日本公衆衛生看護学会誌
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研究
妊娠期・育児期での父親の関与についてのアセスメント項目の文献検討
後藤 拓
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2022 年 11 巻 2 号 p. 90-98

詳細
Abstract

目的:妊娠期・育児期の父親の関与についてのアセスメント項目を明らかにすること.

方法:1980年から2020年までに公表された和文献4件,海外文献16件,計20件の文献をレビューマトリックス方式で分析した.

結果:20件の文献から,妊娠期9件,育児期12件の2つの時期の尺度が確認された.妊娠期の尺度からはアセスメント項目として【パートナー】,【育児】,【胎児】などの9カテゴリが抽出された.育児期の尺度からは【家庭】,【父親自身】,【パートナー】などの9カテゴリが抽出された.

考察:妊娠期・育児期の父親の関与についてのアセスメント項目は,子どもの世話だけでなく,家事やパートナーとの関係も含んだ複数のカテゴリから構成された.また,宗教上の考え方などを含めて,使用されている国の文化を反映している項目もあった.

Translated Abstract

Purpose: This study aimed to review literature and clarify assessment items regarding fathers’ involvement in pregnancy and childcare.

Methods: This study analyzed 20 published articles using the review matrix method. These articles consisted of 4 Japanese articles and 16 foreign articles originally published between 1980 and 2020.

Result: Twenty-one scales were identified based on the 20 articles reviewed and were categorized into two periods: pregnancy (nine scales) and childcare (12 scales). Nine categories were extracted from the pregnancy scale, including “partner,” “childcare,” and “featation.” Another nine categories were extracted from the childcare scale, including “involvement in the home,” “father himself,” and “partner.”

Discussion: The assessment items related to fathers’ involvement in pregnancy and childcare comprised multiple categories that included not only childcare but also household affairs and relationships with partners. Items that reflected the culture of the country in which they were used, including religious ideas, were also noted.

I. 緒言

育児について,父親の役割や機能が社会的に注目されるようになったのは日本では1990年代からであり,その背景には1989年に合計特殊出生率が過去最低を更新した「1.57ショック」と少子高齢社会の到来があるとされている(石井,2013,p. 27).父親の育児不参加が少子化の遠因とされ,1992年に施行された「育児休業等に関する法律」では,父親の育児参加を奨励するため,男性の育児休業の取得が明記された(石井,2013,p. 28).1990年代は,発達心理学の分野でも父親や父子関係が親子研究の対象とされるようになり,「父親の再発見」の年代ともいわれている(宮坂,2008).2010年には厚生労働省で「育メンプロジェクト」が立ち上げられ,新語・流行語大賞に「イクメン」がノミネートされている(石井,2013,p. 1).

また,1994年の母子保健法改正で,保健指導の対象に妊産婦の配偶者が加えられた(母子保健推進研究会,2008).母親の妊娠期や育児期の父親に関する研究は,川井(1993)によると1970年代からみられ,1980年代後半から増加傾向にあると報告されている.これらの研究では,父親の育児による子どもの社会性や運動発達(鍋島ら,2015),父子関係への影響(岐部,2016),育児ストレスの軽減(鍋島ら,2015)等が報告されている.また,父親にとっても,柔軟さや自己抑制等の父親の発達(日隈ら,1998)や充実感の高まり(佐藤,2010)などの影響があるとされている.このように父親の育児が注目されているが,乳幼児の親の週平均1日当たりの育児時間は,父親49分,母親3時間45分であり,父親は母親の1/4以下となっている(総務省統計局,2016).この背景には,性別役割分業観や長時間労働などの日本の父親を取り巻く現状が指摘されている(石井,2013,p. 43).また,費やす時間だけでなく,父親の育児に関する自己評価が母親より高いほど母親の育児ストレスが高くなること(西尾,2013)や,父親役割を果たすことが困難であることによる父親の産後うつ(竹原ら,2012)も報告されており,精神心理面での課題も多い.母親の妊娠期や育児期の父親への支援としては,自治体での両親学級や健康講座などがあり,父親への支援に焦点をあてた研究も報告されている.例えば,内容や展開を固定化しない非定型プログラムの検討(寺見,2016)などである.また,父親の個別性・独自性を踏まえた支援の展開も求められている(田辺,2017).

