Japanese Journal of Pharmaceutical Education
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A basis for pharmaceutical sciences “quality assurance”: from viewpoint of regulatory science
Yukihiro Goda
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2024 Volume 8 Article ID: 2024-004

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抄録

医療の再現性確保のため,贋物を排除し,どのように生薬の品質を保証するかを命題とし薬学が始まったと筆者は考える.歴史的に見て,日本の薬学は,医薬品の品質保証学を基礎としながら創薬科学が育ち,薬学6年制への変遷を経て,医療薬学への重要性が認識され現在に至っている.本稿では,薬学における品質保証の重要性について解説するとともに,薬学系大学において,品質保証に関連する事項について,どのような教育の仕方が望まれるのか私見を述べる.

Abstract

The author consider that pharmaceutical science starts from “how to assure quality of crude drugs” and that in Japan it starts from quality assurance of drugs in Meiji era, then gradually includes drug discovery science and after transformation into six-year education system in pharmaceutical school focuses medical pharmacy much more on the basis of historical background. This report presents today’s importance of quality assurance and its management science including regulatory science in pharmaceutical science and then, the author’s opinion about pharmacist education to teach them efficiently.

緒論

薬の始まりは生薬であることは論をまたない.医療の再現性確保のため,贋物を排除し,どのように生薬の品質を保証するかを命題とし薬学が始まったと筆者は考える.医薬品の品質を確保するため15世紀末には都市薬局方が生まれ,デンマーク薬局方を始まりとして18世紀には国定薬局方が定められるようになった1).当初は,医薬品即ち生薬であったが,19世紀アヘンからモルヒネが抽出単離され,生薬・薬用植物から有効成分の発見という科学が生まれ,有機化学と実験薬理学の発展が始まった.さらに19世紀末,アスピリンの医薬品としての利用が始まり,病原菌の発見に伴い,最初の化学療法薬サルバルサンが登場する.従って薬学では,医薬品の品質保証学を基礎としながら創薬科学が育ち,薬学6年制への変遷を経て,医療薬学への重要性が認識され現在に至っていると考える.本稿では,薬学における品質保証の重要性について解説しながら,薬学系大学において,どのような教育の仕方が望まれるのか私見を述べる.

レギュラトリーサイエンスと品質保証

筆者が所属する国立医薬品食品衛生研究所(国立衛研)は,日本で最も古い国立の試験研究機関であるが,その設立には品質保証が密接に関わる.明治になり開国すると,海外から伝染病が容易に国に持ち込まれるようになった.そのため,医薬品も輸入したが,医薬品は食品とは異なり,容易に品質の良し悪しが判らないので,多量の不良品が流通することになった.この点を憂慮した長崎医学校で薬学を専門とするゲールツ博士が,内務省の初代衛生局長であった長与専斎に,品質保証のための規格である日本薬局方の制定と,医薬品の試験機関が必要と提言し,国立衛研の前身である東京司薬場が1874年に開設された.その後,医薬品に加え空気・上水・食品等国民の生活に密着した試験も行う必要性が高まり,1887年東京衛生試験所と改称され,1997年現在の名称となった.現在,国立衛研は,レギュラトリーサイエンス(RS)を実践する機関と言われている.RSとは,サイエンティフィックなレギュレーションのためのサイエンスと言い換えることが可能である.ここで言うレギュレーションとは,法令だけでなく,行政通知や,ガイドライン,ガイダンス,レフレクションペーパー等まで含む.RSは,品質保証と密接に関連する学問である.薬は人の命を預かる品物なので,レギュレーションにより,有効性と安全性を確保するため厳密な品質保証が必要となる.食品や,生活関連製品,化学物質であっても,人の生活に関与する以上,レギュレーションにより,その安全性が確保される必要がある.

RSは,予測,推定,評価,判断の科学でもある.何か問題が生じたり,新しい課題が生まれた場合,実態調査を行い,規制の必要性を推定,予測し,評価法を開発し,得られた結果から,どのようなレギュレーションが必要か考え,生み出されたサイエンティフィックレギュレーションに従い,評価,判断を行う.サイエンティフィックレギュレーションは,実行の可能性が非常に重要で,実行不可能なレギュレーションは無意味である.

薬剤師と品質保証

薬剤師法では,第一条で「薬剤師は,調剤,医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどる」と定めている.この後半の,医薬品の供給その他薬事衛生に品質保証が深く関連する.例えば,製薬会社で必置の品質保証部門の責任者,総括製造販売責任者は薬剤師でなくてはいけないポストであり,製薬会社では,薬学出身者の多くが医薬品の品質保証を統括して考えるCMC分野に配属される.また,医薬品医療機器総合機構(PMDA)の承認審査においても,有効性は医師(薬理は多職種),安全性は医師或いは獣医師が統括し,薬学出身者が統括するのは品質分野となる.さらに薬剤師に付帯する資格も,品質保証に密接に関連する.即ち,食品衛生管理者は薬剤師であれば申請でき,同様に麻薬取扱者,薬事監視員,医薬部外品,化粧品又は医療用具の製造責任技術者,放射線取扱主任者,毒物劇物取扱責任者,環境衛生指導員,労働衛生管理者等が,薬剤師国家資格に付帯しているが,全ての資格が,モノと行為の品質保証のための資格と言える.

