Japanese Journal of Pharmaceutical Education
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ISSN-L : 2433-4774
Original Article
Evaluation of learning outcomes and processes in TBL-PBL hybrid active learning with mixed methods
Tomohisa YasuharaMisa NagataKana HirataTaro KushihataMasahiro UedaTomomichi Sone
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2022 Volume 6 Article ID: 2022-032

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抄録

我々は,適切な測定と統計解析による社会調査研究ができる薬剤師の養成を目指し,チーム基盤型学習(TBL)と問題解決型学習(PBL)による演習プログラムを構築し,量的研究によりその有用性を既に報告している.今回,本演習内で学生が経験した学習過程を詳細に検証するため,質的研究を加えた混合研究として解析を進めた.既報の量的解析で学生を分類した5つの群ごとに,演習の感想文をSteps for Coding and Theorization(SCAT)により解析し,ストーリーラインと理論記述を生成した.その結果,学生は自らの立ち位置や既有の知識,能力に合わせてアクティブラーニングの中で多様な学びに取り組んだことが明らかとなった.同じ量的な傾向を示す群でも学生の学習の過程,取り組みや学びの違いが示唆され,量的研究のみでは明らかにならなかった満足を得ていることが示された.本成果は教育成果の検証において,課題に対して量的な研究では見いだせない解決を混合的手法がもたらす可能性も示している.

Abstract

We previously reported on the usefulness of our team-based learning (TBL) and problem-based learning (PBL) exercise program for training pharmacists to conduct social research studies through appropriate measurement and statistical analysis, through a quantitative study. In this study, we conducted a mixed study with qualitative research to evaluate the learning process experienced by students in these exercises in depth. For each of the five groups of students classified in the previously reported quantitative analysis, the written comments on the exercise were analyzed using Steps for Coding and Theorization (SCAT) to generate story lines and theoretical descriptions. The results revealed that students engaged in diverse active learning according to their position, existing knowledge, and abilities, suggesting differences in students’ learning process, efforts, and learning even among the groups showing the same quantitative trend, and that they obtained satisfaction that was not revealed by quantitative research alone. Furthermore, these results indicate that mixed methods may be a solution to issues that quantitative studies cannot clarify in the verification of educational outcomes.

緒言

アクティブラーニング,つまり「一方向的な知識伝達型講義を聴くという(受動的)学習を乗り越える意味での,あらゆる能動的な学習のこと.能動的な学習には,書く・話す・発表するなどの活動への関与と,そこで生じる認知プロセスの外化を伴う学び」1) が,高等教育の中で注目されるようになり,現在では学会等の学術界だけではなくニュースなどの一般メディアでも用いられるようになった.薬学教育においても例外ではなく,参加型学習あるいは能動型学習と称することもあるが,「学生の資質・能力の向上に資する学習・教授・評価方法」としての「主体的・対話的で深い学び(アクティブラーニング)」の実践が求められている2).このアクティブラーニングへの注目の要因は,多様な集団が高等教育を受けるようになり,大学で学ぶことの意義や目的が希薄であるものも大学の中に増え,講義を中心とする授業ではこのような学生を講義に引きつけ十分に理解させることが難しくなったこと3),グローバル化の進展や社会が求める能力の複雑化に伴い,問題解決力などの「高次の認知能力」やコミュニケーション能力などの「対人関係能力」などを含むいわゆる「新しい能力」の涵養が必要となった4) ことが挙げられている.

しかし,アクティブラーニングが一定の教育効果をもたらすことは早い段階から検証されているが,「アクティブラーニング」に含まれる要素が複合的であり,期待されている学習成果が多岐にわたっているため,アクティブラーニングを研究する上での総合的な評価が難しいとも言われている5).また松下は,「アクティブラーニングの評価対象となる能力は,対象世界との関係でなく,他者との関係や自己との関係も含み,認知システムだけでなく,行為システムや人格的・情意的システムまで視野に入れている」ことを指摘6) している.これらがアクティブラーニングの検証を困難にしている要因の一部7) である.

この問題を解決する可能性のある1つの方法が混合研究である.混合研究は,構成要素の大きさと頻度を評価する厳密な量的研究と,構成要素の意味と理解を探索する質的研究を合わせるものである.その結果,実生活の文脈的理解,重層的視座,および文化的影響の検討を必要とする問題を解析の対象とすることが可能である8).仮説や命題を観察可能な経験的事実によって検証しようとする量的研究では,人々の関りが要となる教育の文脈に完全に落とし込むことが難しく,教育研究の領域では量的研究の限界が指摘されていた9).それに対して,混合研究の手法は,文脈的理解が求められる教育研究への親和性が高く,近年は混合研究の手法を取り入れた教育研究によるプログラムの検証の試みが報告7,1012) されている.薬学の領域においては,テキストマイニングが質的な解析か否かは議論13) を残すものの,混合研究を意識した報告14) がされている.

