Japanese Journal of Pharmaceutical Education
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Review Article
Addressing problems with the current six-year pharmacy education based on the Pharmacy Education Model Core Curriculum (2022) in Japan
Kayoko Takeda MamiyaNaoko Arakawa
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2023 Volume 7 Article ID: 2023-032

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抄録

社会のニーズに応じて医療専門職の教育内容は変わる.今後さらに進む少子化,Artificial Intelligence(AI)およびInformation and Communication Technology(ICT)の発展によっても大学入学者の質は変化すると予想されるため,日本の薬剤師の質をどのように保証するかは喫緊の課題である.本論文では,国際薬剤師連合(International Pharmaceutical Federation: FIP)が公表している薬学教育の世界共通の基本的な指針や概念を共有すると同時に,現行の薬学教育モデル・コアカリキュラムあるいは現在の薬学教育の問題点を分析した過去の調査研究結果から,薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)に基づき各大学で学生の質を保証するための「カリキュラム作成」の工夫を提案する.

Abstract

Health professional education must respond to the changing societal needs instigated by a significantly aging population and declining birth rate. The curriculum content, including artificial intelligence (AI), information and communication technology (ICT), and student diversity are changing the quality of university enrollees. These changes highlight the urgent need to reassess the quality assurance of pharmacy education in Japan. The International Pharmaceutical Federation (FIP) advocates some fundamental guidelines and concepts of pharmacy education that can assist in curriculum development. In addition, this paper proposes some curricular frameworks that can be adopted in individual universities. This could address current problems and ensure quality pharmacy education based on the 2022 Model Core Curriculum in Japan.

はじめに

2006年4月以降,薬学部は6年制薬学科と4年制薬科学科の2学科制となり6年制薬学科ではそれ以前の薬学教育に比べて薬剤師としての資質を要求されるようになった.それは医療に携わる医師・歯科医師にも共通する「心構え」,「患者視点」,「チーム医療に参画していく能力」,そして,薬や薬物療法の医療専門職として未知の知識や技能を自ら修得し発展させるための「基礎力」と「研究能力」,最後に上記を後継者に伝える「教育能力」である1).その後,6年制薬学教育に対応する「薬学教育モデル・コアカリキュラム」ではコアカリに準拠して教えなければならない項目が多く,大学の独自性を組み込むことが難しい等の問題点が指摘されたため,7年後の2013年に「薬学教育モデル・コアカリキュラム(平成25年度改訂版)」が示され,2015年に適用された13).そこには「卒業時に薬剤師に求められる10の資質」が具体的に明記され,学修成果基盤型教育(Outcome base education:以下,OBE)の概念に基づいて構成されたが,それ以前のプロセス基盤型教育の要素も内包された構成となっていた.2022年に改訂された薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)では医学・歯学・薬学で初めて共通して求められる資質・能力が議論・検討され,2040年以降の社会も想定した資質・能力が「生涯にわたって求められる資質・能力」として明記された4,5).このモデル・コア・カリキュラムの大きな変更点は「医師/歯科医師/薬剤師に求められる基本的な資質・能力」を原則共通化して「情報・科学技術を活かす能力」を時代に則して新しく追加したことが挙げられる.また,薬学としての主な変更点は上記以外に「プロフェッショナリズム」を新しく追加し,薬学独自項目として「薬物治療の実践能力」を明記したこと,臨床薬学という教育体制の構築をしたこと,今までのOBEを進化させCompetency/OBEとして日本の現状に即した概念を基盤に作成したこと等多岐にわたる.2024年度から薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)が適用されるが4,5),上記背景からも薬学教育はここ10~20年で大きな変遷をしてきたと言える.

医療専門職の教育は社会等の様々なニーズに基づいて構成されることから,時代と共に当然教育内容も変わる.この概念は薬学の領域では2009年にWorld Health Organization(WHO),United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization(UNESCO)およびInternational Pharmaceutical Federation(FIP)によって共有され,FIPの中でNeeds-based Educationとして広く浸透していった(図16,7).FIPは世界の薬学および薬剤師教育について基本となる様々な指針を作成・公表することで世界のどの国でも質が保証された医療が提供できる仕組みを「薬学」という学問を通して整えている.その一端が学部教育,新人薬剤師教育,ベテラン薬剤師のアドバンス教育の枠組みであり,質保証に関する指針である713).そのため,薬学教育体制が不十分な国や今後教育体制を整える国は自国のニーズに応じて,その枠組みや指針を利用できる.日本でもBasic Scienceと同様に「薬学教育」に関する基本的な世界共通の概念や指針を把握した上で日本のニーズに基づいて「薬学教育」を検討することは今後さらに重要になるのではないだろうか.

図1

FIP Education Initiative Needs-Based Education Model9).※図1は国際薬剤師・薬学者連合が掲載した(文献9)に記載されている図を使用している.Quality Assurance of Pharmacy Education: the FIP Global Framework. 2nd Edition. Netherlands; 2014.

大学は社会のニーズを備えた学位取得者を社会に輩出する義務がある.FIPが示す薬学教育の質保証の柱は「教育内容」,「教育構造」,「プロセス」,「学修成果」,「社会へのインパクト(社会への波及効果・貢献)」の5つある9).日本では一般的にディプロマポリシー(DP)に基づいて各大学が医療専門職教育を行いDPの要件を満たした学生を卒業させるため「学修成果」に主に焦点があてられているが14),「社会貢献できる人材育成」は日本の「大学」の定義としても明記されているため「社会へのインパクト(社会への波及効果・貢献)」は世界だけではなく,日本でも求められていることがわかる9,15).そのため,著者は教育内容や構造の検討だけではなく16,17),卒業生自身,薬剤師および多職種等を対象に薬剤師の資質の評価・検証およびニーズを調査してきた1820).薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)の評価・検証も将来的に実施する必要が当然あるだろう.

