Japanese Journal of Public Health Nursing
Online ISSN : 2189-7018
Print ISSN : 2187-7122
ISSN-L : 2187-7122
Research Articles
Healthy Community Development Conducted by Public Health Nurses: A Scoping Review
Kayoko TakamotoNoriko Matsumoto
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2024 Volume 13 Issue 2 Pages 127-136

Details
Abstract

目的:日本の行政保健師が行う健康なまちづくりに関する研究の動向及び研究成果を明らかにする.

方法:市町村保健師による健康なまちづくりについて選抜した文献30件について研究の動向と研究成果の内容分析を行った.

結果:最も多くの論文が出されたのは2018年であった.「公衆衛生看護技術や支援内容」の研究が15文献と最も多く,健康なまちづくりに関連する「地域づくり」や「地域の強み」などについて,定義づけや概念構築したものが5文献,「地域保健活動に関連する評価尺度開発」が5文献,「地域活動に参画した住民の特徴や変化」の研究が4文献,健康なまちづくりを実際に推進する研究としては,「健康な地域づくりの推進条件」のみと,1件にとどまっていた.

考察:健康なまちづくりの施策推進・評価に向けての研究が進んでいないことが明らかとなった.今後は持続可能で効果的・効率的な健康なまちづくりの施策推進・評価の研究の必要性が示唆された.

Translated Abstract

Objective: The study’s objective was to identify trends and findings within the research on healthy community development conducted by public health nurses in Japan.

Methods: A scoping review of 30 studies was conducted within the literature on healthy community development by public health nurses.

Results: The largest number of papers was published in 2018. The scoping review found that the largest number of studies focused on “public health nursing techniques and support contents” (15 studies). Among the other studies, five studies examined the definitions and conceptualizations of “community development” and “community strengths” as related to healthy community development; five studies focused on the “development of evaluation scales related to community health activities.” Four studies focused on “characteristics and changes of residents who participated in community health activities.” Only one study, entitled “Conditions for the promotion of healthy community development,” was found to promote healthy community development.

Discussion: Research into the promotion and evaluation of healthy community development measures has not progressed satisfactorily. The study suggested the need for future research into the promotion and evaluation of sustainable, effective, and efficient healthy community-development measures.

I. 緒言

近年の健康政策に影響を与えた報告としては,1974年のカナダの「ラロンド・レポート」がある.これまでの医療管理からライフスタイルの改善が重要であることなどが提唱され,これらの影響により,1986年,健康政策を検討するうえで,大きなインパクトを与えるオタワ憲章,ヘルスプロモーションが提唱されることになった(厚生省,2000).ヘルスプロモーションについては,2005年のバンコク憲章において「健康の決定要因」を追加,再提唱し,ライフスタイルの改善など個々人の健康増進の取り組みだけではなく,健康なまちづくりとしての,人々の保健行動を支援する環境整備や住民主体の健康の地域づくり活動の強化を明記した(島内ら,2012).さらに,これらの研究を加速させたのが,イチロー・カワチら(2008)の研究,「ソーシャル・キャピタルと健康」であり,ソーシャル・キャピタルが豊かな地域,いわゆる人と人とのつながりが強く,地域活動の活発な地域は,健康度が高く,死亡率が低く,出生率が高いなど,効率性のよい地域であることから,地域づくりの重要性が再考されるきっかけとなった.

一方,我が国の健康政策といえば,健康増進法に基づく「健康日本21」が存在する.「健康日本21(第二次)」の特徴としては,少子高齢化や疾病構造の変化が進む中で,生活習慣病の予防や重症化予防のほか,健康寿命の延伸と健康格差の縮小を掲げ「健康を支え守るための社会環境の整備」など,個人へのアプローチだけではなく,社会全体で個人の健康を支えるまちづくり,いわゆる「健康なまちづくり」を明記していることである.しかしながら,この地方版である都道府県の健康増進計画の目標設定の記述を確認したところ,「健康を支え守るための社会環境の整備」の目標値を掲げているのは,47都道府県中,36都道府県であり,住民主体の健康なまちづくりに必要な健康づくりボランティアの人材育成や民間団体との連携など具体的な目標を掲げているところは6県にとどまっている状況にある.

今後,我が国の健康政策の推進には,健康なまちづくりを推し進め,それを持続可能なものとする政策的な視点での展開が必要ではないかと考える.しかしながら,健康なまちづくりを進めるための主要概念や行政保健師に必要な能力,健康なまちづくりについての介入方法やそのアウトカムについては明らかになっていない.

そこで,本稿では,行政保健師が行う健康なまちづくりに関する研究の動向及び研究成果を明らかにする.

II. 研究方法

1. 論文の収集と分析対象の選定

本稿では,スコーピングレビューを実施した.スコーピングレビューとは,「その研究領域の基盤となる主要な概念,主な情報源,利用可能な文献や情報(エビデンス)の種類を素早くまとめること」と定義されているレビュー方法である(友利ら,2020).そこで,文献を網羅的に探索するとともに,未だ研究されていない範囲を特定するために「スコーピングレビューのための報告ガイドライン日本語版:PRIZMA-ScR」(友利ら,2020)及び「JBI Manual For Evidence Synthesis: Scoping Reviews 2020. スコーピングデビューのための最新版ガイドライン(日本語版)」(沖田ら,2021)に則り,文献検索及び精読を行った.

文献検索にあたり,まず研究疑問のフレームワーク(PCC)を設定した.行政保健師による健康まちづくりの研究であるため,P(Population)を「保健師」,C(Concept)を「健康なまちづくり」,C(Context)を「地方自治体」と設定した(表1).

表1. 

