握し,適切に対応する医療や介護を実践するために,ビデオのシナリオから倫理的問題を多様な視点により抽出,共有し,患者・家族の立場に配慮した対応策を提示する能力を修得することにある.ゼミナール全体の流れは,①1日目(2コマ):薬剤師の日常業務における倫理と法や調剤の流れを知り,患者対応の困難例についてスモール・グループ・ディスカッション(以下SGD)を実施,②2日目(3コマ):3本のビデオ視聴とSGD,③3日目(3コマ):避難所運営ゲームを体験し,避難所で被災者のためにどのようなかかわりができるのかSDGを実施,④4日目(2コマ):課題提示と発表準備,⑤5日目(3コマ):④で提示した課題について発表し,フィードバックを行った.また,講義全体の評価は次のとおりである.形成的評価の項目は,知識:薬局業務や災害時の避難所運営について知り,薬剤師ができることを調べる,技能:仲間の意見を聴き,自分の考えを深化できるよう促す,態度:仲間への肯定的関心を表現することができる,である.総括的評価の項目は,知識:SGDや発表での積極的なかかわり具合について評価する,技能:適切な情報収集及び発表資料の作成について総合的に評価する,態度:受講態度(SGD等への関与)により総合的に評価する,である.パフォーマンス評価の項目は,SGDにおける積極的な参加姿勢を評価する,プレゼンテーションで作成した成果物を評価する,である.

本稿は2日目の3コマ(70分×3コマ)に該当する.まず基本的な知識の習得として,患者対応と医療者としての義務,患者との関わり方について20分間講義をした.次いで「残薬調整を嫌がる患者」(以下『残薬』),「若年性認知症の家族への対応」(以下『若年性認知症』),「問診表とお薬手帳を活用しきれていないケース」(以下『問診表とお薬手帳』)計3本のビデオを視聴した.視聴後にSGDとして,ビデオ教材を観て気づいたこと,患者と薬剤師双方の考えや気持ち,患者の事情や背景の推察,医療者としての責務,患者との関わり方について10分間意見交換し,全体共有としてグループ代表者による話し合い内容の発表を15分間行った.発表を受け,筆者らが着眼点及び臨床家としての視点を整理し解説した.最後に自己省察として自己評価シートを記入してもらった.1本視聴するごとにSGD→全体共有→まとめ・解説→振り返り→自己省察とし,これを3回繰り返した.