本総説は,FIPが公表している薬学教育の世界共通の基本的な指針や概念を共有すると共に,現在の日本の薬学教育の問題点を分析した過去の調査研究結果から1620),今後,教育の質を保証するための薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)に基づいた各大学のカリキュラム作成の工夫を提案する.

1. Competency based educationとOutcome based education

世界の薬学教育専門家の間ではCompetencyに基づく教育(Competency based education: CBE)は医療専門職教育における教育モデルの転換を図るために大きな関心を集めており,基本的概念として浸透している13).医療体制の中心には患者と共に患者のニーズを満たすことができる資質・能力を備えた医療従事者の存在が必要不可欠であり,医療専門職の教育制度は地域の医療制度と連携してニーズに応じた内容であることが要求される13).つまり,地域,国,国際的なニーズおよび政策等によって医療専門職に求められるサービスが決まり,その求められるサービスから医療専門職が開発・発展しなければならないCompetencyが特定され,特定されたCompetencyを持った医療専門家を育てるために学部における教育内容が決まる(needs based education)7,8,13).その中で医療専門家になるための最初の教育,つまり,薬学生に対する学部教育はOBEを基本とし,生涯教育はCBEを基本とした概念で構成されることが欧米諸国で一般的となりつつある.ちなみに,FIPで示すCBEの医療専門職教育は臨床現場で働く薬剤師だけではなく,薬学研究者,大学教員など薬学に関わる全ての人材の生涯教育が含まれている.

OBEとCBEは教育や訓練の結果に焦点を当てる点では共通しているが,当然ながらその詳細は同等ではない13).FIPの文言を引用して記載すると,OBEとCBEの違いはエンドポイントの定義に関連していると考えられている.OBEの生みの親とされるSpadyによれば21),OBEモデルにおける成果とは「重要な学修経験の終了時に学生に示してほしい明確な学修結果」,「コンテンツ,情報,アイデア,ツールを使いこなすための学修者の能力を体現し反映する行動やパフォーマンス」を指す.OBEは学修内容の学業成績を終着点とするのに対し,CBEの終着点は実践に基づくパフォーマンスに重点を置いている.したがって,CBEで育成されるCompetencyは実践の場における与えられたタスクの遂行に焦点をあて22),市民や患者の健康上のニーズに基づいて常に開発される必要がある23).さらに,教育における学修成果(Outcome)とCompetencyの範囲は同じではない.Competencyは行動主義や習得学修理論に根ざした学修者個人を卓越した実践の達成に向けて導く専門的な能力開発に用いられると主張する人もいる24).つまり,個人がCompetencyに関連するパフォーマンスや到達度のギャップを特定し,求められるスキルやCompetencyを習得してプロフェッショナルへの道を目指す場合の指針となる.そのため,卒業後の医療専門職のための能力開発に下記に示すフレームワークとして記載されることが多い.一方,学部教育の学修成果(Outcome)はしばしば個々の学修者が教育プログラムやトレーニングの終了時に取得する必要があり,実践に必要な医療専門職のスタンダートや基準と考えられている.そのため,学部教育の学修成果(Outcome)とスタンダードは医療専門職の最低限の質保証のための有用な指標のため,大学卒業時の基準と考えられることが多い.したがって,教育におけるCompetencyとOutcomeは医療専門職の教育において,別々の概念ではなく学部教育から生涯教育へと相互にリンクしている概念である.

Competencyフレームワークは医療専門職のキャリアアップを支援するために使用されることから7,9,25,26,一般的な知識領域や専門知識を中心に構成される.また,専門知識のレベルを定義しカリキュラム,教育・学習形式,評価形式を設計する際に役立つ.FIPグローバルCompetencyフレームワーク(GbCF)では例えば4つの能力領域(医薬品公衆衛生能力,医薬品ケア能力,組織・管理能力,専門的・個人的能力)で構成されている7,9)

本総説ではFIPの概念を共有していることから,「Competency」,「Competencyに基づく教育(CBE)」,「Competencyフレームワーク」の定義はWHO global competency framework for universal health coverageから抜粋した意味として引用している27).また,FIPの概念は正確に共有するために一部定義を直訳した部分を含んでいるが,これらの理解は後で示す薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)の考え方の基本となるCompetency/OBEを理解する上で重要となる.

2. 今までの6年制薬学教育の評価

「薬学教育」の質保証のためには,薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)を適用する前に現行の薬学教育モデル・コアカリキュラム(平成25年度改訂版)の評価・検証をし,その上で改善すべき点を改善へと近づけるためのカリキュラム構成を検討することが必要ではないだろうか.また,学生の学部教育における学修成果(Outcome)を卒業時に評価するのみではなく,上述したように,卒業生がどのように薬剤師として評価されているのか(社会へのインパクト)についても知る必要があるだろう(図29).そのため,薬学生の主な就職先である「病院および薬局の薬剤師」を対象とし①②の調査を実施した.①旧4年制薬学教育を受けた薬剤師(以下,旧4年制薬剤師)で6年制薬学教育を受けた薬剤師(以下,6年制薬剤師)と勤務したことがある病院薬剤師と薬局薬剤師18),②6年制薬剤師自身(病院薬剤師と薬局薬剤師)19) に①②の立場から「6年制薬剤師は求められている資質があるかどうか」を5段階評価してもらい,その結果を分析した.さらに,薬剤師が主にチーム医療をするために関わる医師・看護師に対しても調査を実施した.しかし,③医師および看護師に対しては6年制薬剤師かどうか判別できないため,薬剤師の資質評価に関する調査(6年制薬剤師と記載せず)と薬剤師に対するニーズを調査した20)

図2

The Pillars and Foundations of Quality9).※図2は国際薬剤師・薬学者連合が掲載した(文献9)に記載されている図を使用している.Quality Assurance of Pharmacy Education: the FIP Global Framework. 2nd Edition. Netherlands; 2014.

