Japanese Journal of Pharmaceutical Education
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Special Topics | To acquire "the ability to apply information, sciences and technology"
The necessity and challenges of technology-enhanced learning based on the Model Core Curriculum for Medical Education (2022 Revision)
Yoshikazu Asada
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2024 Volume 8 Article ID: 2024-029

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抄録

医学教育モデル・コア・カリキュラムは令和4年に改訂がなされた.本稿では,特にICT活用教育の観点から医学教育モデル・コア・カリキュラムの改訂に関する概観を行い,今後の教育実践に関する課題と展望について述べる.改訂の中で,情報・科学技術を活かす能力(IT)を含む10の基本的な資質・能力が定義され,アウトカム基盤型の考え方に則った学修目標の整理が行われた.本稿の前半では,ITの資質を例にして解説を加える.また,新たに学修方略・評価に関する章が新設されたほか,教育者・学習者双方にとっての利便性を高めるための電子化などが着手されており,本稿の後半ではこれらの特徴を概観する.ICT活用教育の観点から,「ICTそのものに関する理解を深めること」と「ICTを教育等の場面で応用する方法論」とのそれぞれが学修目標に含まれており,生涯学習の観点も踏まえた実践の必要性についても考察する.

Abstract

The Model Core Curriculum for Medical Education was revised in 2022. This paper provides an overview of the revision of the Model Core Curriculum for Medical Education, especially from the viewpoint of technology-enhanced learning, and discusses the challenges and prospects for future educational practices. In the revision, ten basic qualities and abilities including the ability to “recognize the impact of continuing technological developments on society, and make use of information science and technology, such as artificial intelligence, when engaging in medical research and clinical practice” (IT) were defined. Learning objectives were organized in accordance with the outcome-based approach. In this paper, the IT qualities will be used as an example and commentary will be added. A new chapter on educational strategies and assessment was added, and digitization was initiated to enhance convenience for both educators and learners. The introduction of these two things are also provided. From the perspective of ICT utilization education, the learning objectives include “deepening understanding of ICT itself” and “methodologies for applying ICT to education and other situations,” respectively, and the need for practices that also take into account the perspective of lifelong learning will also be discussed.

はじめに

医学教育におけるモデル・コア・カリキュラムは,「各大学が策定する「カリキュラム」のうち,全大学で共通して取り組むべき「コア」の部分を抽出し,「モデル」として体系的に整理したもの」と定義されている1).この医学教育モデル・コア・カリキュラムが,令和4年に改訂された.改訂にあたっては,医学・歯学・薬学教育の3領域において,共通のキャッチフレーズとして「未来の社会や地域を見据え,多様な場や人をつなぎ活躍できる医療人の養成」が掲げられ,同時期の改訂が実施された.また,2040年以降の社会も想定した医学・歯学・薬学において共通して求められる資質・能力が検討された.この策定にあたっては,令和6年から施行されるカリキュラムで学ぶ学生が,卒業して医療者となり,専門教育を経て活躍する時期が2040年頃と想定される,ということが念頭におかれている.

医学教育モデル・コア・カリキュラムの令和4年度改訂版(以下,R4コアカリ)では,上記のような背景のもと,資質・能力の改訂,学修目標の再編成や学修方略・評価に関する章の追加,利用者の利便性を考えた電子化など,様々な変更・改善がなされた.筆者は主に「情報・科学技術を活かす能力」に関する資質や学修方略に関する内容の検討,合わせてR4コアカリの電子化を進める観点から参画を行った.このような背景を踏まえ,本稿ではR4コアカリについて,特に以下の内容について解説を加える.

(1)基本的な資質・能力の1つ「IT(Information Technology)」

(2)新設された「学修方略・評価」の章

(3)コアカリの電子化

また,それぞれの観点において,コロナ禍で発達してきたICT(Information and Communication Technology)活用教育をどのように継続的に活用していくかという点も今後の課題の一つである.そのため,本稿の最後では,R4コアカリの導入という観点からICT活用教育の課題や展望などを考察する.なお,本稿では,R4コアカリの資質・能力についてはR4コアカリに準じて「IT」と表記し,それ以外の一般的な情報技術について述べる際は「ICT」を用いるものとする.

資質・能力「IT」

R4コアカリでは,医療者に求められる資質・能力として以下の10項目が提示されている.

