日本公衆衛生看護学会誌
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研究
外国人結核患者のDOTS(Directly Observed Treatment, Short-course)における保健師の支援
吉岡 千夏内村 利恵小寺 さやか
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2023 年 12 巻 2 号 p. 119-127

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Abstract

目的:外国人結核患者のDOTSにおける保健師の支援内容を明らかにする.

方法:外国人結核患者の服薬支援を経験した保健師に支援内容や支援の意図等について半構造化面接を実施し,質的記述的に分析した.

結果:保健師は,治療開始期には《治療への障壁の緩和》《文化の違いを超えた対象理解》《日頃の関係性を基軸とした医療機関との連携》により確実に治療につないでいた.治療継続期には《文化に配慮した服薬の動機づけ》《支援者の発掘と協働》《医療との橋渡し》《治療に専念できる環境の整備》により治療中断を防ぎ,個別事例を通して《地域全体の課題の把握》を行っていた.全期間を通して,【相互理解のための歩み寄り】《言語的ハードルの緩和》に努めていた.

考察:外国人結核患者との意思疎通の試み,文化の相違や社会経済的困難を理解する姿勢,フォーマル・インフォーマルな関係者との連携が治療成功につながる可能性が示唆された.

Translated Abstract

Background: For Japanese public health nurses, supporting foreign-born patients with tuberculosis (TB) still constitutes a challenge due to linguistic, cultural, and socio-economic barriers.

Aim: The aim of this study was to explore PHNs’ support and interventions in the Directly Observed Treatment Short course (DOTS) program for foreign-born patients with TB.

Methods: Semi-structured in-depth interviews were conducted with seven public health nurses from different public health centers who executed DOTS with foreign-born patients with TB. A qualitative approach was used to analyze the data, describing the nurses’ experiences with the support provided through DOTS.

Results: At the beginning of the treatment, the public health nurses really struggled to overcome sociocultural barriers, understand their patients irrespective of the underlying cultural differences, and liaise with medical institutions based on the networks that the nurses had built. During the treatment period, in order to prevent the patients from discontinuing the course, the nurses catered to their cultural backgrounds to ensure firm adherence and actively sought extra help by collaborating with a supporter. They aimed to bridge the gap between patients and healthcare professionals and provide a better overall environment for the patients to continue treatment. Furthermore, for future patient support, the nurses identified community resources and health needs. Throughout the DOTS program, the nurses sought to work on their mutual understanding and gain mastery in overcoming linguistic barriers.

Conclusion: Interpersonal communication, sensitivity toward patients with socioeconomic difficulties and cultural differences, and effective collaboration with other formal and informal resources contribute greatly to the successful treatment of foreign-born patients with TB.

I. 緒言

世界的に結核の罹患率は減少傾向にあるものの,結核は世界10大死因の一つである(WHO, 2020).日本の結核罹患率は,2019年に11.5(人口10万対)と過去最低となったが,未だ日本は結核中蔓延国の一つである.

近年,新登録結核患者数に占める外国出生者の割合は増加傾向であり,特に20歳代の結核患者の7割以上が外国出生者である(厚生労働省,2019).国内全保健所を対象とした調査によると,保健所の約6割が対象者または関係者が外国人,もしくは外国との往来がある日本人であったために日常業務に何らかの影響があった事例を経験し,そのうち8割以上が結核であったことが報告されている(全国保健所長会グローバルへルス研究班,2016).わが国では,特に結核中高蔓延国出身の在留外国人が多く(法務省,2020),結核業務に携わる保健所にとって,外国人結核患者への対応は喫緊の課題である.

結核中高蔓延国から移住する外国出生者は,移住前に結核に罹患している場合が多く,移住後も貧困,ストレスの多い生活条件,社会的不平等,集団生活,栄養失調,薬物乱用,保健医療サービスへのアクセスが制限されること等により,感染又は発症のリスクにさらされやすい(Scotto et al., 2017).

さらに,外国人結核患者は,言語や文化の壁により治療中断のリスクが高く(Essadek et al., 2018),多剤耐性結核や超多剤耐性結核が多いことが報告されている(Sánchez-Montalvá et al., 2018).治療中断を防ぐため,日本では「日本版21世紀型DOTS(Directly Observed Treatment, Short-course,以下DOTS)戦略」に基づき服薬確認が行われている(厚生労働省,2016).しかし,外国人結核患者のDOTSに携わる保健師は,言葉の壁,生活環境や経済的な問題,文化的価値観の相違,保健医療システムの違い等により服薬支援に苦慮していることが明らかとなっている(小嶋ら,2017小山ら,2016藤原,2016).