アンケート項目は現行の薬学教育モデル・コアカリキュラム(平成25年度改訂版)に記載されている「卒業時に薬剤師に求められる10の資質」を利用し,これらの資質を有しているかどうかの5段階評価を主に調査した.「卒業時に薬剤師に求められる10の資質」は1. 薬剤師としての心構え,2. 患者・生活者本位の視点,3. コミュニケーション能力,4. チーム医療への参画,5. 基礎的な科学力,6. 薬物療法における実践的能力,7. 地域の保健・医療における実践的能力,8. 研究能力,9. 自己研鑽,10. 教育能力である13).また,医師,看護師には薬剤師に対するニーズを把握するために「薬剤師に今以上に役割を果たして欲しいと思う業務」についても調査を行った.

① 旧4年制薬剤師が評価した6年制薬剤師の資質18)

旧4年制薬剤師で6年制薬剤師と勤務したことがある全国の薬剤師を対象に「6年制薬剤師の資質」の評価の調査を実施した.アンケートはLikert Scaleを用いて5段階評価をしてもらい,分析はMann-Whitney U testおよびCustomer Satisfaction(CS)分析を行った.薬局薬剤師および病院薬剤師各100名となるまでWebによる調査を実施した.結果,旧4年制薬局薬剤師は6年制薬剤師の全ての資質に対して5段階で平均3以上,「資質はある」と評価した一方で,旧4年制病院薬剤師は「薬物療法における実践能力のうち,問題解決能力」,「地域の保健・医療における実践的能力」,「研究能力」,「教育能力」が不十分と評価した.また,優先して改善すべき事項として「薬物療法における実践能力のうち,問題解決能力」が挙げられた.本研究では「地域の保健・医療における実践的能力」,「研究能力」,「教育能力」は薬剤師としてアドバンスレベルと考えられる時期に再評価すべきと考察したが(論文調査時点2017年7月),「薬物療法における実践能力のうち問題解決能力」については学部教育でのさらなる教育の必要性があると考察した.

② 6年制薬剤師の自己評価19)

6年制薬学教育を受けた全国の薬剤師を対象に「自身の薬剤師としての資質」の自己評価をWebを用いて調査した.アンケートはLikert Scaleを用いて5段階評価をしてもらい,分析はMann-Whitney U testおよびCS分析を行った.最終的に薬局薬剤師100名,病院薬剤師50名の計150名の自己評価データが得られ,2.①で実施した旧4年制薬剤師の他者評価を合わせて350名での解析を行った.結果,6年制薬剤師は「チーム医療への参画」,「薬物療法における実践能力のうち,処方解析能力」,「研究能力」,「教育能力」を旧4年制薬剤師より低く自己評価したが,それ以外の資質の自己評価は高かった.特に,旧4年制薬剤師が低く評価していた「薬物療法における実践能力のうち問題解決能力」については旧4年制薬剤師よりは高く自己評価していた.本研究の考察は①同様「研究能力」,「教育能力」は次のアドバンスレベルで再評価すべき資質と捉えたが,「チーム医療への参画」,「薬物療法における実践能力のうち,処方解析能力」については早急に対応すべき課題と考察した.特に「チーム医療への参画」に関しては,本アンケート実施時点(調査時点2018年1月)で多職種連携教育の実践報告が少なく,今後大学が真摯に向き合う課題であることが示唆された.

自己評価が他己評価より高い回答結果については,6年制薬剤師が自身の卒業時の到達度を明確に理解できていない,あるいは,臨床現場の旧4年制薬剤師が6年制薬学教育の到達度を理解していない,どちらかの要因と考察した.そのため,大学と病院・薬局等での情報共有の必要性と卒業時に求められる資質・能力の到達度を各大学が学生や社会に明確化することの必要性が示唆された.「薬物療法における実践能力のうち,処方解析能力」についての考察は以下③の考察部分に併記する.

③ 医師および看護師による薬剤師の評価20)