6年制薬学教育の中では,「研究能力(薬学・医療の進歩と改善に資するために,研究を遂行する意欲と問題発見・解決能力を有する)」の養成も求められており15),まさに,アクティブラーニングが養う能力が必要な領域である.我々は研究能力の中でも「患者・市民・地域において問題を抽出し,仮説に基づいた調査研究を行う能力」に注目し,5年次配当科目として,アクティブラーニングが求める要素を多く取り入れた「臨床研究立案演習」を設置し,学生の社会調査研究に関わる能力を,実践的経験を経て身につけるプログラムを立案した.アクティブラーニングを促す本プログラムの授業デザインに対する評価は,学生へのアンケートに基づく量的な解析に基づき,一定の教育効果を示すプログラムであることを既に報告16) している.我々の先行研究の中では学生は5つの群に分類され,アクティブラーニングやピア評価,チームワークへの肯定感が高い群や,評価されることを求めて能動的に参加をした群が観察された.逆に,能動的に参加していても,評価を求める姿勢やピア評価に対する肯定感が異なっている群も観察された.また,どのような学習方略を採用しても一定数観察される,評価を受けることに対して否定的で,能動的に参加しない群も抽出された.本プログラムの授業デザインとしての評価は,社会調査研究を担う能力を有する薬剤師の養成という目的を達成する可能性のある,少人数の教員で運営可能な効率的なプログラムと結論づけられた.

しかし,量的な解析は最終的な結論に対して一定の客観性を担保するが,アクティブラーニングに含まれる複雑で多岐な能力をどのように活用したか,各群に属する学生がどのような学習過程を経て本プログラムに取り組んだのかを検証することは難しく,量的な解析によるアクティブラーニングの検証の限界であると考える.量化によって得られる客観性,科学的妥当性と引き換えに,「個人や集団の気持ち,感じ方,意識,意欲,希望,信念,価値観などの『主観的あるいは間主観的』で,言語的で,動的かつ相互作用的なもの」13) が損なわれる可能性がある.教育の過程の検証,特にアクティブラーニングの検証においては重要な課題であると考える.本プログラムに関する量的解析を用いた我々の先行研究においても,これらの質的な解析,考察は出来ておらず,アクティブラーニングの検証として不十分なものとなっている.

このような背景を踏まえて,我々は,学生の最終的な印象のみではなく学習への取り組みの過程に対する検証を行うため,混合研究の手法を導入し取り組んできた17).本研究では,量的な研究手法では高い学習効果が期待できることを示した「臨床研究立案演習」に対して,我々の先行研究では取り扱わなかった,学生が授業に対して自由に記述した質的なデータである感想文に対して質的な解析を行い,我々の先行研究で行った量的な解析と今回行った質的な解析の両解析結果を統合した混合研究の手法を用いて,本プログラムにおける学生のアクティブラーニングへの取り組み姿勢の検証を行った.

方法

1. 授業のデザインとプログラム評価用アンケートの実施

本論文が対象としている「臨床研究立案演習」は,社会調査研究の実践を想定したアンケート作成と調査,解析を行う演習として2014年度,2015年度に実施した.この演習は,Team-based Learning(TBL)の応用問題としてProblem-based Learning(PBL)を取り入れ,自ら作成したアンケートを自分たちで答えてそのデータを解析する実践型の取り組みとして行った.本科目の具体的な教育デザインに関しては既に発表した論文16) の中で詳細に記載している.

本演習プログラムの評価を得るために演習終了後に本演習の履修学生(2014年度,2015年度)を対象に,我々が作成したプログラム評価用アンケートと,アンケートとは独立した「この演習の印象を自由に書いてください」という本演習に関する記載内容を制限しない自由な600文字程度の感想文の提出を依頼した.プログラム評価用アンケートおよび感想文共に,記名式で学習管理システムの一つであるMoodleにより収集した.

2. 我々の先行研究における解析

本論文の議論の前提となる我々の先行研究16) で実施した量的解析とその結果を簡単に紹介する.研究へのアンケート結果の利用同意が得られかつ回答に欠損のない学生390名を対象として,プログラム評価用アンケートの全設問42項目を用いて行った因子分析とクラスター分析を行った.スクリープロットより因子の固有値1.5以上を指標とし,最終的な共通性0.2以上,どの因子に対しても因子負荷量が0.4未満の項目を排除することを基準に探索的因子分析を行い,最終的に残った28項目を用いて因子分析を行った.その結果,7つの因子が抽出された.更に算出された因子得点より階層型クラスター分析(Ward法)を行い,参加学生5 群(A群86人,B群81人,C群52人,D群112人,E群59人)に分けた.各群がもつ因子負荷量の平均値から考察したそれぞれの群の特徴を表1にまとめた.

