Japanese Journal of Pharmaceutical Education
Online ISSN : 2433-4774
Print ISSN : 2432-4124
ISSN-L : 2433-4774
Review Article
Quality assurance in pharmaceutical education from a global perspective
Kayoko TakedaKazumasa Hirata
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2024 Volume 8 Article ID: 2023-044

Details
抄録

日本薬学教育学会(以下,学会)は2016年に発足以降,「薬学教育・薬剤師教育」に関する様々な研究活動を行い,今年で第8回目の日本薬学教育学会年会を迎えた.しかし,国際的な視点での取り組みは十分とは言えず,我が国における「薬学教育・薬剤師教育」のさらなる充実・発展を図るためには,国際的視点から日本の薬学教育に関する評価・検証を推進することが非常に重要と言える.そのため,2021年に薬学教育学会内に国際化委員会を設置した.本委員会は国際的視点を取り入れた取り組みの推進により日本の「薬学教育・薬剤師教育」の充実・発展に貢献することを目的として,学会員を中心として,海外の教育や薬剤師活動に関する情報の収集と薬学教育学会誌などを通じた発信・共有を開始した.第8回薬学教育学会シンポジウムはその活動の一端として,2024年から適用される「薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)」が,各大学のニーズを踏まえ,質を担保したものとなるよう,国際的な視点から日本の薬学教育の質保証に関する提言・提案がなされた.本総説ではその概要を紹介する.

Abstract

Since its establishment in 2016, the Japan Society for Pharmaceutical Education (hereafter, the Society) has conducted various research activities on “pharmaceutical education and pharmacist education” and this year marked the 8th Annual Meeting of the Japan Society for Pharmaceutical Education. However, efforts from an international perspective have not been sufficient, and in order to further enhance and develop ‘pharmaceutical and pharmacist education’ in Japan, it is extremely important for the Society to promote international evaluation and verification of pharmaceutical education. For this purpose, an Internationalization Committee was established within the Society in 2021. With the aim of contributing to the enrichment and development of ‘pharmaceutical and pharmacist education’ by promoting initiatives that incorporate an international perspective, the committee started activities to collect information on overseas educational and pharmacist activities, mainly from members of the Society, and to transmit and share this information through the Japanese Journal of Pharmaceutical Education. As part of these, proposals and recommendations for quality assurance of Japanese pharmaceutical education from an international perspective were made at a symposium of the 8th Annual Meeting of Japan Society for Pharmaceutical Education to ensure that the Model Core Curriculum for Pharmaceutical Education (revised in 2022), which will be applied from 2024, is based on the needs of each university and ensures quality. This review presents an overview of the recommendations.

はじめに

日本の薬学教育は時代と共に変化している.「日本の薬学教育の変遷」について,平成10年の兼松らが報告した論文を引用すると,近代薬学の始まりは明治時代になって突然に開花したものではなく,開国によって幕末から急速に流入した西洋の諸科学の導入によって培われたと記載されている1).その後,明治6年に第一大学区医学校に製薬学科が設立し,日本初めての大学薬学教育がスタートした.明治7 年の医制の公布では西洋医学を修得した者のみを医師として認める方針となったことから,西洋薬を確保し,薬品の真偽の鑑別と品質を保証する分析が求められるようになった1).さらに,薬品の価格が不当に高価になり,必要量を確保・供給して西洋薬を製造する必要性から医薬品製造業が確立,そのための製薬技術者養成が求められた.明治22年(1889)薬律が制定されたものの医師会の強い意見により,医師自ら薬を調剤することが認められ,医薬分業は実質的に無効となり,薬剤師を養成する使命が薄らいだことで,明治期に設立された薬学校29校のうち,存続した薬学校は9 校であったと言われている1).このような時代に薬剤師は学校で学んだ薬学教育の知識と技能を生かすことができず,市販医薬品,化粧品,衛生雑貨品などを扱う町の雑貨商が薬剤師の役割であった1).上記を鑑みると「薬学教育」のスタート時以降,薬剤師に求められる役割は変化し,その後の調剤権を巡る論争は現在に至るまで継続されているものの,「薬学教育」に関わる多くの先人達の熱意によって法律が改正され,職能としての役割を確立したと言っても過言ではない.「薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)」では初めて医学・歯学・薬学において共通して求められる資質・能力が検討され,公表されるに至ったことから2),私達は今後も様々な背景下で確立されてきた「薬剤師の役割」を果たし,さらに発展させるために,様々な視点で薬学教育の質を保証する取り組みをしていかなくてはならない.