薬剤師に対する多職種の評価やニーズを把握するために,全国の医師,看護師を対象にWebによる調査を実施した.アンケートは4段階評価とし,質問項目は「卒業時に薬剤師に求められる10の資質」で示されている「10の資質を薬剤師が有しているかどうか」の評価および「薬剤師に今以上に役割を果たして欲しいと思う業務」とした.後者は具体的に以下10項目である.1. 患者への服薬指導や患者教育,2. 遺伝子診断・薬物血中薬物濃度の測定と評価,3. 地域における疾病予防・公衆衛生(活動),4. 市民への医薬品啓蒙活動(健康食品など含む),5. 医療の発展のための基礎・臨床研究,6. 治療に関する処方提案(チーム医療の一員として),7. 医療安全,8. 創薬・科学者としての医療貢献,9. 治験などに関する医薬品の管理・患者モニタリング,10. 在宅医療における医薬品管理・服薬指導である.分析方法はMann-Whitney U testおよび主成分分析を行った.最終的に医師304名,看護師336名から回答が得られた.結果,看護師は薬剤師に必要な全ての資質を薬剤師は「有している」と評価したが,医師は「基礎的な科学力」は医師より低いと6割以上の医師が評価し,さらに,半分以上の医師が「薬物療法における実践能力のうち処方解析能力」について薬剤師は低いと評価した.前者は近年の薬学部入学者の学力低下により「基礎的な科学力」を十分に育成できていなかった可能性もある.薬学教育モデル・コアカリキュラム(平成25年度改訂版)の「基礎的な科学力」は「生体及び環境に対する医薬品・化学物質等の影響を理解するために必要な科学に関する基本的知識・技能・態度」と明記され,以前は「基礎的な科学力」は薬学者・薬剤師の強み・特徴であったと言っても過言ではない.しかし,現在は上記「基礎的な科学力」を発揮するための「基本的な知識」が不足している学生が増えた結果の評価であり,学力よりも意欲・適正の評価の比重が多い大学入学試験科目・入試区分が起因している可能性も示唆された28)

後者の「薬物療法における実践能力のうち,処方解析能力」が低い結果に関しては,大学で教授される薬の知識や一般的な薬物療法を患者に個別適応できていない可能性がある.薬剤師国家試験では「実務」領域に関する問題が多く出題され,一般的な薬物療法に関する実務症例問題をクリアした学生が薬剤師となっているはずである.しかし,実際,「2. ②6年制薬剤師の自己評価」の結果でも示したように,「薬物療法における実践能力のうち処方解析能力」を低く自己評価していた.そのため,一般的な薬物療法を個別化治療に適応するための資質の育成が現教育では不十分であることが示唆された.そのため,実務実習期間中の「個別化治療」に関わる機会・場面を増やすことも必要となる.さらに,生涯教育および学部教育の「個別化治療」の領域を医師も交えて設計する必要性があるのかもしれない.

今回の医師,看護師の評価およびその他評価も合わせて鑑みると,薬剤師が多職種連携を長年実施できず6年制薬学教育以降に多職種連携の機会が増えたことで以前からの問題が露呈した可能性も否定できない.しかし,「薬剤師に今以上に役割を果たして欲しいと思う業務」に対する医師と看護師の回答結果は全項目に対して,今以上の職務を果たすことを切望する結果であったことから,薬剤師に対する多職種のニーズや期待が医療現場にあることは事実である.

現在,薬剤師業務に関して対物業務から対人業務への移行29),デジタルトランスフォーメーション(DX)等も議論されている30).社会のニーズに薬学者・薬剤師が対応し,10年後,20年後の将来を見据えて目の前の学生を教育していくことが今求められていることが示唆された.

3. 薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)に向けた対応

各大学は2024年度から適用される薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)に向けたカリキュラム構成を検討しているが,「三つのポリシー」の指針を明確化して上記2.①~③の評価結果の課題を考慮した上で新たな教育体制を整えることが肝要かもしれない31).ここでは薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)の新しい概念を現行の薬学教育モデルコア・カリキュラム(平成25年度改訂版)と簡潔に比較説明後,薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)で求められている資質・能力を育成するために,現行の薬学教育モデルコア・カリキュラムで明らかになった課題を改善しつつ,各大学で実施可能なカリキュラム構成等の具体案を提案する.

① 薬学教育モデル・コアカリキュラム(平成25年度改訂版)と薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)の概念15)

現行の薬学教育モデル・コアカリキュラム(平成25年度改訂版)はOBE/プロセス基盤型教育の2つの教育概念が混在し,「卒業時に求められる10の資質」を基に構成されている.薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)では日本の現状に則したCompetency/OBEとして構成され,さらに,初めて医学,歯学,薬学に共通して求められる資質・能力を「生涯にわたって目標とする薬剤師として求められる基本的な資質・能力」として明記されたことは既に述べた通りである.Competency/OBEは日本の薬学教育に則した概念であり,海外とは違い学部教育の中に臨床現場で実施される実務実習が内包され,学部教育の目指すべき資質・能力を「生涯にわたって目標とする薬剤師として求められる基本的な資質・能力」として掲げていることに起因すると考えている.つまり,学部教育の中に実践の場で薬剤師と同等の業務を遂行する機会があり,薬剤師の卵としてCompetencyを発揮する場が設定されているからである.また,認知能力・非認知能力といった概念とともに構成されていることも薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)の特徴と考えられる.

