Japanese Journal of Pharmaceutical Education
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Special Topics | Research ethics supporting the identity of pharmacy professionals
Research ethics supporting the identity of pharmacy professionals
Etsuko AritaTetsumi Irie
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2023 Volume 7 Article ID: 2023-021

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Science(科学),Art(技術),Humanity(人間性)は薬学人に必須の三要素であり,これらをバランスよく醸成することが薬学教育に求められている.教育の質を高めるためには,教育の方法や効果を検証する研究活動を行い,その成果を現場に還元することが重要である.良質な研究が満たすべき基準は,Feasible(実施可能性),Interesting(科学的興味深さ),Novel(新規性),Ethical(倫理性),Relevant(必要性)であり,Ethical(倫理性)はすべての研究において重要な要素である.特に,人を対象とする研究においては,研究対象者に対する十分な倫理的配慮が不可欠であり,教育研究においても例外ではない.一方,医学系研究には「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」のような明確な規定が発出されているが,教育研究の多くはその指針の対象外となる.つまり,「法は倫理の最低限」という格言があるように,研究者自身が倫理原則に基づき,どのような倫理的配慮が必要かを考え,倫理的感性を磨くことがより強く求められている.

2016年8月,日本薬学教育学会第1回大会において,シンポジウム「薬学教育研究,事始め」(薬学教育.2017; 1: 5-8, https://doi.org/10.24489/jjphe.2017-011)が開催され,2017年1月には「薬学教育研究に関する研究倫理ワークショップ」(薬学教育.2017; 1: A20-28)が実施された.薬学教育研究における適切な倫理的配慮について,会員相互の理解を深めるためには,これらの取組を継続・伸展する必要がある.薬学モデル・コア・カリキュラムの改訂など,薬学教育が大きな転換期を迎えている今,改めて薬学人が理解すべき研究倫理について考える機会となるよう,本シンポジウムを企画した.

まず,本学会誌「薬学教育」編集委員長である入江徹美(熊本大学)より,投稿論文の編集・査読の経験から,薬学教育研究における倫理的配慮について問題提起がなされた.次に,倫理学の専門家であり,所属大学の倫理審査委員会委員長である堂囿俊彦先生(静岡大学)が,研究者がこれから行う研究に関する倫理的問題について主体的に考えることの重要性と倫理的配慮の方法について話された.なお,堂囿先生のご講演内容の一部は,このほど公表された(臨床薬理.2023; 54(2): 77–83).次に,薬学の基礎研究者であり,科学者の研究倫理に造詣の深い田中智之先生(京都薬科大学)が,薬学人が健全なプロフェッショナリズムを発揮するために研究公正を学ぶことの意義について話された.薬学ヒューマニティ教育分野全般を担当している有田悦子(北里大学)からは,薬学部生に対する研究倫理教育の実践例が紹介された.さらに,北里研究所病院研究倫理委員会事務局長の氏原淳先生(北里大学)からは,所謂「生命・医学系指針対象外研究」に対する研究倫理委員会の対応例が紹介された.

本誌上シンポジウムでは,田中智之先生に「望ましい研究のあり方」,氏原淳先生に「病院研究倫理委員会における規制対象外研究の倫理審査体制」と題してご執筆頂いた.

質の良い研究を行うことは,薬学人が薬学人であることの確認,すなわち「薬学人としてのアイデンティティの確立」につながり,研究倫理はこの土台を支えるものである.本誌上シンポジウムを通じて,今後の薬学教育・研究のあり方について皆で意見を出し合い,さらなる充実と発展のトリガーとなることを期待する.

 
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