外国人結核患者のDOTSにおいて,保健師は特有の困難を抱えているものの,治療成功に至るまでの保健師による具体的な支援内容は明らかになっていない.本研究では,治療成功事例から外国人結核患者のDOTSにおける保健師の支援内容を明らかにすることを目的とした.これにより,外国人結核患者に対応する保健師の心理的負担の軽減や,外国人結核患者の治療成功の一助となることが期待できる.

II. 研究方法

1. 用語の定義

支援:結核発生届の受理から院内DOTS,地域DOTSに至る全過程で保健師が行ったあらゆる関わりとし,関わりの前提となる意識や態度を含む.

外国人:滞在年数や在留資格に関わらず日本国籍を持たない者とする.

2. 研究協力者

対象は,A圏域2都道府県内の保健所に勤務し,行政保健師として3年以上かつ結核担当部署で1年以上の経験を有し,過去10年以内に外国人結核患者のDOTS支援を経験した保健師とした.当該2都道府県は,全国的に結核罹患率が高く(厚生労働省,2019),結核中高蔓延国出身の在留外国人の割合も増加している(法務省,2020).対象自治体の統括部門または結核担当部署に,文書で研究の目的及び方法,インタビュー概要を説明し,口頭による回答にて理解を得た後,該当者の紹介を受け,研究協力への同意が得られた者を対象に調査を実施した.

3. データ収集方法

2019年10月~2020年1月に半構造化面接を行った.インタビューでは,外国人結核患者の事例について,事例の概要,具体的な支援内容,さらに掘り下げて支援の意図や工夫,支援上の課題について,保健師に語ってもらった.なお,本研究では,活動性結核または潜在性結核感染症(LTBI)により標準治療が必要であり,治療成功または治療中の事例を対象とした.保健師への面接回数は1人1回であり,面接時間は1回当たり60~80分程度であった.

4. 分析方法

逐語録を作成し,外国人結核患者と保健師との相互作用に着目しながら,「保健師の支援」に関する意味内容をコード化した.コードからサブカテゴリー,カテゴリーを作成し,3過程に分類した.また,保健師の支援の核となるカテゴリーをコアカテゴリーとした.データ収集と分析は同時並行で行い,信頼性・妥当性を高めるため,全過程において研究者間での協議,必要に応じて研究協力者への確認を行った.

5. 倫理的配慮

本研究は,神戸大学大学院保健学研究科倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号第873号,承認年月日2019年9月3日).研究実施に際して,研究協力者には,研究の目的,方法,依頼内容,研究協力への配慮,研究参加の任意性と撤回時の手続き,個人情報の保護管理等について,文書及び口頭にて説明し同意を得た.

III. 研究結果

1. 研究協力者の概要(表1

研究協力者は7名,平均勤続年数は21年,平均結核担当年数は9.4年であり,全員が過去に結核以外を含む外国人への個別支援を経験していた.

表1  研究協力者の概要
ID 所属 性別 年代 最終学歴 勤続年数 結核担当部署での経験年数 外国人への支援経験
a 都道府県 女性 30代 大学卒 16年6か月 3年6か月 1~2件
b 政令市 女性 30代 大学卒 12年6か月 7年6か月 6~9件
c 政令市 女性 50代 養成所卒 33年3か月 19年 6~9件
d 都道府県 女性 50代 養成所卒 32年7か月 10年7か月 3~5件
e 都道府県 女性 50代 養成所卒 36年 18年 10件以上
f 都道府県 女性 40代 専攻科卒 7年8か月 3年8か月 3~5件
g 中核市 男性 30代 大学卒 8年9か月 3年9か月 3~5件

2. 研究協力者が担当した事例の概要(表2

事例の対象者は10~30歳代で,結核中高蔓延国出身であった.