薬学教育は質保証の観点から,学修成果の評価にも焦点を当てなくてはならないため,認知能力・非認知能力の概念とMiller’s pyramidの両者の概念を合わせて,各大学でのカリキュラム構成を考えると良いのではないかと考えている3234).現在,実務実習指導薬剤師養成ワークショップの中では学修成果基盤型教育の評価指針であるMiller’s pyramidの概念を基に「Does」を意識した実務実習を推進している32).Miller’s pyramidは医療人教育におけるClinical Competenceの評価に焦点を当てたフレームワークであり,1つの評価方法では臨床に必要な全ての視点を評価することができないため,評価する資質・能力を体系的に示した概念図である32).このMiller’s pyramidの概念は当然,実務実習だけではなく大学での教育にも適用可能であることから,到達度に応じた評価,方略を組み立てる上で有用な概念と国内外共に考えられてきたのではないだろうか.一方,認知能力・非認知能力は知識やスキルを発展させる過程の階層性を示す概念図であり,知識の概念化やメタ認知の過程が明瞭に示されている33).医療人教育では知識や概念,原理・原則を非認知能力へと発展させる場合,「安全に試してみる/Shows how」に相当するOSCE等を通して学生の資質・能力を評価する必要がある.さらに,各大学ではOSCE前に学内で模擬患者等を利用した事前実習/Shows howを取り入れることも多いため,医療人教育の評価に焦点を当てたMiller’s pyramidの概念が日本でも汎用されてきた1つの理由なのではないだろうか.そのため,認知能力・非認知能力を参考にし,Miller’s pyramidの概念を図式化したものを図3および図4で示し,著者の考え方・解釈の概要を以下に説明する.また,認知能力・非認知能力については文献33に示す「厚労省資料:平成27年3月11日に教育課程特別部会で提出された資料6のP12」に記載されている概念図を参考に著者が改編したものを基に以下を記載している(図433).Miller’s pyramidにはKnows,Knows how,Shows how,Doesの4段階がある.Knowsは単に知識およびスキルの使い方を「知っている」,Knows howは知識を理解し,スキルの使い方の適用や効果的な活用を「理解している」であり,認知能力に相当するのではないかと考えている32,33).つまり,Knows,Knows howは知的な力として知識(内容知)・技能(方法知)と思考力を含んでいるため,単に「知る」から「どのように知識を活用するかを知る」へ発展する.それらの知識は概念的知識となりその先の原理,方法論へと発展する32,33).Miller’s pyramidは評価に焦点を当てていることから概念化までの意味付けは明示されていないため,認知能力・非認知能力の階層性を理解することで知識・スキルの発展を具体化するのに役立つと考えている32,33).また,原理や方法論を理解して概念化した知識やスキルを模擬的状況の中で他者と関わりながらパフォーマンスと共に適用し,自身の知識やスキルの醸成と自己の発展を図るのが「Shows how」に相当すると考えられ,模擬的状況では関われない実際の患者や患者家族,多職種および研究者がいる環境の中で自身の知識・スキルをパフォーマンスと共に適用し,自身の知識・スキルの醸成と自己発展を図るのが「Does」相当と考えられる.そのため,非認知能力を発展させる場として「Shows how」,「Does」があると想定できる.上記のように,非認知能力は認知能力を社会や他者との関わりによって自己を発展させる中で育成される能力であるが,常に「Knows」⇒「Knows how」⇒「Shows how」⇒「Does」の順番に資質・能力が醸成されるのではなく,卒業研究などでは「Knows how」⇒「Does」と発展することも学生の有する資質・能力によっては当然起こりうる.つまり,認知能力と非認知能力の関係性も相互関係にあり両概念共に図3で示す線引きや図式化が明確化できるものではなくお互い複雑に絡み合っている32,33)

図3

Miller’s Pyramidと認知・非認知の関係とカリキュラム相関図(武田案).※Miller’s Pyramid32) を改編

図4

認知システムと非認知システム(メタ認知システム・行為システム)の関係.※文献33スライド12を抜粋・武田改編33)

② 今まで行われてきた6年制薬学教育の評価結果から考える各大学の実施可能な取り組み

2.①~③の調査研究結果で示された課題に焦点をあて,各大学のカリキュラム構成案として,i)学修成果とその到達度の明確化,ii)カリキュラム構成の工夫と評価(問題発見・解決能力と処方解析能力),iii)プロフェッショナル教育について提案する.ただし,ここに明記する内容は1つの提案であり推奨ではない.特に,教員Faculty Development(FD)を実施しても授業内容や方法等の改善が常に一方通行な場合,明確な改善の指針がない場合,教員間で学生の到達レベルの統一認識がないために方略・評価が確立できない場合には下記提案を必要に応じて活用することでPDCAサイクルの推進がし易くなる可能性があるため,あくまで一案としての提案である.

i)学修成果とその到達度の明確化

調査研究結果2.②の課題で示したように,「学生が卒業時に求められる到達度を把握すること」は学生が学修を進める上で重要であり,「社会や臨床現場に薬学生の卒業時の求められているレベルを示すこと」は大学が求められている資質・能力の質を保証した学生を社会に輩出させる契約として示すためにも重要である9).各大学は学修成果としてDPに到達するように学生を育成するが,DPの到達の有無,つまり学修成果をどう評価するかは国の違いを問わず高等教育の課題になっていることを松下らも述べている35,36).日本では各大学のDPが10以上記載されている薬系大学がないことも上記課題の要因の1つかもしれないと考えている.海外では薬学生に求められる学部教育の学修成果とその到達度を国として指定し,その基準に到達しているかを各大学が判定し37),薬学生の質を保証している.例えば,英国では薬学生に求められる国が示す学修成果は55項目,Miller’s pyramidを基にした到達度と共に明記され,それに基づいて各大学が学生を評価し学位を授与する37).卒後に52週の実務実習を受け,国家試験では主に症例問題と処方に関する計算問題が出題され得点率70%前後で薬剤師資格が授与される37).日本のDPに相当する社会への契約は各大学が「ミッション」あるいは「ビジョン」として設定し掲げている.そのため,日本の薬系大学が示すDPのみで実際の学修成果とその到達度を測定することは難しいのは当然かもしれないと考えている.国際的視点から見ると,薬学生の質を保証するための学修成果を国が定め,各大学が「ビジョンやミッション」を作成することが一般的である.しかし,日本のニーズに合わせて各大学の特徴を明確に示すことに主眼を置くと,DPの下に細分化した学習成果を各大学が検討して明記し,その到達度を測定することはDP到達度を測る1つの方法ではないかと考えている.