日本薬学教育学会(以下,学会)は発足以降,「薬学教育・薬剤師教育」に関する様々な研究活動を行ってきた.しかし,国際的な視点での取り組みは十分とは言えず,我が国における「薬学教育・薬剤師教育」のさらなる充実・発展を図るためには,開国以降に西洋から導入された諸科学同様に,学会として常に国際的な薬学教育に関する評価・検証を推進することが非常に重要と言える.そのため,2021年薬学教育学会に国際化委員会を設立し,「薬学教育・薬剤師教育」の充実・発展に貢献することを目的に薬学教育学会誌などを通じた海外の教育や薬剤師活動に関する情報の発信・共有を開始した.

第8回薬学教育学会国際化委員会主催のシンポジウム(以下,本シンポジウム)は国際化委員会設立後初のシンポジウムとして「世界からみた薬学教育の質保証について」をテーマに開催した.本シンポジウムは2024年度に適用される「薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)」について,様々な国際的な視点から日本の薬学教育の質保証についての提言・提案を3名の演者に講演いただいたため,本誌では小澤光一郎先生の講演内容の概要を中心に(詳細は文献3を),他の2名の演者については既に総説として記載されているため,簡潔に共有させていただく4)

広島大学大学院医系科学研究科小澤光一郎先生「国際的視点からの薬学教育の質保証」3)

小澤光一郎先生は東京大学名誉教授桐野豊先生と並ぶ「薬学教育」に関する国際的視点を持った薬学者・薬学教育研究者であり,国際的視点を持ちつつ調査を行い,日本のニーズに取り入れられる概念を取捨選択し今まで評価・検証されてきた.本シンポジウムでは2013(平成25)年度に始まった薬学教育評価機構による第三者評価と,その後の2021(令和3)年度から新しい評価基準での第2期評価についての概要をご講演いただいた.特に,第1期におけるシラバスや規定の整備などの外形的評価中心から,PDCAサイクルによる教育改善評価中心へと軸足が移りつつあること,また,薬学教育モデル・コアカリキュラムが2022(令和4)年度に改訂され,2024(令和6)年度より改訂モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)に基づく教育が始まることから,それに向けてカリキュラムの再構築が各大学で進められつつあり,同時に大学での自己点検・評価の役割もさらに重要になってきていることなどについて講演いただいた.最も印象的だったのは,以下見出し5にも記述するが薬学教育評価機構は①多様性,②基準に基づく評価,③ボランティア,④社会への説明責任,⑤公平性を柱として評価を行っていること,その公平性・妥当性のための体制は他国に類をみない構成であることであった.

世界的には大学教育の国際化が進められつつあり,医学領域では国際標準での認証評価が2017(平成29)年度より開始され,歯学領域においても同様の動きが進んでいる.そのため,ここでは以下に示すアメリカ,オーストラリア,マレーシアなど諸外国の薬学部における評価の現状と薬学教育の国際認証についてご講演いただいた内容を抜粋して記載する.

1.アメリカ

薬学教育評価の歴史は古く,1932年からスタートしている.米国薬剤師教育認証協議会(Accreditation Council for Pharmacy Education;以下,ACPE)がDoctor of Pharmacy(以下,Pharm. D),Professional degreeプログラムの認証評価を行い,適合認定大学卒業生は薬剤師州試験(North American Pharmacist Licensure Examination; NAPLEX)の受験資格を有することができる.ACPEはAmerican Association of Colleges of Pharmacy(AACP),the American Pharmacists Association(APhA),the National Association of Boards of Pharmacy(NABP),the American Council on Education(ACE)など3つの薬剤師養成関連団体から認められた機関であるが,これら団体とは独立して活動している.評価はStandardsに基づき大学が作成する自己点検・評価書の書面による評価と大学を訪れる訪問調査により実施される.我が国で行われているような,評価チーム毎の評価のバラツキの修正などの段階的評価は未実施である.また,認定期間は6年から最大8年(評価結果の程度に応じて認定期間が異なる)である.Standardsは薬剤師養成機関としてのカリキュラムや教育・支援組織が中心であるが,それを支える財力や施設設備についての評価も含まれている.現在では,アウトカムベース評価にさらに重点が置かれ,早期臨床体験(Introductory Pharmacy Practice Experience; IPPE)の時間数の明記,臨床実務実習(Advanced Pharmacy Practice Experience; APPE)のさらなる重視,多職種連携教育(Interprofessional Education; IPE)に関する評価項目,などが導入された.臨床実務実習の時間数はACPEが圧倒的に多くなっており,教育の質的評価においても一日の長があると考えられる.しかし,「研究」に関する項目は明示されておらず,さらに全ての大学がPharm. Dへ移行したことに伴い,大学院課程が実質的に機能していないレベルにまで落ち込み,薬理学,生理学,有機化学など基礎系科目の担当教員を薬学部から輩出できないという問題に直面している.