表2  事例の概要
No. 国籍 年代 性別 在留目的 診断名 薬剤耐性 入院治療 治療経過
1 フィリピン 20代 女性 就労 肺結核・喉頭結核 なし なし 治療終了
2 ベトナム 10代 女性 外国人技能実習 肺結核 なし 2か月半 治療中
3 ベトナム 20代 男性 留学 肺結核 なし 2か月 治療終了
4 ベトナム 20代 男性 留学 LTBI なし なし 5か月で強制送還
5 ベトナム 20代 男性 外国人技能実習 肺結核 なし 2か月 治療終了
6 ベトナム 20代 男性 外国人技能実習 肺結核 なし なし 治療中
7 インドネシア 20代 男性 外国人技能実習 肺結核 あり なし 治療終了
8 インドネシア 20代 男性 外国人技能実習 肺結核 なし 2か月 治療終了
9 インドネシア 20代 男性 外国人技能実習 LTBI なし なし 治療終了
10 フィリピン 30代 男性 外国人技能実習 肺結核 あり 4か月 治療終了
11 インドネシア 20代 男性 外国人技能実習 肺結核 あり 4か月 治療中
12 中国 20代 女性 就労 肺結核 なし 1か月 治療終了

3. 外国人結核患者のDOTSにおける保健師の支援(表3,表4

保健師による支援は,治療の全期間,治療開始期,治療継続期から構成されていた.以下,コアカテゴリーを【 】,カテゴリーを《 》,サブカテゴリーを〈 〉,コードを[ ]で,研究協力者の語りの内容またはその一部を斜体で示し,意味がわかりにくい部分を研究者が( )で補った.

表3  治療全期間を通した支援
カテゴリー サブカテゴリー コード
相互理解のための歩み寄り 伴走者としての役割 対象者に寄り添う
服薬支援者としての役割の説明
早期の対面 迅速な初回面接
迅速に対象者に会うための病院訪問
意図的な関心の表出 母国語による挨拶の試み
対象者への関心の意図的な表出
意図的な雑談や冗談の導入
継続的な対話と共感による信頼関係の構築 繰り返しの面接と対話
心配している気持ちの伝達
信頼関係構築の努力
困りごとの傾聴
対象者の思いとの妥協点の模索
安心感の促し
言葉が通じないことによるしんどさへの理解
日本人と変わらない対応 日本人と同じ対応
日本人の場合と同じ保健師自身の緊張感
日本人の場合と同じ心配事
言語的ハードルの緩和 日本語能力の査定 届け出時点での日本語能力の把握
外来看護師を通じた日本語能力の把握
会話を通した日本語能力の査定
対象者の日本語の理解度の汲み取り
言葉の壁を補うための手段の選択 医療通訳が必要なタイミングの見極め
医療通訳を活用した確実な説明
既存の外国語媒体の活用
ICTの活用
身振りと手振りの活用
母国語が話せる民間通訳者の活用
日本語の工夫 わかりやすい日本語の選択
通訳してもらいやすい日本語の選択
日本語の理解度に応じた説明
優先順位をつけた説明 優先順位の高い質問に限定
必要最低限に絞った説明
表4  治療開始期・治療継続期の支援
カテゴリー サブカテゴリー コード
治療への障壁の緩和 経済的不安の軽減 公費負担制度の説明
日本で治療するメリットの説明
職場への治療の必要性の説明
困りごとの掘り起こし 困りごとや不安感の背景の探索
困りごとの掘り起こし
困りごとへの対応
生活基盤の整え 生活環境を含む対象理解
生活が成り立つかの見立て
治療に向けた経済的基盤の整え
疾患や治療に対する受け止めの把握 法律による入院の必要性の説明
治療に対する理解度の把握
治療に対する受け入れの確認(届け出時点)
結核に対する理解度の推測
日本の医療に関する受け入れの推測
日本人協力者の確保 日本語が話せるキーパーソンの模索
日本人協力者の確保
日本人の助けを得ての支援
キーパーソンの把握と連携
文化の違いを超えた対象理解 異なる価値観による倫理的葛藤 文化の違いから起こり得る問題の推定
異文化への戸惑いと受け入れ
国民性を考えることによる対象理解の深化 お国柄を考えることによる理解の深化
文化的背景の把握 母国での生活状況の把握
母国での社会経済的基盤の見立て
宗教上配慮が必要なことの把握
日頃の関係性を基軸とした医療機関との連携 医療機関との交渉 主治医との受け入れ交渉
医療機関との調整
医療機関との日常的な連携
日常的な連携を活かした情報収集 医療機関へ直接確認
正確な受診状況の把握
看護師との協働 病棟看護師と相談しながらの支援
病棟看護師と顔の見える関係の構築
文化に配慮した服薬の動機づけ 服薬中断リスクの見極め セルフケア能力の見極め
受診の見立てと同行
服薬確認頻度の判断
受診困難の予測
服薬継続の見立て
入院生活の確認
治療成功の見立て
服薬確認方法の合意 服薬自己管理の必要性の説明
受診への理解を得るための段取り
服薬確認の約束
繰り返しの念押し 本人を交えた共通認識の場の設定
確実な服薬の念押し
気持ちの共有
職場との協働による服薬継続の促し
理解を促すための繰り返しの説明
文化的価値観への配慮 在留目的の尊重
母国での生活を見越した関わり
置かれている生活環境への理解
国民性の違いへの理解
宗教への配慮
日本人よりも手厚い対応
支援者の発掘と協働 支援者の発掘 身近な支援者の発掘
職場の結核に対する理解度の把握
職場の協力度の査定
確実な服薬のための協働 日本語学校との協力による服薬確認
職場との協働による服薬確認
処方内容と残薬による確実な服薬確認
確実な受診のための同行依頼
医療との橋渡し 支援方針のすり合わせ 退院に向けた関係職種との情報共有
対象者と主治医との橋渡し 本人の代弁
医療機関を通じた正確な服薬情報の把握 DOTS確認のための医療機関訪問
正確な服薬情報の把握
治療に専念できる環境の整備 周囲の協力の促進 職場の結核に対する理解の促進
居づらさを軽減するための環境整備
周囲の安心を促すための健康教育
職場に対する保健師役割の説明
同僚への協力依頼
経済的負担の軽減 治療費や賃金保障に対する情報提供
住まいの調整と交渉
通院負担の軽減
治療と仕事の両立のための調整 職場との業務内容の調整
受診しやすい医療機関の選択
生活時間に合わせた訪問指導
治療完了に向けた帰国調整 母国での治療継続に向けた関係機関との調整
経済的負担に配慮した出国時期の判断
在留期限延長の手配
地域全体の課題の認識 地域の社会資源の検討 医療通訳者に代わる地域資源の検討
外国人結核患者を受け入れる近隣医療機関の不足
健康課題解決のための働きかけ 外国人雇用事業所への普及啓発
地域在住外国人にかかわる健康課題の推測 地域在住外国人の動向の把握
地域の外国人雇用事業所の把握
地域の健康課題の推測

