日本公衆衛生看護学会誌
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研究報告
新型コロナウイルス感染症流行下の子育て世代包括支援センター看護職の個別支援の困難さの特徴
山地 智香斉藤 恵美子
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2024 年 13 巻 1 号 p. 13-21

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Abstract

目的:本研究の目的は,新型コロナウイルス感染症流行下の子育て世代包括支援センター(以下,センター)看護職の個別支援の困難さ(以下,困難さ)の特徴を明らかにすることとした.

方法:11都府県のセンター看護職652人を対象として,郵送法による無記名自記式質問紙調査を実施した.調査項目は個人属性,感染症流行下の困難さ等の40項目とした.

結果:有効回答は83人(12.7%)であった.回答者の属性は,常勤・専任68.7%,センター経験年数5年以上32.5%であった.困難さでは,支援対象者への直接的な支援の提供(63.9%)が最も多く,他機関との連携では支援の役割分担(44.6%),連携の時期では妊娠期(38.6%)が最も多かった.

考察:新型コロナウイルス感染症流行下のセンター看護職の困難さの特徴として,支援対象者への直接的な支援の提供,他機関の専門職との連携での支援の役割分担等が示唆された.

Translated Abstract

Objective: This study seeks to explore the characteristics of the difficulties in providing individual support by nurses in Comprehensive Support Centers for Families with Children during the COVID-19 pandemic in Japan.

Methods: We conducted an anonymous self-administered questionnaire mail survey with 652 Support Center nurses in 11 prefectures. The survey items included personal attributes and 40 items regarding difficulties.

Results: A total of 83 respondents (valid response rate: 12.7%) were included in the analysis. Regarding the respondents’ attributes, 68.7% were full-time, and 32.5% had more than five years of Center-based experience. For the question about the most common difficulty faced in providing individual support to families, most nurses identified implementing direct support (63.9%), sharing the role of support in cooperation with other organizations (44.6%), and cooperation during pregnancy period (38.6%).

Discussion: In the case of individual support for center nurses during the pandemic, face-to-face opportunities decreased owing to various restrictions. Therefore, a characteristic such that there was difficulty in providing direct support to the family, building a relationship of trust, and sharing support roles in collaboration with specialists in other institutions may have emerged.

I. 緒言

日本の2021年の出生数は約81万人と,第二次ベビーブーム以降少子化が進行している(厚生労働省,2022b).少子化や核家族化の進行により,妊産婦の孤立感や負担感を軽減すること,子育て世代の妊娠・出産・育児を支援すること等,妊娠期からの切れ目のない支援が喫緊の課題である(佐藤,2019).先行研究では,保健師による継続した支援システムの導入後に,全ての子どもをもつ家族に積極的に関わり,早期からの予防的介入が促進されたことが報告されている(横山ら,2022).継続性,一貫性のある支援をより充実させるために,2016年の母子保健法改正により,市区町村に妊産婦,乳幼児とその保護者の生活の質の改善・向上等を目的とした子育て世代包括支援センター(法律による名称は母子健康包括支援センター,以下,センター)の設置が義務づけられた(厚生労働省,2017).センターは,全ての妊産婦や乳幼児とその保護者を支援対象者として包括的に支援するために,妊産婦等からの相談に応じて個別に支援プランを策定することに加え,子ども家庭支援拠点等と連携した支援が求められている(厚生労働省,2020a).センターの設置数は,2022年4月時点で1,647自治体2,486か所と報告されている(厚生労働省,2022a).

センター看護職は,ハイリスクの親子だけでなく,特定の場面でリスクがないと判断した親子に対しても支援を提供し,情報を把握することが求められている(厚生労働省,2020a).そのため,センター看護職は,支援対象者が相談しやすい体制を構築すること(槻木ら,2019),必要性に応じた支援プランを策定すること(西野ら,2022),継続的に支援の必要性を見極め,関係部署や担当者と連携すること(槻木ら,2019)等の実践を展開している.また,センター看護職の個別支援の成果として,妊娠期から育児期までの支援がつながり始めていることも報告されている(槻木ら,2019).一方で,対応困難な支援対象者に関わることの精神的な負担があること(槻木ら,2019),全ての妊婦と接する機会である妊娠届出時の情報収集のみではニーズの抽出に限界があること(西野ら,2022)が指摘されている.