ただ,先に記載したように,DPの下に細分化した学習成果を明記しても,実際には学修成果の到達度設定が不明確あるいは教員間での認識の違いが生じる可能性がある.到達度を明確化する方法として,今回は2つ提案するが1つ目の到達度の設定方法は英国同様Miller’s pyramidを利用した表記32),2つ目の到達度の設定方法は認知能力・非認知能力を利用した表記である33).各大学のDPから細分化した各学習成果を決定・明記し,その学修成果の到達度をMiller’s pyramidあるいは認知能力・非認知能力を用いて設定する.その後,必要に応じてその到達度までのステップを決めて(どの学年でどのレベルまで最低限到達すべきかを各系,各科目で話し合い)学生および教員と共有する.到達度が決まれば,Miller’s pyramidに基づいた評価,方略が決まるため,各科目で各教員が共通認識の下PDCAを運用できる.勿論,Miller’s pyramidの到達度4段階表記ではなく,学修成果の到達度を2段階表記(認知能力・非認知能力)を利用し,非認知能力までを学修成果の到達度と設定しても同様である.例えば,1~3年は認知能力/非認知能力の育成と設定した場合でも「認知能力」に対応する領域はMiller’s pyramidで示す「Knows」あるいは「Knows how」,「非認知能力」に対応する領域は「Shows how」あるいは「Does」と想定すれば,評価,方略の利活用が可能であるため,学修成果の到達度設定に応じた適切な評価・方略を教員は設定でき,PDCAを共通認識の下運用しやすくなると考える.

しかし,各科目の到達度設定に関わるPDCAサイクルだけではDPのどこまで学生が到達したかの学修成果のパフォーマンス評価ができない.一方で,全ての科目にDP到達度を測るためのパフォーマンス評価を設定すると評価する教員にかなりの負担がかかる.そのため,DPの到達度を測る方法として,6年間を通した重要な結節点でPivotal Embedded Performance Assessment(PEPA)科目を設定する方法がある35,36).海外でも多くの科目が分野別に教えられているため,カナダやFIPではスパイラルカリキュラムの概念を推奨している(図513).それは学生の学修段階において分野別の焦点から実践指向で統合されたアプローチへの変化を実現させるためのカリキュラム構造である13).PEPA科目は2020年に松下らによって報告された方法であり,科目レベルとプログラムレベルの評価をつなぐ方法として提案された35,36).PEPA科目をどの時点で何回設定するかは各大学の人的・時間的要因に依存するが,少なくとも2つ以上のPEPA科目設定によりプログラムレベルでの学生のDP到達度の変化を長期ルーブリック評価等を利用して評価できる.また,PEPA科目では複数の教員が関わりパフォーマンス評価を行うことから,今後を見据えて基礎系教員と臨床系教員で構成する(基礎と臨床を繋ぎ科学を統合して臨床で活かす授業構成をする),あるいは他学部と協力して授業構成する(多職種連携能力,問題発見解決力および処方解析力の向上)等長期ルーブリック評価の作成や課題設定を教員間で協力して設計することも方略の1つである.PEPA科目の詳細は松下らの論文を参照いただき,ここでは省略する35,36).上記学修成果とその到達度設定を明確化し,学生,社会および臨床現場等と共有することで「学生が卒業時に求められる到達度を把握すること」や「社会や臨床現場に薬学生の卒業時の求められているレベルを示すこと」を可能にすると同時に,各大学で教員の共通認識の下でPDCAサイクルを推進しやすくなるのではないかと考えている.

図5

Spiral curriculum13).※図5は国際薬剤師・薬学者連合が掲載した(文献13)に記載されている図を使用している.Competency-based education in pharmacy and pharmaceutical sciences, A FIP handbook to support implementation of competency-based education and training, Version 1, The Hague, FIP, 2022 https://www.fip.org/file/5338 (adopted by FIP, with permission, from an original of the British Columbia Institute of Technology, Bachelor of Science in Nursing programme, Burnaby, Canada).

ii)カリキュラム構成の工夫(問題解決能力および処方解析能力の醸成)

調査研究結果2.①②の課題として「課題発見・解決能力」が挙げられたが,これは「薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度版)」では「専門知識に基づいた問題解決能力」のCompetencyに相当し,各大学のDPによってカリキュラムを構想して育成しなくてはならない(以下,共通して「課題発見・解決能力」と記載する).既に多くの大学で実施しているアクティブラーニングを活用した「課題発見・解決能力」の育成は効果があるとの報告も多く17,38) 今後も各大学で工夫しながら実施すべきと考えている.しかし,「授業内で与えられたテーマに基づく課題発見・解決能力」から「臨床あるいは薬学が関わる実際の現場での課題発見・解決能力」の醸成へと発展させることは各大学のDPの設定によっては必要ではないだろうか.例えば,ある大学のDPで求める「課題発見・解決能力」の到達レベルが「臨床現場における課題発見・解決能力」なのであれば,実務実習中に「臨床現場の課題や問題を学生が発見して解決方法を検討した後に大学教員・指導薬剤師と共に解決策へと導く,あるいは学生自ら解決策を提案し解決へと導く」等の方略も選択肢の1つである.「授業で与えられたテーマ内での課題発見・解決能力」と「臨床現場等の日常業務中に発生する課題を自ら発見して解決する能力」には同じ「課題発見・解決能力」というCompetencyでも到達度に大きな違いがある.そのため,「課題発見・解決能力」と明記しても,各大学の求めるDP設定によって到達レベルに達する方略は様々であるはずである.さらに,大学と臨床現場等の連携による「課題発見・解決能力」の醸成はその後「臨床研究」の発展にも繋がるため,実施可能であれば「実務実習の充実」としても大きな発展となる.