父親の個別性を考慮して支援するためには,支援者が,母親の妊娠期や育児期の父親の関与をアセスメントする必要があると考える.育児中の父親を対象としたアセスメントの方法についての研究は数少ないが,中野ら(2003)は,問題発見や適切な対応を保健師の力量に任せるのではなく,保護者と保健師双方の問題への気づきを促すための乳幼児健康診査での保護者のアセスメントツールについて報告している.一方で,辻(2016)は児童虐待のリスクアセスメントについて,問題を見付けることに焦点があてられており,家族が持つ強さや資源,能力が軽視されていることを指摘している.育児については,母子のアセスメントや支援に関する研究(前原ら,2005寺薗ら,2015)は多いが,父親のアセスメントに関する研究は,国内では育児関与尺度(下坂,2019),親になる移行期の父親らしさ尺度(松田,2018)など,2010年代に入ってから散見される程度である.そのため,父親を対象としたアセスメント項目を分類・整理し,新たな尺度開発や父親への支援に活用することが必要である.そこで,本研究の目的は,国内外の文献検討により,母親の妊娠期や育児期の父親の関与についてのアセスメント項目を明らかにすることとする.

II. 研究方法

1. データ収集方法

国内文献は医学中央雑誌Webを用いて,1980年から2020年の論文を対象として,「父親andアセスメント」,「父親and尺度」,「父親andスケール」をキーワードとして検索した.会議録を除く原著論文は,338件であった.海外文献はCHINAL Plus with full textの検索システムを用いて,1980年から2020年の論文を対象として,「father scale」,「paternal scale」,「father questionnaire」,「paternal questionnaire」をkey wordsとして検索した結果,273件であった.本研究では,父親についての具体的なアセスメント項目や項目を取り入れた背景を明らかにするため,父親のアセスメント項目や作成過程が記述されていない文献,父親の産後うつや虐待のリスクアセスメントの評価を目的とした文献は対象外とした.合計611件から,国内文献3件,海外文献8件を抽出した.さらに,これらの11件の引用文献に掲載されていた,本研究の目的に沿った国内文献1件,海外文献8件の9件を追加した.最終的には,国内文献4件,海外文献16件の合計20件を分析対象とした.

2. 分析方法

収集した文献は,レビューマトリックス(Garrard, 2011)の方法にそって分析した.レビューマトリックス方式は,「体系的に文献をレビューするための,構造であり過程でもある」(Garrard, 2011)と定義されており,文献を年代順に確認し,レビューマトリックス表の分類項目である列トピックを選定する.列トピックは,発行年や著者などの基本的な情報に加えて,文献検討の観点から重要と考えられる項目を設定する.本研究では,父親の関与についてのアセスメント項目とその内容を明らかにする目的から,「尺度名(略称)和訳」,「筆頭著者」,「出版年/国」,「父親のパートナーの表現」(胎児および子どもの母親について,父親との関係をどのように表現しているか),「信頼性」,「妥当性」,「アセスメント項目」,「尺度の項目数と下位概念」を列トピックとしてレビューマトリックス表を作成した.レビューマトリックス表を概観し,列トピックについて各文献の類似点と相違点についての比較と対比を行い,文献を統合した.また,各尺度のアセスメント項目に関して,抽出した記述を文節単位でコードとし,コードの類似性・相違性を分類し,サブカテゴリ,カテゴリを抽出した表を作成した.