厚労省の薬学系技官は(薬事)衛生を行うために,医薬品関連以外の部署,即ち医療機器や,再生医療等製品,化粧品さらには食品分野や環境,化学物質分野にも多く配属される.薬学系技官は,大学教育で安全性と有効性のバランスを見る品質保証について学んできているからこそ,これらの分野でも責任ある立場にいると考える.

品質と品質保証

それでは品質とは何であろうか.国際標準化機構(Inter‐national Organization for Standardization: ISO)のISO9000では,品質とは「本来備わっている特性の集まり/要求事項を満たす程度」となり,医薬品の分野に絞れば,医薬品規制調和国際会議(International Council for Harmonization of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use: ICH)におけるICH Q9で「製品,システム又は工程に係る本質的性質の組み合わせが要求事項を満たす程度」と定義される.ここで要求事項とは,治療効果があり(有効性),副作用が少ない(安全性)というのが基本で,それを満たすための要素が,成分とその含量値,純度,均一性,溶出性等となる.この要求事項を臨床で確認したのが治験薬で,医薬品は医療の再現性のため,治験薬と同じ品質のものが継続的に生産されることが重要となる.一方で,効能効果を原則謳えない食品分野では,良い品質とは,不純物や汚染物が含まれていないか規制値以下であり安全性が保証されていることが基本となる.

品質を保証するためには,モノの品質だけでなく,行為の質も重要となる.現代社会では,最終製品で品質をチェックするだけでなく,生産工程や輸送方法も管理することにより,品質を保証している.COVID-19ワクチンは,リポソーム製剤であることは周知の事実である.リポソーム製剤は,保存温度だけでなく,激しい振動で分解する可能性があるので,接種会場に至るまでの製品の輸送の仕方についても,禁忌があったのを覚えていらっしゃるだろうか.

以上,薬学の基礎は「品質保証」であり,その先に創薬科学や医療薬学が存在する.歴史的に見ても,東京大学薬学部の最初の3講座は,生薬学,衛生化学,薬化学であり,生薬学だけでなく,衛生裁判化学,薬化学も品質保証に色濃く関与する学問である.さらに,分析化学,薬剤学,製剤学,薬理学等も品質に直接関連する学問領域と考えられる.

現在医療の分野には,イノベーションに基づく新しいモダリティが多数現れつつある.医薬品分野だけでなく,再生医療分野や,医療機器分野にも新モダリティが継続的に出現している.これらの分野は,人の命に直接関わる分野だけに,品質保証のためのサイエンティフィックレギュレーションが非常に重要となる.新しいモダリティによる新製品の販売のためには,必ず生産コスト計算を行う.生産コスト計算のためには,品質保証のためのコストが非常に重要である.どのような試験によるどのような評価が必要か.どこまでの品質保証がなされていれば,生産し販売可能なのか.評価のためのルールが明示されなければ,コスト計算ができないため新製品は生まれないと言って良い.従って,新モダリティを社会に還元するには,そのモダリティに対応する1st in classの品質保証のための評価法開発が重要となる.これは品質保証を基礎として発展してきた,薬学が対応すべき分野と考える.創薬科学が発展し,医療薬学に貢献するためには,同時に品質保証学の進歩が必須となる.

薬学教育と品質保証

筆者が副委員長を務めた第25期日本学術会議薬学委員会医療系薬学分科会では,全国の薬学系大学へのアンケート調査2) により,薬学教育において品質保証を担当する分野は,薬剤学,生薬学,薬理学,衛生化学,社会薬学も含有する広義の医療系薬学であることが判明した.一方,同調査では現在の薬学教育で,品質の定義や品質保証,RS,CMC,食薬区分等に関する教育が充分ではないことが明らかになっている.この点を鑑みて,分科会では,報告「品質保証に係るモノからの健康・医療へのアプローチ」3) を2021年12月に発出した.これまで述べてきた内容と,この報告も踏まえながら,薬学系大学において,求められる教育のあり方について私見を述べる.

一義的には,医薬品だけで無く,医療機器,再生医療等製品,化粧品,食品,化学物質も含め品質保証(薬事衛生)に関する授業を充実させることが重要と考える.その中には,品質保証のための実行可能なレギュレーションを考える学問であるRS教育も含まれる.

より具体的には,まず1~2年次に,薬学の歴史とともに,(モノと行為の)品質保証(薬事衛生)が薬学の基礎であることをしっかりと教える.その際,社会で薬剤師の活躍する領域は,医療,創薬の現場だけでなく,企業でのCMC部門や医療機器,再生医療,食品衛生も含め,薬事衛生全般であることを教育する.さらに3~4年次に,前述した広義の医療薬学系の授業で,品質保証と関連させながら個別の分野を教育する.5~6年次の実習でさ,さらにモノ,データ,医療(行為)の品質保証と薬剤師の関わり方について教育を行う.

おわりに

薬学は,科学であり,科学には再現性が最も重要である.科学の元となるデータの品質保証には,常に正確性と迅速性のバランスを考慮する必要がある.これは,バランス感覚の優れた薬学者の得意とするところである.また薬学は,医学や工学と同様,サービスサイエンスである.自然界の謎を解くネイチャーサイエンスは楽しいが,薬学はサービスサイエンスであるので,ネイチャーサイエンスを最終的に目指すわけではない.必ずサービスの利用者の事を考える必要がある.言い換えれば薬学の基礎である品質保証は,利用者に向き合ったサイエンスといえる.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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