センター設置以前より,自治体で母子保健を担う保健師の個別支援の困難さについては,支援対象者の要因として支援拒否(有本ら,2018),母親の精神疾患(松野郷ら,2003),支援者側の要因として支援力不足(二川ら,2014),支援者自身の気持ちを保つことの難しさ(大谷ら,2019),連携先の機関の役割がわからないこと(大塚ら,2018)等が明らかにされている.

新型コロナウイルス感染症流行下(以下,感染症流行下)に対人支援を担う市町村では,終わりの見えない緊急事態の継続に伴う潜在化した支援対象者の把握の困難さや,事業に協力してくれる専門機関等を確保することの困難さが生じたと報告されている(鳩野ら,2021).また,妊産婦を取り巻く環境の変化や生活環境の変化による妊娠期から継続した不安(Kurashina et al., 2022)や,在宅生活中心の育児になることで育児に対する困難さを生じ(横溝,2022),手厚い支援を要する支援対象者が増加した(中塚ら,2021)と指摘されている.また,母子保健を担う保健師は,事業実施時の感染対策と事業目的達成のための事業づくりの両立の難しさを感じていたと明らかにされている(吉田ら,2022).

センター看護職も,妊娠期からの継続した個別支援の困難さが生じていたと考えられるが,これまでにセンター看護職の感染症流行下での個別支援の困難さの特徴は明らかにされていない.そこで,本研究は,感染症流行下の子育て世代包括支援センター看護職の個別支援の困難さの特徴を明らかにすることを目的とした.

II. 研究方法

1. 研究対象者

2021年1月の感染症の流行に伴い,2回目の緊急事態宣言が発出された11都府県259市区に設置されているセンター652か所の中堅看護職各1名計652名を研究対象者とした.2回目の緊急事態宣言は,全国を対象とした1回目の緊急事態宣言と異なり,感染経路が特定できない症例が急増し,併せて感染者数の急速な増加が確認され,医療提供体制もひっ迫している区域に発出されている(内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室,2021).しかし,様々な制限が生じている状況下であっても,その影響を踏まえた妊産婦・乳幼児への支援が求められていた(厚生労働省,2021)ことから,センター看護職の個別支援の困難さに特徴があるのではないかと考えた.

また,中堅期の設定は,職種ごとの定義(石川,2020大場,2019佐伯ら,2004)を参考として,看護職経験6年以上20年以下とした.例えば,保健師の中堅期は,個別支援について一定の経験を有しており個人や家族への支援から視点を広げている状況であることも報告されており(佐伯ら,2004),個人の能力としての困難さの影響を受けにくいと考えられ,かつ,他機関との連絡調整業務を担うこともできると考えたからである.また,センター看護職は,職種や雇用形態による業務内容の指定はなく(厚生労働省,2020a),センター看護職の雇用形態や配置状況はセンターごとに異なっていること(日本公衆衛生協会,2019)から,本研究では看護職の職種を限定しないこととした.なお,複数名の該当者がいる場合には,センター配属年数が最も長く,センター配属後に他機関との連絡調整業務を中心的に担った看護職に協力を依頼した.

2. データ収集方法

無記名自記式質問紙を用いた郵送調査を実施した.質問紙をセンター主管課の課長宛てに郵送し,対象者に配布を依頼した.調査期間は2021年5月から7月とした.

3. 用語の操作的定義

1) 個別支援

センター看護職が支援対象者に行う直接的な保健サービス等の提供による支援(加藤ら,2018)と,他機関や他部署との連携による支援(高城ら,2018)の両方を包含する支援と定義した.

2) 困難さ

母子への個別支援の際に,センター看護職が主観的に感じる難しさ,または悩み,苦しく感じること(新村ら,2016)と定義した.

4. 調査項目

調査項目は,研究対象者の個人属性として,年代,雇用形態,センター経験年数,自治体の状況として,自治体人口,センター開設年度,自治体内センター数,配置職種,他機関とWeb会議等を行う体制とした.