調査研究結果2.②③の課題として挙げられた処方解析能力は教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)では「薬物治療の実践能力」というCompetencyとして設定されている.処方解析能力は「薬物治療の実践能力」の要であるが,これに対する医師や自己の低評価については薬学「D領域 医療薬学」内で教える「一般的な薬物療法」を「F領域 臨床薬学」で「個別化治療」に発展させる構成/方略で解決する(Competencyの育成ができる)のかもしれない4,5).現在の薬剤師国家試験の症例問題や大学内で扱う症例問題や処方解析は個別化治療の設定として最も適切な治療へと導くための検査データ(血液検査結果,培養,遺伝子診断結果など),処方内容および患者背景(既往歴,嗜好品,併用薬など)が記載され,それらの情報から薬剤師が考える適切な個別化治療を選択することが多い.おそらく,薬剤師が考えている「個別化」の意味と医師が考えている「個別化」の意味が異なることが医師が「薬剤師の処方解析能力」に低い評価を付けた一因かもしれない.医師が日常的に実施している「個別化」は上記データ以外に「患者自身の人生観」や「患者家族の患者への思い」など,患者の生き方,考え方および人生のポリシー,そして,患者家族の思いや考えを汲んだ「個別化」ではないだろうか.そのため,今後の薬剤師に求められることは治療に関する客観的データの情報収集とそれに基づく処方提案や服薬指導だけではなく,患者の人生に対する考えや語り,家族の考えや語りを理解した上での「処方解析・処方提案(薬物治療の実践能力)」であるのかもしれない.そのため,上記を経験できる場の設定や学内での症例問題作成時には患者・患者家族の人生観や語り等の内容を含める等の工夫がこれらのCompetencyの育成には必要かもしれない.上記意味での「個別化」は対物業務から対人業務へ移行した先,今後薬剤師が意識すべき役割の1つではないだろうか.

iii)プロフェッショナル教育39)

薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)では「プロフェッショナリズム」が追記され,「生涯学び共に学ぶ姿勢」も継続明記された4).プロフェッショナリズムの重要な要素である自己研鑽は薬剤師免許更新制度のない日本では重要なCompetencyの1つである.そのため,自己研鑽に関する薬剤師の認識や自己研鑽実施状況についてWebによる調査を実施し,薬剤師が自己研鑽するために求めていることと自己研鑽に必要な要素を検討した39).薬剤師529人の回答結果から「自己研鑽は卒後必要である」と9割以上は認識している一方,2~3割の薬剤師は「自己研鑽をしていない,あまりしていない」と回答した.また,自己研鑽時間は「1週間で1~3時間」が最も多く,「自己研鑽能力は学部教育で育成すべき」と5割以上の薬剤師が回答した.さらに,自己研鑽に必要な要素として①自己研鑽の必要性に対する認識,②実行に移す力,③社会のニーズを察知する力,および④学生時代の学修行動の4つが挙げられた.そのため,自身の課題を明確にして課題克服のために自己研鑽する習慣を学部教育で育成する必要性が示唆された39).現在,学部教育での自己研鑽能力の育成には省察レポートが利用されることが多いが,省察レポートは各科目内だけで完結させず,上述したPEPA科目(PEPAを複数回入れた場合)に数回省察レポートを組込み,長期ルーブリック等で評価することで次の科目までに自己省察した内容に基づき自ら実行・発展させたかどうか等,プログラムレベルでの自己研鑽能力の醸成の経過の一部を評価できると考えられる.

英国の一部の大学では「ゼロ単位科目」を設定している.「ゼロ単位科目」は単位化されないが修得なしに進級できない科目と位置づけられている.これは「与えられた課題を実施して評価される」のではなく,「自ら課題や目標を設定し実行する」という単位であるため,プロフェッショナル教育に理想的な仕組みの1つかもしれない.設定方法は検討すべきだが,例えば,学年毎に学生自らDPに到達するための自身の課題を見つけ,自ら目標を立てて学修内容を設定し「ポートフォリオ」として毎年提出する(6年生になったら6年分のポートフォリオができる),あるいは「薬学or医療」に関する興味ある内容について自ら学修・調査・研究して毎年提出する等,設定方法によっては学生のプロフェッショナル意識だけでなく実行力や問題発見・解決能力も育成しうるのではないだろうか.

最後に,現行の薬学教育モデル・コアカリキュラム(平成25年度改訂版)は「卒業時に薬剤師に求められる基本的な10の資質」が明記されているが,薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)では「生涯にわたって薬剤師に求められる基本的な資質・能力」が明記され,Competency/OBEとなったことから「Does」について少し記述する(図3).FIPおよび他国の医療専門家の生涯教育内でのCompetency Frameworkには「Does」に相当する部分を数段階に分けて目標と共に設定されている.つまり,薬剤師免許更新制がある多くの国では医療専門家の生涯教育にもフレームワーク(到達目標・到達度設定)があり,その中で「Does」の発展系が明記されている.それは「Does」を頻度で分類した「Rarely」,「Sometimes」,「Usually」,「Consistently」である7).ある医療専門家としてのCompetencyを示す場合に求められる臨床現場等でのパフォーマンスの難易度は出会う症例の難易度,疾患の希少さ,経験,および役職等によって異なるのは当然である.しかし,医療専門家としてのCompetencyが十分に備われば,症例の難易度や疾病の希少さ等に関係なく常に対応できるはずである.そのため,パフォーマンスレベルを4つの頻度に分けて明記している.各大学のDPの到達度を「Does」と設定した場合,学部教育で「Does」まで育成できるのかの議論がなされる可能性がある.しかし,上記を理解することで,Competency/OBEとして今回のカリキュラム構成を考えた場合,到達度としての「Does」や「非認知能力」の設定の目安の1つとなるのではないだろうか.