表1 量的解析が示した各群の特徴
A B C D E
人数 86人(22.1%) 81人(20.8%) 52人(13.3%) 112人(28.7%) 59人(15.1%)
量的解析の考察 TBLやピア評価,チームへの肯定感,評価結果に基づく競争心が高く,GWへの参加意欲も高いが,TBLの問題の難易度が高いと感じている群.しかしながら,他の群に比べてiRAT,tRAT共に顕著な低さは見られず,全体として積極的な能動型学習に取り組んだものの主観的な問題の難しさに負担感を感じていたと思われる. TBLやチームへの肯定感は高いものの,ピア評価への肯定感と評価や競争心が低い群.TBLの問題も簡単と感じており,報酬(評価)が無くても積極的な取り組みが出来るため,厳しい評価には疑問を感じている群と思われる. TBLやチームへの肯定感,問題の難易度に関する印象は平均的ではあるが,チームへの能動的参加の度合いが極めて低く,それと関連すると思われるがピア評価に対する肯定感も低い.また,ピア評価の項目点がA,B,D群に比べて低く,チームに対する積極性の低さがピア評価の結果にも現れている群である. すべての因子得点が平均を上回っている.TBLやチーム,ピア評価に対する肯定感が高く,積極的に活動をした.TBLの問題も主観的には易しかったと感じている群である.本演習を最も肯定的に受け止め,潜在的には更なるポテンシャルがある群と思われる. TBLとチームに対する肯定感が著しく低く,ピア評価に対する肯定感,競争心も低い.能動的に参加もしておらず,簡単な問題を求める傾向が見られる.TBLにおけるtRATの点数およびピア評価の項目点がA,B,D群に比べて低く,良いグループ運営が出来なかったものと思われる.

3. 本論文で行った解析手法

我々の先行研究で得られた5つの群ごとに学生の感想文に対して質的な解析を行った.本演習プログラムという新たな学習経験をした学生が得た気付き・学びと,それに至るまでのプロセスを,量的な解析から得られた特徴(表1)と質的な解析から得られる特徴で比較することで混合分析を行った.

質的な解析の手法としてSteps for Coding and Theorization(SCAT)を用いた.SCATは,言語データを断片化して解析する質的研究のための手法で,4段階のコーディングを行いデータに記述されている出来事に潜在する意味や意義をストーリーラインとして書き表すこと,そして記述したストーリーラインを断片化することで理論記述を作成することにより,データを洗練化できることから,アンケートの自由記述欄などの比較的小さな質的データの分析にも用いられる18,19).コーディングの手順と手法が明確に定められているため,研究者の資質が結果に与える影響が少なく,質的解析の初学者が取り組みやすい手法といえるが,データの断片化と定型的なコーディング作業を経るためデータ本来が持つ文脈の損失に注意を払う必要がある.今回収集したデータは,半構造化インタビューなどによる文脈に富んだデータではなく,学生が自由に書いた600字程度の感想であること,2年度分の学年390人分の大量のデータを取り扱う必要があることから,今回の研究に用いる質的解析方法はSCATが適していると考え採用した.本研究においては,質的解析の妥当性を担保するため,科目を担当していない研究者2名が合議によって,SCAT用に公開されているワークシートを用いSCATによる解析である4段階のコーディングを行い,構成概念を抽出,ストーリーラインを生成した.2名による4段階のコーディング,構成概念の抽出,ストーリーラインの生成の各段階での合議の結果を,科目を担当した研究者2名に提示し,さらに議論し整合性を確認する手順で進めた.なお,質的解析に関わった4名の研究者は修正版グランデッドセオリー・アプローチおよびSCATによる複数の質的研究の経験を有している.

4. 倫理的配慮

プログラム評価用アンケートおよび感想文の提出に当たり,回答内容や回答の有無が成績等に影響を与えないこと,演習評価アンケートおよび感想文の提出をするかしないかに関しては,自分自身の判断のみで自由に決めてよいことを説明し,Moodle上にも記載した.演習評価アンケートの選択肢には,演習評価アンケートおよび感想文を研究目的に用いてよい,あるいは,演習評価アンケートおよび感想文を授業改善の目的のみに用いてもよい,の選択肢を用意し,結果の利用範囲を学生が選択できるようにした.演習評価アンケートおよび感想文の提出は演習プログラム後に実施して,授業時間への影響がないように配慮した.なお,アンケートおよび感想文は記名式で実施した.本研究は,摂南大学人を対象とする研究倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号2013-019).

結果

演習評価アンケート対象者である本演習の履修生のうち,アンケート結果および感想文の研究への利用に同意が得られた者,回答に欠損のない者のデータを解析の対象とした.また,2015年度履修学生のうち2014年度にも本演習を受けたものは2015年度の回答を解析から除外した.解析の対象となる有効回答率は2014年度履修学生で98%(203人),2015年度履修学生で92%(187人)であった.また,解析対象者390人が記述した感想文の平均文字数は628.2文字であった.

我々の先行研究での量的解析により分割したA~E群ごとにSCATのワークシートを作成した.その一部を表2に示す.分析手続きにおける,〈2〉テクスト中の語句の言いかえ,〈3〉左を説明するようなテクスト外の概念,〈5〉疑問・課題に関しては,必要がないと判断した場合は空欄とした.ステップコーディングをすべて行った後,〈4〉を参照し,群ごとにストーリーラインを生成した.各群のストーリーラインを断片化し,理論記述をまとめた.A~E群に,それぞれ8~9個の理論記述となった(表3).