III. 研究結果

1. 文献の概要

分析対象とした20件の文献は,すべて尺度の作成に関する文献であった.これらの20件の文献から,21件の尺度が確認できた(表12).21件のうち2000年以降が19件であった.国別では,日本が4件,オーストラリアとスウェーデン,ポルトガルが2件ずつ,アメリカ,イギリス,ギリシャ,タイ,カナダ,フランス,イタリア,韓国,イラン,チリ,トルコが1件ずつであり,15か国で開発されていた.また,外国の尺度を母国語に翻訳した尺度は7か国(ギリシャ,タイ,フランス,イタリア,ポルトガル,チリ,トルコ),8件であった.Condon(1993)によるPaternal Antenatal Attachment Scale(PAAS)は,Della et al.(2017)によりイタリア語版に翻訳され,イタリア人男性は原尺度のオーストラリアの父親より複雑な愛着のプロセスがある可能性が指摘されていた.Premberg et al.(2012)によるFirst Time Fathers’ Questionnaire(FTFQ)は,フランス語版とスペイン語版に翻訳されており,各国の文化的背景により下位概念と項目数が異なっている.Mahon et al.(2015)によるThe Father’s Support Scale:Neonatal Intensive Care Unit(FSS:NICU)は,トルコ語版に翻訳され,6項目が原尺度と異なる下位概念に配置されていた.これらの翻訳版については,原尺度との違いがあるため,本研究の分析対象とした.尺度が自己記入式であるとしていたのはCondon et al.(2008)によるThe Paternal Postnatal Attachment Questionnaire(PPAQ)とSuwansujarid et al.(2013)によるThai Parenting Sense of Competence scaleの2件のみであったものの,全ての尺度が父親の自己記入式の様式であった.アセスメントの実施者を明記していたのはWeaver et al.(1983)によるPaternal-Fetal Attachment Scale(PFA),Martin(2008)によるBirth Participation Scale(BPS),Pinto et al.(2017)によるPaternal Adjustment and Paternal Attitudes Antenatal,Noh et al.(2017)によるKorean Paternal-Fetal Attachment Scale(K-PAFAS),Persson et al.(2007)によるParents’ Postnatal Sense of Security(PPSS),FSS:NICU,Pinto et al.(2017)によるPaternal Adjustment and Paternal Attitudes Postnatal,Eskandari et al.(2018)によるPaternal Adaptation Questionnaire(PAQ),オリジナル版FSS:NICUに準じて作成したトルコ語版の9件であり,いずれも専門職がアセスメントの実施者であった.