文献検索式のための表

概念 (Population)
#1 保健師
(Concept)
#2 健康なまちづくり
(Context)
#3 地方自治体
検索ワード ・保健師
・保健婦
・公衆衛生看護職
・健康なまちづくり
・健康まちづくり
・地域づくり
・地域社会ネットワーク
・地方自治体
・地方公共団体
・市町村
・市区町村
・行政
・自治体

文献の収集としては,日本の行政保健師が実践する健康なまちづくりの文献を対象としていることから,国内の保健医療の学術論文誌を幅広く掲載している医学中央雑誌WebとCiNii Research及び最新看護検索Webとした.また,英文については,広く世界の主要な医療系雑誌が検索できるPubMedを活用した.出版期間は網羅するために制約をかけずに実施した.検索ワードとしては,可能な限り健康なまちづくりの文献を網羅するために,「健康なまちづくり」または「健康まちづくり」「地域づくり」,そして検索ワードのシソーラスを確認して「地域社会ネットワーク」を追加検索ワードとした.そして,これらのワードに「保健師」または「保健婦」「公衆衛生看護職」を掛け合わせたほか,行政保健師の活動に特化するために,「地方自治体」または,「地方公共団体」「自治体」「市町村」「市区町村」「行政」を掛け合わせて,2023年4月16日に検索を行った.さらに,PubMedにおける検索については,日本の行政保健師に関する研究であることから,上記の検索式に加え「Japan」を付け加え2023年11月25日に行った.

論文の採択基準を①行政保健師が係わる活動であるもの,②市民参加・市民協働の考え方をベースにしたものとし,除外基準としては,①会議録,②論文形態ではないもの,③保健師活動と関係のない研究,④健康なまちづくりと関係のない研究と設定した.

検索の結果,医学中央雑誌Webでは612件,CiNii Researchでは89件,最新看護検索Webでは64件,PubMedでは88件が抽出された.合計853件中,重複81件を除いた772件について,1次スクリーニングとして,タイトルと要旨で精査し95件が選抜された.次に2次スクリーニングとして,本文を精査し,このうち,健康なまちづくりと関係のないもの12件と会議録や座談会記録等59件を除き,適格性と評価された論文は24件であった.

論文数が少なかったため,2023年11月29日,行政保健師の研究が進められている日本公衆衛生看護学会誌について,「健康なまちづくり」「健康まちづくり」「地域づくり」のみのキーワードにて検索したところ,51件であった.このうち,医学中央雑誌との重複が5件みられ,重複を除いた46件について,1次スクリーニングとして,タイトルと要旨で精査し,11件が選抜された.そして,2次スクリーニングとして本文を精査したところ,7件が選抜された.7件中,1件が講演会等記録であったため,それを除き適格性と評価された論文は6件であった.選定にあたっては,筆頭者が論文を選定した結果を他の研究者と意見交換し,精査を加え,最終的に採用された文献は30件(図1)となった.

図1. 

論文抽出過程(本稿におけるPRIZMAフローチャート)

2. 分析方法

1) 研究の動向について

本研究のリサーチクエスチョンをもとに研究の動向について,①出版年,②論文の種類,③研究目的,④研究対象,⑤研究デザインについて抽出し,項目別に整理した(表2).

表2. 