感染症流行下の個別支援の困難さの項目は,子育て世代包括支援センターガイドライン(厚生労働省,2017)と先行研究(有本ら,2018大塚ら,2018)を参考に,支援対象者に対する支援10項目,他機関の専門職との連携9項目,他機関の専門職との連携が難しい時期8項目,連携が難しい組織・機関,関係者13項目とした.作成した項目を列記し,困難さを感じた項目全てを選択する設定とした.また,センター看護職として活動する中で感じた具体的な困りごとの内容について,感染症流行下の活動で困ったこととして,自由記載で回答を求めた.

5. 分析方法

個人属性,自治体の状況,感染症流行下の個別支援の困難さについて集計し,自由記載は,記載された文言の意味を損なわないよう留意し,文脈単位で区切り類似した内容を整理した.

6. 倫理的配慮

研究対象者とセンター主管課の課長宛てに,本研究の目的と調査協力の自由,無記名であり匿名性が担保されていること,無記名であるため質問紙提出後は同意撤回ができないこと等の倫理的配慮を記載した文書を同封し,質問紙の投函をもって研究協力への同意が得られたこととした.本研究は2020年度東京都立大学荒川キャンパス研究倫理委員会の承認(承認番号:20102.2021年3月19日)を得て実施した.

III. 結果

1. 研究対象者の特徴と個別支援の困難さ

回収数は85部(回収率13.0%)であり,有効回答数は83部(有効回答率12.7%)であった.

研究対象者の個人属性と自治体の状況を表1に示す.回答者の属性では,年代では40代49.4%,雇用形態は常勤・専任68.7%,センター経験年数は5年以上32.5%であった.自治体の状況では,人口10万人以上の自治体が68.7%であり,センター開設年度は2016年度が34.9%と最も多く,自治体内センター数は複数箇所が57.8%であった.配置職種では,保健師が96.4%と最も多く,次いで助産師が55.4%であった.看護職以外では,管理栄養士・栄養士が42.2%,歯科衛生士が30.1%の順に多かった.また,他機関とWeb会議等を行う体制は,感染症流行を機に整備したと回答した割合が61.4%であった.

表1. 

個人属性・自治体の状況(N=83)

項目 n %
個人属性
年代 30代以下 33 39.8
40代 41 49.4
50代 9 10.8
雇用形態 常勤・専任 57 68.7
常勤・兼任 14 16.9
非常勤 12 14.5
センター経験年数a 2年以上3年未満 22 26.5
3年以上4年未満 22 26.5
4年以上5年未満 11 13.3
5年以上 27 32.5
自治体の状況
自治体人口a 10万人未満 25 30.1
10万人以上~50万人未満 45 54.2
50万人以上 12 14.5
センター開設年度b 2015年度 3 3.6
2016年度 29 34.9
2017年度 19 22.9
2018年度 20 24.1
2019年度 8 9.6
自治体内センター数a 1か所 34 41.0
複数箇所 48 57.8
配置職種(複数回答) 保健師 80 96.4
助産師 46 55.4
看護師 14 16.9
管理栄養士・栄養士 35 42.2
歯科衛生士 25 30.1
保育士・幼稚園教諭 13 15.7
公認心理士・心理士 8 9.6
社会福祉士 7 8.4
家庭児童支援相談員 4 4.8
その他 10 12.0
事務職 45 54.2
他機関とWeb会議等を行う体制b 感染症流行前から整備 3 3.6
感染症流行を機に整備 51 61.4
今後整備する予定 10 12.0
整備する予定はない 15 18.1

a無回答1人,b無回答4人

感染症流行下の個別支援の困難さの項目について,表2に示す.支援対象者に対する支援の項目では,直接的な支援の提供63.9%,信頼関係の構築36.1%,情報収集33.7%の順に多かった.他機関の専門職との連携の項目では,支援の役割分担44.6%,支援の効果の評価26.5%の順に多かった.他機関の専門職との連携が難しい時期では,妊娠期38.6%,幼児期から学童期の移行期32.5%,出産後から新生児期の移行期31.3%の順に多かった.連携が難しい組織・機関,関係者では,町会・自治会関係者38.6%,学校・教育委員会30.1%,民生委員・児童民生委員27.7%の順に多かった.

表2. 