4. 薬学教育の残された課題

18歳人口減少の一方で増設され続けている薬系大学に入学する若者は今後も減少するため,入学生の学力低下の問題と薬剤師・薬学者の質の問題は表裏一体である.薬剤師・薬学者の質を保証するために各大学で適切なアドミッションポリシー(AP)を設定することは必要不可欠であるが,大学経営のために入学者数を一定数確保しなくてはならないジレンマが発生している.医師からの「基礎的な科学力が低い」という評価に基づき,時代と共に変わる薬剤師に求められる「科学力」を今後明確にし,「薬学」として対策を講じることも求められる.薬剤師・薬学者の「薬を通して患者・生活者等と関わる」という職能に大きな変革は今後もないだろう.各大学が設定するDPに基づき,上記課題にどう向き合うのか,特に入学者と学力の問題(基礎的な科学力を含む)とその後の学部教育に関する継続的な議論は必要と考えている.

学部教育で設定されている「実務実習」の評価・検証は現在されていない.「実務実習内容」の充実は「多職種連携能力」,「薬物療治療の実践的能力(処方解析能力の向上含)」,および「専門知識に基づいた問題解決能力(臨床で必要な科学力含む)」などのCompetencyの醸成の場としての要となりうる.さらに,大学と臨床現場の連携による「専門知識に基づいた課題発見・解決能力」の醸成はその後「臨床研究」の発展にも繋がるため「実務実習内容の充実」の課題は山積ではあるが,上記が実現すれば「薬学」として大きな発展となるかもしれない.「実務実習内容」の充実を図るために,例えば,現在の実務実習で活用しているルーブリック評価の観点を見直して,①「(専門知識に基づいた)問題発見・解決能力」,②「医療人としての倫理観」,③「薬物治療の実践能力(処方解析能力含む)」,④「自己研鑽能力」,⑤「臨床で必要な科学力」等,「薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)」で掲げられたCompetencyに関わる要素を評価の観点として,現場の薬剤師が①~⑤を評価する.その評価結果から各学生が特に不足していると評価されたCompetencyについて各大学でアドバンス実習を設定し(①~⑤),大学内や大学と臨床現場が連携した場でそのCompetencyを補完する等の方略もあるのかもしれない.これは,実際の臨床現場でしか評価できない各学生の薬剤師の卵として発揮したCompetencyの不足部分を実務実習後に大学がアドバンス実習として補完する意義の1つになるかもしれない.F.臨床薬学では,実務実習後に実施する大学内でのアドバンス実習は実際の臨床現場から切り離された中で再教育を行うため,疑問を持つ大学教員もいるだろう.著者自身も方略によってはそう感じるが,「実際の臨床現場で示したパフォーマンスから定かになった各学生の不足したCompetency」を大学内あるいは大学と臨床現場の連携で再度補完する体制は,薬剤師国家試験で「知識」のみを問う日本の薬剤師国家試験を考慮すると,薬剤師・薬学者の質を担保するための重要な体制となるのかもしれない.そのためには,実務実習の評価の観点を再検討すること,臨床現場の薬剤師が様々な観点を評価できることを前提として臨床現場で様々な観点を評価するための場面設定(例えば,倫理観を評価できる場面設定)を実務実習中に用意すること,実務実習後に必要に応じて大学が臨床現場と連携し学生の不足したCompetencyを補完する体制を整えることが求められる(大学内での体制含む).様々な方略も検討可能だが,実務実習とその後に続く大学内でのF.臨床薬学の連携の設計は今後重要になるだろう.

日本は薬剤師免許更新制度がないことから薬剤師・薬学者の生涯教育は現状自由意志であるため,学部教育と卒後教育を連携させ,生涯を通して薬剤師・薬学者の質を保証する方法も検討しなくてはならない.これは日本が先進国の中だけでなく,先進国以外の国と比較してもかなり後れを取っている課題である.

今回は一大学としての評価・検証ではなく,現行の薬学教育モデル・コアカリキュラム(平成25年度改訂版)を様々な観点から評価・検証し1820,39),そこで得られた課題と世界で認識されている薬学教育の概念から薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)を構成するための提案をさせていただいた.実際,各大学が抱える問題点は多様で複雑であることから上述の取り組みを大学に具申しても採用されないことも多いのかもしれない.しかしながら,「薬学教育のあるべき姿」を念頭に,そこに少しでも近づく奮励努力をする必要があると薬学教育研究者の1人として感じている.そのため,今後も国内だけでなく,海外事例を把握し,日本のニーズに基づいて日本の薬学教育の質を担保する方略や体制整備を薬学教育研究者と各薬学領域の研究者が共に考えていく必要があると考えている.

謝辞

本論文の執筆内容について,和歌山県立医科大学薬学部平田收正先生にご助言をいただきました.ありがとうございました.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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