分析文献一覧

ID 主タイトル 著者 雑誌名 種類 研究目的 研究対象 研究デザイン 目的の分類 成果の分類 研究成果の詳細
1 保健行動の変容に関連するヘルスプロモーションの唱道プロセス 西嶋 真理子,小西 美智子 日本地域看護学会誌 2000 原著論文 保健師が行った唱道プロセスを分析し保健行動の変容における保健師の役割を考察 先駆的保健活動25事例の市町村保健師 質的記述的研究 公衆衛生看護技術やその特徴 ヘルスプロモーション・地域づくり技術 保健師の働きかけとして,①展開方法は地域特性や地区のニーズを反映,②活動の契機の多くは保健師活動から生じた問題意識からの発展,③活動の早い時期から住民との対話,④ヘルスプロモーションに向けての唱道が住民の保健行動変容に関わる等を明らかにした.そして,市町村の保健師は,政策立案に向け,専門職の立場からかかわることが可能な貴重な存在であることを示唆した.
2 事業開発過程における保健師のマネジメント 宮崎 紀枝 日本地域看護学会誌 2003 原著論文 保健師の事業展開する過程のマネジメントの特徴を明確化 N県S市の市町村保健師7名,10事例 質的記述的研究 公衆衛生看護技術やその特徴 施策化・事業化の技術 保健師のマネジメント過程のカテゴリーとして,①アセスメントカテゴリー,②計画のカテゴリー,③実施のカテゴリー,④評価のカテゴリーがあることを明らかとした.そして,保健師は住民のニーズから,事業開発のビジョンをもって戦略的・効率的に事業開発をマネジメントし,保健師のマネジメントは様々な形で地域づくりへ貢献していることを示唆した.
3 新たな時代に必要とされる行政保健師の役割 石川 貴美子,他 日本地域看護学会誌 2004 原著論文 保健計画の策定過程等を分析し,行政保健師に必要とされる役割を明確化 保健計画に携わった神奈川秦野市の保健師 質的記述的研究 公衆衛生看護技術やその特徴 施策化・事業化の技術 行政保健師は,保健計画の策定過程・実践において,行政事務処理能力や地区診断能力,企画立案・政策形成能力などを習得・強化させることができ,ヘルスプロモーションの理念を積極的に取り入れることを意識した活動が展開できるようになった.公的な立場にある保健師には,ヘルスプロモーションの視点で地域ニーズを分析し,計画を基本とした地域づくりを推進する役割があることを明らかとした.
4 コミュニティでのネットワーク形成過程における行政保健師の機能とその意味 越田 美穂子,守田 孝恵 リハビリテーション連携科学 2009 原著論文 地域コミュニティでのネットワーク(NW)形成過程における行政保健師の機能と意味を明確化 7都県の保健師21名 グランデッドセオリー研究 公衆衛生看護技術やその特徴 ネットワーク形成の技術 行政保健師は「保健師だけでは解決できない仕事」に対し,住民や組織と「責任を共有」し,また,「NWのもつ可能性への期待」から【連携を自明としてつながる】ことで,【行政という立場による保障と責任】を基盤条件とし,NWを形成している.行政保健師はNW形成を課題解決の手段だけでなく地域づくりの視点で【つなぐことでコミュニティを整える】ことと意味づけていることを明らかとした.
5 住民組織活動が地域づくりに発展するための保健師の支援内容の特徴 中山 貴美子 日本地域看護学会誌 2009 原著論文 住民組織活動が地域づくりに発展するための保健師支援内容の特徴を明確化 5都道府県の市町村保健師5名 質的記述的研究 公衆衛生看護技術やその特徴 ヘルスプロモーション・地域づくり技術 住民組織活動が地域づくりに発展する過程には「活動準備期」~「地域展開期」の5段階あることを明らかとし,各期における保健師の支援内容について37カテゴリー,地域づくりに発展する保健師の支援内容について12カテゴリーを抽出した.保健師の支援内容には住民組織への直接的な支援のみではなく,行政内で住民参加の仕組みを作ることなどの行政への働きかけの内容を含むという特徴を明らかとした.
6 行政保健師が地域で行うネットワーク形成のための実践技術項目の検討 越田 美穂子,守田 孝恵 香川大学看護学雑誌 2010 原著論文 行政保健師が行うネットワーク形成実践技術の概念モデル及びその技術項目の検討 A県の保健師344名 尺度開発研究 公衆衛生看護技術やその特徴 ネットワーク形成の技術 行政保健師が行うネットワーク形成実践技術を測定できる尺度として,【人的資源の認知と発見】【顔つなぎによる情報共有】【ネットワークの維持・継続】【ネットワークの発見】の4因子43項目を開発し,その有用性が確認された.
7 ソーシャル・キャピタルの醸成に資する保健ボランティアの活動に対する保健師の関わり 杉田 由加里,石川 麻衣 文化看護学会誌 2014 原著論文 保健ボランティアの活動に対する保健師の支援内容,意識・姿勢,保健師の体制を明らかにすることで,ソーシャル・キャピタル(SC)の醸成に資する保健師活動のあり方を検討 保健ボランティア活動が10年以上継続している自治体の保健師4名 質的記述的研究 公衆衛生看護技術やその特徴 ヘルスボランティアの育成・支援技術 SCの醸成に資する保健師の支援内容として,【目指すべき姿を持ち伝える続ける】【伴走する姿勢で継続的に関わる】【活動に必要な情報を共有する】など7項目を明らかとした.さらに,SCの醸成には長期間の支援が必要なため,関わる保健師間での常日頃からの【情報の共有だけでなく,気持ちや考えを共有する】ことができる組織文化を生成・継承できる体制を整えることが必要であることを明らかとした.
8 Social capital in Japan: What characteristics do public health nurses see in their communities? Honda H, Kawaharada M, Shindo Y, et al. Japan Journal of Nursing Science 2018 原著論文 日本の公衆衛生看護の文脈におけるソーシャル・キャピタル(SC)の特徴を明確化 日本の11市町村のベテラン保健師13名 質的記述的研究 公衆衛生看護技術やその特徴 ネットワーク形成の技術 日本の保健師が捉えたSCの特徴として,①住民同士の交流の豊かさ,②困っている人への配慮が感じられる地域住民,③地域に根差した市民活動,④住民の地域貢献意欲の高さ,⑤保健師と共に健康づくりを行う保健ボランティア,⑥人生を豊かにするコミュニティ環境の6つを明らかとした.
9 健康推進員活動における男性健康推進員の体験の特徴 二村 純子,坂本 真理子,若杉 里実 日本地域看護学会誌 2018 原著論文 健康推進員活動における男性健康推進員の体験の特徴を明らかとし,男性健康推進員への支援方法を明確化 A県6自治体内の2年以上の推進員経験をもつ男性12名 質的記述的研究 公衆衛生看護技術やその特徴 ヘルスボランティアの育成・支援技術 健康推進員活動における男性健康推進員の体験の特徴は,【女性が多い推進員活動への入りづらさ】【活動を前進させる力の自負】【責任を重んじる姿勢】【男女の強みを生かす活動運営】【行政とともに活動する意識】など11項目の特徴を明らかとした.そして,これらの男性健康推進員の特徴を踏まえ,男性健康推進員が地域の人々との交流する機会を意図的に設けるなど男性健康支援員への支援方法について明らかとした.
10 保健師に求められるヘルスプロモーションに寄与する住民組織への支援 渡邉 いよ子 足利工業大学看護学研究紀要 2018 解説 地域づくり型ヘルスボランティア活動を支える健康観を明らかにし,ヘルスプロモーションに寄与する住民組織における活動のための保健師の支援の方向性を明確化 ヘルスプロモーション実践活動が記載されている11文献 質的記述的研究 公衆衛生看護技術やその特徴 ヘルスボランティアの育成・支援技術 既存の保健推進員活動の活性化により,ヘルスプロモーショ ンの視点からの地域づくり型ヘルスボランティア活動に寄与が可能であるこ と,またヘルスボランティアを支援する保健師は「健康概念」を社会的・生きがいづくりという要因から広く捉え,特に生涯学習分野との連携・協働・世代間交流を視野に入れ,既存組織や自治体との協働・共同・ネットワーク 活動により地域活動の強化を図ることが求められていることを明らかとした.