表2 SCATワークシートの例(A群の一部)
番号 テクスト 〈1〉テクスト中の注目すべき語句 〈2〉テクスト中の語句の言いかえ 〈3〉左を説明するようなテクスト外の概念 〈4〉テーマ・構成概念(前後や全体の文脈を考慮して) 〈5〉疑問・課題
1 また,意見を出し合うことでわからない所は教えあえるのでよかったと思いました. 教えあえる良さ 知識の相互補完というグループワークの利点 GWは知識の相互補完・間違いへの気付きを得る学びの場である. 知識の相互補完が必要な問題の設定.
2 わからないところをわからないといえるグループの雰囲気も良かったのかなと思いました. わからないと言えるグループの雰囲気 気兼ねなく話せる相手,発言しやすい空気感 グループによる話しやすさの差 グループの雰囲気により活性は左右される. グループメンバーの割り振りは運不運がある.
3 また,自分たちでテーマを見つけるところから始まったのでやりがいがありました. テーマをみつける,やりがい 能動的学習,取組の最初のステップ 能動的学習によるやりがい
4 お互いに話したことのない人もいるけれど,こんなにみんなが意見を出し合えたのは本当によかったなと思いました. 話したことのない人,意見,良かった グループメンバー全員での意見交換できた事をポジティブに捉える 全員が参加するグループの価値 全メンバーが議論に参加したことへの満足感 全メンバーの参加をどのようにして評価に反映させていくか.
5 クリスマスイベントがテーマということもあってそれぞれの思うクリスマスあり,それが意見を出し合うきっかけにもなっていたのかなと思います.テーマの選択も重要なポイントだということを感じました. テーマの選択,意見を出し合うきっかけ,重要なポイント テーマ選びにより意見の出やすさが左右される.テーマの選択が重要. テーマ選びがグループワークの活性を左右する. 選んだテーマに対する後悔が生じている例は?
6 それぞれのグループが身近で気になることをアンケートしてそれをまとめて発表するというこの授業で,ほかのグループから学ぶことも多かったと感じました.自分のグループと他のグループとでは視点が異なり,そこから得られる結果の違いを聞いて自分のものにできる演習でした. 他のグループから学ぶこと,視点が異なり,結果の違い,自分のものにできる 発表聴講により得られる多角的な見方・結果の解釈の方法 より良い発表を聞くことの価値 聴講による多角的視点・解釈の吸収 能動的学習のあとの発表聴講のために得られた知識なのか?
7 この1週間で学んだことをこれからの自分に生かすかどうかはこれからの自分次第であるため,せっかく学んだ統計学を国家試験やその先の薬剤師としての業務に生かせたとき,初めてこの演習の価値が上がると考えています. 学んだこと,生かす,自分次第,国家試験,業務,はじめてこの演習の価値が上がる 国家試験・薬剤師業務に学びを活かすには,講義後の行動次第 講義の価値は今後の自身の努力により国家試験・実務に活かせるかどうか 国家試験を意識されるのは本意ではない.
8 しかし,今回の演習を通してそれらの理解が不十分であったことを痛感した.それでも,今まで学んできたことをグループのメンバーに微力ながら教授できた部分もある. 理解が不十分,痛感,教授できた 演習により気づく事前知識の不足.知識の教授というグループへの貢献. 知識を使う環境があることで知識が使えないことが分かる. 実践により気づく事前知識の不足.知識の教授というグループへの貢献. 演習を通して…の記述から実践を通してって言っていいのか
表3 SCATによる各群のストーリーラインと理論記述
A B C D E
人数 86人(22.1%) 81人(20.8%) 52人(13.3%) 112人(28.7%) 59人(15.1%)
SCATによるストーリーライン GWで議論によって正解にたどり着く困難さ,知識の相互補完,自身の間違いへの気付きに気が付いた.テーマを自ら決めるやりがい,同じテーマが他にいないことで議論の重要性の増大と不正のしにくい状況の面白さを実感した.定めるテーマとグループの雰囲気により活性が左右される.自らテーマを決めることでプロダクトに多様性が生まれ発表への興味が増し,自身の発表も聴衆を意識したものになった.
 実践により事前知識不足への気付きを得て,グループ内の相互教授が行われたため統計学の深い理解が得られた.メンバーに教授するという経験は,グループに貢献する喜びをもたらす.また根拠を追求すること,検証を行うことの意義を感じる.
 TBLについてはグループ間の競争心・グループ内での一体感を生み出す効果があり,楽しみをもたらす.不十分な情報の提示,手さぐりで進めるGWとプロダクト作成に不満を持つ一方で,自身で進めたことでの知識定着度の高さを実感する.フリーライダーの出現を危惧するが,個人を適切に評価するのにピア評価が貢献していると感じている.自身の客観的な評価やフィードバックへの関心からもピア評価は好意的に受け取られており,モチベーションの向上にも繋がっている.
 自由なテーマ設定は課題への集中と緊張感を保て,負担は高いが充実感を感じる.不慣れな能動的学習による試行錯誤は貴重な経験であり,能動的学習の重要性に気付いた.統計学への知識が本演習を通して得られたと実感がある.
 もともとGWへの関心が高く,周囲の積極的姿勢に触発されて共助しあいながら苦手分野にも取り組み,本実習による成人学習の実践への達成感,他人に教えることで知識が定着することを実感している.統計学を実際に使う場を想定した復習への意欲を見せる.
本演習は成人学習理論をベースに構築されており,他の実習とは異なると感じる.GWではコミュニケーションが重要であると考えていたが,自然に意思疎通が図れた実感があり,GWに対する意識の変容があった.GWではスムーズな役割分担ができ,最終的にはグループの総意で進行することができた.そのために好成績がとれたと考え,グループで相互補完する事は学習効率を上げると実感している.成人学習のプログラムにグループで取り組んだ達成感を感じ満足している.
 メンバーと共に楽しみながら学ぶ事を有意義な学習と感じ,綿密な議論によって正解にたどり着き満足感を得られると考えていた.メンバーよる綿密な意見交換の有無で進行の容易さと結果が左右される.負担の大きな課題でも楽しむことができる.想定した結果が得られなかった時は残念に思ったが,他のグループの結果との比較から気付きが得られ,試行錯誤した満足感が得られた.
 知識不足により課題を困難に感じ,負担の大きさを実感するが,統計学に対するイメージの転換や学習への関心の向上と積極性の増加はみられた.理解を支援する教材が必要と考える.教員との物理的距離による質問の容易さにグループ間で差がある.GWに対し苦手意識を持っていてもメンバー次第では楽しんで取り組める.つまり,メンバーは本演習の満足度に影響を与えると考えている.
 GWに対し,知識活用,学習の理解を助ける場としての満足感を感じている.一からグループでプロダクトを作り上げるため物事を追及する楽しさを感じ,統計自体への興味が生まれ,ここで得た知識を活用する意欲へと繋がる.有意義な結果を残す事はそれまでの不安要素を覆す可能性を含む.表面的な理解から意味の理解へと深い知識になったことに対し満足感を得ており,実践により,解釈の困難さやアンケート項目を考える困難さを知り,アンケート調査に対するイメージ自体が変化している.
統計学に対する知識が不足しテストもわからず,他メンバーの発言より論理的思考が自身にないことに気付き後悔する.今まで意見が通ったことがないために発言への恐怖があり,グループでの立ち位置が見つけられなかった.グループメンバーに迷惑を与えるかもしれない不安から本演習への参加に否定的であった.グループでの議論にも完全に納得できておらず,後悔,不満が残っている.他のメンバーへ依存してGWを進めるようになり,自身の役割の不履行に対し後ろめたさ,辛さ,GWに対する面白みのなさを感じる.