1) 治療の全期間を通した支援

(1) 相互理解のための歩み寄り

保健師は,支援の初期からの〈早期の対面〉を心掛け,〈伴走者としての役割の説明〉を行っていた.また,[母国語による挨拶の試み]等の〈意図的な関心の表出〉,[心配している気持ちの伝達]等の〈継続的な対話と共感による信頼関係の構築〉に努めていた.さらに,保健師は,感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下,感染症法)に基づく対応であるという認識のもと〈日本人と変わらない対応〉を行っていた.

私(保健師)は,結核の患者さんは,しっかり薬を飲んでもらうのが大事やから,それ(服薬)をお手伝いする者です,っていう保健師の役割をお伝えしたと思います.(事例2)

(2) 言語的ハードルの緩和

保健師は,初回面接の前から対象者の〈日本語能力の査定〉を行い,〈言葉の壁を補う手段の選択〉を行っていた.また,対象者の理解を促すため[わかりやすい日本語の選択]を行う等〈日本語の工夫〉に努めていた.さらに,重要なことから先に説明する等〈優先順位をつけた説明〉を心掛けていた.

聞く気なくなるかもしれないじゃないですか.難しいことずっと言われたら.だから,(説明の)優先順位やっぱり考えて,簡単にしてまとめるっていうようなことはしている.(事例12)

2) 治療開始期の支援

(1) 治療への障壁の緩和

保健師は,〈疾患や治療に対する受け止めの把握〉や〈困りごとの掘り起こし〉により治療への障壁をアセスメントするとともに,〈経済的不安の軽減〉や〈生活基盤の整え〉により,治療の受け入れを促していた.また,支援に必要な〈日本人協力者の確保〉を行っていた.

ここに日本にわざわざ来てるっていうのはきっとお金を稼ぐ(ため)とかもあるのかなと思って.…(中略)…今抱えている問題とかも病気以外にあるんじゃないかなとか,その辺(病気以外に抱えている問題)は理解できるように,個人情報をいろいろ聞いたかもしれないですね.(事例1)

(2) 文化の違いを超えた対象理解

保健師は,母国での生活状況等の〈文化的背景の把握〉を行うことで価値観の違いの理解に努め,プライバシーの考え方の違い等〈異なる価値観による倫理的葛藤〉を感じつつも対象者に寄り添い,〈国民性を考えることによる対象理解の深化〉につなげていた.