感染症流行下の個別支援の困難さ(N=83)

項目 n %
支援対象者に対する支援a 直接的な支援の提供 53 63.9
信頼関係の構築 30 36.1
情報収集 28 33.7
他機関・他職種と行う支援 23 27.7
支援プランの立案 14 16.9
連携先の選定 13 15.7
アセスメント 11 13.3
課題の抽出 11 13.3
連携先につなぐための調整 11 13.3
支援の効果の評価 10 12.0
他機関の専門職との連携a 支援の役割分担 37 44.6
支援の効果の評価 22 26.5
アセスメントの共有 21 25.3
連携窓口の選定 20 24.1
支援の進捗状況の共有 18 21.7
関係性の構築 18 21.7
対象者に関する情報の共有 17 20.5
支援プランの立案 9 10.8
専門用語の使い方 3 3.6
他機関の専門職との連携が難しい時期 妊娠期 32 38.6
幼児期から学童期の移行期 27 32.5
出産後から新生児期の移行期 26 31.3
新生児期 17 20.5
学童期 16 19.3
乳児期 12 14.5
幼児期 9 10.8
乳児期から幼児期の移行期 8 9.6
連携が難しい組織・機関,関係者b 町会・自治会関係者 32 38.6
学校・教育委員会 25 30.1
民生委員・児童民生委員 23 27.7
精神科・心療内科 20 24.1
民間の子育て支援機関 20 24.1
幼稚園 15 18.1
福祉事務所 10 12.0
保育所・保育園 8 9.6
産科・産婦人科 7 8.4
小児科 7 8.4
市区委託子育て支援機関 7 8.4
要保護児童対策地域協議会 1 1.2
産後ケア施設 1 1.2

注.複数回答

a無回答1人,b無回答2人

2. 感染症流行下の活動で困ったことについて

感染症流行下の活動で困ったことについての自由記載では,19人(22.9%)が回答し,記述内容は30件であった(表3).30件の記述内容の類似性から,「個別支援で適切な時期に情報収集や直接的な支援ができないこと」,「感染不安に起因した支援対象者の孤立」,「集団を対象とした事業や場の設定ができないこと」,「地域の社会資源が活用できないこと」の4項目に分類した.分類した項目のうち,「個別支援で適切な時期に情報収集や直接的な支援ができないこと」の回答が最も多く,具体的には,訪問等の支援拒否,感染への不安により外出を控えること,継続した支援ができにくいこと等が記述されていた.

表3. 

感染症流行下の活動で困ったこと

項目 内容
個別支援で適切な時期に情報収集や直接的な支援ができないこと ・新型コロナウイルス感染を理由に,支援(直接,訪問等)を拒否しており,接触をもつことに苦慮した.
・支援対象者の受け入れが悪くなった(予防のため訪問拒否等).
・訪問や来所相談が気軽にできなくなり困った.
・訪問拒否・面会拒否があった.
・新生児訪問の拒否が増えた.
・訪問を拒否された.
・家庭訪問を断られることが増えた.
・訪問を拒否されてしまい,継続した支援ができにくくなった.
・コロナの感染を心配して,訪問を拒否されることがあり,介入に困難さを感じた.
・感染不安を理由に訪問を断られるケースが増えた.
・コロナの感染に気を遣っているお宅が増えたので頻回な訪問,アポなし訪問などでお会いする機会が減った.
・要保護児童対策地域協議会ケースの状況確認の際,コロナを理由に訪問や面接拒否が増えた.
・対象者との面接に制限ができて情報共有や支援ができないことがあった.
・対面での相談ができなかった.
・直接面接が困難であった.
・面接が実施できなかった.
・直接会えず様子がうかがえないため,フォローする人数が増えた.
・感染リスクを考慮して2週間直接支援を控える対応をしているが,その間に孤立し,疲労が蓄積するケースもあり支援のタイミングが難しい.
・訪問や相談を控えている方への支援で,アセスメントが不十分なまま支援して,結果評価,次回の計画など不十分で不消化感があった.
・継続した支援ができにくくなった.
感染不安に起因した支援対象者の孤立 ・親子のサロン遊び場などが休止となり孤立感を深めていく母が増えた.
・サロン等への参加を促しても,母親自身が新型コロナウイルスへの不安が強いケースは今までより参加の勧奨がしにくく,結果的に孤立しやすい環境となった.
・引きこもる人が増えた.
集団を対象とした事業や場の設定ができないこと ・集団健診の開催ができなかった.
・保護者同士が集まる場の設定がしづらくなった.
・緊急事態宣言や感染拡大予防等を講じる必要があり,事業や活動に制限があった.
・やや気になるケースは産前・産後サポート事業の集団でフォローし,保健師等の専門職だけでなく,母親同士でフォローしあえることもあったが,感染拡大防止のため,集団での事業実施が難しく,個別でフォローしきれなかった.
地域の社会資源が活用できないこと ・子育て中の方たちの遊び場がないのが困った.
・緊急事態宣言中は活用できるサービスが減少し,育児不安や負担感を持つ保護者支援に困り感を感じた.
・緊急事態宣言や感染拡大予防等に伴い社会資源が減少した.