表1  妊娠期の父親の関与に関する尺度の概要
NO. 尺度名(略称)
和訳
筆頭著者 出版年
a
父親のパートナーの表現 信頼性 妥当性 アセスメント項目 尺度の項目数と下位概念
1 Paternal-Fetal Attachment Scale(PFA)
父親と胎児の愛着尺度
Weaver R.H. 1983
アメリカ
Cronbach α なし 父親の胎児への愛着行動 33項目
①自己と胎児の区別②胎児との相互作用③目的を胎児に帰する④自己の提供⑤役割取得
2 Paternal Antenatal Attachment Scale(PAAS)
父親の出生前愛着尺度
Condon J.T. 1993
オーストラリア
なし Cronbach α なし 父親の胎児への愛着 16項目
①愛情の質②胎児への愛着の強さ
3 Birth Participation Scale(BPS)
出産参加尺度
Martin C.J.H. 2008
イギリス
パートナー なし なし 父親の出産の参加の態度とニーズ 25項目
①立ち合い出産の希望②出産のパートナーとしての役割に備える必要性③出産に参加することへの社会的圧力の認識④出産に参加することの恐れ⑤妊娠・出産での父親の支援の価値⑥妊娠・出産への積極的な関与の態度⑦出産のパートナーとしての役割での自己効力感⑧出産のパートナーの役割への自己適合性の認識
4 妊娠期の妻への夫の関わり満足感尺度 中島久美子 2012
日本
Cronbach α,折半法 基準関連妥当性 父親の関わりへの妻の満足感(父親の認識を測定) 15項目
①子どもが生まれることに関する夫婦のコミュニケーション②妻の健康と情動ヘの気づかい③家事労働
5 妊婦に対する夫の役割行動実践度測定尺度 山内弘子 2016
日本
Cronbach α 基準関連妥当性,構成概念妥当性 妊婦に対する夫の役割行動実践度 23項目
①妻・児への関心の表出②妻へのいたわり③妻の出産準備への協力④妻の家事負担への軽減⑤妻の妊婦健診への協力⑥安全な性行為への配慮
6 the Italian adaptation of the Paternal Antenatal Attachment Scale
オリジナル版PAASに準じて作成したイタリア語版尺度
Della Vedova A.M. 2017
イタリア
なし Cronbach α 基準関連妥当性 父親の胎児への愛着 16項目
①赤ちゃんの空想②赤ちゃんへの期待
7 Paternal Adjustment and Paternal Attitudes Antenatal
オリジナル版PAPA-ANに準じて作成したポルトガル語版尺度
Pinto T.M. 2017
ポルトガル
パートナー Cronbach α 基準関連妥当性,臨床的妥当性 移行期の父親の調整と態度 30項目
①性的なことに対する態度②夫婦関係③妊娠と赤ちゃんに対する態度
8 Korean Paternal-Fetal Attachment Scale(K-PAFAS)
韓国版父親と胎児の愛着尺度
Noh N.I. 2017
韓国
Cronbach α,再テスト法 構成概念妥当性,基準関連妥当性 父親の胎児への愛着 20項目
①胎児と父親の絆②父親の行動の変化③父親の役割の認識④胎児への期待
9 親になる移行期の父親らしさ尺度b 松田佳子 2018
日本
Cronbach α,再テスト法 構成概念妥当性,基準関連妥当性 父親になる肯定的な思いやイメージ 21項目
①子どもの存在から沸き立つ思い②父親意識の高まり③妻への思い

a 海外の尺度について網掛けにして標記した

b 育児期も対象としているものの,妊娠期を起点とした移行期の尺度のため,本研究では妊娠期の尺度に分類した

表2  育児期の父親の関与に関する尺度の概要
NO. 尺度名(略称)
和訳
筆頭著者 出版年
a
父親のパートナーの表現 信頼性 妥当性 アセスメント項目 尺度の項目数と下位概念
1 Parents’ postnatal sense of security(PPSS)
親の安心感:出生後
Persson E.K. 2007
スウェーデン
母親 Cronbach α 表面的妥当性,構成概念妥当性 出産後の両親の経験と安心感 13項目
①医療関係者からのエンパワメント②母親の健康③全体的な健康④家族への親近感
2 the paternal postnatal attachment questionnaire(PPAQ)
父親の愛着質問紙:出産後
Condon J.T. 2008
オーストラリア
なし Cronbach α 基準関連妥当性 父親の乳児への愛着 19項目
①忍耐と寛容②相互作用の喜び③愛情と誇り
3 Kuopio instrument for fathers
オリジナル版KIFに準じて作成したギリシャ語版尺度
Sapountzi-Krepia D. 2009
ギリシャ
妻・パートナー Cronbach α,再テスト法 表面的妥当性,内容的妥当性 出産への父親の気持ちや経験 54項目
①出産に関連する父親の感情②出産に関する父親の経験
4 First Time Fathers’ Questionnaire(FTFQ)
初めての父親への質問紙
Premberg Å. 2012
スウェーデン
妻・恋人 Cronbach α 構成概念妥当性 父親の初めての出産経験 22項目
①心配②情報③医療関係者からの支援④医療関係者の受け入れ
5 Thai Parenting Sense of Competence scale
オリジナル版PSOCに準じて作成したタイ語版尺度b
Suwansujarid T. 2013
タイ
なし Cronbach α 構成概念妥当性 父親の育児能力 16項目
①スキル・知識②評価・満足
6 The Father’s Support Scale:Neonatal Intensive Care Unit(FSS:NICU)
NICUでの父親支援尺度
Mahon P. 2015
カナダ
パートナー Cronbach α,再テスト法 内容的妥当性 NICUの乳児の父親の支援ニーズ 33項目
①赤ちゃんについての学習②自身と家族の世話③赤ちゃんの世話
7 オリジナル版FTFQに準じて作成したフランス語版 Capponi I. 2016
フランス
パートナー Cronbach α 構成概念妥当性 父親の初めての出産経験 19項目
①医療関係者からの支援②心配③出生前の準備・情報
8 Paternal Adjustment and Paternal Attitudes Postnatal
オリジナル版PAPA-PNに準じて作成したポルトガル語版尺度
Pinto T.M. 2017
ポルトガル
パートナー Cronbach α 基準関連妥当性,臨床的妥当性 移行期の父親の調整と態度 30項目
①性的なことに対する態度②夫婦関係③赤ちゃんに対する態度
9 Paternal Adaptation Questionnaire(PAQ)
父親の適応質問紙
Eskandari N. 2018
イラン
Cronbach α,再テスト法 表面妥当性,内容的妥当性,構成概念妥当性 父親の適応状態 38項目
①役割と責任の遂行能力②親としての発達の認識③親の地位の安定化④精神的安定と満足感⑤課題と心配
10 オリジナル版FTFQに準じて作成したスペイン語版 Molina-Velásquez L. 2018
チリ
パートナー Cronbach α 構成概念妥当性 父親の初めての出産経験 19項目
①医療関係者からの支援②心配
11 オリジナル版FSS:NICUに準じて作成したトルコ語版 Turan T. 2019
トルコ
パートナー Cronbach α,再テスト法 構成概念妥当性 NICUの乳児の父親の支援ニーズ 33項目
①赤ちゃんについての学習②自身と家族の世話③赤ちゃんの世話
12 父親の育児関与尺度 下坂剛 2019
日本
なし Cronbach α,再テスト法 基準関連妥当性 父親の育児関与の多面的な測定 32項目
①支持②交流③家事④しつけ⑤世話

