Japanese Journal of Pharmaceutical Education
Online ISSN : 2433-4774
Print ISSN : 2432-4124
ISSN-L : 2433-4774
Special Topics | Integrating health promotion into pharmacy education: Lessons from local and global practices
Pharmacy curriculum and student engagement in community health in the United States: Initiatives from the State of New Mexico
Mikiko Y. Takeda
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2025 Volume 9 Article ID: e09035

Details
抄録

アメリカの薬学教育は,講義や演習,1年間にわたる臨床実習に加えて,co-curricular activitiesと呼ばれるカリキュラム連携型課外活動とその他の課外活動が実施されている.これらは,薬学生による地域でのボランティア活動を中心としたものであり,薬学教育のガイドラインにも課外活動の重要性が示されている.学生たちはこの活動を通じて,大学で学んだ知識を実践に結びつけるとともに,地域住民への健康増進や疾病の予防に積極的に貢献している.さらに,この取り組みは,薬剤師としての専門性を高めたり,リーダーシップ能力の養成,そしてプロフェッショナリズムを育むことに繋がり,薬剤師の将来像を形成する上で大いに役立っている.今回は,ニューメキシコ大学薬学部での課外活動の具体的な取り組みを紹介し,地域住民の疾病予防にどのように貢献しているか,事例を交えて報告する.また,これらの活動が日本の薬学教育においてどのように応用されているかについても紹介したい.

Abstract

In U.S. pharmacy education, students engage in a variety of learning experiences that go beyond lectures, laboratory exercises, and a full year of clinical rotations. Among these are co-curricular activities, which are structured, curriculum-integrated experiences, as well as other extracurricular initiatives. These activities typically involve student-led volunteer work within the community and are recognized as essential components in pharmacy education guidelines. Through these activities, students are able to apply the knowledge acquired in the classroom to real-world situations, while actively contributing to public health promotion and disease prevention at the community level. Moreover, participation in such initiatives fosters the development of professional competencies essential to the pharmacy profession, including clinical expertise, leadership skills, and a strong sense of professionalism. These experiences play a critical role in shaping students’ future identities as healthcare providers. This report highlights specific examples of co-curricular and extracurricular activities implemented at the University of New Mexico College of Pharmacy. In particular, it focuses on how these student-driven efforts have contributed to disease prevention and health education among local residents. Through case-based discussion, the report demonstrates the effectiveness of these initiatives in bridging academic learning and community engagement. Finally, the report explores how similar approaches have been adapted and implemented within pharmacy education in Japan. It aims to emphasize the importance of incorporating community-based experiential learning into pharmacy curricula to cultivate practice-ready, socially responsible pharmacists in both the U.S. and Japan.

 アメリカの薬学教育に関して

アメリカの薬学部は大学院での教育プログラムとなっており,薬学部に入学すると,薬理学,薬剤学,医薬品合成化学,そして薬物治療学などの専門科目の教育に重点が置かれている1).日本では,薬学部に入学してから学ぶ物理化学などの科目はprerequisitesと呼ばれ,薬学部に入学する前に履修しておかなければならない2).Doctor of Pharmacy(以下Pharm.D.と省略する)の教育のカリキュラムは3~4年のカリキュラムになっている2).座学での講義に加え,講義で学んだことを深く学んだり,患者さんとのコミュニケーションや調剤の練習を行うための演習の科目がある.さらに,薬局や病院での実習が重要視されており,最終学年では丸一年を医療現場での研修に充てられる(Advanced Pharmacy Practice Experience,以下APPEと省略する)2).従って,学生は,薬学部を卒業するときには1,500~2,000時間の臨床経験を積むようになっている1)