IV. 考察

1. 回答者の属性について

回答者のセンター経験年数は5年以上が32.5%,常勤が85.6%であった.また,センター開設年度は2016年度が最も多かったことから,センター設置直後から継続して勤務している看護職が多かったことが推測される.

2. 感染症流行下の個別支援の困難さの特徴

支援対象者に対する支援で困難さを感じた項目では,直接的な支援の提供,信頼関係の構築の順に多かった.センター看護職は,個と個の支援を重視した活動を担う役割(厚生労働省,2017)があり,個別の相談に応じること,集いの場に赴くこと等,様々な機会を通じて継続的に支援をすることで(槻木ら,2019),支援対象者との信頼関係を構築(佐藤ら,2021)している.信頼関係を構築するための支援のひとつに,家庭訪問を通じて,支援対象者と顔つなぎをし,何回も通いながら,支援対象者を安心させ孤立させないことがある(高橋,2010).しかし,感染症流行下では,支援対象者が感染を恐れて家庭訪問を拒否していた状況がある(吉田ら,2022).本研究の自由記載でも,個別支援で適切な時期に情報収集や直接的な支援ができないことに関する記述が最も多かった.先行研究では,児童虐待事例等の支援は困難を感じやすいことが報告(有本ら,2018)されているが,虐待事例等だけでなく,感染への不安に起因した訪問や面接の拒否といった感染症流行下特有の状況による対象者への支援の難しさが生じていた可能性があると考えられる.加えて,感染症流行下で,事業の中止や支援対象者が感染を恐れて健診等の事業への参加を拒否することがあったと報告されている(吉田ら,2022).本研究の自由記載でも,サロン等への参加を促しても感染の不安が強い場合は参加の勧奨がしにくく,結果的に孤立しやすい環境となったこと等が記述されていた.これらのことから,センター看護職は,妊娠中から継続的に支援を行うことで,支援対象者との顔つなぎの機会や相談等に応じながら信頼関係を構築していたものの,感染症流行下で,直接的な支援の提供の機会が減少したことにより,信頼関係を構築することの困難さが生じた可能性があると考える.これらの対策のひとつとして,「新型コロナウイルス流行下における妊産婦総合対策事業」の中でオンラインによる保健指導等の事業があり,市区町村に設備と職員の費用が補助された(厚生労働省,2020c).オンラインの活用は,感染症流行下でも根拠に基づく支援と指導を提供でき,やり取りをすることで家族とつながり,不安等を和らげることにつながる(Pasadino et al., 2020).しかし,オンラインを活用した支援では,生活実態の把握のための居室の様子や周辺環境の観察が難しく(本田ら,2021),目視による状況を把握することの難しさがある(永谷,2009)と報告されている.感染症流行下では,感染症対応の一環として対面支援の制限を講じる必要性があり,それに対する対策としてオンラインの活用等を講じても,家庭訪問等とは異なり,状況をよく観察する(高橋,2010)ことが難しくなったことで,支援対象者への直接的な支援や信頼関係の構築についての困難さが生じやすかったと考える.