 実践することでプロダクトの不備・思い込みに気づき,あらゆる可能性を考慮する重要性を感じ,理解が深まったと実感する.初歩的な統計方法を習得し,研究への応用ができると考える.また,臨床の場で有用な知識であると考え,さらに日常生活における情報を吟味する能力を養うきっかけであるとも感じる.
 能動的学習の知識定着度の高さを実感し,有用な知識を学ぶ興味深さ,実生活とリンクさせて学ぶ興味深さを感じる.薬学部全体のカリキュラムに対しても興味を掘り下げて専門的な知識を学んでいく成人学習のスタイルを導入することを要望する.メンバーにより役割の不足があり予想通りに進まない困難さがあったが,課題の自由度に対する満足度は高い.コミュニケーション能力はGWに重要であり,その能力不足を実感し改善意欲を生む.
 理解とテストの得点の向上を目的とした授業の実施を望む.最初は統計学の無理解により何をすべきかわからなかったが,グループメンバーからの教授と実践を通して理解につながった.GWでは説得力のある発言のできるメンバーがいたことに満足し,またメンバーがこれまでの経験を通して傾聴・賛同の姿勢を既に身に着けている事に気付いた.GWにおける意見を伝え合う難しさを感じ,プロダクト完成で得られた達成感が貴重であると感じた.
知識が不足していても課題に興味を持つことで統計解析への興味へと繋がり,統計解析方法の習得へつながる.学生同士で知識の相互補完をすることが知識の定着へと繋がった.自由度の高い課題は他班のプロダクトへの興味へと繋がり,他班を知ることは自班のプロダクトの出来に反映され多くを学べる.
 知人のいないグループに不安を覚えるもメンバーが優しく面白かったため達成できたと考える.以前は発言せず不満を抱えていたが,本演習を通して「発言する,人に助けを求める」という自己変容の認識をもつ.また,習得した知識を研究へ応用する意欲,得た知識を活用したいという希望を持っている.
 知識を出し合うことがグループにとってアイスブレイクになると考えており,また相互補完が出来たことでグループがうまく機能したと実感を得ている.成人学習という形式による学習は能動的参加を促すと認識し,今回の演習に満足感を得ている.ピア評価はGWの動機付けとなるため肯定的に捉えている.
 今まで経験のない自由度の高いGWであり,退屈さの消失を感じた.試行錯誤し問題解決のために周囲から助けを得る行動をとり解決する経験への満足感を得て,受動的学習と比べ今回の能動的学習での知識定着度の違いを実感した.また,今回の経験から今後の困難へ立ち向かう意思が生まれた.
 本演習を通して,答えがない問題に対し可能性を考え尽くす重要性を学んだ.GWの特性により自身の勝手な判断・行動が抑制さえ,課題への取り組み姿勢が変化した.意見の真意を伝える困難さを実感し,意見の妥当性を判断する理解力が今後の課題として認識できた.自身の行動から今後の課題を発見し,その優先順位を考える重要性に気付いた.
 多角的視点の結果である各班の発表を興味深く感じる.知識豊富なメンバーを中心として話を進めるが,他のメンバーによる知識の補完の重要性に気付く.GWを自分たちで進める難しさを感じるが,やり通したことで得られる楽しさが勝つ.
総合的に本演習内容には満足している.演習前には統計学の知識がほとんどないと感じていたが,全般的には楽しく個人個人に適した任務があると実感する場でもあったため,能動的な取り組みにより理解が深まったと感じる.本演習は積極的参加を促す構成であると認識しており,ハードなスケジュールであると考えるが,興味に沿った課題であるために乗り切れたと感じている.また,各グループが多様な発表をするために,発表も飽きないと感じる.
 一方で,意欲をそぐ要因として,予習範囲が広いこと,テストがあること,演習自体の流れが掴みにくいことが挙げられる.GWにはコミュニケーション能力が求められ,意見を構築・傾聴することが重要であると実感した.ランダムなグループ分けにより交友範囲の拡大という利点もあるが,グループ間での統計学の知識量,雰囲気の差があり不公平さを感じる.
 グループで知識の相互補完を行い正解に導くという困難さと楽しさを実感するが,自身は知識が不足しているという認識から積極的参加が出来なかったと振り返る.このGWを通して自身の弱点・欠点を認識し,本演習は物事の取り組み姿勢やコミュニケーションの取り方を振り返る機会だったと考え,自身の弱みや欠点に気づき,今後改善する意欲を見せる.
 最初は能動学習に慣れずに戸惑うが最終的に知識・技術の習得を実感する.難しい課題であっても納得できる意見により正解を導く事は可能だと感じた.入学時との比較によりGWでの積極性の向上を実感するが,総合的に考えると能動的に参加できなかったとGWを振り返っている.
SCATによる理論記述 ①GWは知識の相互教授をもたらし,理解を深める
②自ら決めるテーマはやりがいをもたらし,多様性のある発表に繋がる
③グループの雰囲気はメンバーに依存するが,グループへの貢献は喜びに繋がる
④TBLは競争心,一体感,楽しみをもたらす
⑤不十分な情報と手探りのGWには不満があり負担感が高いが充実感もある
⑥ピア評価結果に興味があり意識した振る舞いを誘導し,フリーライダーを防ぐ
⑦能動的学習による試行錯誤は貴重な経験であり,重要性に気付いた
⑧統計学を実際に使う場を想定した復習への意欲を示した
①GWで意思疎通が図れ,GWに対する意識の変容があった
②グループで相互補完する事は学習効率を上げると実感した
③成人学習のプログラムにグループで取り組んだ達成感を感じた
④意見交換により容易さと結果が左右され,負担の大きな課題でも楽しむことができた
⑤他のグループの結果との比較から気付きが得られ,試行錯誤した満足感が得られた
⑥知識不足により課題を困難に感じ,理解を支援する教材が必要と考えた
⑦GWはメンバー次第では楽しんで取り組めるため,メンバーは満足度に影響を与える
⑧統計自体への興味が生まれ,ここで得た知識を活用する意欲を示した
⑨表面的な理解から意味の理解へと深い知識になったことに対し満足感を得た
①知識不足と発言への恐怖があり,グループでの立ち位置が見つけられなかった
②グループメンバーに迷惑を与えるかもしれない不安から演習への参加に否定的だった
③議論にも完全に納得できておらず,後悔,不満が残っている
④自身の役割の不履行に対し後ろめたさ,辛さ,GWに対する面白みのなさを感じた
⑤実践することで不備・思い込みに気づき,考える重要性を感じ,理解が深まったと実感した
⑥能動的学習の知識定着度の高さを実感し,実生活とリンクさせて学ぶ興味深さを感じた
⑦コミュニケーション能力は重要であり,その能力不足を実感し改善意欲を生んだ
⑧メンバーがこれまでの経験を通して傾聴・賛同の姿勢を既に身に着けている事に気付いた
①知識が不足していても,GW課題に興味を持つことで統計解析方法の習得へつながった
②自由度の高い課題は他のプロダクトへの興味を生じ,多くを学べた
③以前は発言せず不満を抱えていたが,発言する,人に助けを求めるという自己変容を得た
④成人学習という形式は相互補完を促し,そのことでグループがうまく機能した
⑤ピア評価はGWの動機付けとなるため肯定的に捉えている
⑥受動的学習と比べ相互補完のある能動的学習での知識定着度の違いを実感した
⑦今回の経験から今後の困難へ立ち向かう意思が生まれた
⑧知識豊富なメンバーを中心として話を進めるが,知識の補完の重要性に気付いた
⑨GWを進める難しさを感じるが,やり通したことで得られる楽しさにも気づいた
①統計学の知識がほとんどないと感じていたが,個人に適した任務があると実感した
②積極的参加を促す構成でハードであったが,興味に沿った課題であるために乗り切れた
③各グループが多様な発表をするために,発表も飽きないと感じた
④予習範囲が広いこと,テストがあること,演習自体の流れが掴みにくいことが意欲を削ぐ
⑤グループ間での統計学の知識量,雰囲気の差があり不公平さを感じた
⑥自身は知識が不足しているという認識から積極的参加が出来なかった
⑦取り組み姿勢やコミュニケーションを振り返り,今後改善する意欲を示した
⑧難しい課題であっても納得できる意見により正解を導く事は可能だと感じた
⑨GWでの積極性の向上を実感するが,総合的に考えると能動的に参加できなかった