11 地域保健活動におけるソーシャル・キャピタルの醸成を意図した保健師活動 田仲 里江,他 北海道公衆衛生学雑誌 2018 原著論文 ソーシャル・キャピタル(SC)の醸成を意図した保健師の具体的な活動内容を明確化 4道県5市町村に勤務する経験5年以上の保健師11名 質的記述的研究 公衆衛生看護技術やその特徴 ネットワーク形成の技術 保健師が認識するSCを醸成する保健師の活動の特徴として「地域の実態をみる」「住民関係者をつなぐ」「地域を動かす」のプロセスを明らかとした.保健師は個別支援や自主グループへの支援などを通してSCを意識した仕掛けを駆使しながら保健活動を展開することで地域のSC醸成のキーパーソンとしての役割を担っていることを明らかとした.
12 成果創出に至った保健師活動における保健師の役割の類型 東 美鈴,松田 宣子 日本公衆衛生看護学会誌 2018 原著論文 成果創出に至った保健活動における保健師の役割の類型化 全国の保健所統括保健師に選出された235名の保健師 量的記述的研究 公衆衛生看護技術やその特徴 施策化・事業化の技術 成果創出に至った保健活動における保健師の役割について,「戦略と政策提言」「生活実態の把握」「地域連携の推進」「変革への課題の判断」「住民等の主体性の醸成」「モニタリングと継続支援」の6つに類型化した.この役割により,健康課題に対し地域の変革を図るという変革の促進者の役割が示唆され,この役割を発揮することが保健師本来の役割の発揮に繋がることを明らかとした.
13 地域の健康課題を解決するための移住者と先住者の協働を推進する保健師の実践方法 渡邊輝美,小尾栄子,村松照美 日本地域看護学会誌 2019 原著論文 地域の健康課題を解決するための移住者と先住者の協働を推進する保健師の実践方法を明確化 31年間の経験がある保健師1名,保健師と協働している住民3名 質的記述的研究 公衆衛生看護技術やその特徴 ヘルスボランティアの育成・支援技術 地域の健康課題を解決するための移住者と先住者の協働をする保健師の実践方法について,「移住者と先住者に関わる地域の健康問題の明確化」「地域の健康問題の解決に向けての移住者と先住者からの人材発掘及び関係機関への協力要請」「地域の健康問題の解決に向けた核となる地区組織をつくるための移住者と先住者の関係構築」「地域の健康問題の解決を共通目的とした移住者と先住者への働きかけへの支援」の4段階があることを明らかとした.
14 保健師のキャリアラダーが示す地域組織活動支援の具体的要素 中島富志子,他 茨城県立医療大学紀要 2021 原著論文 保健師のキャリアラダーが示す地区組織活動支援について,具体的技術要素を明確化 A自治体保健師780名 質的・量的記述的研究 公衆衛生看護技術やその特徴 ネットワーク形成の技術 保健師の地域組織活動におけるラダーのA-3,A-4,A-5の段階ごとに具体的技術要素を明らかとした.A-3においては「既存の地区組織活動の活性化ができる」など3項目,A-4では「関係機関と協働した体制づくりができる」などの3項目,A-5では「多様な地域組織活動のネットワーク化が実践できる」などの2項目であった.
15 市町村保健師が行う保健推進員への支援内容 渥美綾子,安齋由貴子 日本公衆衛生看護学会誌 2022 原著論文 市町村保健師が行う保健推進員への支援内容を明確化 保健推進員への支援経験のある保健師13名 質的記述的研究 公衆衛生看護技術やその特徴 ヘルスボランティアの育成・支援技術 市町村保健師が行う保健推進員への支援内容について,「保健推進員の活動方針や活動内容への理解を促すための支援」,「保健推進員活動への意欲を高め,活動を継続できるための支援」,「保健推進員が活動を主体的に行えるための支援」,「保健推進員の活動環境を整えるための支援」の4項目を明らかとした.
16 コミュニティ・エンパワメントの構成概念 中山貴美子,岡本玲子,塩見美抄 日本地域看護学会誌 2006 原著論文 コミュニティ・エンパワメントの構成概念を明確化 保健師1名,ヘルスプロモーション学識者3名 質的記述的研究 地域保健活動に関連する概念構築 コミュニティ・エンパワメントの概念構築 コミュニティ・エンパワメントの構成概念は,個人と組織,地域の3領域あり,個人領域では,【住民の健康に関する認識および保健行動の変容】,組織領域では,【組織化と組織としての成長】【共通の課題の気づきと地域への働きかけ】【意思決定への参加と影響】【パートナーシップの形成】,地域領域では,【多様性を認める地域文化】【相互作用による成長と相互扶助の醸成】【人々の地域への参加と働きかけ】【地域の支援ネットワークの向上】【地域の社会資源と施策の向上】【行政と専門家の変容】を見出した.
17 公衆衛生看護のための“地域への愛着”の概念分析 大森 純子,他 日本公衆衛生看護学会誌 2014 原著論文 公衆衛生看護の実践に“地域への愛着”の概念を取り入れる根拠と,活動に有用な示唆を得るため,個人の内面や人と人との関係性と,地域との関係に着目して概念分析 保健師や教諭を含む町内会長等住民,計9名 質的記述的研究 地域保健活動に関連する概念構築 地域への愛着の概念構築 “地域への愛着”の形成が進むと,地域を志向した行動が促進され,形成により期待される成果が拡大・充実するプロセス構造をもつ概念であることを明らかとし,“地域への愛着”について「日常生活圏における他者との共有経験によって形成され,社会的状況との相互作用を通じて変化する,地域に対する支持的意識であり,地域の未来を志向する心構えである」と定義づけた.
18 保健師による事業化に必要なストラテジーの構造 宮崎 紀枝,河原 加代子 日本地域看護学会誌 2018 原著論文 事業化のストラテジーの構成概念間の構造を明確化 全国保健師長会会員3,687名 量的記述的研究 地域保健活動に関連する概念構築 事業化構成の概念構築 事業化のストラテジーの活動部分と成果部分はそれぞれ5つの構成概念からなっており,因果モデルは3つのフェーズ構造で,フェーズ1は活動部分の《自主的参加に向けた対象者支援》《実施に向けた合意形成》などの6項目であり,フェーズ2は《よりよい施策化への発展》などの3項目,フェーズ3は《目的に対応した成果》《専門性の向上》で成果部分であることを明らかとし,住民の主体的変化を目指すストラテジーと支援体制を強化し施策化への発展を目指すストラテジーの2つがあることを明らかにした.
19 地域保健活動における「地域づくり」 山谷 麻由美 日本地域看護学会誌 2019 原著論文 地域保健活動における「地域づくり」を概念分析 保健師の地域活動に関する26文献 質的記述的研究 地域保健活動に関連する概念構築 地域づくりの概念構築 地域保健活動における地域づくりについて,「地区診断を起点とした住民との話し合いや合意形成による課題解決とニーズに応える活動プロセスで関わる人々の成長を促し,住民・関係者・行政の協働の関係を育む.その結果,課題解決でその人らしい生き方が可能となってQOLが向上するとともに,住民・保健師・地域が力を獲得すること」と定義づけた.
20 公衆衛生看護が関わる地域の強みとは 岡本 玲子,他 日本公衆衛生看護学会誌 2019 原著論文 公衆衛生看護が関わる地域の強み,即ち,地域の最良の健康というアウトカムに向けてポジティブヘルスを推進する地域の潜在力を概念化 地域の強みやエンパワメント等に関する24文献 質的記述的研究 地域保健活動に関連する概念構築 地域の強みの概念構築 公衆衛生看護が関わる地域の強みとして多様な概念を明らかとした.具体的には,【地域の強み】である[先行する住民の状態]として《歴史・風土への愛着》《文化継承・地域創造の信念》《全員大事の価値観》,[住民の状態]としては,《連帯・助け合い力》《パートナーシップ形成力》《資源発掘・活用力》《折り合い・統制力》《キャパシティ発展力》《意思決定・組織的推進力》が見出され,[住民の周辺状況]としては《地区組織》《支援体制》《ネットワーク》を見出した.
21 Developing scales to evaluate community practices among municipal public health nurses: content, perceptions of public health nurses, and organizational environment Nagai T, Yonekura Y, Umeda M, et al. 日本公衆衛生雑誌 2023 原著論文 市区町村の自治体保健師における地区活動の実施状況および地区活動に伴う保健師の認識を評価する尺度を開発 全国の市町村保健師 尺度開発研究 地域保健活動に関連する評価尺度開発 地区活動の実践評価尺度開発 保健師の地区活動の実践の指標となる【地区活動を構成する活動内容(3因子9項目)】【地区活動による地域/住民に対する保健師の認識(3因子10項目)】【地区活動を支える組織環境(2因子11項目)】の3種類の尺度を開発した.