治療,結核と薬,治療っていうよりは,むしろそういった生活の面だとか,向こう(母国)での生活とか,日本の生活がどうなのかなみたいなところのやりとりはしっかりとしてきたつもりです.(事例4)

(3) 日頃の関係性を基軸とした医療機関との連携

初期では,外国人患者の入院等を受け入れてもらうために〈医療機関との交渉〉を行い,対象者を確実に治療につないでいた.さらに,普段から結核病棟看護師等と顔の見える関係を築くことで〈日常的な連携を活かした情報収集〉や〈看護師との協働〉を行っていた.

そこ(医療機関とのDOTSカンファレンスが始まって)から,困ったケースの連絡は(医療機関から保健所に)すぐに入ってくるようになってきた.(事例4)

3) 治療継続期の支援

(1) 文化に配慮した服薬の動機づけ

保健師は,退院時に本人と〈服薬確認方法の合意〉を行った上で地域DOTSにつなげ,〈繰り返しの念押し〉により治療の継続を促していた.

さらに,母国への仕送りのためすぐに働かなければならない,受診の日時を守れない等,患者の状況は様々であった.保健師は各患者の状況をよく観察し,[服薬継続の見立て]や[服薬確認頻度の判断],[セルフケア能力の見極め]等の〈服薬中断リスクの見極め〉を行っていた.また,宗教や国民性の理解等〈文化的価値観への配慮〉のもと服薬支援を行っていた.

お祈りの時間はね,4回ぐらいあって,いつにする?言うて,…(中略)…じゃあそこ(12時)で飲むようにしましょうかみたいなことを話したりしました.(事例5)

(2) 支援者の発掘と協働

保健師は,対象者が治療を継続できるように,身近な〈支援者の発掘〉から学校や職場等の〈確実な服薬のための協働〉につなげていた.

最初は外来DOTSにしようかなと思っていたんですけど,やっぱりこう,寮の管理人さんとかがほんとお母さんみたいな感じで,職場の人とかも割と優しいので,まあそこ(寮の管理人や職場の人)を活用しないわけにはいかないなあと思って.(事例2)

(3) 医療との橋渡し

保健師は,[退院に向けた関係職種との情報共有]により〈支援方針のすり合わせ〉を行うとともに,対象者の服薬を確認するために医療機関を訪問する等〈医療機関を通じた正確な服薬情報の把握〉を行っていた.対象者の中には,治療期間を延長することを告げられ,経済的理由からその後の受診を拒否する者もいた.保健師は,言葉の壁により言語化が困難な対象者に代わり,[本人の代弁]をすることで〈対象者と主治医との橋渡し〉を行っていた.

まあ本人(対象者は)今後のお金のこともあるので,受診拒否っていうのがあるのでね,当初の予定通りの9か月で(治療)終了できませんかっていうのを(対象者の代わりに)ちょっと聞いたんです.(事例10)

(4) 治療に専念できる環境の整備

保健師は,〈周囲の協力の促進〉や職場復帰を見据えた〈治療と仕事の両立のための調整〉を行っていた.また,経済的理由による治療中断を防ぐための〈経済的負担の軽減〉や,途中帰国後も母国で治療継続できるよう〈治療完了に向けた帰国調整〉を行っていた.

やっぱり2ヶ月も病院生活やったので,体の面,慣れていくために,そういうとこらへん(慣らしの期間の設定)も実習担当の方(職場の担当者)と相談しながら(支援した).(事例8)

(5) 地域全体の課題の認識

保健師は,外国人結核患者の個別支援を通して,[地域在住外国人の動向の把握]や[地域の外国人雇用事業所の把握]により〈地域在住外国人にかかわる健康課題の推測〉を行っていた.また,ポピュレーションアプローチとして[外国人雇用事業所への普及啓発]等の〈健康課題解決のための働きかけ〉とともに,〈地域の社会資源の検討〉を行うことでサブシステムの課題を見出していた.