a 海外の尺度について網掛けにして標記した

b 妊娠後期も対象としているものの,育児能力の尺度であるため,本研究では育児期の尺度に分類した

アセスメントの時期では,パートナーの妊娠期と乳幼児を育てる育児期の2つに分類(以下,「妊娠期」,「育児期」)し,それぞれ9件と12件であった.育児期に分類した尺度の中で,PPSSとFTFQはパートナーの出産における父親の尺度であるが,育児期の父親支援のために開発されたこと,子どもへの愛着や妻への支援についての項目を含んでいることから,育児期に分類して分析することとした.

父親のパートナーの表現は,パートナーが7件,妻が6件,母親,妻とパートナーの併記,妻と恋人の併記が1件ずつ,記載なしが5件であった.そのうち日本の尺度の4件では,妻が3件,記載なしが1件であった.

信頼性はBPS以外の20件で検証され,7件は1~4週間隔の再テスト法が行われていた.妥当性は18件で検証され,9件は基準関連妥当性が検証されていた.外的基準は,Paternal Adjustment and Paternal Attitudes Antenatal,PPAQ,Paternal Adjustment and Paternal Attitudes Postnatalはエジンバラ産後うつ病質問票(EPDS),妊娠期の妻への夫の関わり満足感尺度は「夫婦関係満足尺度(Quality Marriage Index: QMI)」と「心的健康観尺度(The subjective well-being inventory: SUBI)」,妊婦に対する夫の役割行動実践度測定尺度,父親の育児関与尺度は「父親になることによる発達尺度」,親になる移行期の父親らしさ尺度は「親性の発達尺度」,The Italian Adaptation of The Paternal Antenatal Attachment ScaleはPAAF(父親の胎児への態度),K-PAFASはPAASを用いていた.

2. 妊娠期,育児期の父親の関与についてのアセスメント

時期別に,レビューマトリックス方式により各尺度を分析した.アセスメント項目については,【 】はカテゴリ,[ ]はサブカテゴリ,〈 〉はコードを示す.