次に,他機関の専門職との連携についての項目では,支援の役割分担,支援の効果の評価,アセスメントの共有の順に多かった.センター看護職の平時の活動では,必要な支援を円滑に提供するため,連携している部署,医療機関と定期的に支援プラン検討会議を開催し,多職種で支援の方向性を検討することとあわせて,支援や勉強会等で顔の見える関係づくりを行っている(槻木ら,2019).顔の見える関係をつくることにより,自治体の母子保健担当者や地区保健師,産科医療機関等との強固で継続的な連携を構築することができる(渡邉,2020).また,連携のためには,職種間での連携に関する認識の共有,互いの役割や限界への理解を深められるような働きかけが求められる(大塚ら,2018).しかし,感染症流行下での医療機関での面会制限等の措置(松澤ら,2022)に伴う対面の機会の制限により,平時に行っていた同行訪問をして関係性をつなぐ機会や他機関の専門職と共に支援に関わる機会(槻木ら,2019)が減少したり,退院時カンファレンスの開催が困難となる(稲又ら,2022)等の影響により,妊娠期から育児期までの支援のつながりを持ちにくくなった可能性があると考える.また,これまでの活動で連携が図れていた他機関と一堂に会する機会がもてず,感染症流行下でそれぞれの機関で担うことのできる支援等についての情報共有が難しくなったことが推察される.このことから,他機関の専門職との役割分担等での困難さが生じやすかったと考える.

他機関の専門職との連携が難しい時期についての項目では,妊娠期,出産後から新生児期の移行期,幼児期から学童期の移行期の割合が30%以上であった.平時より妊娠期から出産後及び新生児期の連携では,妊娠週数に応じ支援対象者に関わる支援機関が異なることで,支援に携わる専門職が流動的となる(渡邉,2020).センター看護職は,支援対象者にかかわる時期に応じて迅速かつ先を見据えて連携を図る必要があり,感染症流行下でも同様の困難さが生じていた可能性があると考える.また,幼児期から学童期の移行期の連携については,これまでも切れ目のない支援に向けた課題として報告(厚生労働省,2020b)されていることから,感染症流行下でも同様の困難さが生じていたと考える.

連携が難しい組織・機関,関係者の項目では,医療機関や子育て支援機関等との連携よりも,地域の関係者との連携に困難さを感じている割合が高かった.母子保健分野での地域との連携では,地域住民への声かけや見守り支援を依頼している(田口ら,2019).また,センター設置後の課題として,住民へのセンターの周知が報告(西野ら,2022)されていることから,地域の関係者との連携については,感染症流行下でも同様の困難さが生じていたと考える.

これらから,感染症流行下のセンター看護職の個別支援では,平時と比較して,支援対象者に対する支援として直接的な支援の提供,信頼関係の構築,他機関の専門職との連携での支援の役割分担についての困難さが生じやすい特徴があると考えられる.これらの困難さを軽減するための方策として,支援対象者に対面することの必要性が生じた際,支援者が感染症対策を講じていることを可視化したり,対面支援の必要性を説明する等,支援対象者の感染症への不安の軽減を図ることが考えられる.また,感染症流行下での他機関の専門職との連携方法や役割分担については,平時から共有しておくことや他機関とオンラインを活用し非接触で対面する環境を整えること等が考えられる.

3. 研究の限界と今後の課題

本研究の限界として,2回目の緊急事態宣言が発出された地域に限定した設定であったこと,回収率が低かったことがあげられる.2回目の緊急事態宣言が発出された11都府県を対象としており,都市部が多かったこと,回収率が低かったことから,結果の一般化には限界がある.回収率が低かった理由として,調査時期が3回目の緊急事態宣言が発令されている時期と重なったことと,ワクチン接種業務が開始され,センター看護職の業務量が増えたことも影響したのではないかと考える.

今後の課題として,感染症流行下に調査の回収率を高める工夫として,回答が容易なWeb調査を利用することも考えられる.さらに,健康危機的な状況での社会的な制限が生じても,センター看護職が個別支援を円滑に進めるための方策を明らかにすることが必要である.

謝辞等

通常業務に加え感染症対応に従事されている中で,調査にご協力いただきましたセンターの看護職の皆様に心より御礼申し上げます.

なお,本研究は東京都立大学大学院人間健康科学研究科看護科学域博士前期課程修士論文の一部に加筆修正したものである.

本研究に開示すべきCOI状態はありません.

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