Article ID: e09011
医療安全は大きな課題であり,医療の現場では様々な対策を取り入れ,医療事故・医療過誤,調剤事故・調剤過誤の防止に努めているが,事故がゼロになることはない.薬学教育コアカリキュラム令和4年度改訂版では,「F.臨床薬学」の「F-3-3 医療安全の実践」において,医療安全の学習目標等が示されている.薬学生が学ぶ医療安全のカリキュラムと実際に現場で必要とされる基本的知識について,私は教育の専門家ではないが,病院の医療安全部門で働く経験や,医療安全管理者を養成するための研修等を参考に考察した.
Medical safety is a major issue. Various measures are taken in the medical field to prevent medical accidents and errors, and dispensing accidents and errors, but accidents will never be eliminated. In the 2022 revision of the Core Curriculum for Pharmacy Education, the learning objectives for medical safety are presented in “F-3-3 Practice of Medical Safety” in “F. Clinical Pharmacy.” Although I am not an expert in education, I have considered the medical safety curriculum for pharmacy students and the basic knowledge required in the field, referring to my experience working in the medical safety department of a hospital and training programs to train medical safety managers.
薬学教育コアカリキュラム平成25年度改訂版1) では,基本事項(1)薬剤師の使命として「GIO:医療と薬学の歴史を認識するとともに,国民の健康管理,医療安全,薬害防止における役割を理解し,薬剤師としての使命感を身につける」と記載されていた.今回の令和4年度改訂版2) ではA.薬剤師として求められる基本的な資質・能力として「薬剤師は,豊かな人間性と医療人としての高い倫理観を備え,薬の専門家として医療安全を認識し,責任をもって患者,生活者の命と健康な生活を守り,医療と薬学の発展に寄与して社会に貢献できるよう,以下の資質・能力について,生涯にわたって研鑽していくことが求められる.」と記載されている.また,F.臨床薬学の “F-3-3 医療安全の実践” において,医療安全の学習目標等が示されている.このように,薬学生の教育にとどまらず薬剤師として,医療人としての職務の基本に,「医療安全」が求められている.
実務の現場において,医療安全対策加算を算定している病院には「医療安全対策に係る適切な研修」を修了した医療者が医療安全管理者として配置されている.この研修において習得すべき基本的事項は「医療安全管理者の業務指針および養成のための研修プログラム作成指針」(厚生労働省医政局総務課医療安全推進室令和2年3月)3) に示されている.
具体的には,以下の1)から6)の事項に関する知識や技術の習得が研修における狙いとされている.
【医療安全管理者の業務指針および養成のための研修プログラム作成指針】
研修において習得すべき基本的事項
1)医療安全の基本的知識
2)安全管理体制の構築
3)医療安全についての職員研修の企画・運営
4)医療安全に資する情報収集と分析,対策立案,フィードバック,評価
5)医療事故発生時の対応
6)安全文化の醸成
様々な学会等がこの指針に則った研修を開催しており,内容は薬学生の教育においても十分に参考になるものである.
薬学生が,現場で必要となる医療安全の基本的知識としては,例えば医療安全に資する情報収集と事例の分析,対策立案,フィードバック,評価,医療事故発生時の対応,医療安全管理体制の構築等が考えられる.
医療機能評価機構が医療事故情報収集等事業4) で公表している医療事故や医療安全情報,同様に薬局ヒヤリ・ハット事例収集分析事業5) でも事例が公表され,共有すべき事例として大変有意義な提案がされている.さらに,日本医療安全調査機構(医療事故調査支援センター)がまとめている医療事故の再発防止に向けた提言6) などは薬学生にとっても,有用な資料である.これらの事例を読み,検証し,分析して対策や再発防止策を考える.あるいは病院等の医療機関が公表している医療事故の報告書を読み,実際に起きた事故の対応を考えることもできる.
多くの大学において,薬学生にとって有意義な医療安全に関するカリキュラムが用意されている7–10).また,日本薬剤師会も調剤行為に起因する問題・事態が発生した際の対応マニュアルを公表しており,参考にしていただきたい11).
このように「医療安全」として学ぶ項目は非常に多岐にわたるが,実際のカリキュラムの例として以下のような項目を考えた.
1)医療安全の基本的知識基本事項を学ぶ.
言葉の定義等を知る.
「人は誰でも間違える」(IMO・日本評論社)の紹介.
スイスチーズモデルやハインリッヒの法則について知る.
日本の医療事故を振り返る.
安全な医療を提供するための10の要点 厚生労働省(2001年)12) の紹介.
WHO患者安全カリキュラムガイド13) を読む.
2)インシデント報告を読む.具体的な事例を分析する.グループワークを行う.
分析手法の例.
PHARM-2E(日本薬剤師会)
SHELL分析
KYT(危険予知トレーニング)
RCA(根本原因分析)
事例の分析後は対策を立ててみる.
フールプルーフ,フェイルセーフ等,対策の考え方を知る.
5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)や指差し呼称,ダブルチェックなど具体的な対策について考える.
3)ノンテクニカルスキルについて学ぶ.
薬剤師として必要とされるコミュニケーション技術を学び実践する.
チーム医療の担い手としての役割を考える.
チームSTEPPSなどの紹介.
4)まとめとして
医療事故発生時の対応を知る.
法的措置(刑事責任・民事責任),行政処分について.
医療事故の被害者の声を聴く.
医療安全に関わる研修の計画を立てる.
医療事故は,事故にあわれた患者さんはもちろんだが,事故に関わった医療者にとっても非常につらいことである.
薬剤師として,日々の業務において,インシデントやヒヤリ・ハットを報告する,そして報告だけで終わりにせず今後に生かしていく,同じ事例が起きないよう努力する,これらが医療安全,患者の安全につながる基本であることを今後も学んでいきたい.薬剤師一人一人が医療事故・過誤が起きないよう努力し,起きた場合には適切に対応し,さらに今後に生かすために学習することは医療安全,患者安全の大切な目標の一つであろう.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.