2. ビデオ教材の概要(表1
表1 各ビデオのシナリオ
(1)「残薬調整を嫌がる患者」(1分05秒)
薬剤師 「伊藤さん,こんにちは」
患者 「こんにちは」
薬剤師 「今日は顔色よさそうですね」
患者 「はい,最近すごい調子がよくて」
薬剤師 「それはよかったです.今回こちらのお薬が処方されているので説明させていただきますね」
患者 「はい,あ,でも…」
薬剤師 「どうかされましたか?」
患者 「このロキソニンという痛み止めをいつももらっているのですが,働いているので毎食後飲むことができなくて,昼の分が余ってしまっているんです」
薬剤師 「ではお薬が残っているということなのですね?」
患者 「はい」
薬剤師 「どのくらい余っていますか?」
患者 「昼の分は全然飲んでいないので,全部余ってます」
薬剤師 「そうですか.ではあの…,医師のほうに調整してもらうので,少しお時間いただいても宜しいですか?」
患者 「あ,でも…,家族の者が飲むので調整はしなくて大丈夫です」
薬剤師 「……」
(2)「若年性認知症の家族への対応」(0分58秒)
薬剤師 「説明は以上となります,何かご質問はありますか?」
患者 「とくにないです…」
薬剤師 「佐藤さん,お疲れの様子ですが,睡眠はとれていますか?」
患者 「それがとれてなくて….最近,夫が認知症と診断されたんです」
薬剤師 「認知症…」
患者 「はい…,不安で眠れないんですよね….若年性認知症っていうんですか?若いのに認知症って….最近,確かに予定を忘れたり,遅刻したりすることが多いなって思っていたんですけど…」
薬剤師 「うーん,それは大変ですね.是非ね,ゆっくりお休みになってください」
(3)「問診表とお薬手帳を活用しきれていないケース」(2分40秒)
患者背景:他の病院にもかかっているが病気を知られたくない.そのためお薬手帳を2冊持っている.現在服用している薬はあるが,名前を忘れてしまった.
患者 (処方箋を出す)「お願いします」
薬剤師 「はい,お預かりします.井上さん,こちらの薬局は初めてでいらっしゃいますか」
患者 「はい」
薬剤師 「こちらの問診表,お待ちいただく間にご記入いただきたいのですけれども」
患者 「これ,書かないといけませんか?」
薬剤師 「はい,お薬をお渡しするうえで大事なものになりますので,お待ちの間にご記入いただければと思います」
患者 「まだ待ちますか?」
薬剤師 「はい,しばらくかかると思います」
薬剤師 「はい,井上さんお待たせしました.えーと,お薬を安全にご使用いただくために,いくつかご質問させていただきたいのですがお時間宜しいでしょうか?」
患者 「あのー,えーと,しばらくと言われたんですけどだいぶ待ちましたよ,今まで.早く説明してください」
薬剤師 「あ,はい,わかりました.鼻水の症状で今日は病院に罹られたんですね」
患者 「はい」
薬剤師 「鼻水,けっこうおつらいですよね.他に特にはございませんか」
患者 「はい,特にないです」
薬剤師 「他に今,罹られている病院とかありますか?」
患者 「ないです」
薬剤師 「では現在,飲んでいるお薬もないということで」
患者 「ないです」
薬剤師 「アレルギーがお有りということですかね?」
患者 「あ,貝類でアレルギーが出たことがあります」
薬剤師 「お薬飲んで何かトラブルはありますか?」
患者 「えーと,最近,抗生物質を飲んだら発疹がでました」
薬剤師 「あ,そうなんですね.いつごろだか覚えていらっしゃいます?」
患者 「あ,それはちょっと…」
薬剤師 「そうなんですね.今日,お薬手帳お持ちでしたら拝見させて頂ければと」
患者 「はい」
薬剤師 「はい,ありがとうございます.特にこちらにはご記入はないんですね」
「はい,では質問は以上となります.お薬調剤してまいりますので,もうしばらくお待ちくだ…さい…」
患者 「はい…」

(1)『残薬』:コンプライアンス不良により残薬が発生している患者に対し残薬調整を進言するが,患者から残薬調整を拒否されてしまい薬剤師が困惑するという事例.残薬調整への理解を扱ったものである.視聴の観点は,患者の気持ちである①処方薬を処方された本人以外が服用しても良い,②家族も同じ症状なので,薬はできるだけ多くあった方が良い,③家族は受診しなくても薬が家にあって助かっている,ことへの理解である.そして,医療者の義務である①服薬指導を通した適正な薬物治療への対応,②薬物治療での医薬品の効果を最大限に引き出し,危険性を最小限にする,③患者に医薬品を適正に使用してもらうための指導やアドバイス,④疾病や性格,理解力,生活環境など患者一人ひとりの条件に合わせて行う,ことへの理解である.

(2)『若年性認知症』:ある程度信頼関係が築かれている患者から,家族が若年性認知症と診断され不安で眠れないことを打ち明けられ,薬剤師が言葉がけに窮するという事例.患者家族への関与を扱ったものである.視聴の観点は,患者の気持ちである①夫が認知症と診断されて「困惑」し「不安」に思っている(表情,語り口),②眠れないのは「不安」だから話を聞いてくれただけでも不安の解消になる,③薬剤師は医療者だから助けてもらえるかもしれないという期待,への理解である.そして,薬剤師の共感的態度では①患者のいつもと違う様子に気づき声をかけたのは良い,②話の聴き方が淡々としている,③せっかくの「それは大変ですね」という共感的言葉がけが他人事のような印象,④「眠れない」という表面上の事実にだけ対応している,への理解である.