・PR:プロフェッショナリズム(Professionalism)

・GE:総合的に患者・生活者をみる姿勢(Generalism)

・LL:生涯にわたって共に学ぶ姿勢(Lifelong Learning)

・RE:科学的探究(Research)

・PS:専門知識に基づいた問題解決能力(Problem Solving)

・IT:情報・科学技術を活かす能力(Information Technology)

・CS:患者ケアのための診療技能(Clinical Skills)

・CM:コミュニケーション能力(Communication)

・IP:多職種連携能力(Interprofessional Collaboration)

・SO:社会における医療の役割の理解(Medicine in Society)

R4コアカリはこれらの資質を基本とした4層構造で構成されている.10種類の資質が第1層となり,第2層は各資質・能力の構成要素を示す名詞で構成される.続く第3層は具体的な能力の名詞が提示され,第4層にて学修目標として具体的な行動を示した文が記載される.このような4層構造により,「一般目標・到達目標」や「ねらい・学修目標」を用いて記載されていた構造が発展的に解消され,アウトカム基盤型教育の考え方に則った内容のものとなっている.以下,IT,すなわち「情報・科学技術を活かす能力」の例を示す.

第1層では,ITの資質・能力は「発展し続ける情報化社会を理解し,人工知能等の情報・科学技術を活用しながら,医学研究・医療を実践する.」と定義されている.続く第2層は3項目に分かれており(IT-01,IT-02,IT-03),それぞれに対して第3層が2項目ずつ含まれる構造となる(IT-01-01,IT-01-02など).第4層は各第3層に対して2項目ないし3項目が定義されており,合計で13項目の学修目標からなる(IT-01-01-01など).ここで,IT-01,IT-02,IT-03それぞれの第2層から第4層までの項目を表1から表3で示す.

なお,資質によっては第4層の合計が100を超えるものも存在しており,この点からはITの資質に含まれる学修項目の総数は少ない部類に入るものといえる.また,第4層において,IT-01-01-01などで用いられる「理解している」という文言は,様々な意味を取りうるものである.R4コアカリでは以下のように定義されており,単に「知っているか否か」ではなく,より高次な知識が求められていることとなる.

学修目標で用いられている動詞「理解している」は,「講義や実習等で,口頭・文章・図表等によって提示されるメッセージから意味を構成する」ことを指し,「解釈する」「例示する」「分類する」「要約する」「推論する」「比較する」「説明する」といった動詞の主旨を包含する.(石井英真『現代アメリカにおける学力形成論の展開』(東信堂,2011)で示されているアンダーソンらの「改訂版タキソノミー」のカテゴリーを参照し,一部改変.)

表1から表3までで示されるように,ITの第2層は,基本的な倫理観やルール(IT-01),ICTや科学技術に関する原理原則(IT-02),医療現場における活用(IT-03),という3つの観点から作成されている.以下,それぞれの項目について簡単に解説を加える.

IT-01 情報・科学技術に向き合うための倫理観とルール

IT-01では,情報・科学技術を扱うための基本的な原理原則に焦点が当てられている.これについて,関連する内容としては,高等学校での「情報」教育の変化2),文部科学省で行われている「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」3) などが考えられる.R4コアカリの策定にあたっても,これらの存在を考慮したうえで,重複しうる事項を含めるか否かの検討がなされた.

前者,すなわち高等学校での情報教育改訂は,令和4年度から施行される指導要領の内容である.見方を変えれば,まだ新課程で学んだ学習者の像が明らかになっていないともいえる.このことから,重複項目があっても今回の改訂では考慮しないこととしたうえで,次回の改訂の際には検討すべき内容として判断することとなった.

