2025 年 9 巻 論文ID: e09002
近年,各大学での教学マネジメントの確立が求められている.その中でもディプロマ・ポリシー(DP),カリキュラム・ポリシー(CP),アドミッション・ポリシー(AP)の3つのポリシーを通じた学修目標の具体化は,教学マネジメントに取り組む際の最も重要な部分である.この中でAPには,DPやCPに基づいた入学後の学生の成長と,入学希望者が備えるべき資質・能力という2面性が求められる.さらにAPは,学力の3要素と関連付けて整理しながら提示することが推奨されている.崇城大学薬学部薬学科では2022年から2023年にかけ,3つのポリシーの見直しを行い,2024年4月に改定を行った.APの改定に関して学力の3要素と対応し,主たる入学希望者である高校生に馴染みのある新学習指導要領に提示されている育成すべき資質・能力の3つの柱,「知識・技能」,「思考力・表現力・判断力等」,「学びに向かう力・人間性等」を念頭に置いた改定を行ったので,DP及びCPと共に報告する.
In recent years, the need to establish educational management at universities has been recognized. The most important part of the management of teaching and learning is the embodiment of learning goals through three policies: Diploma Policy (DP), Curriculum Policy (CP), and Admission Policy (AP). AP has two required aspects: the growth of students after admission on the basis of DP and CP, and the qualities and abilities that prospective students should possess. Furthermore, it is recommended that the AP is organized and presented in relation to “three elements of academic ability.” The Department of Pharmacy at Sojo University’s Faculty of Pharmaceutical Sciences reviewed the three policies from 2022 to 2023 and revised them in April 2024. The revision of our AP is based on the three pillars of qualities and abilities (“knowledge and skills,” “ability to think/make decisions/express oneself and so on,” and “ability geared toward learning/human nature”) to be cultivated in the new Courses of Study, which is related to “three elements of academic ability” and is familiar to high school students. In this paper, we report our new AP with DP and CP.
近年,高等教育の充実とそれに伴う学修者本位の教育実現が強く提唱されている1,2).この学修者本位の教育を実現するため,中央教育審議会大学分科会は令和2年に「教学マネジメント指針」を公表した2).教学マネジメントとは「大学がその教育目的を達成するために行う管理運営」と定義され,大学の内部質保証の確立にも密接に関わる重要な営みである2).教学マネジメント指針は幾つかの構造に分けられているが,その中でもディプロマ・ポリシー(DP),カリキュラム・ポリシー(CP),アドミッション・ポリシー(AP)の3つの方針を通じた学修目標の具体化は,教学マネジメントを取り組む際のPDCAサイクルのP(Plan)に相当する最も重要な構造である2).そのため体系的な教学マネジメントを確立することを試みる場合,まずは自施設における既存のDP,CP,APが,自施設独自の強みや特色が反映されつつ,教学マネジメントを意識した内容であるか検証する必要がある.さらに,この検証では3つのポリシーの関係性にも注意を払う必要があり,DPとCPとの一体性・整合性の確認や,APがDP及びCPと一貫性を有しているか等の検証が不可欠である3).
しかしながら,DPやCPが大学入学後から卒業までの教育課程の在り方を示すのに対し,APは入学希望者に対する選抜方法の方針をまとめたものであり,構成が異なる3).APでは,DPやCPを踏まえつつ,入学希望者が入学前にどのような資質・能力等を身に付けている必要があるのか示さなければならない(図1A).この点について教学マネジメント指針(追補)ではAPに対し,学力の3要素と関連付けて整理しながら提示することを強く推奨している4).学力の3要素とは,令和6年度大学入学者選抜実施要項の中で,①「基礎的・基本的な知識・技能」,②「知識・技能を活用して自ら課題を発見し,その解決に向けて探究し,成果等を表現するために必要な思考力・判断力・表現力等の能力」,③「主体性を持ち,多様な人々と協働しつつ学習する態度」と記載されている要素である5).
(A)大学が定める3つのポリシーとアドミッション・ポリシー(AP)に求められる視点.(B)薬学部薬学科における3つのポリシー策定に関与した組織とその役割.