22 Developing a scale for Japanese public health nurses supporting resident groups toward community-building Abe A, Hatono Y, Teraoka S. Public Health Nursing 2023 原著論文 規範期段階以降の住民グループに求められる支援要素を明らかにし,住民グループのコミュニティ形成を支援するために保健師が使用できる支援尺度を開発 住民グループの支援を経験した保健師 尺度開発研究 地域保健活動に関連する評価尺度開発 コミュニティ形成評価尺度開発 コミュニティ形成に向けた住民グループの育成を支援する保健師の指針として使用するため,30項目の4因子尺度を開発した.4因子尺度は「地域住民や多団体,行政とのつながりのきっかけづくり」「組織力の向上に寄る活動の活性化」「安定した組織運営の促進」「地域の健康課題や活動を見直す機会の提供」であった.
23 A partnership development process assessment scale for public health nurses in Japan Shigematsu Y, Hatano Y, Kimura H. Public Health Nursing 2015 原著論文 日本の保健師による地域組織とのパートナーシップ構築プロセス評価尺度(PDPA尺度)を開発 自治体保健師 尺度開発研究 地域保健活動に関連する評価尺度開発 地域組織とのパートナーシップ構築プロセス評価尺度開発 地域組織とのパートナーシップ構築プロセス評価尺度(PDPA尺度)について,「健康問題に対する役割共有に向けた取り組み」「パートナーシップ推進に向けた基盤整備」「パートナーシップの評価」「健康課題に関する情報の発信」の4つの因子から構成された23項目の尺度を開発した.
24 Japanese development and testing of the Network Establishment Practices Scale for Community and Public Health Nurses Koshida M, Morita T. Nursing and Health Sciences 2013 原著論文 保健師が行うネットワーク構築の実践的能力を評価するための尺度を開発 全国の保健師 尺度開発研究 地域保健活動に関連する評価尺度開発 ネットワーク構築の実践能力評価尺度開発 保健師が行うネットワーク構築の実践能力を評価する尺度(ネットワーク構築プラクティス尺度:NEP尺度)について,「人材の発掘・発見」「ネットワークによる情報共有」「ネットワークの維持」「ネットワークの拡大」の4因子21項目の尺度を開発した.
25 Development and evaluation of the reliability and validity of an empowerment scale for health promotion volunteers Koyama U, Murayama N. 日本公衆衛生雑誌 2011 原著論文 健康なまちづくりのためのキーパーソンである健康増進ボランティアのエンパワーメント尺度を開発 32市の健康増進ボランティア 尺度開発研究 地域保健活動に関連する評価尺度開発 健康推進ボランティアのエンパワーメント尺度開発 健康増進ボランティアのエンパワーメントレベルを測定する尺度について,「健康なまちづくり活動」「地域の健康課題解決への志向性」「民主的な組織活動」「健康推進員の個人としての成長」の4因子28項目の尺度を開発した.
26 首都圏近郊都市部の向老期世代の“地域への愛着”に関連する要因 高橋 和子,他 日本公衆衛生看護学会誌 2018 原著論文 向老期世代の“地域への愛着”と健康関連QOLとその他の要因との関連性を明確化 首都圏近郊のA県B市に在住する50~69歳の住民1,000人 記述的相関研究 地域活動に参画した住民の特徴や変化 地域への愛着は健康関連QOLと関連があることを明確化 “地域への愛着”は,性別,居住形態,居住年数,地域住民との付き合いの程度,地域のサークル等での趣味活動の経験,望ましい地域住民との付き合いの程度,地域の活動への参加意向,ソーシャル・サポート,健康関連QOLとの関連があることを明らかとした.さらに,住民同士の交流を図り,地域への愛着を育むことで他の関連要因とが相乗的に作用し,向老期の健康維持に寄与する可能性を示唆した.
27 健康づくり自主活動参加者が捉える活動参加による変化と地域活動への参加との関連 織田 遥,他 日本公衆衛生看護学会誌 2020 原著論文 健康づくり自主活動参加者が捉える活動参加による変化と地域活動への参加の関連を明確化 A市B地区の健康づくり自主活動の参加者152名 量的記述的研究 地域活動に参画した住民の特徴や変化 自主活動参加者が主体性向上等の変化を捉え,その認識が高いほど参加率高い等を明確化 健康づくり自主活動参加による活動内での変化として,7割以上が友人の増加,友人との仲の深まり,情報量の増加,社交性の向上,主体性の向上を捉えていた.情報量の増加,社交性の向上,主体性の向上を認識した者ほど,地域活動への参加頻度の増加を捉えていたことを明らかとした.さらに,健康づくり自主活動参加者については,能動的な活動への参加を通じて社交性や主体性の向上を実感できることで,地域活動への参加を拡大できる可能性があることを示唆した.
28 定年退職した男性の地域の自主グループ参加による変化:社会参加を促進するために 鈴木良実,麻原きよみ 日本公衆衛生看護学会誌 2021 原著論文 地域づくりを目的とした自主グループ参加による,定年退職した男性自身の生活や考え方の変化を明らかにし,これらの人々の自主グループ参加を促進する支援方法を検討 A市の定年退職または再雇用の男性6名 質的記述的研究 地域活動に参画した住民の特徴や変化 自主グループ参加の定年退職した男性の生活や考え方の変化 定年退職した男性が,自主グループ参加により,グループのために仲間と互いに自主性を生かして活動するようになり,地域の役に立つためにグループの一員として活動するように変化したことを明らかにした.そして,参加促進の支援方策として,住民が地域課題について話し合い,地域づくりを目的した自主グループ参加や発足につながる地区活動事業実施の重要性について示唆した.
29 住民組織に属する住民による地域課題の捉え方の特徴 山下千絵子,藤井智子 日本公衆衛生看護学会誌 2022 原著論文 住民組織に属するメンバーによる地域課題の捉え方の特徴を明らかにし,行政保健師との協働のあり方について検討 3市町村の住民組織11名 質的記述的研究 地域活動に参画した住民の特徴や変化 住民組織メンバーによる地域課題のとらえ方の特徴を明確化 住民は,住民との人間関係を土台に相互扶助的な関わりのある範囲を重視し,困りごとに対応した経験で培われた枠組みから課題を見立てていることを明らかとした.そして住民組織メンバーの捉える生活に密着した地域課題と行政保健師の専門的判断を重層的に共有することが協働の基盤となることを示唆した.
30 健康な地域づくり(ヘルス・プロモーション)の活動効果と活動方法論 星旦二,福本久美子,藤原佳典 総合都市研究 1997 研究報告 健康な地域づくり活動の効果を量的質的に追跡評価するとともに,健康な地域づくりの推進条件を明確化 熊本県蘇陽町 事例研究 健康な地域づくりの推進条件 健康な地域づくりの推進条件として,住民主体を基本理念に据えることなどを明確化 4年間の健康な地域づくりを展開した結果,65歳以下の死亡率の低下,基盤整備としての特養の設置,マンパワーとして保健師等の増員,健康推進委員(健康むら長)の活動の活発化などの活動効果を明らかとした.また,その健康な地域づくり活動の推進条件としては,「活動を推進するリーダーが首長や医師主導型ではなく住民主体ないし中心とする考え方が基本理念」「達成すべき目標として環境や文化を含む健康な地域づくりをイメージする」など10項目を明らかとした.