表1

IT-01(情報・科学技術に向き合うための倫理観とルール)

IT-01:医学研究・医療等の場面で,情報科学技術を取り扱う際に必要な倫理観・デジタルプロフェッショナリズム及び基本的原則を理解する.
 IT-01-01:情報・科学技術に向き合うための準備
  IT-01-01-01:情報・科学技術を医療に活用することの重要性と社会的意義を理解している.
  IT-01-01-02:医療における情報・科学技術に関連する規制(法律,ガイドライン等)の概要を理解している.
  IT-01-01-03:デジタル情報や科学技術の活用における社会的格差が医療や福祉にもたらす影響や倫理的問題を議論できる.
 IT-01-02:情報・科学技術利用にあたっての倫理観とルール
  IT-01-02-01:電子カルテをはじめとする医療情報の管理・保管の原則について理解し,関連する規制(法律,倫理基準,個人情報保護のための規定等)を遵守できる.
  IT-01-02-02:ソーシャルメディア(インターネット,SNS等)の利用において,医療者として相応しい情報発信の在り方を理解し,実践できる.
表2

IT-02(医療とそれを取り巻く社会に必要な情報・科学技術の原理)

IT-02:安全かつ質の高い医学研究・医療に必要な情報・科学技術に関する基本理論を理解し,その知識を自身の学修や医療へ適応する姿勢を体得する.
 IT-02-01:情報・科学技術を活用した医療
  IT-02-01-01:情報端末(コンピューター,スマートフォン等)を用いてインターネットやアプリ等を医療の実践に活用できる.
  IT-02-01-02:情報・科学技術を用いて収集した情報およびデータを基に問題解決を図る.
 IT-02-02:情報・科学技術の先端知識
  IT-02-02-01:医療に関連する情報・科学技術(医療情報システム,ウェアラブルデバイス,アプリ,人工知能,遠隔医療技術,IoT等)を理解し,それらの応用可能性について議論できる.
  IT-02-02-02:情報・科学技術の専門家とともに,技術を医療へ応用する際に,医療者に求められる役割を理解している.
表3

IT-03(診療現場における情報・科学技術の活用)

IT-03:遠隔医療を含む患者診療,学修の最適化に有効なICTツールの実践スキル及びデジタルコミュニケーションスキルを修得する.
 IT-03-01:情報・科学技術を活用したコミュニケーションスキル
  IT-03-01-01:電子カルテの特性を踏まえた適切な記載や活用ができる.
  IT-03-01-02:遠隔コミュニケーションの在り方を理解し,その目的に応じて適切なツール(電子メール,テレビ会議システム,SNS等)を選択し利用できる.
 IT-03-02:情報・科学技術を活用した学習スキル
  IT-03-02-01:自己学習や協同学習の場に適切なICT(eラーニング,モバイル技術等)を活用できる.
  IT-03-02-02:新たに登場する情報・科学技術を自身の学び及び医療に活用する柔軟性を有する.

後者,数理・データサイエンス・AI教育については,内容の例として数理・データサイエンス・AIモデルカリキュラム4) が示されている.これは既に施行されているものであり,その範囲も大学教育である.このため,対象となる学習者の層はR4コアカリで学ぶ学習者と共通することとなる.また,R4コアカリ策定にあたっての連絡調整委員会においても,データサイエンスやAIなどの項目を追加した方が良いという意見が挙がっていた5).これらを念頭に検討した結果,数理・データサイエンス・AI教育の内容はR4コアカリと比較して,学部を問わず求められる基本的な,教養としての意味もある事項と判断した.このことから,R4コアカリでは特に医療というコンテキストにおけるICT活用に重きを置くこととし,そのために最低限必要な項目をその基盤的な要素として記載する結果となった.

このような背景も踏まえ,特にIT-01では医療のみならず,その周辺領域に対する倫理観やルールについても触れられていることとなる.例えばIT-01-01は情報・科学技術に向き合うための準備,とされている.前述した高等学校での情報教育にも重なる可能性はあるが,医学部の学生という立場で学び直すことで,より医療という文脈に即した学習が可能となる.また,IT-01-02-02はソーシャルメディアでの情報発信について記載されている.この中では,医療以外の場面も含めた知識,プロフェッショナリズム等を習得することが求められている.

教育実践という視点から考えた場合,IT-01については医療そのものに関する知識を必須とする項目ではないため,低学年からの教育においても実施可能な項目であるといえる.このため,入学直後の導入科目を含め,段階的に繰り返し,事例を示しつつ学習の機会を提示していくことも期待されるものである.

IT-02 医療とそれを取り巻く社会に必要な情報・科学技術の原理

IT-02は医療分野において情報・科学技術を活用するにあたっての原理に焦点があたっている.しかし,原理を扱うといっても,単純にコンピュータ等の仕組みを理解することが求められているわけではない.IT-02-01ではICTの利用,具体的には情報検索やデータ分析が実施できることが記載されている.前述の数理・データサイエンス・AI教育とも関連する部分ではあり,既に述べたように医療に特化した内容となっていることが特徴として挙げられる.