1) 妊娠期

妊娠期の尺度は9件であり,アセスメント項目は,胎児への愛着が4件,移行期の調整と態度,出産への参加の態度とニーズ,妻の満足感,妊婦に対する役割行動実践,移行期の父親になっていく肯定的な思いやイメージが1件ずつであった.アセスメント項目をコード化し,9カテゴリに分類した(表3).コード数8と最も多いカテゴリは【パートナー】であり,【育児】,【胎児】,【出産】が続いていた.また,妊娠週数が進む中で回答可能な項目もあり,PFAとK-PAFASは尺度を使用する対象時期を妊娠後期と指定していた.

表3  妊娠期の父親の関与についてのアセスメント項目
カテゴリ サブカテゴリ コード 尺度No.(表1より)
胎児 胎児への愛情 胎児への関心 1,2,6,8,9
胎児についての考え 2,6,7,9
胎児への気分 2,6,9
胎児への働きかけ 胎児の動きを感じる 1,2,4,5,6,8
胎児に話しかける 1,4,5,9
子ども 子どもへの愛着 子どもを待望する気分 1,7,8
子どもについての認識 子どもについて考える 2,3,4,6,8,9
子どもについてのコミュニケーション 周りの人と子どもについて話す 8,9
父親自身 父親としての認識 父親になることの考え 7,8,9
父親自身についての心配 父親になることの心配 3,7
父親自身の変化 行動の変化 4,5,8
考え方の変化 8,9
パートナー パートナーとの関係性 パートナーとの関係性 7
パートナーとのコミュニケーション 4,5,8
パートナーへの働きかけ パートナーへの愛情表現 7
パートナーへの助言 1
パートナーへのいたわり 4,5
嫁姑関係への配慮 4
パートナーからの働きかけ パートナーから父親への働きかけ 7
パートナーについての認識 パートナーについての考え 7,9
妊娠 妊娠についての認識 妊娠についての考え 1,9
妊娠についての気分 パートナーの妊娠についての気分 7
出産 出産への準備 妊婦健診への協力 5
出産準備への協力 3,4,5
出産についての認識 出産への関心 5,9
立ち合い出産についての認識 立ち合い出産の考え 3
立ち合い出産についての心配 立ち合い出産の心配 3
育児 育児の認識 育児に関与することの考え 3,7
育児をする想像 1,9
育児への関心 5
育児方針 4
産後の生活の変化の認識 父親自身の時間 7
子どもとの生活の考え 7,8
家庭 家事 家事をする 4,5
マネジメント 家庭のマネジメント 7
情報収集をする 8
性的なこと 性行為の認識 性行為への考え 7
性行為への配慮 5
性的欲求 性的欲求 7
性的魅力 父親とパートナー双方の性的魅力 7

尺度によっては作成された国による特徴もあった.例えば,日本の「妊娠期の妻への夫の関わり満足感尺度」の下位概念「妻の健康と情動への気づかい」の項目では,「妻と夫の両親との関係を配慮」という項目があり,韓国のK-PAFASは,親の本質的な努力とされる韓国の伝統文化の「胎教」を考慮して開発されていた.

日本の尺度の3件は,9カテゴリ全てを含んでいた.そのうち,【家庭】のカテゴリでのサブカテゴリは,[家事]のみであった.

2) 育児期

育児期の尺度は12件であり,アセスメント項目は妻・パートナーの出産経験4件,NICU入院児の父親の支援のニーズ2件,父親と乳児の愛着,移行期の父性の調整と態度,産後の経験と安心感,育児の能力,父親の適応,育児関与が1件ずつであった.アセスメント項目をコード化し,9カテゴリに分類した(表4).コード数10と最も多いカテゴリは,【家庭】であり,【父親自身】,【パートナー】,【産科医療機関】が続いていた.育児に関連した内容は,[子どもの世話]に加え,[家事],[マネジメント]も含めた【家庭】のカテゴリに集約できた.