(3)『問診表とお薬手帳』:受付時の問診で病気を知られたくないため虚偽の申告をする患者に対して,問診表の記載とお薬手帳の辻褄が合わず,薬剤師が違和感を覚えるものの,患者の不機嫌な言動に薬剤師が戸惑うという事例.患者情報への配慮を扱ったものである.視聴の観点は,患者の気持ちでは①待つ(待たされた)ことへの不満,②診察で医師と話しているのに,また薬剤師にも話さないといけないのか,③病気のことを知られたくない(話したくない),根ほり葉ほり聞くべきでない,への理解である.そして,薬剤師の気持ちでは①問診表を書くのは安全な薬物療法を行う上で必須なので書くべき,②調剤にある程度時間がかかることは致し方ない,への理解である.その上で,薬剤師の適切な対応では①「もうしばらくお待ちください」ではなく,具体的な時間を伝えること,②患者のイライラした様子やクレームにより,薬剤師がおどおどしている態度は不信感につながること,③アレルギー,抗生剤を服用したなどの情報から話の矛盾に気づく,への理解である.

3. 自己評価シート

各ビデオの観点を踏まえた振り返りのための自己評価シートでは倫理的問題点の理解・把握・対応するために必要な【知識】と,患者理解と共感,倫理的問題点に対する思考及び提案・行動の【態度】について5件法で選択し,薬剤師として患者に説明する際に必要な知識と具体的な考えや提案は自由記述とした.分析にはMicrosoft ExcelとテキストマイニングソフトKH Coder Version 3を使用した.回答の自由記述については品詞を限定せず共起関係を測定し,共起ネットワーク図の作成条件は最小出現数2,描画数60とした.

4. 倫理的配慮

本研究実施にあたり,本学人を対象とする医学・薬学並びに生命科学系研究倫理審査委員会の承認を得た(人医-2019-001).学生には研究の目的及び意義,研究成果の公開先,個人情報保護,研究協力は任意であること,成績には一切関係ないことを口頭及び文書にて説明した.自己評価シートは無記名で実施し,授業終了後に回収箱に投函してもらい,学生の自由意思を確保した.

結果

学生45名より回答を得た(回収率100%).5件法で得た【知識】【態度】の結果を表2に,自由記述の共起ネットワーク図の【知識】を図1に,【態度】を図2に示す.

表2 自己評価シート【知識】と【態度】各項目の回答(n = 45)
項目 とてもそう思う(%) やや思う(%) どちらともいえない(%) あまりそう思わない(%) 全く思わない(%) 無回答
残薬調整を嫌がる患者
 残薬調整の必要性の理解 60.0 33.3 2.2 2.2 2.2 0
 残薬への誤解を感じ取る 71.1 24.4 0 2.2 2.2 0
 服薬状況確認の重要性の理解 84.4 13.3 0 0 2.2 0
 残薬調整拒否の理由への理解と共感 25.0 34.1 22.7 11.4 6.8 0
 かかわり方の改善について考えた 37.8 48.9 6.7 0 2.2 4.4
 患者の残薬調整を面倒がる態度に対する解決策の提案 33.3 40.0 17.8 0 6.7 2.2
若年性認知症の家族への対応
 若年性認知症家族の心情を感じ取る 46.7 46.7 4.4 0 2.2 0
 若年性認知症に関する知識の必要性の理解 71.1 22.2 2.2 2.2 2.2 0
 若年性認知症患者への社会支援の重要性の理解 51.1 40.0 2.2 2.2 2.2 0
 家族の気持ちの想像と共感 60.0 33.3 4.4 0 2.2 0
 家族へのかかわり方の改善について考え提案する 31.1 37.8 20.0 4.4 6.7 0
問診表とお薬手帳を活用しきれていないケース
 問診表の必要性の理解 68.9 24.4 4.4 0 2.2 0
 お薬手帳の必要性を感じ取る 82.2 13.3 2.2 0 2.2 0
 問診表を書きたくない理由への理解と共感 28.9 44.4 11.1 6.7 6.7 2.2
 かかわり方の改善について考えた 35.6 55.6 2.2 2.2 4.4 0
 病名を知られたくない患者の気持ちを考えた 40.0 46.7 8.9 2.2 2.2 0
 薬剤名がわからないと服薬しているといいづらい患者の気持ちを考えた 35.6 35.6 17.8 6.7 4.4 0
 薬剤師が問診表とお薬手帳をどう活用すると良いか提案した 42.2 37.8 13.3 4.4 2.2 0
図1