2.オーストラリア

The Australian Pharmacy Council(ACP)が学部から生涯教育までの薬学教育の評価を担っており,学部教育についての評価に基づく自己点検・評価と訪問調査がAccreditation Standards for Pharmacy Programs in Australia and New Zealandよって行われている.Standardsは学部から生涯教育までStandard1~Standard36と一貫的に作られていることが特徴である.認定期間は標準教育年限に合わせた6年間であり,法的に評価を受けることが義務付けられている.我が国におけるモデル・コア・カリキュラムのようなものは設けられていないが,薬剤師が有するべき資質が詳細に設定されており,各大学は提示された資質を身に付けるための教育を実施するため,教育内容については或る程度の統一性が持たれている.大学が適合認定を受けられない場合,卒業生はthe Pharmacy Board of Australiaにおける薬剤師登録ができない.

3.マレーシア

The Pharmacy Board Malaysia and National Accreditation Board(NAB)/ Malaysian Qualification Agency(MQA)が薬学教育評価を担う.Guidelines on Approval and Recognition of a Pharmacy Programに基づいて評価が行われている.評価は開校前の暫定評価と継続評価に別れており,大学は暫定適合認定を受けなければ学生を受け入れることはできないという評価である.年次進行に沿って最初の卒業生を輩出するまでに完全適合認定を受けなければ,卒業生を出すこともできない.最初の完全適合認定後の継続評価については,評価結果は次の認定までの期間に反映されており,最短1年から最長5年までで設定される.

4.韓国

薬学教育評価は2011年に設立されたKorean Accreditation Council for Pharmacy Education(以下,KACPE)が担っている.標準認定期間は5年間となっているが,固定される段階には至っていない.評価は,KACPE’s manual of evaluation for accreditationに従った自己点検・評価と訪問評価から成り立っているが,担当する評価チームに大きな権限が与えられており,評価結果も複数段階ではなくチームによる評価のみで決定されている.

現段階では導入されていないが,評価が定着した後には,既に実施されている医学,歯学,看護学と同様に,適合認定を得られない大学の卒業生には薬剤師国家試験の受験資格が得られない予定である.また,近年,認定薬剤師が法制化された.

5.薬学教育における国際認証

2013年に東京で開催されたAsian Association of Schools of Pharmacy(以下,AASP)では,数年以内にASEAN内での薬剤師免許の共通化が行われると発表されたが,2015年に台湾で開催されたAASPにおいては,その動きは完全に後退していた.ACPEは国際評価への動きを積極的に進めようとしているが,その一方で,医師,歯科医師と異なり,薬剤師の業務や役割は各々の国で異なっており,それに伴い,教育制度,内容,修業年限も異なっているという現状がある.我が国の評価やモデル・コアカリキュラムにおいては,研究が重視されているが,他の多くの国では臨床(特に臨床実習)に重点を置き,研究や基礎領域の教育は重視されていない.また,我が国では,他の国ではなされていない,段階的評価による公平性と第三者性を重視した評価を行うことにより,社会に対しての説明責任を十分に果たす努力をしている.一方,他の多くの国では,担当評価チームが絶対的権限を持ち,チーム間での公平性の担保などの処置はなされていない.我が国では全ての大学が受審する同一期の7年間においては評価の水準を変えないことを原則とし,大学間での公平性を保つ努力をしているなど,異なる点が多々存在している.基本的な教育内容,基本的な評価方法(評価基準に基づく大学による自己点検・評価書の作成とピア・レビューによる書面調査と訪問調査の実施)など,基本的な部分については共通する点も数多く存在する.そのため,薬学領域においては,一つの型に当て嵌めるグローバリゼーションよりも,各々の国の事情を考慮した上で一定の標準化を図るハーモナイゼーションが適しているのではないだろうか.

小澤孝一郎先生の上記概要は文献3に全体像が明記されているが,一部内容をアップデートされてご講演いただいた.