地域でそういった通訳をされるボランティアさんがうまく使えないかな?とか…(中略)…,結核っていうところで入っていくことに対しての通訳さん側への教育みたいなところが要ることがたぶん前提になるかなあとは思います.(事例9)

IV. 考察

1. 事例の特徴

本研究事例の8割が20歳代の結核中高蔓延国出身者であった.これは日本全体の傾向と同様であり,多くの者は入国時点で結核の既感染者であった可能性が高いと考えられる.外国人結核患者のうち,留学生と労働者の結核罹患率が高く,在留期間が短いほど顕著であることが報告されている(星野ら,2010).本研究でも,事例の8割は在留期間が比較的短い技能実習生と日本語学校生が占めていた.

2019年の新登録肺結核患者のうち,日本人結核患者も含めた薬剤耐性結核の割合は17.9%(厚生労働省,2019)であったが,本研究では全体の25%が薬剤耐性結核の事例であった.

これは,事例の出身国の多くが薬剤耐性結核の発生率が高い国であること(WHO, 2022)や薬剤耐性結核ではより厳格な服薬支援が必要となることから,保健師のかかわりが多い事例が集まったと考えられる.

2. 保健師による外国人結核患者の服薬支援の特徴

1) 治療の全期間を通した支援

DOTSにおいて,保健師は患者をより深く理解するために寄り添いながら,服薬完遂し治療が無事に終わることを目指して共に歩む存在である(森ら,2013).保健師は支援の全ての過程において,【相互理解のための歩み寄り】により,対象者との信頼関係構築に努めていた.村嶋(2015)は,保健師が対象との信頼関係を築く上で最も大切なことは,保健師が安心できる存在であること,安全を保障してくれる存在であることを対象者に理解してもらうことであると述べている.保健師は自身の役割を丁寧に説明し,安心して治療を受けられる関係を築いていた.看護師と外国人患者の関係構築について,「かかわりをためらう」段階を経て「歩み寄る」に至ることが明らかになっている(野中ら,2010).しかし,本研究では,「ためらう」という概念は抽出されなかった.これは,感染症法に基づく面接であるという使命感のほか,傾聴や相手の立場で判断する姿勢,前向きで受容的な態度といった保健師のかかわり方の特性(金藤ら,2011)が,外国人に関わる心理的ハードルを低くしていたと考えられる.さらに,本研究対象となった保健師は経験年数が比較的長く,外国人への支援経験が豊富な者が多かったことも,ためらいがなかったことに影響した可能性がある.

《言語的ハードルの緩和》のために,保健師は対象者の日本語能力を査定し,言語を補う手段として医療通訳を活用していた.しかし,外国人結核患者支援において,医療通訳者を利用した保健所は僅か2割程度であることが報告されている(永田ら,2020).したがって,対象者の意思決定を支援する手段として,医療通訳の活用が課題であると言える.一方で,説明の仕方の工夫や,デバイスの活用等,対象者の日本語能力に応じた服薬支援の積み重ねが対象者との相互理解につながったと考えられる.

2) 治療開始期の支援

治療開始期には,ヘルスリテラシーの低さや生活基盤の脆弱さ,結核の理解や治療の受け入れの難しさが見られた.保健師は,《治療への障壁の緩和》に努め,対象者に治療の受け入れを促していた.外国人は,情報不足や言語,文化,保健医療制度の理解不足により,へルスケアへのアクセスが困難になることが指摘されている(橋本ら,2012).また,個人のへルスリテラシーが高くても,移住先でそれが活かされないことが報告されている(小寺ら,2018).したがって,外国人結核患者においては,治療の必要性の説明に特に配慮が必要と考えられる.本研究では,先行研究(小山ら,2016)と同様に,保健師は治療上の障壁を見極めていた.外国人結核患者の生活基盤を整えるためには,在留外国人が利用できるサービスや制度を把握しておく必要性が示された.

さらに,異なる文化を持つ外国人結核患者だからこそ,《文化の違いを超えた対象理解》が重要であった.本研究において,保健師は異なる文化を持つ患者との価値観の違いに気づき,母国の生活習慣や国民性等の知識を得て,対象者の理解につなげていた.ヘルスケア提供者がクライアントの文化を尊重しながら効果的に関わる能力は異文化間能力と呼ばれ,看護活動全過程を通して「文化を理解したいという願望」「文化への気づき」,「文化についての知識」,「文化をアセスメントするスキル」,「直接的な文化との出会い」を持続的に繰り返すことで身に付くと言われている(Campinha-Bacote, 2002).したがって,保健師自身の異文化間能力を向上させることが,治療完遂に向けたより効果的な支援につながると考えられる.特に,文化を理解したいという思いは異文化間能力の出発点になることから,保健師が多様な文化に触れあう機会が重要であると考えられる.