 アメリカの薬学教育とカリキュラム連携型課外活動の意義

アメリカの薬学教育の教育内容は,American Association of Colleges of Pharmacy(AACP)という薬学教育の質の向上と発展を推進する学術団体の主導で作成された2022 Curricular Outcomes and Entrustable Professional Activities(COEPA)という教育指針や,Standards 2025という薬学教育認定評議会が策定した薬学教育プログラムに対する認定基準を活用し,薬剤師に必要な知識の習得と実践ができるようになっている1,3)

Standards 2025は7つの分野より構成されており,第2番目の項目がカリキュラムに関するものである.カリキュラムに関しては,2.1 到達目標の達成度(Educational Outcome),2.2 カリキュラムの設計・実施・管理(Curriculum Design, Delivery, and Oversight),そして2.3 多職種連携教育(Interprofessional Education)に細分化されて,それぞれの項目に関して望ましい薬学教育の在り方が述べられている1).2.1 到達目標の達成度(Educational Outcome)の中に,プロフェッショナリズムに基づく技能と職業倫理的態度(Professional Skills and Attitude)という項目があり,以下の記載がある1)

“Activities and experiences, intended to advance professional, personal, and career development, are purposely designed and implemented to ensure an array of opportunities for students to document competency of advocacy, self-awareness, leadership, and professionalism. These curricular and cocurricular activities complement and advance the learning that can occur outside, alongside, or within the curriculum.”

要約すると,学生はカリキュラム内外で様々な経験を積み,そこから得られた経験を通じて,大学で習得した知識を実践に結び付けて発展させている.また,これらの経験は薬剤師としての専門性を高めるとともに,リーダーシップの育成やプロフェッショナリズムの涵養にも繋がっている.カリキュラム連携型課外活動(co-curricular activities)はこれらの要素と深く関わっており,学生たちはその活動を通して地域住民への健康増進や疾病の予防に積極的に貢献している.

 ニューメキシコ大学薬学部におけるカリキュラム連携型課外活動に関して

ニューメキシコ大学薬学部(University of New Mexico College of Pharmacy,以下UNMCOPと省略する)は,ニューメキシコ州で唯一の薬学部である.ニューメキシコ州はアメリカで5番目の面積を持っているが,人口と高度医療機関は都市部に集中し,それ以外の地域は過疎化していることから,医療従事者の不足に悩まされている46).そこで薬局の薬剤師は,医療の担い手としてニューメキシコ州の住民の健康を支えている.薬剤師の役割は調剤のみならず,処方薬やOTCのお薬相談,セルフケア,予防接種,疾病のスクリーニングなど,多岐に渡っている(表1).UNMCOPでは,カリキュラム連携型課外活動を積極的に取り入れており,年に一度設けられているOutreach Dayの際には,薬学部の学生全員がニューメキシコ州の様々な場所に出向き,健康フェアを行っている.また,Outreach Day以外でも,地域での大きなスポーツのイベント(例:大学におけるアメリカンフットボールやバスケットボールの試合,地元のサッカーチームや野球チームの試合)や,地域のお祭り(例:日系人主催の秋祭りや世界熱気球大会など)などの地域住民が多く参加するイベントがあると,学生たちは会場に出向き,健康フェアを開催している.2020年以前のデータではあるが,UNMCOPにおいては,年間20回の健康フェアが開催されており,1回あたり2~6時間にわたるこれらのイベントにおいて,延べ約1,500名に対して健康スクリーニングが実施された7).健康フェアでは,指導薬剤師の下,血圧・脈拍,血糖値,コレステロール値,BMI等の測定を行い,さらに,心房細動のスクリーニングと脳卒中の予防に関する啓蒙活動も行っている.カリキュラムに定められたAPPEの実習期間中には,実習先の施設によっては 心房細動のスクリーニングが実施されている.また,地元の中学校や高校を訪問し,中毒予防,薬物の安全な使用,さらには違法薬物使用による中毒に関する教育活動を行っている学生もいる.こうした取り組みの背景には,アメリカで長年深刻な社会問題となっている薬物乱用や,オピオイドの過量接種による中毒死の増加がある8).中高生といった若年層の段階から薬物乱用の危険性を認識させ,安全な薬の使用について啓蒙していくということが重要視されている.