本演習においてアクティブラーニングがもたらした学びの検証として非常に重要なストーリーラインに関しては,表2でA群の一部を示している部分からの構成を例示として説明する.表2の「〈1〉テクスト中の注目すべき語句」には,「教えあえる良さ」「意見を出し合う」「他のグループから学ぶこと」「教授できた」などの相互コミュニケーションに対する肯定的な記述が多くみられる.これらは,学生自身は適切に言語化出来てはいないが,アクティブラーニングが求める認知システムや行為システムの発現だと考えられる.また,「よかった」「価値が上がる」「やりがい」などの記述から読み取れる自らの行為に対する肯定的な価値づけは,情意システムの発現と捉えることが出来る.学生らはこの演習の活動中にこのような過程を経ながら本演習の中でアクティブラーニングに取り組んできたと分析できる.例示以外の部分も含めて,これらを統合し「実践により事前知識不足への気付きを得て,グループ内の相互教授が行われたため気づきが多く,今後に活かせる統計学の学びを得た.メンバーに教授するという経験は,グループに貢献する喜びをもたらす」というストーリーラインに発展する.本研究の目的が,本演習において学生がどのような学習過程を経て本プログラムに取り組んだのかの検証であることを重視し,「学生がどのように本演習に取り組みどのような活動をし,どのような価値を見出したか」を中心にストーリーラインを構築した.