IT-02-02では,情報・科学技術に関する議論・コミュニケーションが着目されている.医療という分野の特徴を理解したうえで,同僚あるいは他者との議論を円滑に進められるかどうかが述べられている.いわばサイエンスコミュニケータとしての能力が求められている,と考えることもできるだろう.

IT-02では医療に関する知識も必要となるため,学部の1年生等で扱うことはやや困難となる可能性はある.一方,診療や医行為に直結する領域ではないため,臨床実習前の学年であっても扱うことは可能である.データ分析という観点からは,疫学などの内容に関連づけた教育も有用であろう.

なお,IT-02の説明文では,情報・科学技術の基本理論に関する知識を自身の学修にも適応することが述べられている.この「学修への適応」について,具体的な学修目標として第4層に記載があるのは続くIT-03であるが,単に医療への応用だけでなく,様々な場面での応用ができるような柔軟な姿勢も求められていることが分かる.

IT-03 診療現場における情報・科学技術の活用

IT-03は診療現場での活用,ICTを用いた実践に関する内容である.IT-03-01は電子カルテや遠隔医療などに関連する領域であり,特に臨床実習を開始してからの学年で学びを深めることができるものである.なお,ITに関する資質自体は新設された項目ではあるが,IT-03-01-01は電子カルテの活用に特化した学修目標であり,本項目については旧版でも存在していた内容となる.

IT-03-02はICTを自己学習に活用することも含めた応用が記載されている.この項目についてはIT-01と並行して,低学年から扱っていくことも可能となるだろう.また,R4コアカリで示された10の資質の一つである「LL:生涯にわたって共に学ぶ姿勢(Lifelong Learning)」と合わせて扱っていくことで学修が進みやすくなるとも考えられる.

以上,簡単ではあるがITの領域に関する概観を行った.なお,IT領域が新設された詳細なプロセス等については,医学教育誌に掲載された論文6) を参照されたい.

学修方略および学修評価

ここまで10の資質の一つである「IT」について紹介してきた.続いて,R4コアカリで新設された章として「学修方略・評価」について触れる.

この章が新設されたことで,10の資質に紐付いた学修目標(何を教えるのか?)に加えて,学修方略(どう教えるのか?),学修評価(どう評価するのか?)という内容が整理されたこととなる.従来は学修目標のみの記載であったことから考えると,アウトカム基盤型教育の考え方に則った実践を行うにあたっても有意義な項目である.筆者は特に方略の内容について検討に加わったため,ここではその内容について簡単に紹介する.なお,学修方略はR4コアカリ内では「学修目標を達成するために必要な具体的な教育方法(Teaching Method)と学修する順序,人的資源や物的資源,対象者,人数,選択・必修等のより大きな教育戦略(Educational Strategy)を合わせ」たものとして定義されている.

学修方略に関する内容として,成人学習理論などの理論的な背景に加え,「問い」として方略を考える際に必要な視点が整理されている.ICTの活用に関連していえば,「対面かオンラインか?」「同期型か非同期(オンデマンド)型か?」という問いが掲げられている.これらはいずれも長所・短所があり,「〇〇を使えば必ず上手くいく」というものではない.言い換えれば,学修目標に応じて適切な方略を判断することが必要となる.R4コアカリにおいては,これらの問いに対して単純な「答え」を示すのではなく,考え方の一例をガイドとして示すような構造となっている.この「問い」を示すという手法は学修評価の項目でも扱われている.これらの問いは,R4コアカリに準拠した教育実践を行うにあたってのFD(Faculty Development)などにも活用可能といえる.

学修方略・評価の章では,方略・評価の事例(Good Practice)も記載されている.この中では11の事例が提示されており,「医学における情報科学技術の活用」という事例も記載されている.この例ではICTを活用しつつ,ITの資質・能力を網羅的に学修できるようにするための設計事例が示されている.この事例においては,反転授業の形式やプロジェクト基盤型の教育などを含め,単一の科目ではなく複数科目で総合的に扱っていくことが提示されていることも特徴的である.

なお,方略および評価に関する策定プロセスの詳細に関しては,医学教育誌に掲載された論文7,8) を参照されたい.