Nottinghum University荒川直子先生「国際薬剤師・薬学連合(FIP)が推進する薬学教育と薬剤師開発」

国際薬剤師・薬学連合(International Pharmaceutical Federation; 以下,FIP)は1912年に設立された,153ヵ国400万人を超える薬剤師,薬科学者,薬学教育者を代表する国際機関であり,世界保健機構(WHO)と公式連携を結ぶ.FIPには薬学教育・薬剤師開発を推進する部門があり,FIP Education(FIPEd)と称する.FIPEdには薬科大学をまとめるAcademic Institute Membership,薬学教育に関わる個人会員をまとめるAcademic Pharmacy Section,薬科大学を地域ごとにサポートし,大学間協力をまとめるUNITWIN,また薬学教育のエキスパートをまとめるFIP Hubがある.

薬学教育と薬剤師開発に必要とされる色々な観点から国際的な薬学教育・薬剤師開発を発展させるためにFIPEdでは多くのツールを開発,共有してきた.本シンポジウムの中では,FIPEdで開発されたツール(Global Competency Frameworks5) およびQuality Assurance of Pharmacy Education6) )の情報を紹介し,特にCompetency Based Education(CBE)の実施例とその上でFIPが推奨する薬学教育・薬剤師開発のビジョンを紹介していただいた.

北海道科学大学薬学部武田香陽子先生「国際的視点も踏まえて6年制薬学教育に今後求められること」4)

近代薬学の開始以降,近年の薬学教育は2006年以降,2013年に「薬学教育モデル・コアカリキュラム(平成25年度改訂版)」の改訂が行われ,2015年から施行された.そこには「薬剤師に求められる10の資質」が具体的に明記された.2022年,医学部・歯学部・薬学部で初めて共通して求められる資質・能力が議論・検討され,それらが明記された「薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)」が公表された.2024年度にはこの改訂「薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)」が適用される.上記変遷からも医療人の中で薬剤師の役割はここ10~20年で大きく変化してきていると言える.本シンポジウムでは,FIPが公表している薬学教育の世界共通の基本的な指針や概念を共有後,日本の薬学教育の概念と照らし合わせ,現行の「薬学教育モデル・コアカリキュラム(平成25年度改訂版)」あるいは現在の薬学教育の問題点を分析した過去の論文結果について概要を説明した.その後,現行の「薬学教育モデル・コアカリキュラム(平成25年度改訂版)」で明らかとなった以下の3つの課題i)学修成果とその到達度の明確化,ii)カリキュラム構成の工夫と評価(問題発見・解決能力と処方解析能力),iii)プロフェッショナル教育,を念頭に,今後,「薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)」に基づき各大学のニーズに基づいて構想される「カリキュラム作成」の工夫についていくつか提案した.さらに,残された課題として「科学力の低下」,「入学者の質」,「実務実習の充実」についても言及した.

おわりに

以上,第8回薬学教育学会シンポジウム「世界からみた薬学教育の質保証について」の趣旨と3名のシンポジストの講演内容を紹介した.薬学教育学会国際化委員会は,「薬学教育・薬剤師教育」の充実・発展に貢献することを目的に薬学教育学会誌などを通じた海外の教育や薬剤師活動に関する情報の発信・共有を図るために設立された.今後は,さらに教育科学の知見を生かした薬学教育の質の向上に向けて,国内外において学会活動,委員会活動を展開することが求められるところであり,今回の3題の講演がこういった活動の指針となることを期待したい.具体的には,現在直面する薬学教育の様々な課題の解決に向けて,大学における内部質保証と薬学教育評価機構による外部質保証から成り立つ第三者評価の充実,すなわち薬学という専門分野における「accreditation」の体制が構築され,有効に機能する必要がある.こういった体制を基盤として,2020年に公開された「教学マネジメント指針」に示される学修者が自立(律)的に学ぶ「学修者本位の教育」を薬学において実現させるためには,海外における薬学教育・薬剤師開発のビジョンと,我が国独自の卒業研究,すなわち自立(律)的に課題を探究し,問題解決を図るための学修を一つの基軸とする薬学部(Faculty of Pharmaceutical Sciences)における教育に関する教育科学的な考察・検証が必要であり,今後の薬学教育の在り方,特に喫緊の課題である薬学教育の質の向上に向けた提言につなげることが求められるところである.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

文献
 
© 2024 Japan Society for Pharmaceutical Education
feedback
Top