2) 研究成果について

研究成果については,研究目的を踏まえ,研究目的別に類別した項目ごとに研究成果を抽出し内容分析を行った.

3. 倫理的配慮

文献の取り扱いは,著作権を侵害しないように配慮し,原論文に忠実であることに努めて分析,引用した.

III. 結果

1. 健康なまちづくりの研究の動向

1) 出版年

出版年は1997年から2023年であり,最も多くの論文が出されたのは,2018年7件であった(図2).

図2. 

年代別論文数

2) 論文の種類

論文の種類は,原著論文が28件で,解説が1件,研究報告が1件であった.

3) 論文の研究目的

研究目的別に論文を類別すると,5項目に分類された.具体的には,行政保健師の「公衆衛生看護技術や支援内容」を明らかにしたものが15文献と最も多く,次いで「地域保健活動に関連する概念構築」していたものが5文献,「地域保健活動に関連する評価尺度開発」が5文献であった.「地域活動に参画した住民の特徴や変化」を明らかにしたものが4文献で,「健康な地域づくりの推進条件」を明らかにした研究が1件あった(図3).従って実質的な健康なまちづくりの研究は,星ら(1997)の「健康な地域づくり(ヘルス・プロモーション)の活動効果と活動方法論」の事例研究1件のみであった.