電子化

R4コアカリの特徴の一つとして,電子化が挙げられる.この電子化は,単にPDF等の電子媒体として発刊することを意味するものではない.また,電子化の目標はR4コアカリ上で「タグ機能で目的とする章や項目に容易に到達できること,検索機能が使用できること」と記されてはいるが,これに止まるものでもない.この電子化は,大学のカリキュラム開発者や大学等の教員・指導医,行政機関,学生などがR4コアカリを利用する場面を想定し,検討されたものである.すなわち,R4コアカリの活用を推進するためのDX(Digital Transformation,デジタル・トランスフォーメーション)であるといえる.ここでは電子化に関連した2つの要素を紹介する.

Github

R4コアカリを学内等で利用する場合,学内のカリキュラム開発やシラバスの検討などに使用されることが想定される.特にR4コアカリは平成28年度版と比較して学修目標の構造も大きく変化したこともあり,新旧での対応付けを支援することも必要であった.これらの場面において,PDFとしての書類を公開するだけでは利便性の観点から不十分であると考え,より利用しやすいファイル形式での配布・公開を視野に入れた開発を行った.この結果,R4コアカリの学修目標と表,さらには平成28年版との対応についてExcelファイルでの公開も実施された.

上記に加え,様々なデータ解析を行うにあたっては,各学修目標などに一意なIDが設定されていることが望ましい.

このような観点から,より解析に扱いやすい形式のファイルを提供することを目的として,Github上でCSV形式のデータを公開することとした9).Githubはソフトウェア開発にも用いられるシステムであり,データのバージョン管理や共同作業にも活用されるものである.このようなデータ提供により,R4コアカリに記された学修目標などの情報を学内の教務システムやLMS(Learning Management System)などで扱うために登録する作業がより実施しやすくなったといえる.

コアカリナビ

Githubでは,あくまでR4コアカリの生データを提供するにとどまっていた.しかし,ユーザの利便性を考えれば,データの検索や抽出が可能なWebサービスが存在すれば,より有意義なものとなり得る.このような観点から,R4コアカリの開発事業を通じて,コアカリナビと呼ばれるサイトが公開された10).コアカリナビでは,各R4コアカリの項目を検索することが可能となっている.また,複数の項目にフラグを立て,リストとして共有・ダウンロードする機能が実装されている.これにより,各教員が自分の担当する科目の学修目標をリスト化することが容易に可能となった.加えて,複数の教員から集まったリストを統合する機能も有している.この機能を用いることで,学年ごとのカリキュラムマップ等を作成する際にも,その負荷を軽減することが可能となる.

従来は各科目から学修目標等の情報を集め,それを統合して一つのデータシートとしてまとめ直すための人的負荷が生じていたと考えられる.コアカリナビが登場したことで,各教員がコアカリナビ上で自分の科目のデータを整理し,その結果のURLを事務担当者等に送付することで,データの集約を行う手間が大きく軽減されることとなる.実際,筆者も所属大学において,R4コアカリの観点から各科目の学修目標を再設定する作業において,コアカリナビの活用が役に立った.医学教育分野別評価などで求められる教学IR(Institutional Research)11) の観点からも,重要な意味をもつであろう.

将来的に複数の大学がコアカリナビの機能を利用してカリキュラム設計などを実施するようになった場合,そのデータを統合することができれば,大学間でのカリキュラム運用状況の比較検討なども簡便に実施できることが想定される.このような大規模な調査研究を行うにあたっては倫理審査を含めた準備なども必要となるが,次期の改訂を見据えるのであれば,R4コアカリの浸透状況を把握する意味でも有用な活用方法となり得るだろう.

このように,R4コアカリの電子化は,単にファイル形式を電子媒体に切り替えるという観点だけでなく,前述したように利便性も考慮したDXを目指した結果でもある.なお,本稿では省略するが,R4コアカリの改訂作業において複数回のZoomを用いたWeb会議,Googleドライブ・Googleスプレッドシートを活用した作業環境などもDXの一端であったと考えられる.これらを含め,電子化・DXに関連する詳細に関しては,医学教育誌に掲載された論文12) を参照されたい.