表1

ニューメキシコ州において薬剤師が行っているサービスの例

薬局の区分 サービス内容の例
一般の薬局 調剤
薬の服薬指導や服薬アドヒアランスの確認
OTC薬,サプリメント,ハーブなどに関する相談
予防接種(例:COVID-19,インフルエンザ,B型肝炎,肺炎球菌,帯状疱疹など)
海外渡航に向けた予防接種(例:A型肝炎,黄熱病,腸チフスなど)
各種検査(例:ヘモグロビンA1c,コレステロール,COVID-19,インフルエンザ,腸内細菌の種類,栄養状態,など)
製剤専門薬局
(Compounding pharmacy)
動物用の調剤(より細かな用量の調節やアドヒアランス向上のためのフレーバーの添加など)
ホルモン製剤の個別化調剤・個別化投与設計

 心房細動スクリーニングの研究に関して―Operation Heart主導のスクリーニング

UNMCOPにはOperation Heartという学生主体の組織があり,この組織の主導で様々なイベント会場に赴いて心房細動のスクリーニングを行っている.心房細動のスクリーニングの流れとしては,まず来場者の血圧と脈拍を測定し,その後,スマートフォンと連動して約30秒間で簡易心電図が測定できるKardiaMobile®というデバイスを使用して心房細動の有無を確認する9).スクリーニングの結果が正常であった場合は,パンフレットを用いて心房細動と脳卒中の関連性,さらには高血圧や頻脈などの脳卒中の危険因子に関しての説明が行われる(図1).併せて,正常な血圧を維持することが健康維持のみならず,脳卒中の予防にも寄与することも説明される(図1).一方,異常が認められた場合には,指導薬剤師の監督の下,医療機関への受診を勧める対応が取られる(図2).

図1

心房細動に関する患者教育パンフレット

図2

心房細動スクリーニング後に参加者に渡す用紙.a:表(参加者へ受診を推奨する文面).b:裏(参加者が受診時に医療従事者に提示するカード)

前述したOperation Heartによる学生主導の健康フェアでは,過去6か月間に開催された13回のイベントにおいて,合計697名の参加者を対象に心房細動に関する意識調査が実施された7).その結果,参加者の60.1%が健康フェアに参加するまでは心房細動に関する知識がなかったと回答した.さらに,学生による心房細動と脳卒中に関する教育を受けた後,心房細動の特徴(不整脈や頻脈)に関して正しく回答できた参加者は92.3%,不整脈の代表的な症状(無症状,不整脈・頻脈,めまいなど)に関して正しく回答できた参加者は72.2%,また,心房細動が脳卒中の危険因子であると回答した参加者は88.1%に達した.さらに,健康フェアにおける心房細動のスクリーニングを行うことの重要性について,重要,もしくは非常に重要と回答した参加者は全体の95%以上であった.一連のスクリーニングの結果,参加者の2.3%が心房細動の疑いが,1.1%が心房細動以外の脈の以上が認められるという結果となった.これらの参加者たちはいずれも自覚症状を有しておらず,全員に対して医師への受診が推奨された.