表4  育児期の父親の関与についてのアセスメント項目
カテゴリ サブカテゴリ コード 尺度No.(表2より)
子ども 子どもへの愛情 子どもへの関心 2,6
子どもに対する気分 2,3,8,9
子どもについての認識 子どもとの関係の考え 9
子どもについてのコミュニケーション 周りの人と子どもについて話す 2,6,11
子どもについての心配 子どもについての心配 3,4,7,8,9,10
父親自身 父親としての認識 父親としての自己評価 2,5,8,9
父親になることの考え 5,8,9
父親の気分 父親の気分の状態 1,2,3,5,8,9
父親自身についての心配 父親になることの心配 4,5,7,10
父親自身の変化 行動の変化 9
考え方の変化 3,9
産後の生活の変化の認識 父親自身の時間 2,6,8,9
子どもとの生活の考え 8
仕事と育児の調整 6
パートナー パートナーとの関係性 パートナーとの関係性 6,8,9,11
パートナーへの働きかけ パートナーへの愛情表現 8
パートナーとの時間の確保 6,11
パートナーへのいたわり 9
パートナーからの働きかけ パートナーから父親への働きかけ 8
パートナーの心身の状況 パートナーの心身の状況 1
パートナーについての認識 パートナーについての考え 3,8
パートナーについての心配 パートナーへの心配 3
家族 父親自身の親について 自身の親の振り返り 5,9
家族への愛着 家族への愛着 1
家庭の雰囲気 家庭の雰囲気 9
出産 出産についての認識 出産時の役割観 3,4,7
出産での思い 3,4,7,10
出産についての心配 出産についての心配 3,4,6,10
立ち合い出産についての認識 立ち合い出産での役割観 3
立ち合い出産についての心配 立ち合い出産の心配 3,4,7,10
育児 育児についての認識 育児についての知識 9
育児に関与することの考え 1,2,5,9
育児の方針 8
育児についての気分 育児についての気分 2,8,9
家庭 子どもの世話 日常的な世話 6,12
日常生活習慣を整える 12
一緒に遊ぶ 12
共感して働きかける 2,6,9,12
緊急時の対応 6,12
きょうだいの世話 6
家事 家事をする 12
マネジメント 家庭のマネジメント 6,8,9
育児のマネジメント 6
パートナーとの役割分担 4
性的なこと 性行為の認識 性行為への考え 8
性的欲求 性的欲求 8
性的魅力 父親とパートナー双方の性的魅力 8
産科医療機関 医療従事者による支援 医療従事者とのコミュニケーション 1,3,4,6,7,10,11
医療従事者からのアドバイス 1,3,4,7,10
精神的支援を受ける 1,3,4,7,10
父親が休息する配慮 4,7,10
医療従事者についての認識 医療従事者の印象 1,3,4,6,7,10,11
医療従事者による父親の評価 3,4,7
医学への貢献 子どもを医学に貢献させる 6,11
産科の環境 産科の環境 3

作成された国による特徴として,イランのPAQでは父親役割をイスラム教の宗教書から抽出しており,「困った時は神を信頼する」といったアセスメント項目があった.

日本の尺度の1件は,9カテゴリのうち,【家庭】のカテゴリのみであった.【家庭】のカテゴリでのサブカテゴリは[子どもの世話]と[家事]であった.