このようにAPは大学入学前後の2つの側面を考慮すべきであるが,それ以外の重要な視点として,APは入学希望者が理解できる表現とすることが肝要である4).しかしながら学力の3要素表現を直接的に使用した場合,入学希望者の多くが高校生である点を踏まえると,理解が難しい可能性が考えられる.そこで,高校生が理解しやすいAPに留意することが鍵となるが,高等学校では2022年度から学年施行で新学習指導要領の実施が開始されており,新学習指導要領には育成すべき資質・能力の3つの柱が提示されている6).この3つの柱は,①「知識・技能」,②「思考力・表現力・判断力等」,③「学びに向かう力・人間性等」で規定され6),重要なことに学力の3要素と対応している7).そのため新学習指導要領の資質・能力の3つの柱を踏まえたAPの改定を行うことは,学力の3要素にも対応できた上で,高校生のAPに対する理解を促進させることが可能である.また,高校生のみならず大学進学に関して助言を行う立場である高校教員や保護者の当該大学に対する理解も深まり,さらには大学が所在する地域社会の理解も深まる可能性が生じる.
これらの内容も考慮した上で崇城大学薬学部薬学科では,2022年から2023年にかけてAPも含めた3つのポリシーの見直しを行い,それぞれ改定を行った.そこで本論文では,資質・能力の3つの柱を踏まえた我々の新しいAPについて,DPやCPの改定過程も含めて報告する.
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本学薬学部薬学科のDP,CP,APの改定に関し,関与した組織体系と策定までの経時的な流れを提示する(図1B).この中で,薬学部長と薬学科長,教学マネジメント委員会が新DP,CP,APの素案作成に中心的に関与した.第一に旧DPの検証を行ったが,旧DPでは4つの達成すべき目標が明示されているものの,それらが6年間を通しどのように達成できるのかということが不明瞭であった.また具体的な達成目標も乏しかった.そこで新DPでは,全学教務委員会との議論及び協力のもと「基礎的・汎用的知識と技能」(DP1),「専門的知識と技能」(DP2),「人間性・社会性」(DP3),「応用力・実践力」(DP4)の4つの項目を新たに分類し,DP1からDP4へと主たる達成目標が段階的に変化していく仕組みとした(図2).また,達成すべき目標に具体性を持たせるため,それぞれの項目に複数の学修目標を設置した(図2).この新DPの学修目標は,2023年2月に文部科学省より薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)8) の内容も踏まえながら設定を行った.また,新DP1の領域については,主に低学年を全学的に担当する部門である総合教育分野の担当領域であることから,総合教育分野の主導により新DP1の素案が作成され,全学教務委員会で提示された.提示された新DP1の素案に対し,薬学部薬学科では薬学部長と薬学科長,および教学マネジメント委員が議論を行い,論点の整理を実施した.その後,全学教務委員会での議論を経て,新DP1を含めた全てのDPについての合意を得た.次に新CPでは,新DPにおけるDP1からDP4への段階的達成目標の主旨に基づき, “多学年及び段階的” であることを意識した構成とした(S1).この新DPと新CPに基づいた新カリキュラムを策定するにあたり,新しい薬学教育モデル・コア・カリキュラムに準拠することはもとより,新しく開講する新カリキュラムの科目が,どの新DPの学修目標にどの程度紐づいているか客観的に評価可能な仕掛けを設定した(図3A).すなわち各科目において,その科目に相応しい学修目標を最大6つまで任意に選び,重要性に応じて選んだ各学修目標の配分割合を設定する仕組みである(各科目の配分割合の合計は100%).この仕組みは,全学教務委員会の議論の中で全学的に合意形成がなされたものであり,全学教務委員会の指示に基づき実行された.薬学科では教務委員会主導の下で行われていた新カリキュラム案検討と連動させ,各科目の担当教員により,新カリキュラム科目での学修目標の選定とその配分が決定された.さらに得られた配分の構成が新CPの意図する “多学年及び段階的” に適合しているか評価委員会によって検証がなされ(S2),必要に応じ新カリキュラム案の変更や学修目標の設定変更が教務委員会主導で行われた.尚,実際の運用では,各科目における学生個人の科目成績と学修目標の配分とを掛け合わせることで,当該科目における学修目標の達成度が評価可能となる.さらに全ての科目での学修目標の達成度を加算していくことで単年ごとや6年間でのDP達成後が評価可能である.