これからのICT活用教育

ここまでR4コアカリについて,特に「情報」に関する資質と電子化について焦点をあてて解説を行ってきた.最後にR4コアカリを導入した教育を実践するにあたり,ICT活用教育という観点から論じたい.ICT活用教育は,特に2020年度,コロナ禍での教育実践を行うにあたって大きな注目が集まった分野である.新型コロナウイルス感染症が5類扱いとなった以後も,様々な場面で利用されている方略の一つである.

「ICT活用教育」という語からは,「ICTそのものを活用する方法に関する教育」という観点と「ICTを活用した教育実践の方法論」という観点と,2種類の視点を考えることができる.R4コアカリのIT領域の学修目標に紐付けて考えるならば,前者はIT-01-02-02やIT-02-02-01などが該当し,後者はIT-03-02-01に関連するものといえる.

前者,すなわち「ICTそのものの使い方」については,いわゆる情報リテラシーの教育と考えることもできる.高等学校までの教育,さらには日常生活の中でも経験している可能性がある項目ではあるが,一方で正しい倫理・リテラシーが身についているか否かについては,正しく評価を行う必要性もあるだろう.また,昨今では生成AIなどの登場により,その倫理的・法的・社会的な課題(ELSI: Ethical, Legal and Social Issues)を考えることも重要である.なお,ELSIに関してはケース集なども存在しており13),事例ベースでの学習などを展開することで学修目標を達成しやすくなると考えられる.

一方,後者はICTを「教育(または学習)」という文脈で利用することに焦点が当たっている.また,LL(Lifelong Learning)の学修目標でLL-02として「医療者教育」が定義されている.LLに関する方略のGood Practiceでも,学生同士での動画講義の作成やピア評価など,ICTを活用した学習・教育の例が記されていることからも,ITとLLの両資質を組み合わせて考えることで教育設計が行いやすくなるであろう.この場合,学修方略や評価の章で取り上げられている問いを活用し,ICTを用いた種々の教育手法の利点欠点や有効な場面などを議論するという教育手法も有用になると考えられる.

なお,ICTを特定の分野で適応できる,という観点でいえば,IT-02-01やIT-03-01はまさに医療という文脈の中での活用が述べられている.生涯学習・教育という観点と同様,ITを応用できる能力こそが求められていると考えることもできるだろう.

おわりに

本稿では,簡単ではあるがR4コアカリについて,特にIT:情報・科学技術を活かす能力と学修方略・評価,およびR4コアカリの電子化という観点から内容を整理した.R4コアカリは公開後に1年間の準備期間を経て,令和6年度の入学学生に対するカリキュラムから適応となる.また,前述したように,高等学校での情報教育に関する改変も令和4年度からの施行である.この新課程で学習し,大学入試共通テストにも「情報」の科目が加わる中で医学部を受験する層が令和7年からの入学生となる.このため,情報に関する資質の観点でいえば,令和6年度と令和7年度,2年間は特に学生の能力に注意を払う必要があるとも考えられる.

ICTに関する進化は日進月歩である.VUCA(Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguity)の時代において,どのような医療者が求められているのかを念頭に置きつつ,教育を継続していくことが必要になるであろう.例を挙げれば,R4コアカリの資質内容を検討していた時期にはChatGPTのような生成AI(Artificial Intelligence)の話題は大きく取り上げられておらず,画像生成AIの話題が広がっていた程度であった.このため,R4コアカリには直接的に生成AIの話題は触れられていないが,次回の改訂に際しては避けては通れないような話題となるであろう.

一方,ICTが次々に進歩することは,見方を変えれば,ITの資質・能力に関する内容が数年後には陳腐化されてしまう可能性にもつながってくる.特にIT-02-02-01で例として取り上げられている「医療情報システム,ウェアラブルデバイス,アプリ,人工知能,遠隔医療技術,IoT」などは,将来,どのような形で存在しているかを想像することは困難である.実際,R4コアカリ内でも「情報・科学技術の進歩において20年先を想定することは容易ではない」とされている.しかし,これに続き,「発展し続ける情報社会の中で,人工知能(AI)などを含めた科学技術を適正に活用して医療と医学研究を行っていく能力は,背後にある倫理性も含めて極めて重要である.」とも述べられている.このような背景を踏まえ,医学・医療をとりまく社会の変革や科学技術の進歩などにも対応可能な医療者の養成が求められるものと考える.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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