 心房細動スクリーニングの研究に関して―APPEの実習期間中におけるスクリーニング

APPEは,最終学年時に実施される薬局および病院での臨床実習である.UNMCOPでは,2019年の6月から2020年の1月にかけて,ニューメキシコ州内の3か所の薬局と連携し,心房細動のスクリーニングを実施した10).本スクリーニングは,APPE期間中の学生とその指導薬剤師によって行われ,処方箋にアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE)・アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB),β遮断薬,カルシウム拮抗薬,利尿薬,スタチンなど高脂血症治療薬,抗凝固薬,抗血小板薬,糖尿病治療薬,硝酸薬などの血管拡張薬が含まれている患者が対象であった.患者から同意を得た後に,前述の簡易心電図デバイスを用いて心房細動のスクリーニングを実施した.また,本研究では指導薬剤師を対象としたにアンケート調査を実施し,薬局における心房細動スクリーニングの実施可否およびその有用性を評価した.7か月間で63名の患者が対象となり,そのうち4.3%に心房細動の疑いが認められた.これらの患者はいずれも自覚症状を有していなかった.さらに,6.3%の患者においては,心房細動以外の脈拍異常が認められた.なお,このスクリーニングに要した時間は,ほとんどの場合で10分以内に終了した.指導薬剤師(N = 5)を対象にしたアンケート調査の結果,薬局における心房細動スクリーニングは有用であると評価され,その有用性は10段階評価で平均8.8と高い評価を得た.主な理由としては,迅速かつ簡便なデバイスを用いて無料で患者さんに提供できるサービスである点,さらに,地域住民の健康維持や増進に寄与できる点が挙げられた.

 UNMCOPモデルを基盤とした心房細動スクリーニングの日本薬学教育への応用

日本では,薬学部の学生が主体となって積極的にスクリーニング活動を実施する事例は稀である.その背景には,アメリカと比較して異なる薬剤師の職能や薬剤師は実施可能な業務範囲の違いが影響していると考えられる.UNMCOPと長崎大学薬学部は2020年に学部間の正式な学術提携を締結した.本協定に基づく臨床教育の共同実施の一環として,長崎大学薬学部の学生と地域の薬剤師が連携し,UNMCOPにおいて展開されている心房細動スクリーニング活動を地域に導入することで,住民の健康増進に貢献できるのではないかとの提案がなされた.本稿では,スクリーニングの実施過程およびその具体的内容については割愛するが,スクリーニングを担う薬剤師および薬学部生に対しては,不整脈に関する教育プログラムが構築された.その内容には,不整脈に関する定期的な勉強会や,循環器系に対するフィジカルアセスメントの研修が必須要件として含まれている.

本スクリーニングイベントは,これまでに長崎市内および上五島において実施され,多くの地域住民が参加した.教育プログラムに参加した薬学部生の一人は,筆者との個人的な対話の中で,次のように述べている.「講義で不整脈について学び,フィジカルアセスメントの演習を通じて不整脈の評価に必要な技能を身につけることができました.スクリーニング当日は,これらの学びを実際の地域住民の方々に活かすことができ,とても嬉しく,楽しい経験でした.」この発言は,冒頭で言及したStandards 2025に記載されている薬剤師に求められる能力,すなわち専門的技能と職業倫理を,実践的な活動を通して学生が確実に修得していることを示唆している.今後,このような実践的かつ地域貢献型の教育機会が,日本の薬学教育にさらに広く取り入れられることが強く望まれる.

 まとめ

本稿では,アメリカの薬学教育の概要を解説するとともに,薬学教育におけるカリキュラム連携型課外活動およびその他の課外活動の教育的意義と位置づけについて論じた.併せて,UNMCOPにおける具体的なカリキュラム連携型課外活動やその他の課外活動の実践例を紹介した.さらに,それらの活動を通して得られた研究成果も紹介し,薬学部生による地域住民への健康増進および疾病予防への貢献に関しても言及した.また,UNMCOPの取り組みをモデルとした,長崎大学薬学部主導の不整脈のスクリーニング活動を紹介した.日本およびアメリカでも共通してみられるのは,カリキュラム連携型課外活動やその他の課外活動を通じて,薬剤師に求められる専門的技能と職業倫理が効果的に涵養されている点である.これらの活動は,薬学生にとって極めて有意義な学習機会であることが示唆された.今後,実践力と地域貢献を重視したこのような教育機会が,日本の薬学教育において一層広く導入・展開されていくことが期待される.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

文献
 
© 2025 Japan Society for Pharmaceutical Education
feedback
Top