考察

我々の先行研究で行ったアンケートによる因子分析,クラスター分析による量的解析結果によって分割されたA~E群(量的解析から見られる群の特徴;人数,割合)にSCATによる質的解析結果を合わせた混合的手法により,各群は以下のような特徴を持つと考えられた.

A群(TBLやピア評価に対して肯定的な群;86人,22.1%):この群が感じているTBLやピア評価に対する肯定感は,グループワークでの相互補完により自身の間違いに気づき,グループに貢献する喜びに基づいていることが示唆された.それ故に,フリーライダーの存在を厭う傾向があり,フリーライダーを抑制するピア評価への評価が高くなっていることが明らかとなった.TBLによって可視化された,グループ間の競争を楽しめる性質を有している.事前知識などの不足を自覚しているが,それをグループワークによって補えたと感じており,だからこそ主観的に負担が高い課題にも能動的に取り組めたと思われる.

B群(演習に肯定的だがピア評価や競争心が低い群;81人,20.8%):本群が感じている演習への肯定的印象は,グループワークでのコミュニケーションが円滑に進み,その結果としてよいプロダクトを共同作業として作り上げたという満足感による部分が大きいと考えられる.解析結果から,メンバーとの綿密な議論によって困難な課題も容易になるという意味で「問題の難易度は低い」と捉えていると考えることができる.本グループの根底にあるものはメンバーへの感謝だと考えられ,それ故に,相互に評価をするピア評価に対して否定的と考えられる.また,他のグループに対しても学ぶ姿勢を示しており,競争という観点で捉えていないことが示唆された.

C群(グループワークへの積極性が低く,評価を受けることに対しても否定的な群;52人,13.3%):本群は,自らの知識不足や論理的思考力の不足から来るこれまでのグループワークでの成功体験のなさにより,他者とのコミュニケーションに対して苦手意識をもって演習に臨んだことが分かる.しかしこの群は,本演習の中でグループワークによってもたらされた多角的な思考や情報の吟味の価値に気付き,能動的学習の学習効果を実感している.他のメンバーが既にグループワークを通して獲得している能力を自らが獲得してないことに気づいた.メンバーの能力によってもたらされた成果によって達成感を得たことが,自らのコミュニケーション能力の改善の意識を持ったと思われる.本演習で,知識や統計的スキル以外の学びが多かった群と考えることもできる.

D群(全てにおいて肯定的な群;112人,28.7%):本群は,グループワークにおけるメンバー間の相互補完を最大限に活用していることが示唆された.困難な課題であるからこそ,他者に頼り,意見を引き出し,試行錯誤を行うことを楽しんでいることが感じられる.本群に属する学生は,これまでの課題を退屈だと思い勝手な判断・行動をとることもあったがが,その姿勢を改めたと読み取ることも可能である.また,ピア評価への肯定的な見解がグループワークへの動機づけと捉えており,グループ全体のダイナミクスをうまく制御することを考えてグループワークに取り組んだと思われる.

E群(演習に対する肯定感が低く,能動的に参加もしていない群;59人,15.1%):本群は,質的な解析から難易度の高い課題,グループの不公平感,コミュニケーション能力への自信のなさから演習に対する否定的な印象は強いことがわかる.演習で取り組んだ課題への興味の高さにより抵抗感を持ちつつもグループワークへの参加を継続することができ,その結果,難易度が高いと感じていた課題の解決ができたと共に,自身の振り返りに繋がっていることが読み取れる.グループへの貢献はできなかったものの,自らの気づきや達成感を得ることができた学習の過程が示唆された.