図3. 

研究目的別論文数

年代別に研究目的別論文数をみると,行政保健師の「公衆衛生看護技術や支援内容」の研究は2000年以降進んできており,2018年には5論文がみられるものの,近年では年に1件程度であった.2011年以降は「地域保健活動に関連する評価尺度開発」が散見されたが,ほとんどが,英文での論文であった.明らかな健康なまちづくりの研究は,星らの論文のみとなっており,1997年以降その研究はみられなかった.

4) 研究対象

研究対象としては,保健師を対象とした研究が最も多く,18件であった.次いで住民対象が6件,文献対象が3件,保健師と住民の両方を対象としたものが2件,自治体を対象としたものが1件であった.

5) 研究デザイン

質的研究が19文献,ミックスドメソッドが7文献,量的研究が4文献と質的研究が6割以上を占めていた.詳細には,質的記述的研究が18文献と最も多く,次いでが尺度開発6文献であった.実質的な健康なまちづくりの研究は,事例研究1件のみであった.

2. 健康なまちづくりに関する文献の研究の成果

研究成果について,研究目的別に類別した5項目ごとに整理したので以下に示す.

1) 公衆衛生看護の技術やその特徴

公衆衛生看護の技術やその特徴について明らかにした論文は15文献であった(文献1~15).その明らかになった公衆衛生看護技術は4つである.

1つ目は,地域コミュニティでのネットワーク形成における保健師の技術に関するものであった(文献4,6,8,11,14).この中には,ソーシャル・キャピタル醸成に向けての保健師の活動の特徴や支援内容を明らかとした研究(文献8,11)も含まれていた.

2つ目は,地域の健康づくりに必要なヘルスボランティアの育成・支援技術の研究であった(文献7,9,10,13,15).これらの研究では,地域における保健推進員に対する保健師の支援内容・技術を明らかとしたものが中心であったが,男性の推進員に焦点をあてたもの(文献9),先住者と移住者との協働の推進に焦点をあてたもの(文献13)が見られた.さらに,ヘルスボランティアに対する保健師の支援内容が,ソーシャル・キャピタル醸成に資する技術としての一端であることを明らかにしていた(文献7).

3つ目は,事業化・施策化の技術に関する研究であった(文献2,3,12).保健師が事業展開する過程のマネジメントの特徴を明らかにしたもの(文献2)や効果的事業の創出のための計画策定過程等を明らかにしていた(文献3).

4つ目は,ヘルスプロモーション・地域づくりの技術の研究であった(文献1,5).ヘルスプロモーションに向けての活動が住民の保健行動を変容させたことを明らかとした研究(文献1)と住民組織活動が地域づくりに発展する過程を明らかとした研究(文献5)であった.

2) 地域保健活動に関連する概念構築

地域保健活動に関連する概念構築を行った論文は,5文献であった(文献16,17,18,19,20).概念構築のテーマとしては,「コミュニティ・エンパワメント」(文献16),公衆衛生看護のための「地域への愛着」(文献17),「事業化構成」の概念構築,地域保健活動における「地域づくり」(文献19),公衆衛生看護が関わる「地域の強み」(文献20),であった.

3) 地域保健活動に関連する評価尺度開発

地域保健活動に関連する評価尺度開発の5文献(文献21,22,23,24,25)中,4文献(文献21,22,23,24)は保健師の実践能力を評価する尺度開発であり,残りの1文献(文献25)は健康なまちづくりのキーパーソンである健康増進ボランティアのエンパワメントを評価する尺度であった.

保健師の実践能力を評価する尺度開発の内容には,①地区活動の実践活動能力の尺度(文献21),②コミュニティ形成支援のための尺度(文献22),そして,③地域組織とのパートナーシップ構築プロセス評価尺度(文献23),④ネットワーク構築能力評価尺度(文献24)であった.いずれも,健康なまちづくりを展開する上での,保健師活動として重要な技術における尺度開発であった.

健康増進ボランティアのエンパワメントの尺度開発(文献25)は,住民である健康増進ボランティアによる自己評価に活用できるとともに,協働する行政保健師が健康増進ボランティアの認識を評価することにも活用できるとしていた.しかし,このエンパワメント尺度(文献25)は,組織内の個人エンパワメントの変化をみる評価尺度であり,個人・組織・コミュニティの3つのレベルのエンパワメントのうち,組織レベル及び,コミュニティレベルのエンパワメント評価尺度は残された課題となっていた.

4) 地域活動に参画した住民の変化や特徴に関する研究

4文献(文献26,27,28,29)は,超高齢社会の中で,向老期世代の地区組織活動の活性化を意図した研究が行われていた.その中には,向老期世代の“地域への愛着”と健康関連QOLとの関連性を明らかにした研究(文献26)や,自主グループ参加による定年退職した男性の生活や考え方の変化を明らかにし,自主グループ参加を促進する支援方法を明らかにした研究があった(文献28).このほか,住民組織に属するメンバーによる地域課題の捉え方の特徴を明らかにした研究(文献29)や,健康づくり自主活動参加者が捉えた,参加による変化と地域活動への参加の関連を明らかにした研究(文献27)があった.

5) 健康な地域づくりの推進条件

健康な地域づくりの推進条件を明らかにした研究は1文献(文献30)であった.この文献は,熊本県蘇陽町(現山都町)でのヘルスプロモーション活動の効果を量的及び質的に事例研究したものである.明らかになった健康な地域づくりの推進条件は,「住民を主体とする考え方が基本理念」「達成すべき目標として環境や文化を含む健康な地域づくりをイメージ」,「その実現のための計画を各種関係機関と共同で組織的に策定」などであった.