崇城大学薬学部薬学科の新ディプロマ・ポリシー(DP)
(A)新ディプロマ・ポリシー(DP)の学修目標を基盤とした科目ごとの学修目標の設定.(B)新学習指導要領の新アドミッション・ポリシー(AP)への適応.
APの改定では,薬学部長,薬学科長,教学マネジメント委員の薬学部教員3名に加え,総合教育分野の教員1名と高等学校の校長経験を有し,高大連携や新学習指導要領に明るい教員1名もコアメンバーとして参画し,合計5名が素案作成に関与した.この際,前述のように学力の3要素に対応した新学習指導要領の育成すべき資質・能力の3つの柱を意識した素案を作成した(図3B).改定したAPを図4に示す.新APは前文として,求める学生の全体像を提示している.その上で個々の入学希望者が入学前にどのような資質・能力等が必要とされるのか,資質・能力の3つの柱の「知識・技能」,「思考力・表現力・判断力等」,「学びに向かう力・人間性等」に対応した3つの細目を設置し,各細目内に入学希望者に求める資質・能力を具体的に文章形式で提示した.これらの文章は入学希望者に理解しやすい表現とすることを心掛け,学力の3要素にも関連したものになっている.また前述のように,APはDPやCPを踏まえたものでなければならず,特にCPがDP達成のためのポリシーであることを踏まえると,DPとAPとの関連が重要である.我々の新APは新DP内の各細目(DP1からDP4)のどこに紐づけられるか想定した上で,改定された(S3).ただし,一体性が強固になり過ぎることで入学者の多様性が侵害されないよう,DP1からDP4内の個々の学修目標と新APとの一致性までは求めていない.
崇城大学薬学部薬学科の新アドミッション・ポリシー(AP)
これらの新DP,CP,APは,教務委員会での検証やFDによるセミナーを通した教員への周知や意見を踏まえながら改定を繰り返し,教務委員会での策定を経て最終的に教授会および大学協議会で承認された.しかしながらPDCAサイクルを回すという観点から,3つの方針は必ずしも固定されたものではなく,今後も検証を継続しながら発展的に修正を行う予定である.
本学薬学部薬学科の新APに関する課題を述べる.本学薬学部薬学科では多面的・総合的評価を行うことを目的として多様な大学入学者選抜形式を設定している.このような場合,教学マネジメント指針(追補)が推奨する各入学者選抜形式と評価したい資質・能力等の明確化を行うことが望ましいが4),2024年度はその点にまで到達できなかったため,次年度以降に明示を行う予定である.また,新APに適合した学生が入学しているか確認するため,プレースメントテストや入学時アンケート調査を行い,入学者選抜形式の適切性についての検証を試行的に開始した.具体的にはプレースメントテストでは英語,数学,化学,物理,生物の試験を行うことで,主にAPの「知識・技能」に関する検証を開始した.また,従来の入学時アンケート調査の内容を過去の文献9–14) を参考に一新し,主にAPの「思考力・表現力・判断力等」,「学びに向かう力・人間性等」を評価する取り組みも開始した.これらの結果から,入学者選抜形式の在り方についても今後検討を行っていく.
新しいAPを含めた3つのポリシーの運用は,始まったばかりであり,3つのポリシーを前提とした教学マネジメントを適切に行うためには,授業科目・教育課程の編成・実施が必要である2).本学薬学部薬学科は3つのポリシーを鑑みつつ,新しい薬学教育モデル・コア・カリキュラムに準拠した新カリキュラムを2024年度入学生から開始した.今後我々はこれら新しいプログラムによって個々の学生が得られる学修成果や教育成果を,Grade Point Averageや学生自身の到達度評価等を指標とし,レーダーチャート等を用いて可視化することで,経時的並びに階層的に把握していく予定である.このように教学マネジメントの適切性を検証するには時間が必要であるが,学年単位での定期的な検証を行うことで積極的に改善すべき課題を明らかにし,必要があれば改善につなげていきたい.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.
この論文のJ-STAGEオンラインジャーナル版に電子付録(Supplementary materials)を含んでいます.