各ビデオ教材における【知識】の共起ネットワーク図

図1

各ビデオ教材における【知識】の共起ネットワーク図

図1

各ビデオ教材における【知識】の共起ネットワーク図

図2

各ビデオ教材における【態度】の共起ネットワーク図

図2

各ビデオ教材における【態度】の共起ネットワーク図

図2

各ビデオ教材における【態度】の共起ネットワーク図

1. 『残薬』

知識では,全ての質問で「とてもそう思う」が最も高く,「残薬調整の必要性の理解」60.0%(27/45),「残薬への誤解を感じ取る」71.1%(32/45),「服薬状況確認の重要性の理解」84.4%(38/45)であった.共起ネットワーク図では,「薬」「患者」が最も高い出現し6つのサブグラフが形成された.「分かる」「伝える」が最も強い共起関係を示し,次いで「残薬」「コミュニケーション」が強い共起関係を示した(図1A).

態度では,「患者が残薬調整を拒否した理由への理解と共感」について「やや思う」が34.1%(15/45)と最も高く,次いで「とてもそう思う」が25.0%(11/45)であった.「患者へのかかわり方をどう改善したらよいのかについて考えた」は「やや思う」が48.9%(22/45)と最も高く,次いで「とてもそう思う」が37.8%(17/45)であった.「患者が残薬調整を面倒がる態度に対する解決案の提案」は,「やや思う」が40.0%(18/45)が最も高く,次いで「とてもそう思う」が33.3%(15/45)であった.共起ネットワーク図では,「薬」「患者」「処方」「説明」の順に高い出現頻度を示し,「残る」「一緒」が最も強い共起関係であり,「理由」「聞く」「飲める」とともにコミュニティを形成した(図2A).

患者が残薬調整を面倒がる態度への具体的な考えと提案では,残薬調整の必要性を説明するだけでなく医師への相談,家族の受診を提案する,家族に副作用が起こる可能性があるなど適正使用を念頭においた行動とともに,残薬調整を拒否する理由を聞く傾聴の姿勢が示されていた.

2. 『若年性認知症』

知識では,「若年性認知症家族の心情を感じ取る」が「とてもそう思う」と「やや思う」ともに46.7%(21/45)で,若年性認知症家族の心情を9割以上の学生が感じ取れていた.「若年性認知症に関する知識の必要性の理解」は「とてもそう思う」が71.1%(32/45)と最も高かった.「若年性認知症患者への社会支援の重要性の理解」は「とてもそう思う」が51.1%(23/45)と最も高く,次いで「やや思う」40.0%(18/45)であった.共起ネットワーク図では,「患者」「知識」「若年性認知症」「家族」「認知症」の順に出現頻度が高く,サブグラフ毎では「若年性認知症」「知識」,「症状」「相談」「必要」,「不安」「説明」「取り除く」が強い共起関係を示した(図1B).

態度では,「家族の気持ちを想像し,共感した」が「とてもそう思う」が60.0%(27/45)と最も高く,次いで「やや思う」であった.他方で,「家族へのかかわり方をどう改善したらよいのかについて考え,提案した」は「やや思う」が37.8%(17/45)と最も高く,次いで「とてもそう思う」が31.1%(14/45)であり,問題解決のための思考や提案までには至っていない傾向が見られた.共起ネットワーク図では5つのサブグラフが形成され,出現頻度は「患者」「家族」「相談」「不安」「思う」が高かったが,強い共起関係にあったのは「面倒」「見る」「全て」「周り」と「薬剤師」「求める」「提供」であった(図2B).

若年性認知症家族への関わり方をどう改善したらよいかについての具体的な考えと提案では,医療者として地域の認知症支援の利用,周囲の協力を得るなど具体的なサポートとともに,患者の話に共感を示し,不安の解消や親身な助言,カウンセラーの紹介など感情や心理面に対する行動と提案がされていた.

3. 『問診表とお薬手帳』

知識では「問診表の必要性の理解」68.9%(31/45),「お薬手帳の必要性を感じ取る」82.2%(37/45)ともに「とてもそう思う」が最も高かった.共起ネットワーク図からは,「お薬手帳」「必要」「問診表」「薬」が最も高い頻度と共起関係を示した(図1C).