3) 治療継続期の支援

本研究事例の外国人結核患者では,言葉や文化の違い,経済的問題,国外転出等による治療中断リスクの高さが課題であり,保健師は,服薬継続の可能性を見極め,服薬確認の頻度や方法を工夫していた.

外国人結核患者の服薬中断のリスク要因には,言葉の障壁や国民性の違い,病気の受け止め方と受診習慣の違い,経済的困難,服薬協力者の不在などが明らかとなっている(森ら,2019).特に,結核の場合,経済的問題は外国人にかかわらず治療中断の最も大きなリスク要因となる(Tavares et al., 2019).特に外国人結核患者の中には,母国での経済的基盤も脆弱な者が多いことから,経済的問題による治療中断を防ぐことが重要であり,本研究では《治療に専念できる環境の整備》を行っていた.保健師には,対象者の経済的基盤から中断リスクを見極め,制度の利用や仕事が継続できるように調整するなど治療環境を整える役割が求められることが明らかとなった.

外国人結核患者の支援課題の一つに「身近な支援者の不足」がある(笹島ら,2014Tavares et al., 2019).技能実習生と日本語学校留学生は,一般的に来日期間が短く,家族を帯同しないため,身近な支援者の確保が難しいが,本研究では,保健師は職場の上司や監理団体,日本語教育機関等と協力しながら支援していた.外国人結核患者の支援に当たっては,特に身近な支援者の確保が重要であると考えられる.

外国人結核患者のDOTSにおいて,保健師は対象者への服薬支援だけでなく,事例を通して地域の課題(社会資源の不足,外国人雇用事業所の理解促進の必要性など)を認識していた.個人の健康課題から地域全体に共通する課題を明らかにすることは公衆衛生看護の専門性であり,本研究でもこうした専門性が見られた.

3. 実践への示唆

社会のグローバル化の進展に伴い,保健師基礎教育においても異文化理解や国際性の涵養の重要性が強調されている(全国保健師教育機関協議会,2018).本研究結果から,多様な文化的背景をもつ住民への保健師の支援が明らかとなり,社会のニーズに即した基礎・現任教育に活かせると考える.

日本人看護師において,異文化との接触や外国人患者のケアに携わった経験が異文化間能力と関連していることが明らかとなっている(Noji et al., 2017).本研究対象となった保健師は過去に外国人を支援した経験を有しており,異文化間能力の高い集団であったと考えられる.しかし,全ての保健師が同様の経験を得ることは難しい.したがって,文化に配慮した服薬支援を行うためには,結核に限らず外国人の支援経験の積み重ねや,外国人への支援経験を保健師間で共有することが重要であると考えられる.また,本研究において,保健師は外国人結核患者の母国での経済的状況や信仰といった文化についても,患者とのやりとりの中で情報収集を行っていた.異文化間能力の構成要素である「文化的知識」は,結核対策の効果的な介入につながる可能性があることから(Tankimovich, 2013),支援する集団の社会的特性や価値観等に関する知識の習得も重要であると考えられる.

さらに,本研究では,支援の前提として「日本人と同じように接する」という中立・公平な姿勢が見られた.保健師には,相手の話をよく聴くことで自らの偏見や先入観を払拭することが求められ,また,こうした姿勢は患者との信頼関係の構築,治療継続や完遂につながることが期待できる.

4. 本研究の意義と限界

本研究結果から,外国人結核患者のDOTSを推進するための具体的な方策が明らかとなったが,成功事例を対象としたため比較的支援しやすいケースが多かった.しかし,実際に保健師が対応に苦慮する事例は複雑困難事例が多いことから,より包括的に保健師の支援内容を明らかにする必要がある.

謝辞

本研究の実施にあたり,お忙しい中ご協力いただきました保健師の皆さま,研究協力者の調整にご尽力いただきました統括部署の皆さまに深く感謝申し上げます.本論文は,令和2年度神戸大学大学院保健学研究科博士課程前期課程公衆衛生看護学特別研究の論文を修正したものである.また,本研究の一部は第9回日本公衆衛生看護学会学術集会にて発表した.

本研究に開示すべきCOI状態はない.

文献
 
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