IV. 考察

1. 健康なまちづくりの研究動向

2018年に最も多くの研究がなされていたが,これは,厚生労働省が2013年に発出した「地域における保健師の保健活動に関する指針」の影響によるものが大きいと考える.その理由として,この指針では保健師の保健活動の基本的な方向性として,「地域特性に応じた健康なまちづくりの推進」を明記,推奨しており,健康なまちづくりに行政保健師が取組んでいたものと考える.

2013年以前の研究では,保健師によるネットワーク形成などの公衆衛生看護技術の研究が多くみられ,2013年以降は,ソーシャル・キャピタルの醸成に関連した研究が散見された.

健康なまちづくりの研究デザインにおいて,事例研究を行っていたのは,唯一,星ら(1997)の研究であった.このような実践的な研究は,それ以降,実施されていないことが明らかとなった.研究が実施されていない理由としては,健康なまちづくりの評価について,企画評価やプロセス評価は比較的容易に可能であるが,成果評価は単年度でできるものではないことが挙げられる.持続可能な健康なまちづくりを推進するためには,健康なまちづくりの活動を丸ごと対象とする研究が期待される.

2. これから求められる健康なまちづくりの研究

健康なまちづくりの研究は,主に健康なまちづくりを担う行政保健師の活動技術や支援内容,活動評価ツールの開発に留まっていた.社会経済状況が不安定な中,健康格差の是正が指摘されており,その解決方策として,健康分野でのソーシャル・キャピタルの醸成の必要性が掲げられている(井伊ら,2023).ソーシャル・キャピタルの醸成につながる健康なまちづくり施策について,行政内部では主に保健分野の保健師が担うことになるが,行政内における保健師は,福祉部門などへの分散配置が進んでおり,「地域全体や保健活動全体を捉えることが困難」である(鳩野ら,2013)と指摘されている.

そのような中,健康なまちづくりを押しすすめる行政保健師のノウハウの伝承のほか,健康なまちづくりの手法,技術の研究は大変重要であると考える.しかし,実際に健康なまちづくりを推進・評価する研究は1997年の1件にとどまっている状況にあり,健康なまちづくりの施策推進・評価に向けての研究が進んでいない.

今後は,保健師の分散配置が進む中においても持続可能で効果的・効率的な健康まちづくりの施策推進・評価を推し進める研究が求められる.

3. 本研究における限界

本研究の限界としては,スコーピングレビューを適用し,網羅的に文献を選定したものの,文献ごとに健康まちづくりの捉え方やアプローチにばらつきが見られた.今回,文献検索の種類を医学中央雑誌WebやCiNii Research,最新看護検索Web,PubMedに限定しており,健康なまちづくりに関連する他の学際的な文献や非英語圏の文献をカバーしているとはいえない.そのため,異なる学術領域や文化背景からの視点が必要と考えられる.今後の研究としては,健康まちづくりの定義や枠組みをより明確にし,異なるアプローチの比較や統合を行うことが必要である.また,地域やその特徴に応じた健康まちづくりの実践や評価方法についての理解を深めるためのさらなる研究が求められる.

V. 結語

健康なまちづくりに関する研究としては,行政保健師が実践するための技術や支援内容に関する研究が数多くみられた.また,健康なまちづくりを推し進めることにもつながる,地域保健活動に関連する評価尺度の開発が行われていた.

一方,近年の保健師活動の組織体制については,保健福祉各分野への保健師の分散配置が進んでおり,地域全体を捉えて動かす健康なまちづくり活動の低迷が危惧されている.健康なまちづくりを推進していくためには,健康なまちづくりを推し進める行政保健師のノウハウの伝承のほか,健康なまちづくりの技術等の研究は大変重要であることが再確認された.

しかし,健康なまちづくりを実際に推進する研究としては,1997年の1件にとどまっており,健康なまちづくりの施策推進・評価に向けての研究が進んでいないことが明らかとなった.

今後は,保健師の分散配置が進む中においても持続可能で効果的・効率的な健康まちづくりの施策推進・評価の研究が求められる.

本研究に関する利益相反はない.

文献
  •  鳩野 洋子, 鈴木 浩子, 真崎 直子(2013):市町村統括保健師の役割遂行尺度の開発,日本公衆衛生学会誌,60(5),275–284.
  •  星 旦二, 福本 久美子, 藤原 佳典(1997):健康な地域づくり(ヘルス・プロモーション)の活動効果と活動方法論,総合都市研究,63,45–60.
  • イチロー・カワチ,S.V.スブラマニアン,ダニエル・キム/藤澤由和,高尾総司,濱野強,監訳(2008):ソーシャル・キャピタルと健康,9–48,日本評論社,東京.
  • 井伊久美子,勝又浜子,森永裕美子,他(2023):[新版]保健師業務要覧,130–139,日本看護協会出版会,東京.
  • 厚生省(2000):健康日本21(21世紀における国民健康づくり運動について)健康日本21企画検討会・健康日本21計画策定検討会報告書,27–28,財団法人健康・体力づくり事業財団,東京.
  •  沖田 勇帆, 廣瀬 卓哉, 長 志保,他(2021):JBI Manual For Evidence Synthesis: Scoping Reviews 2020.スコーピングデビューのための最新版ガイドライン(日本語版),日本臨床作業療法研究,8,37–42.
  • 島内憲夫,鈴木美奈子(2012):21世紀の健康戦略シリーズ6ヘルスプロモーション WHO:バンコク憲章,34–42,垣内出版,東京.
  •  友利 幸之介, 澤田 辰徳, 大野 勘太,他(2020):スコーピングレビューのための報告ガイドライン 日本語版:PRISMA-ScR,日本臨床作業療法研究,7,70–76.
 
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