態度では,「患者が問診表を書きたくない理由への理解と共感」について「やや思う」が44.4%(20/45)と最も高く,次いで「とてもそう思う」が28.9%(13/45)であった.「患者へのかかわり方の改善について考えた」は,「やや思う」が55.6%(25/45)と最も高く,次いで「とてもそう思う」が35.6%(16/45)であった.また,「病名を知られたくない患者の気持ちを考えた」は,「やや思う」が46.7%(21/45)と最も高く,次いで「とてもそう思う」が40.0%(18/45)であった.他方で「薬剤名が分からないと服薬しているといいづらい患者の気持ちを考えた」は「とてもそう思う」「やや思う」ともに35.6%(16/45)であった.「薬剤師が問診表やお薬手帳をどう活用すると良いか提案した」は,「とてもそう思う」が42.2%(19/45)と最も高く,次いで「やや思う」が37.8%(17/45)であった.患者に医療安全上必要な情報提供であることを理解してもらおうとする提案行動が見られた.共起ネットワーク図からは,「患者」「お薬手帳」「薬」「問診表」「思う」が最も高い頻度と共起関係を示した.強い共起関係にあったのは,「分かる」が「質問」「気持ち」と,「教える」が「正しい」「重複」とであった(図2C).

問診表やお薬手帳の活用では,問診表やお薬手帳は薬を調剤するうえで重要かつ必要な患者情報であることを前提に,患者の気持ちを理解しつつ重複服用の危険性などについて質問するといった,患者の態度を感情的に捉えず理解しようと努めていた.

4. SGDの感想

SGDに参加してみて,「自分では見つけられなかった着眼点をもっていて面白いと思った」「薬剤師と患者の信頼関係にも多様な形があることを,グループワークを通して気づくことができた」「とても難しい問題で他の人と考えを共有することで,よりよいものになったと思う」など難しい問題だからこそ他者と様々な視点や意見を共有することの重要さを学んでいた.また,「薬剤師の表情や話し方が服薬指導に影響するという意見に強く納得できた」「患者に対する表情や対応の仕方を見習うべきだと思ったが,大げさすぎるという意見もあったので,人の感受性の違いについて考えさせられた」など新たな気づきとともに他者の意見を受容し共感していた.

考察

知識の結果から,ビデオで取り上げた3事例に対応する際の薬剤師から患者への説明時には,薬について分かりやすく伝えること,飲み合わせ,服用方法,ケアや支援に関すること,不安を取り除くことのできる説明,お薬手帳と問診表の必要性,重複の危険性と安全な服薬のための情報の伝え方など薬の適正使用のための知識や社会支援が求められていた.さらに,分かりやすく伝える,不安を取り除くなどコミュニケーションの取り方や患者の感情への対処に関する知識が必要と考えていた.

態度の結果では,『残薬』『問診表とお薬手帳』では共感の割合が低いと関わり方の割合が高い傾向にあり,他方で『若年性認知症』の家族への対応では共感の割合が高いと関わり方の割合が低くなる傾向を示していた.このことは自分の薬を他人に与える,服用している薬について虚偽の申告をされるなど薬剤師にとって患者の好ましくない行動には共感が低く,それを是正しようと積極的な関わりをする.しかし,家族が若年性認知症になったという家族側の困難な状況への共感では,何をどう関わったらいいのか判断できなかったと推測される.

患者への具体的な考えや提案では,他職種との連携や福祉に関する知己の習得,患者の気持ちへの共感の必要性について認識し,学生はアサーティブな対応を取りながら適切な方向へ導こうと考えていた.

また,講義形態としてSGDを導入したことにより,学生は仲間の意見を聞き自分とは異なる多様な考えや視点があることに気づいていた.さらに,病気や患者,患者家族の気持ちを理解することは困難であると感じる一方で,理解することの重要性も認識していた.

以上からビデオ教材の活用により,学生は臨床現場で想定される対応に苦慮する問題を疑似的に経験し,患者一人ひとりの状況や背景をより具体的に捉え,倫理的観点に気づきを得ていた.そして,患者の価値観を受容するとともに,患者の自己決定を促すよう解決策を考えていたことが示唆された.今後も講義にて倫理ビデオ教材を用い,学生に対し優れた医療人となるための倫理観涵養の機会を提供していきたい.

謝辞

本研究を実施するにあたり,倫理ビデオ教材の開発と制作に多大なるご協力を賜りました金城学院大学遠藤潤一先生,東京薬科大学武井佐和子先生ならびに大谷真生様に深謝いたします.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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