以上のように,量的な解析からは見られなかった各群の学びの過程に関する知見が得られた.例えば,A群とB群は共に積極的に参加し,演習を楽しんだグループ(TBLにおけるチーム)ではあるが,A群はグループワークによる相互補完による自らの成長と他グループとの競争を楽しんでいるが,B群ではグループメンバーとの共同作業によって成果を得たことを楽しんでいることが分かる.量的な解析からは同じく「積極的」だと判断された群であるが,グループワークに取り組んだ過程が異なることが明らかになった.この違いが,メンバーを相互評価するピア評価への肯定感の違いであることが示唆された.一方,積極的な参加が見られなかったC群とE群は,C群が主として自らの能力への自信のなさが原因であったが,E群ではそれに加えて,演習の実施体系そのものへの不満が多かったことが分かる.この違いが,C群はTBLやグループへの肯定感が比較的高かったことに対し,E群ではTBLやグループへの肯定感が上がらなかった要因であることが示唆された.さらに,量的解析ではD群は優秀な群とは判断されるが,本演習の何が魅力と感じ高いパフォーマンスを示したのかが分からないが,質的解析を加えることで,D群が演習に取り組んだ過程,楽しんでいた過程が明らかとなった.同じく,E群では様々な不満を抱えたにも関わらず,グループの中で役割が得られること,内容への興味,プロダクトの多様性などにより積極性の向上などを実感できることも,質的解析を加えることで示唆された.

本演習がTBLという方略がもつチームの醸成を加速する特性と,自由度の高いPBLという特性を組み合わせ,学生が能動的かつ実践的に取り組める教育体系であることは,我々の先行研究にいて量的な観点から明らかにしていたが,質的な研究を加えることにより,量的な解析では同じ傾向を示していても,その文脈や過程,つまり学生の学習への取り組みや,その中での振る舞いや自らの行為に対する意味づけの違いも明らかになった.量的な研究では否定的だと解釈されやすい群(学生)も,一定の満足を本プログラムがデザインしたアクティブラーニングから得ていることが示唆された.また,学生が演習を通して経験したこと,感じたこと,困難だと感じたこと,グループワークでの振る舞いなども量的に分割された群ごとに抽出できた.学生はそれぞれの立ち位置や,既に自らが有する知識,それぞれの能力に応じてアクティブラーニングの中で多様な学びに触れる機会を得ていることも明らかとなった.この成果は,我々の先行研究で示した「一定数の能動性を示さない学生の存在が残り,その学生たちへの個別のフィードバックの問題」の答えとなる可能性もある.

教育研究におけるプログラムの検証に混合研究の手法を取り入れる試みはいくつか知られており,反転学習における研究7,10),教師の賞賛行動による生徒への効果を検証した中学生に対する研究などが報告12) されている.いずれの研究も教育プログラムの検証としての価値は高いが,学生の学習過程に関する踏み込みは少ない.また,高等教育における学部プログラムとして行われた取り組みを対象としておらず,薬学教育への適用は慎重になる必要がある.看護学生の臨時実習における批判的思考の活用に関する解析11) は,看護学生の能動型学習プログラムにおける学生の学習過程を追跡したものであり,実務実習における薬学生の学びの過程として参考になると思われる.しかしながら,研究手法としてテキストマイニングを用いているため,解析が最終的に量化されており,学習過程の文脈性が損なわれている.

本研究は,アンケートによる因子分析とクラスター分析という量的研究とSCATによる質的研究を用いた,高等教育におけるアクティブラーニングにおいて学生の学習の過程が抽出可能な混合研究としてデザインした.量的研究の一つの方法である因子分析やクラスター分析は一定の客観性を担保する方法ではあるが,文脈的な意味を持たせることが困難であること,アンケート対象者の中での相対的な分析になることが,分析手法上の制限といえる.一方で質的解析は,文脈的理解や対象者の学習の過程,方略の中での経験,心理的な価値判断に対する情報を与えるが,解釈は間主観性が高く,得られた理論の一般適用には慎重な姿勢が求められる.本研究成果は,量的研究と質的研究の持つ利点を生かし,欠点を互いに補う混合研究を薬学教育におけるアクティブラーニングに適用した貴重な一例となる.今回の研究デザインは,量的解析で得られたある程度客観的で妥当性の高い群に対して質的解析を行うことで,質的解析の適用範囲を適切に制限することが可能になり,客観性の担保に寄与してると考えられる.また,本研究の成果は,アクティブラーニングを取り入れた演習の中で,学生の経験を,アンケートが明らかにする実施時の一点における自己認識のみではなく,学習過程を通した他者との関係や自己の行為に対する自己評価といった観点から分析することが出来た.これは,認知システムだけでなく,行為システムや人格的・情意的システムまで視野に入れて解析することを,一定の範囲で可能にしたと考えられる.本研究は混合手法を用いることで,特に教育の検証が難しいと考えられるアクティブラーニングに対する学生の「肯定的だった」「否定的だった」という傾向に加えて,「なぜ肯定的だったのか」「どのように否定的だったのか」という情報を一定の妥当性をもって得ることができた例であり,教育プログラムの改善への大きな指標となると思われる.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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© 2022 Japan Society for Pharmaceutical Education
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