IV. 考察

1. 父親の関与についてのアセスメント項目

父親の子どもへの関与は,子どもと直接接触する「interaction」だけでなく,「availability」,「responsibility」という3つの要素があり,病院や社会資源の手配なども含まれると報告されている(Lamb et al., 1987).本研究結果でも,父親の関与についてのアセスメント項目は,胎児,子ども,父親自身,パートナー,家族,妊娠,出産,育児,家庭,性的なことや,産科医療機関を含んでおり,直接の育児や社会資源の手配などに限らないことが確認できた.日本の育児期の尺度では,9つのカテゴリのうち【家庭】のカテゴリのみが項目として設定されていた.これらの項目設定の違いは,国による文化の違いが反映されているとも考えられる.舩橋(2006)は,フランスとスウェーデン,日本を比較し,フランスではカップルの性的関係を重視し,スウェーデンではカップル関係も親子関係も同様に重視し,日本では母子関係が重視されていると報告している.これらのことから,国による親子や夫婦の関係性の価値観の違いが,パートナーや胎児や子どもといった尺度項目の対象の多様性に反映されていると考えられる.日本の育児期の尺度には,子どもや父親,パートナーなどについてのアセスメント項目は含まれていなかった.さらに,日本の妊娠期3件,育児期1件の尺度すべてが【家庭】のカテゴリの中で[マネジメント]のサブカテゴリを含んでいなかった.これは,日本の父親のアセスメントが,子どもの直接的な世話や家事を含んでいるものの,父親が家庭や育児についてマネジメントをするという視点が不足していることも考えられ,新たなアセスメント項目として検討することが必要である.また,K-PAFASは,既存の尺度は父親の気分や認知を測定しているものの父親役割への態度や実際の行動の測定は十分ではないことから,感情,認識,行動の領域からなる尺度としたとしている(Noh et al., 2017).本研究でも,妊娠期と育児期の各カテゴリは,父親の感情,認識,行動の領域を含むサブカテゴリから構成されていた.以上より,妊娠期・育児期の父親の関与についてのアセスメントでは,子どもを対象とした育児のみにとどまらない父親の多面的な項目と,父親の感情や認識,行動等の領域を対象とする必要があると考える.

2. アセスメントの時期

アセスメントの時期は妊娠期と育児期に分類した.各時期での父親への支援は直接的なかかわりが望ましいものの,父親との接触のしにくさ(岩田ら,2004)も指摘されている.石井(2013, p. 149)は,父親の育児参加は,妻の働きかけも影響するとしており,妻を通した間接的な父親のアセスメントによる父親への支援も考えられる.そのため,父親のアセスメントをすることで,各時期の父親の状態の把握とそれに応じた直接的あるいは間接的な父親への支援に寄与すると考えられる.ただし,妊娠期は,経過が進む中で父親の回答が可能となるアセスメント項目もある.そのため,妊娠各期で支援を行う産科医療機関と主に妊娠初期の妊娠届出時に妊婦の把握を行う自治体の保健部門では,適切なアセスメント項目が異なると思われる.

3. 国によるアセスメント項目の違い

分析対象の21件の尺度のうち,翻訳して開発された8件は,自国の文化への適応を考慮していた.イランのPAQの神についての項目などのように,海外のアセスメント項目は,翻訳するだけでは必ずしも日本文化を反映できないと思われる.また,父親のパートナーの表現は,海外の尺度17件のうち7件は婚姻関係を必ずしも前提としたものではない「パートナー」の表記であり,移民も含めて対象としている尺度(FTFQ,オリジナル版FTFQに準じて作成したフランス語版),人種は不問とする尺度(FSS:NICU)もあった.以上のことから,海外の尺度を日本に適用する際は,性別役割分業観や長時間労働などの日本の現状とともに,婚姻関係に限らないパートナーとしての位置づけや在日外国人の位置づけを考慮する必要がある.

また,本研究の限界は,研究対象が尺度に関する文献であったことから,尺度の各項目についての分析となったことである.今後は,各尺度から抽出された多面的なアセスメント項目を用いたアセスメントの実施や,尺度の開発の検討も必要と考える.

V. 結論

母親の妊娠期や育児期の父親の関与についてのアセスメント項目を明らかにすることを目的に文献検討を行った.その結果,父親の関与についてのアセスメント項目は,育児を含む【家庭】だけでなく,【胎児】,【出産】,【パートナー】などの多面的なカテゴリと感情や認識,行動などの領域があった.また,尺度が開発された国の文化を反映していた.

謝辞

本稿の執筆過程でご指導いただきました東京都立大学大学院斉藤恵美子教授に,心より感謝申し上げます.

利益相反

本研究に開示すべきCOI状態はない.

文献
 
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